「いいねボタン」やマングースの罠までLTEでつなげる 「さくらのIoT Platform」の価値とは?

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もう2ヵ月ほど前の話になってしまうが、世界最大級の家電見本市「CES 2017」の会場を取材していて感じたのは、インターネットにつなげるモノ「IoT」というキーワードだった。IoTは、もはやネットにつないでいないものはないといえるほどさまざま製品で対応が進んでいる上、そのIoTと他の領域が重なって新たなユーザー体験を生み出そうとしている。

 
そんな折、CES期日前の1月5日にデータセンター事業などを手がけるさくらインターネットが、「さくらのIoT Platform β」と名付けたIoTプラットフォームを2017年度中に海外展開をスタートさせることを発表した。このソリューションは何がメリットで、どんな応用が可能なのか。同社の田中邦裕社長(上記写真左)、およびIoT事業推進室 室長山口亮介氏(同右)にインタビューした。

 
 

声で入力するクラウドのコンピューターがIoTを加速

 
IoT機器といえば以前から存在しており、出先からスマートフォンで家電を操作するような利便性を提案してくれていた。それが今回のCESで、Amazonが提供するクラウドベースの音声認識エンジン「Alexa」に対応する機器がグッと増えたことで流れが変わっている。例えばフォードが車と家電を連携させるといったように、応用範囲が広がっているのだ。

 
Alexaはもともと、Amazonが販売しているスマートスピーカー「Echo」に声で指示することで、例えばAmazon Prime Musicから音楽を引っ張ってきて流したり、ニュースや天気を教えてくれたり、タイマーをセットしたりといった利便性を提供してくれていた。料理中など手を使えないシチュエーションでも、声でネットサービスやアプリを活用できるのは案外便利なのだ。

 
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Amazon Echo。現在、日本では販売されていない。

 
実際にAlexaを使ってみると、アップルの「Siri」やマイクロソフトの「Cortana」といった音声認識エンジンよりも認識精度が高いことがわかる。さらにスマートフォンやPCとは異なり、家の中の少し離れた場所からも呼びかけて反応してくれる。いちいちリモコンやスマホを探して指で押すことなく、まるで家族や友人にお願いするように、声で呼びかけて的確に操作してくれるのだ。

 
そんな現場を見て直感したのは、PANORAが主に扱っているVR/AR/MRの分野もこの融合に無関係ではいられないということだ。すでにマイクロソフトのMRゴーグル「HoloLens」も音声入力に対応しているが、何らかのセンサーとしてIoT機器を用意し、クラウドに投げて処理して結果をゴーグル側に表示という応用も出てくるだろう。

 
という前提があった上での、昨年11月より日本で提供を開始し、海外進出に向かう「さくらのIoT Platform β」だ。

 
同プラットフォームは、データの保存や処理を担うネットサービスだけでなく、製品に組み込むハードウェア「さくらの通信モジュール」まで提供するというのが特徴だ。その両者をLTE網でつなげるのもユニークで、Wi-Fiのようにいちいちユーザーに接続設定してもらわなくても済むのが大きなメリットだろう(モジュールの差し替えで2.4GHz帯、920MHz帯のLoRaも利用可能予定)。

 
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そんな知識を踏まえて、ぜひインタビューを読み進めてほしい。

 
 

IoTハード開発の本質に注力できる

 
──「さくらのIoT Platform β」について詳しく教えてください。簡単な説明を聞いた限りですと、LTEの通信モジュールを色々なものに埋め込めて、Wi-Fiにつなぐという面倒な操作もなし。なおかつ年単位のような長時間稼働が可能で、ユーザーにいろいろ面倒なことをしてもらわなくても便利さを享受できるIoT機器を支えるプラットフォームなのかなと感じました。

 
田中 おっしゃる通りです。通信をLTEにしたのはなんといいますか、今回のCESの各ブースを見ても、スマートなんとかっていう製品は増えてるんですよ。ただほとんどの場合、接続方法がWi-FiかBluetoothで、こうしたイベント会場では鑑賞してつながりがすごく悪いんですね。

 
──まず接続できませんね。

 
田中 結局2.4GHz帯は「焼け野原」になって、5GHz帯も時間の問題なんです。

 
──5GHz帯でも厳しいですよね。

 
田中 そうなんですよ。となると、IoTにとってやっぱり通信制御されているLTEっていうのは非常に利便性が高いんです。しかし、LTEにも国によって電波法のレギュレーションが違い過ぎるという問題があります。

 
だからどの企業さんも、IoT製品を輸出するときにLTEの通信モジュールを乗せたくないんですよ。シリコンバレーのスタートアップ企業も、本当は携帯電話網を使いたいはずなんだけれども、輸出できなくなるので諦めてるんですよね。おまけに部品も高い。

 
でももし数千円、あるいは数十ドルレベルで供給できたら、これを組み込む事でグローバルで携帯電話網に対応できますよね。だからシリコンバレーのスタートアップ企業にもさくらのIoT Platformをぜひ共有したかった。

 
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──今まで他社さんで同様の製品はなかったんですか?

