狙いは「民主化」 米MS、アレックス・キップマン氏に聞くWindows Holographic(前編)

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ついに発表になったWindows Holograhic。マイクロソフトとしては、これで、メインプラットフォームであるWindows 10そのものを、VR・MR対応にしていく準備が整ったことになる(速報記事)。基調講演の後、HololensとWindows Holographicの産みの親である、米Microsoft Windows and Devices Group Technical Fellowのアレックス・キップマン氏に詳細を伺うことができた。そのインタビューと、基調講演で発表された内容を合わせる形でお伝えしたい。

 
なお残念ながら、Windows Holographic対応デバイスの体験は叶わなかった。実際の使い勝手は、また別の機会にレポートしたい。その点をご了承いただきたい。

 

 
 

インテル内蔵GPU対応で
2017年末には「500ドルのPC」でも利用可能に

 
基調講演で発表された内容を、簡単におさらいしておこう。

 
Windows 10は、2017年初頭から春の公開を目指し、次の大型アップデートである「Creators Update」を準備中だ。この中で同社は、VR・MR技術である「Windows Holograhic」を標準機能にする。対応機器を用意すれば、WindowsでVR・MR空間を使った作業が出来るようになるし、VRアプリケーションも活用できるようになる。デモビデオでも、Hololensで行われているものに近い映像が公開されていた。

 
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基調講演でWindows Holographicを解説するキップマン氏。

 
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Creators Updateは来年早々にも公開予定。

 
公開された対応HMD製造メーカーは、HP、ASUS、Lenovo、Dell、Acer、3Glassesの6社。そのうち3Glassesの「S1」が、壇上でデモに使われている。

 
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Windwos Holographic対応デバイスメーカーとしては、まず6社がリストアップされた。

 
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地元中国のVR関連企業、3GlassesのHMD「S1」が、Windows Holographic対応機器として紹介され、デモに使われた。価格は499ドルを予定。

 
 
──Windows Holographicの必要スペックはどうなりますか?

 
キップマン まずわれわれは、インテルとのコラボレーションを進めています。目的は、こうした用途を「民主化」すること。PCの必要スペックを下げることは、著しい効果を発揮します。

 
現在、VRのような体験をするためには、1500ドルのPCが必要です。しかしわれわれがアナウンスした、「Creators Update」からは、すべてのハイブリッド・グラフィックスを持つ機器で利用可能になります。例えばSurface Bookでもいいですし、Razor Bladeでもいいです。これまでに比べずっと低いスペックのPCで利用可能になります。

 
そして、2017年のホリデーシーズンには、Kabylake(筆者注:先日出荷が始まった、インテルの第七世代Coreプロセッサシリーズ)を搭載したすべてのPCで、統合グラフィックチップで動作可能になります。統合グラフィックチップでいいということは、500ドルのPCでMixed Reality体験が可能になるということです。

 
──Kabylakeには、ハイエンドな「Iris」と、一般的な「Intel HD Graphics」の両方がありますが、サポートするのはどちらですか?

 
キップマン どちらもサポートします。でも、来年のホリデーシーズンに、ですよ。Creators Updateでは、ハイブリッドグラフィックスだけのサポートです。しかし、来年のホリデーシーズンでは「フルレンジ」サポートになります。

 
 

「慎重に選んだ」パートナーとデバイスを製作

 
──OEMがWindows Holographicデバイスを発表しました。

 
キップマン 今日、5つのOEMが提供しました。今日出なかったメーカーとしては、Quantaがあります。Quantaは台湾をベースとした企業ですが、MR体験用のデバイスにフルコミットしています。先週、台湾の彼らの元を訪れ、彼らのHMDについて話し合いました。

 
──じゃあ、すべてのODM・OEM企業がこの種の機器を製造できる、と?

 
キップマン 全部ではないですね。われわれはいくつかのパートナーを選んでいます。長いパートナーシップを組み、ともにエンジニアリングができるところを、です。開発は簡単なものではないので、とても深いパートナーシップを彼らとは組みます。興味をもってくれるすべての企業と話はしていますが、その中でわれわれがパートナーとなり得るところを選んでいるのです。

 
──すなわち、今のWindowsのビジネスモデルとは……

 
キップマン 非常に違うものですね。今のWindowsのビジネスモデルはとてもオープンなものです。誰もがシステムを作り、そこにWindowsのイメージを載せればいい。

 
われわれがやろうとしていることは、Windows PCのものとは大きく異なります。センサーや光学デバイスをタイトに組み合わせる必要がありますから。End to Endでの体験を、少数の、深い関係を築いたパートナーと作っていきます。

 
──メーカー同士での製品の差は、どのようにつけますか? マイクロソフトとともに作る形だと、スペックが固定され、差がなくなるようにも思いますが。

 
キップマン とんでもない! メーカーごとに非常に異なったものになりますよ。

 
1つは299ドルの安価な、エントリーレベルのものです。3Glassのものは、MRに対応した製品としては、ハイスペックな製品のひとつです。120Hzのパネルを備え、他のどのヘッドセットよりも高い解像度のパネルを使っています。非常にバラエティ豊かな製品群です。

