「プレステVRは、ポケGOより格段につまらない」はもったいない

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PANORAでこうした記事を書くのは異例だ。しかし、3年にわたって(わずか3年だが、濃密な3年だ)VR業界を専門に取材してきている立場として言わせてほしい。東洋経済に掲載された「プレステVRは、ポケGOより格段につまらない」という記事は、非常にもったいない。

 
近視眼的な欠点をあげつらう記事を作れば、アクセス数は伸びるだろう。しかし、それはつまるところイエロージャーナリズムで、一面では正しいかもしれないが、多くの事実を無視してしまっている。大手メディアの東洋経済が、そうした記事を掲載するのははたしてアリなのだろうか?

 
 

PS VRに表現の新しさはないのか?

 
筆者が一番違和感を感じたのは、

 
昔の業務用VRを非常に進化させ(CPUの演算機能も昔よりも飛躍的に速くなっているので)、家庭用ゲームに関連づけただけである。今までに存在しなかったものではない

 
および

 
任天堂の『ポケモンGO』はオリジナリティがある。すなわち、携帯電話のGPS機能をフルに活用し、それとARを組み合わせることにより、それまで存在しなかった『斬新な面白さ』を実現することを可能にし、世界の人々を魅了した

 
という文章だ。そもそもコンテンツとハードを比較する前提(「プレステVRはiPhoneより格段につまらない」ならまだわかる)に違和感があるうえ、GPSを活用した位置情報ゲームは、ポケモンGO以前にも数多くリリースされてきている。同ゲームの基盤もナイアンティックが「Ingress」で構築して来た資産の先にある。

 
ポケモンGO自体もVRと同じ「枯れた技術」で、過去に爆死してきた位置情報ゲームと決定的に違うのは、ユーザーと連携して構築して来たIngressという土台に、ポケモンという世界的に人気を誇るIPを乗せられたという布陣だ。

 
 
では、最近のVRは90年代に流行ったものと同じで、斬新な面白さは実現していないのだろうか? 記事ではこう指摘されている。

 
技術をゲームに活用するのは良い。しかしながら、それによって、ゲームの面白さを異次元に増幅させることができなければ意味がない。そのように増幅させることによって、より多くの人々を魅了することができるのである

 
記事を読む限り、筆者である矢田さんは「PlayStation VR WORLDS」の「The London Heist」は確実に経験されていそうだ(もしかしたらデモ版かもしれない)。では、他のコンテンツはどれほどかぶったのだろうか?

 
他のゲームもいろいろあるが、どのゲームも没入感はものすごい。だが、逆に言えばそれだけだ。なるほど異次元の空間の面白い体験はできるかもしれない。ただ、それが『斬新な面白さ』をもったゲームの面白さかと問われると、『No』と筆者は答える。

 
例えば、「サマーレッスン」で、ゲームのキャラクターが迫って来て、自分のパーソナルスペースにずかずか侵入してくる体験はされたのだろうか。「アイドルマスター ビューイングレボリューション」で、自分がライブ会場にいると錯覚する経験はされたのだろうか。

 
VRアニメの「Allumette」で、新世代のストーリーテリングの素晴らしさに感銘して涙を流さなかったのだろうか。「Rez Infinite」のArea Xで言葉にできない体験の美しさを味わっただろうか。「イーグルフライト」で鳥に、「バットマン:アーカムVR」でバットマンに、それぞれなりきれるという新鮮さはされていないのだろうか。

 
ゲームではないが、今年6月のE3でソニー・インタラクティブエンタテインメントが展示していた、ソーシャルVRのデモは見ているだろうか? VRゴーグルにアバターが映し出されて、ボイスチャットで話していると、本当に人が目の前にいるように錯覚してしまう。そしてたわいもない会話をして、たわいもないインタラクションをしているだけで楽しい気分になれる。その実感を味わったことがあるのだろうか。

 
いずれも枠付きのディスプレーではできなかった、人の近さやそこにいる感覚、空間の広がりなど、新しい表現が試みられている。その表現を短期間で実現するために、90年代のVRブームではなかったUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンが大きく貢献している。主観での面白い、面白くないは別として、その事実を無視するのは、非常にもったいない。

 
体験しなければその真価が「自分ごと」にできないというのVRの問題点だ。そして短時間のVRデモをいくつか見ただけでは、VRゲームの価値は理解しにくい。デモは得てしてインパクトを優先しており、ゲーム性は低いものも多い(その点でデモはゲームを進化させていないという批判は当たっている)。

 
そしてVRの範囲が広すぎる(ITと同じぐらいに広義の話)ゆえ、価値があるものと実感するコンテンツに出会うのも難しい。Twitterを少し調べて見れば、PS VRで自分が好きなコンテンツに出会えて面白い、新しいと感動している声が山のように出てくるはずだ。ホラー映画がダメだから、すべての映画に価値がないと断ずるようなものではないだろうか。

 
 

