キャラをユニティちゃんに近いライセンスで無償配布する──「Hop Step Sing!」奮闘記(後編)

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左よりランティスの木皿氏、講談社の松下氏、ポリゴン・ピクチュアズの石丸氏。

 
前編に続き、Hop Step Sing!製作陣のインタビューをお届けしよう。

 
 

「VRは主観で、誰かに感情移入するわけじゃない」

 
——アプリの中でこだわったところは?

 
木皿 音楽面でいえば、これが1曲目なので、そのキャラクター性をお客さんと模索していくことを大事にしています。さわやかで元気よくというのを基本に、海外展開も視野に入れて、歌詞が伝わりやすいように簡単な英語を散りばめてほしいという松下さんからのオーダーも反映しています。

 
僕は3人の声を差別化できるようにこだわっていて、声とキャラがいかにかわいく聞こえるかをレコーディングのときに模索しました。みなさん歌がとても上手だったので色々とトライできたかと思います。

 
石丸 声優さんのオーディションも、結構自由な感じだったんですよね。

 
松下 「こんなことが起こるかもしれない」って特殊な条件をめいっぱいつけたら、そういう条件でもやってみたい、という若手の方が多く集まってくださいました。

 
木皿 あとはキャラクターの魅力をどう引き出すか。歌を軸でやっていくとなるとなおさら気にする必要があります。ほかには、前編でもふれた立体感や音の感覚にも気をつかっています。

 
——ビジュアル面はどうでしょう?

 
石丸 ポリゴンピクチュアズは、tanuさんがキャラクターをデザインされて、ランティスさんが音楽をつくってという座組みがある程度できた段階で参加したため、まずtanuさんのビジュアルをVRの中で実現するために、3Dモデルを柔らかい雰囲気に近づけることに注力しました。そのあとにライブの話が出て、ステージのセットもtanuさんにお願いすることになって、ラフを描いてもらったので、その印象もできるだけ再現しています。

 
そうした素材を、いかにVRのパッケージの中に納めるかが苦心したところです。当初、VRでステージセットを見たときにスカスカで、ユーザーにモノ足りないと思われてしまう可能性があった。どう埋めていくか一日中見続けて考えて、例えば、歌詞にシャイニングスターと出てきたら星が流れていくとか、その星も消えるのではなく体験者をドームのように囲んだりといった演出を入れています。キャラクターがステッキを振ったら、飛んできたりとかね。

 
一番最後の3人が寄ってくるシーンはオマケなんですが、モーションキャプチャーの際に絶対入れた方がいいと思って、思いつきで「こっち来てー」というのを撮ってもらいましたし。

 
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——モーションアクターさんは3人別々なんですか?

 
石丸 3人別々で、同時に撮りました。現場で思いついて試したこともあって、アクターさんと見ている人の距離をどうやって埋めるかを考えていました。VRの特質を学びながら進められたことで、すごく勉強になっています。

 
——率直に、既存の枠ありとVRの映像とで、一番違うと感じたのはどこでしたか?

 
石丸 前編で触れた、フレームの中にいるか外にいるかっていうところの違いが一番大きいです。結局中に入ったときに主観でしかなくなって、誰かに感情移入するわけじゃないんです。それは体験で、感情移入する先が居なくなってしまうのがある意味不安というか、キャラクターの誰かに感情移入したり、カメラをカットすることによって感情をコントロールしたりする術が使えなくなってしまう。

 
木皿 受け手の感情の誘導ですよね。それが自由度が上がって、ゆだねられてしまうので、意図したものを見せづらくなる。それがおもしろく感じてもらえるかなという課題が出てきます。

 
石丸 あとはカメラを動かすと酔ってしまうので、今回は固定でやっています。本当はもっと動かそうと思っていましたが、やっていくうちにできないことがわかって、松下さんと無理だと覚悟を決めて、どう距離感を埋めていこうかと考え直しました。

 
——定点でありながら、今までカメラの切り替えで出していたスピード感も盛り込まないと、ユーザーが飽きがちですよね。

 
石丸 なので、途中にある宇宙のシーンも、完成の直前に「画面が変わらないと厳しいですよ」と指摘されて追加しています。

 
ちょうど宇宙に変わる直前のシーンは、もともと3人が外を向いていたんです。しかし、松下さんから、その配置だと中央の空間が空いてしまって、見ている人が置いけぼりになってしまうから内側を向かせてほしいというオーダーがありました。ただ、前後の流れがあるので、これをアニメーションで直すとなるとかなり困難だった。じゃあ定点カメラなら、思い切って隠せば納得してくれるんじゃないかということで、パーティクルをたくさん炊いて、宇宙に行くための儀式のようにしています。

 
——それで宇宙へ。

 
石丸 ええ、宇宙へ(笑)

 
木皿 確かにその場にずっといるのではなく、空間ごと変えるとメリハリつくかもしれないですね。変な話、戦後の歌番組から何十年も積み上げてきた、カメラの演出ができなくなるわけですものね。

 
石丸 だから5分という尺がものすごく長く感じました。

 
 

Oculus Rift、HTC Vive、OSVRのアプリも出す

 
——今後の目標は?

 
松下 PCとヘッドマウントディスプレーで見られるコンテンツをUnityパッケージにして、ユニティちゃんに近い自由なライセンス体系でばらまいてしまおうと計画しています。

 
——ええええ!! それって大胆すぎないですか!?