 
われわれの目的は、パートナーにより多くの機会を与え、消費者により多くの選択肢を提供することです。多様なスペックのものを提供することで、消費者はマシンを選び、さらにHMDを選ぶこともできます。すべてがビルドインされた「オールインワン」機器を選ぶこともできます。こうした事を踏まえ、どのようなパートナーを選ぶか、という点も含め、強い意図で行われているものです。

 
 

Hololensの技術を「エコシステム」の中へ

 
──VR酔いへの対策はどうですか? 多くのハイエンドVRシステムは、酔いを軽減するために様々なテクニックを使っており、そこでパフォーマンスが必要になっています。

 
キップマン HololensはVR酔いを起こさないですね。しかし、それは3000ドルの機器だから、というところはあります。その点についても、機器によって様々なレンジが存在します。究極には、どうイメージを場所的に・時間的に安定させるか、ということになります。

 
時間的については、ディスプレイの書き換え周期が問題になります。90Hzのパネルを使っていれば、一秒に90回映像を書いているわけです。場所を安定させる観点でいえば、一秒に90回書き換える間に「ぶれ」が生まれます。そのぶれこそが吐き気を催す原因です。

 
空間的な安定性については、トラッキング技術に依存します。ヘッドセットが採用している技術や周辺環境に依存します。Hololensの場合には、「1メートルあたり0.1mm」の解像度です。1メートル先で髪の毛一本分の精度だから、ぶれが少ないわけですが、それをHololensでは、Inside-out方式の360度トラッカーを内蔵して対応しています。

 
こうした技術は、デバイス開発用のエコシステムの中で公開しますので、この技術を使えば、1メートルあたり0.1mmの精度でトラッキングできることになります。

 
もうひとつの要素は「時間」です。光は色々なところを反射して目に入ります。モノに光が反射し、目の中に入って脳で処理されるまでは、だいたい9msかかります。いつでもこの9msを超えると、われわれは「疲れ」を感じます。Hololensは物体のスタビライズを8.9ms以内に行います。そのためにはたくさんのことをしないといけません。センサーから出たデータは、「Holographic Prosessor Unit」に入ります。ここで、時間を「チート」するわけです。これもエコシステムの中で利用可能になります。

 
──Hololensは、コンシューマにはまだちょっと高い。これを低価格化することは可能ですか?

 
キップマン 「いつか」はできます。時間は無限ですからね。答えはイエス。ただ問題は「いつできるか」、ですよね(笑)。今日の段階でアナウンスできることはないのですが、いつか、Hololensも価格帯を変える時期が来るでしょう。

 
──Windows Holographicについてはどうですか? ARM版でもサポートされますか?

 
キップマン x86版でも、ARM版でも提供されることになるでしょう。パートナーがどれを選択するかです。いまはx86のPCを選択するでしょうが、別の選択をする時期が来るかもしれない。要は、われわれの技術は「すべてのWindowsで動く」ということです。ARMでも、x86でも。

 
──HololensにARMが入る可能性はありますか?

 
キップマン 今はCherryTrail世代のプロセッサーを使っています。ARMプロセッサーのHololensのサポートについては、新しいニュースはありませんね。

 
WindowsはARMとx86の両方をサポートすることになりますから、Hololensもその道をたどるのでしょう。しかし、今は新しいニュースはないです。

 
今回、WinHECで発表されたのは、あくまでWindows Holographicとそのデバイスだ。コア技術が同じではあるものの、シースルーディスプレイを使ったスタンドアロンデバイスとして開発さてているHololensと、汎用PC+HMDの環境を想定するWindows Holographicとでは、ハードウエアはもちろん異なることになる。しかし、キップマン氏の説明を聞く限り、マイクロソフトとパートナーシップを組む事で、「HMDスタイル」の機器を作ることもできれば、Hololensスタイルのものを作る事もできる、という点が改めて確認できた。

 
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基調講演で公開された、Windows 10 Creators UpdateのPRビデオより。Hololensでデモされてきたような内容が、一般的なWindows PCにも落ちてくる。

 
 
今回、WindowsをQualcommのSnapdragonシリーズにも対応させることが発表されたので、「QualcommのSoCを使った一体型のWindows Holographicデバイス」も考えられなくはない。あくまで予想だが、QualcommはすでにVR向けの要素をSnapdragonの中に取り込みつつあるため、そうした要素をうまく使ってくると、面白いことになるのではないか、と思う。

 
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Qualcommのデバイスの上でフルバージョンのWindows 10が動作。Windows Holographicも機能として含まれる。

 
後半では、機器毎の差別化の方法論や「仮想空間向けのUI」の可能性について触れる。そちらも併読していただければ幸いだ。

 
 
(TEXT by Munechika Nishida

 
 
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