「映像の中にいるだけ」からの脱却

 
またひとつ引用しよう。

 
ただ単純に『昔よりも格段に進化したVRをゲームに採用しました、高精細な映画の中に入り込む体験ができて楽しいでしょう?』だけでは、本来のゲームの面白さにはつながらない。

 
おっしゃる通り「VRならでは」のゲーム性というのはまだ確立されておらず、今、コンテンツの提供者側は必死になってその突破口を探している状況だ。単純に映像の中に入っただけのコンテンツはよほど興味がないと飽きるし、「もう360度見られるだけのゲームはたくさん」という気持ちもわかる。事実、そうしたVRコンテンツも多かったりする。

 
しかし、それでもインディーの開発者だけでなく、バンダイナムコエンターテインメント、スクウェア・エニックス、カプコンを始めとする名だたる大企業が参入して、予算をつけて新しい表現の可能性を追求している。さらにGree、コロプラ、gumiといった具合に、スマートフォンで成功した企業のVRへの入れ込みようも度を超している。

 
スマートフォンでも、従来のコントローラー操作のゲームをタッチパネルに持ち込んで失敗した歴史があったように、VRでも既存のゲームをそのまま持ち込んで面白くなる可能性は低い。そして、VRゲームの面白さが、本来のゲームの面白さの延長にあるのかどうかは議論が必要だ。この辺、CEDECで語られた「『VR ZONE Project i Can』の知見、全部吐き出します!」という記事が詳しいのでぜひ読んでほしい。

 
ただ、優秀なクリエイターが集まってきて、新しい表現を実現しようと日夜取り組んでいる状況を無視して、新しくないと断じてしまうのはもったいない。

 
 

PS VRはゲーム専用機なのか?

 
VRゴーグルは、例えば、車を生産する前にバーチャル空間でその見え方を確認したいといった用途があったように、業務用途でひとつの市場を形成してきた。そうした数百万、数千万かかっていたソリューションが、数万、数十万でできるようになったのが、昨今のVRムーブメントの大きな原動力となっている。また一つ引用させていただく。

 
合計で8万円を超す娯楽電気機器を買う金銭的余裕のある人々は、そうは多くはないと思われる。

 
PlayStation VRをゲームしかできない娯楽のものとして捉えるのは若干違っていて、例えば、360度カメラで撮った写真や映像を見る用途にも活用できる。フレーミングして一部を切り取る従来の写真やビデオと異なり、その空間を丸ごと残しておいてあとで体感できるのだ。そして、360度の写真や動画を見てみると、メインで撮っていた被写体以外のところに発見がある。「ああ、あのときのリビングってこんなソファーがあったなぁ」と関係ないところで感動できるのが面白い。

 
生まれたばかりの子供の様子を残しておきたい。自分の結婚式を来られない祖父祖母に体験してほしい──。そうした人生を残すためなら、女性でも高価な一眼レフを買って面倒臭い操作も覚える人もいる。そして映像業界もVRへの参入が相次いでいる。ゲームが遊ぶのが面倒でも、好きな俳優やアーティスト、アイドルが近くに感じられるコンテンツなら見てみたいという人もいるだろう。PlayStation 2がDVDプレイヤーとしても受け入れられたように、PS VRもゲーム以外にも広がっていく余地は十分にある。

 
筆者自身の感覚では、PS VRはゲーム機というよりは、360度見られるようになったディスプレーという捉え方だ。だからゲーム専用機と見てしまうのは非常にもったいない。

 
しかしそれでもまだ多くの人にPS VRを買ってもらうために、ケーブルの多さ(筆者は簡単だと思ったのだが……)や女性が好みそうなデザインなど、多くの問題を解決していく必要があるだろう。そして何より体験してもらわないと、VRが何であるかわかってもらえない。スマートフォンが世の中に出始めた当初、板状の端末を耳に当てて通話するのになんとなく違和感を感じていた人もいるはず。その時期が、VRの今なのだ。

 
 
さて、なぜこんな原稿が掲載されたのか。

 
・編集者からお題が発注されてそれにそって書いた
・締め切りが迫っていたのでサクっと書いた
・原稿を送った後に編集者が勝手に加筆した
(タイトルを煽り気味に変えるのは割とよくある)

 
いろいろ原因が考えられるが、もう少しVR業界の人を取材してコンテンツを体験すれば見え方が変わってくるはずだ。

 
なんども引き合いに出して申し訳ないが、国内屈指のゲームジャーナリストである新清士さんも当初はVRの否定派だった(関連記事)ものの、あるコンテンツの体験を機に見方を180度変えて、今では新書「VRビジネスの衝撃」を執筆されたり、自分の会社でVRコンテンツを制作するにまで熱心になっている。

 
VRは「百見は一体験に如かず」で、とにかく自分でいろいろ体験しないとわからない部分が多い。なんならPS VRを持っていきますので、いろいろ遊んでみませんか?

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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