ロイヤリティーフリーな位置トラッキング Valveの「SteamVR Tracking」がもたらすインパクト

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先週、台湾HTCと米Valveが共同開発しているPC向けVRゴーグル「HTC Vive」において、サードパーティーが位置トラッキングシステム「Lighthouse」を活用した周辺機器やアクセサリー開発が可能になったというニュースが飛び込んできた(ニュース記事)。Valve側は「SteamVR Tracking」として専用ページ設けている。

 
Lighthouseといえば、2つのベースステーションを部屋の対角線上に置くなどすることで、最大で4.5m四方のバーチャル空間を歩けるようにしてくれるという、Viveの大きな特徴だ。このサードパーティーへの開放で、どんな未来予測ができそうか。以前にもVoidやMEMSの位置トラッキングについて原稿をお願いした、台湾在住で電子機器の動向に詳しいEji氏にご解説いただいた。

 
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「なぜVRなのか。それは困難だから」

 
Valveの「今後(Lighthouseの)技術を公開する」という公約から、どれくらい過ぎただろうか。ValveでLighthouseの責任者を務めるAlan Yates氏(@vk2zay)は、2015年3月にSteamVRを発表した際、以下のツイートを投稿した。

 

 
なぜVRなのか。それはVRが困難だから──。JFKの「われわれは月へ行くことを選んだ」の講演になぞらえた内容だ。困難な目標は我らを鍛え、たくましくさせる。なのであえて困難な道を挑む。

 
VRはゲーム事業にとっては困難な道だ。ハード、ソフト、技術、マーケティング、物流、すべての範疇において課題は山積みだ。それをクリアしていくことで、自分たちもより高められる。それがValveが選んだ「Moonshot計画」であった。

 
アポロ計画は、米国において科学技術や教育など多岐にわたる分野を高めてきたが、それと同じ文脈でValveもゲーム業界全体に技術をオープンして、知識と技能をシェアして業界全体を高めようとしている。少なくともSteamVRの発表時は、「互換デバイスはオープンでつくれる、LighthouseをVR業界の共通インフラにさせる」という感じだった。

 
一方で実際は、Lighthouseの光通信プロトコル(閃光信号内モジュレーションされたIDなど)、測位メソッドの原理ではなく詳細、各センサーからの受信タイミングによる推定、センサー設計時のカバー率といった、互換デバイスをつくり出すための詳細は、今まで出されてこなかった。Alan自身も「受信部を作るのにこれくらい十分だろう」というツイートくらいしか発表していない。

 

 
もともと空間符号化からLighthouse測位までは長年の研究があるため、その気になれば全部まとめて調べあげるのは可能。どの企業でもそこまでするリソースを持っているわけではないが、いずれは出てくることが明らかだった。

 
そして今年に入って、中国で2つのLighthonseを参考にした位置トラッキングシステムが発表された。ひとつは、G-Wearables社の「StepVR」、もうひとつはChinaJoyで大きな発表をしたHypereal社の「Hy-Pano」だ(PANORAから見ると、PANOという製品名は親近感があるかも?)。

 
Hy-Panoの製品写真を見ると、誰もが「なにこれ某TouchにLighthouseをくっついたコントローラー」と思うだろう。以前の中国の名高な「山寨」(コピー商品)文化を思い出させる。

 
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ちなみにAlen Yatesの言葉を借りれば、別物に見えるOculus Riftも「ValveのVR研究のダイレクトコピー」という話なので、Hyperealはどう言われるかが聞くのが恥ずかしい話になりそうだ。

 
そしてついに他社に追いつかれたかというこのタイミングで、Valveは8月5日、SteamVR Tracking、すなわちLighthouseのオープンライセンスを発表した(英語のニュースリリース)。

 
「発明者、製品設計者、VRハッカー、デバイス生産事業者よ、注目せよ。この最高の3Dトラッキング技術を使え。ロイヤリティフリーだ」

 
待ちに待った瞬間だ。

 
 

原理だけでは解決できないノウハウ

 
Hypereal社のCTO、陳禄さんは、CGDC(中国ゲーム開発者カンファレンス)の7月31日の講演にて、HyperealがLighthouseをつくり上げたプロセスをシェアしました。

