電気刺激で加速度を提示! 視覚だけじゃないVRシステム「GVS RIDE」講演&体験レポート【CEDEC】

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8月24〜26日の間、パシフィコ横浜にて開催された主にゲーム開発者向けのイベント「CEDEC 2016」。今年は「VR Now!」と題して、VRをテーマにした特別企画も用意しており、セッションや展示にも力が入っている。

 
初日となる24日には、「視覚だけじゃない これからのVRシステム」と題したアカデミック・基盤技術セッションが設けられ、様々な環境でよりよいVR体験を実現するための技法や取り組みが紹介された。

 
登壇者は、東京大学大学院情報理工学系研究科講師、鳴海拓志氏、ユニティー・テクノロジーズ・ジャパン Product Evangelist/Education Leadで慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所 リサーチャー、簗瀬洋平氏、大阪大学大学院情報科学研究科 日本学術振興会特別研究員PD、青山一真氏の3人だ。

 
 

今年はVR元年ではなく、VR Ready元年

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まず印象的だったのは、五感インターフェースを専門とする鳴海氏は、学術界ではVRが長年研究されてきたことを踏まえて「今年はVR元年ではなく、VR Ready元年である」と語ったこと。

 
その裏付けとして、「1965年には『The Sword of Damocles』という、透過タイプの頭部装着型ディスプレーが開発されていたし、1984年には『Reality Built for Two』というVRゴーグルとデータグローブを用いて、VR空間内で他人とコミュニケーションできるシステムが商用として存在した」と指摘。

 
一方で「これらは個人で所有するのは難しかった。そして近年、ようやく消費者の間にVRゴーグル、そしてコンテンツが広まる環境が整ってきた」と続けて、「今後は視聴覚だけでなく、触覚や味覚などの五感を用いたVR体験を普及させたい」と意気込みを見せていた。

 
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鳴海氏自身による研究事例としては、VRゴーグルによる視覚に嗅覚や触覚を合わせた錯覚を紹介した。「Meta Cookie」という実験では、被験者がゴーグルをかぶってバニラクッキーを食べる際、クッキーの上にチョコレートクッキーに見える映像を重ねて、さらにチョコレートの香りを流すと、チョコレートクッキーを食べたと思い込んだという。

 
別の「ダイエットめがね」の実験では、食べ物の大きさを映像処理で変えて、満腹になるまで食べてもらったところ、大きく見えるように映像処理したほうが、より少量で満腹感が得られたという。逆に小さく見えるように映像処理した場合は、満腹までに必要な量は増えた。つまり、満腹感は視覚によって錯覚が起こるということだ。

 
 

「与えるコンテキストによって感覚に与える効果は増減する」

 

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続いて簗瀬氏が、Unlimited Corriderを利用したゲームを元に、VR酔い対策やコンテンツの臨場感、体験の質について知見を披露した。

 
Unlimited Corriderは、現実では直径5mの円形の周囲を歩いているのにもかかわらず、VRゴーグルを装着して壁を触りながら歩くと、その壁面の曲率によって直線を歩いているという錯覚してしまう装置になる。直進だけではなく、トの字型の三叉路を曲がる体験も可能だ。

 

 
簗瀬氏が開発したゲームは、高層ビルの工事現場らしき場所で、遠くに引っ掛かっている風船を歩いて取りにいくというもの。このシチュエーションにした理由として、VR空間を歩く場合は酔うことが多いが、その酔いの原因となる感覚を高所に立ったときの眩む感覚として捉えてもらうことによって、酔いにくくなるだろうという意図からだ。

 
また、高所であると壁を支えに進みたくなるので、Unlimited Corriderの特性に適している。このように、VRゲームやコンテンツを開発する場合は、人間の行動原理や心理的側面に基づく技法も重要になる。

 
 

経皮電気刺激による感覚提示

 

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3番目に登壇した青山氏は、電気刺激を人体の感覚器に与えることによって感覚を想起させる研究をしている。

 
現在、VR体験をする際には、VRゴーグルやモーションシートなど物理的な手法で感覚を作り出しているが、電気刺激によって感覚の想起が可能になれば、高価なデバイスを用いることなく、電極だけ済むようになり、より省スペースでVRが体験ができるようになる。

 
例として、筋肉への電気刺激であたかも物に触れたかのような感覚を与える「触力覚電気刺激」、舌への刺激で味覚を想起させる「舌電気刺激」、目の周辺への刺激で光を感じる「網膜電気刺激」、内耳の前庭で加速度を想起させる「前庭電気刺激」が挙げられた。

 
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特に前庭については、VR酔いの低減にもつながる。酔いの原因は、ゴーグルを通して見る映像と、前庭で感じる重力や加速が一致していないことが原因なので、前庭を刺激して入力を調整すれば酔いを減らせるそうだ。

 

GVS RIDE体験

 

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CEDEC会場には、ブースを構えたインタラクティブセッションも用意されていた。青山氏が所属する大阪大学のブースでは、前庭電気刺激を利用した「GVS RIDE」というUnityで製作したオリジナルコンテンツを体験できた。ちなみに、コンテンツ名のGVSは、Galvanic Vestibular Stimulationの頭字語で、前庭電気刺激と同義である。

 
内容は、ビル街の上空を駆け巡るコースターに一人称視点で乗るというシンプルなものだ。コースターの動きと連携して、電気刺激で加速度を提示するが、感覚の違いを捉えるために、初めは何もつけずに体験、その後に電気刺激付きでという流れだった。

 
電気刺激にあたっては、顔の左右両面で合計8箇所ほどの表面電極を取り付ける。耳の部分の電極2つは、イヤーマフを介しての接続だ。使用していたVRゴーグルは、Oculus RiftのDK2。

 
実際に体験してみたが、電気刺激なしの体験は、日常の経験から予測される加速度を全く感じないため、コースターに乗っている臨場感はあまり感じられなかった。それに対し、電気刺激ありの状態の体験では、しっかりと加速度を体感できた。

 
しかし、本当にジェットコースターに乗った際の加速度と比較した場合、肩から下の感覚が乖離しているような違和感は残ってしまう。個人的には電気刺激がないほうが気持ち悪さを感じなかったうえ、VR酔いの低減に対しても効果は薄いように思えたものの、VR酔い自体がそうであるように、電気刺激の効果も個人差が大きいのかもしれない。

 
電気刺激での感覚入力の精度がもっと上がれば、VR体験のコストを大幅に下げられたり、さらなる高い没入感も実現できるかもしれない。地道に積み重ねられている日々の研究の発展に期待しよう。

 
 
(取材/文、久道響太

 
 
●関連リンク
CEDEC2016
東京大学大学院情報理工学系研究科 廣瀬・谷川・鳴海研究室
Unity
大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻人間情報工学講座 前田研究室

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