 
松下 社内の調整もあり、完全に自由にはできなかったのですが……。それはともかく、もちろんみんなで自由に使ってもらうことで、有名になってくれたらうれしいなという下心もあるにはあります。

 
でも、僕ら出版社って、本を出すだけではなく、新人賞を主催したりしてつくる人を増やすことも大事なことと思ってやってきています。VRの世界でも同じ役割を果たしたいと思っていて、なにかVRでつくってみたいと思ったときに、権利がクリアで魅力的なモデルがあれば、創作の最初の一歩を踏み出すお手伝いができるんじゃないかと考えたんです。

 
ユニティちゃんのような自由なライセンスで、同じ世界観をもったキャラクターが3体も提供されれば、いろんなものが作りやすくなるんじゃないかなって。有料アプリに組み込んでいただいても大丈夫です。そこまでやらないと、僕たちの本気が伝わらないかなと。

 
——Twitterで展開しているHop Step Sing!の漫画と折り合いがつくのでしょうか。

 
松下 一応、あなたたちの作品にうちの子たちが出演しますという体ですね。アイドルの設定って意外と楽で、例えば彼女たちがチェーンソーもってゾンビをばらばらにするゲームに出たとしても、そういう仕事に出演したという体裁にできるんです。

 
——ある意味「自分の娘」ですが、二次創作で勝手に出されてしまっても大丈夫なんでしょうか?

 
松下 一応そこは出版業を十数年やってきて自信があって、まず我々としては、きちんとオフィシャルなものを作り続けます。観る人が愉快な気持ちにはならない方面に使う方も出てくると思いますが、コンテンツはコミュニケーションの道具なので、結局コミュニケーションに乗せにくい話題って究極的には広がらないんです。

 
もちろんオフィシャルライセンスプログラムはつくろうと思っていて、うちと一緒に出すときは、さすがにライセンス料はいただきます。一方で中学生が最初に触ったUnityで、最初の友達になるキャラクターになってくれたら本当に嬉しい。音声も100パターンくらい録りたいですね。

 
——ユニティちゃんとのコラボも実現できちゃうみたいな。

 
松下 すさまじくやりたいです。むしろご提案申し上げようかと思っているくらいで……。

 
——音楽の部分ではいかがでしょうか?

 
木皿 やっぱりキャストさんたちと一緒に盛り上げて、音楽も幅広くやっていきたい。CDだけじゃない感じがこの作品にはあるので、そこにおける付加価値を模索しなければいけないと感じています。

 
——ランティスとしてもVRに関わるのも初めてですよね?

 
木皿 初めてです。以前、映画で5.1chを手がけた時点でも、通常の2chのミックスと全然考え方が違うので異世界を感じました。それに近いと思います。ひとついえるのは、フレームのある映像と体感が全然違う。そこにヒントがあって、原因が何なのかつきつめていかなければいけないですし、その第一人者にならなければいけない。やはりVRで音が平べったいと絶対おかしい。

 
——新しい音楽の試聴体験になりますか?

 
木皿 そうですね。つくる感覚は僕は5.1chと同じで、まず2chの完成形を出して、映像体験の中で最適化する手法になると思うので、それを突き詰めていきたい。この作品でしかできないことだと思うので。

 
——ビジュアルの部分ではいかがでしょうか?

 
石丸 VRは全然違う体験なので、お客さんにとって何が魅力的なのかを自分の中で消化するところで常に悩んでます。ただ、今回の制作でいいところ、悪いところが見つけられて、「多分これだったら」というのが頭の中には出てきた。それをうまく形にしたい。

 
VRで音楽のPVを見せるってひとつのジャンルになりつつありますが、まだまだ制作者たちもわれわれと同じように手探りの状態だと思います。「あぁ、これすごくVRっぽくて、4、5分の映像ですごく楽しい体験できたな」という満足感の高いものを出していきたいです。今回も自分の予想よりはるかにいいものができたんですが、次回以降もいいものをつくり続けるのが目標です。

 
松下 アプリでいうと、できるだけ早期にOculus Rift、HTC Vive、OSVRと対応させていきたいです。一応、すべてのVR機器に対応させるのを目標にしていて、PS VRにも行くつもりです。2曲目は11月か12月に出したいと思っていますが、どうなるか(笑)

 
——ゆくゆくはVRのなかでバーチャルライブを見られるようになるといいですよね。

 
松下 実は、VR空間で生放送というのは計画のうちに入っていて、KiLAさんと相談していたり……。声優さんの動きをキャプチャーして、3DモデルがVR空間でリアルタイムに動きながらトークバラエティを繰り広げるみたいな。視聴者からすると、ついさっき送ったメールがまさに目の前で読まれていることになったりして、新しい興奮があるんじゃないかなと。AIを使う計画もあります。

 
——AIとVRは将来的に一緒に使われそうですよね。

 
松下 最初は簡易的なBOTでもいいかなと思っています。そこから始めて、生放送のモーションキャプチャーデータや漫画のシナリオなど、キャラクターの特徴となるデータをディープラーニングの学習素材としていけば、キャラクターのAIも発展させていけるとのではと勝手に妄想しています。当然、学術機関との連携が必要になりますので、論文に協力者として入れていただけるのならデータをどんどん提供していこうとしています。AIの論文のあちこちに「講談社」って入るっていう素敵な未来が待っているかもしれません。すでに2つほどの大学と共同研究することになっています。

 
——ガンガン巻き込んでいきますね。

 
松下 僕自身、実は大学院の社会人コースに入り直していて、現役の研究者だったりします。本気で取り組んでいるHop Step Sing!、ぜひ今後の展開にご期待ください。

 
©講談社

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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