 
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1989年より始まったMinnesota Scannerによる空間符号化など、学会では位置トラッキングが長年の研究テーマあるため情報が潤沢にあったとのこと。

 
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ViveのLighthouseとHyperealのHyTrackは、HMD側の受光点位置デザインのメソッド、キーアルゴリズム、同期方法(Hyperealは無線)と異なっているが、本質にある同期した信号によって時間差を計算する数学モデルは同じだ。

 
「だからつくり出すだけなら本当に大して時間かからないけれど、長い道程の始まりにすぎない」

 
機械、光学、アナログとデジタル、どのステージでも誤差が発生するため、全体をコントロールし、発生した誤差をモデリングして補正するなど、やるべきことが非常に多かった。HMDやコントローラー側のセンサーも、どのくらいの角度で受信可能なものをどのくらい確保して、どこに埋め込むか。

 
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もし受信側のセンサーを同じ平面にならべたら、精度に影響するかもしれない。Viveもそのためにフラクタルデザインを導入するなど、たくさんのノウハウを積み重ねてきた。つまりLighthouseの独自コントローラーをつくるのには、原理以外にハードルが存在していたのだ。

 
Valveの今回の発表で明らかになった条件は、以下の通りだ。

 
1. 2975ドルのSynapsesによるレッスンを受講
2. 最大32センサーの受光最適化する設計を補助するソフトを提供し、必要なセンサーとコントローラASICはTriad Semiconductorsが提供
3. 互換性を確保するため、現状Valveが提供するLighthouseベースステーションの市販版だけ使える

 
以降、Valveに支払うロイヤルティーは一切ない。SteamVR Tracking HDK関連のQ&Aを見ると、一番初めに「Q. Why isn’t Valve charging licensing fees for this technology?」という質問がある。

 
「なぜロイヤルティー取らないの?何か裏もあるの?」
「何もないよ。この技術をできる限り業界に広めることで、プラットフォーム全体の価値が上がり、デバイスも安くなり、みんながWin-Winになるだけ」

 
現状ある、受講料や規定された本家のLighthouseステーションを利用するといった制限も、今後は取り除かれる予定だ。Valveからのデバイスに対する審査も必要なく、あくまでブランド名をつけるなどを守るくらい。

 
実際のところ、ゲーム配信における圧倒的な地位を持つSteamにとって、技術をオープンさせるのは一番合理的な選択肢であり、唯一の懸念はHTCが損になることだった。

 
HTCはSteamVRの発表当初、HTCにとって特に利点が見えなかったのが謎だった。しかし、着実な物流戦略でOculusに対して追い上げ、価格発表による逆転劇を起こし、さらに自社で最大のVRファンドを立ち上げたり、Valveが手離してHTCが中国展開のポジションを得るなど、HTCは実にいい仕事をしてきた。

 
この流れを見て、もしかしてLighthouseの開放もしばらくはないかもしれないと邪推していのだが……。中国側の類似技術による影響か、それとも関係なくあくまで予定通りなのか、真実は流石に関係者ではないとわからない。そういえばFOVEもKickStarterの開始時に、70万ドル以上の達成でLighthouseの採用も検討していた。

 
Synapseは、今年9月からSteamVR Trackingのレッスンを開始する。手袋、全身トラッキング、バーチャルカメラなど、業界では多数の応用が想定されてきた。今までViveのコントローラを両面テープでつけたという間抜けな状態だったが。

 
シニアエンジニアを派遣しトレーニングさせるなど、中堅以上の企業じゃなければ難しいかもしれないのだが、やはり今後SteamVR Tracking互換デバイスはどんどん広まっていくだろう。

 
この流れは期待できる。

 
 
●参考記事
Oculus to Open ‘Constellation’ Positional Tracking API to Third-parties
Valve Opens Vive’s Tracking Tech to Third-parties for Free, Details Dev Kit for Licensees
Alan Yates Says Rift’s Core Features Are a “Direct Copy” of Valve’s VR Research
【干货】空间定位是怎样炼成的 HYPEREAL技术总监陈禄CGDC演讲

 
 
●関連リンク
SteamVR Tracking
Synaposeによるレッスン説明
SteamVR Tracking HDK関連Q&A

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