 
山口 モジュールだけ、SIMだけ、システムだけっていう状態では存在していました。これを全部組み合わせた状態にして、今の価格帯を実現しているのは当社が初めてだと思います。

 
──IoT機器を手がけるハードウェアスタートアップにとっては、全部を自分たちでカバーした製品開発なんて、時間的にもコスト的にも難しいですもんね。

 
山口 そもそも、ハードウェアのファームウェアを開発しているところが、ウェブでのスケーラビリティ(拡張性)とセキュリティーを担保しようと考えて手をつけ始めると、「あれっ、俺何やってんだろう?」って状況になりがちなんです。だって、自分たちが開発したいプロダクトの本質じゃないですからね。通信部分じゃなくて、その上層であるサービス部分の造形を作りたかったはずなのに、関係ないところで苦労してしまう。

 
──それは本末転倒ですね。

 
山口 その現状が、Bluetoothでとりあえずつなげば、見た目とシステムはできちゃうということで、全体的にそういう流れになってしまっている。それならわれわれが通信モジュールからつくってしまえば、スタートアップはそんな面倒なことしなくて済むわけです。

 
──IoT製品であるからには、国内外の場所を問わず、あらゆる場所でつながってほしいですもんね。

 
田中 キャリアさんはこの通信モジュールを売る商売をしてるんですけども、結局、スタートアップが組み込んだとしても、現地でSIMを挿してもらえない可能性がある。世界対応のSIMを使う手もありますが、当然高いので価格が上がってしまう。なので世界対応SIMを前提とする製品なんて、どの企業も作りたくないわけです。それに通信モジュール自体も技適を取得しないといけない。

 
ですので、さくらのIoT Platformは将来的に、各国の技術基準の適合をちゃんと取得して、SIMも入った状態で、通信キャリアまでちゃんとサポートします。ただ、そういた対応にはまだ時間がかかりますので、現在はノンサポートとさせていただいています。

 
それともうひとつ、さくらのIoT Platformについては、ストリーミングなどができない仕様となっています。

 
──なぜですか?

 
田中 IoTなので小さいデータだけ送る用途を前提にしています。例えば、カメラに入れてもらいつつも、設定や制御用で使っていただくというイメージです。

 
──使い方次第で利便性は高まりそうですね。

 
田中 いちど、他社さんからルーターに搭載したいという話をもらったことがありました。ルーターならネットにつながってるから不要じゃないですかっていう話をしたら、「いやいや、ルーターのサポートで一番難しいのは、初期設定とネットにつながらなくなったときなんだ」と。サポートセンターに電話がくるということは、「ネットにつながっていない」状態なんだけど、そんなの関係なしにサポートセンターからルーターにつなげたらサポートがやりやすいと。

 
──確かにその通りですね。

 
田中 IPアドレスが取得できていないとかの問題も全部わかるので、そうするとコールセンターじゃなくても対応できるようになるんです。例えば、ユーザーさんが自分が使っている製品のバーコードをスマホに読み取らせて、「ネットつながりません」っていうボタン押したら、LTE網経由で設定変更する風にもできますよね。

 
──それは便利!

 
田中 なのでサポートコストを下げるためのIoT化という手段もあると。モジュール1台あたり5000円として、1万台出荷なら5000万円。サポートコストに毎月何百万円もかかることを考えたら、導入時に5000万円かかるとしても、非常にメリットが生まれてくる。

 
ユーザー体験の改善にもつながるので、白物家電に入れたらどうかっていう話もあるんです。故障箇所をコールセンターに直接通知できますし。冷蔵庫とか洗濯機は部品が大きいのに、サポートセンターの人が現地で故障箇所を確認して、部品を調達して、再び現地で修理なんていう手間がかかりますし。

 
──VRですと、アミューズメント施設などに導入する機材で故障箇所を通知するのに役立ちそうですね。

 
 

全然ITじゃないところをIT化していける

 
──他に事例はありますか?

 
山口 この1年間で色々な事例が出てきています。例えば、長崎のハウステンボスさんではパーク全体をロボット化して、乗り物も自動運転で制御するというのを目指されていますが、それを実現するには、ロボットがパークを認識するためのデータをリアルタイムで集めなければいけない。その手段として、われわれの通信モジュールに注目してもらっています。

 
今は試験的にゴミ箱の量を計測して、そのデータを米IBMの学習型コンピューティングシステム「Watson」に入れて、どういった経路でゴミ収集をしたら一番効率的かを算出するテストを行っています。

 
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山口 ぐるなびさんとの事例ですと、完全に実験レベルですが、IoTでウェブ情報と実際のお店に行ったときの印象の乖離を解消しようとしています。

 
──え、それはIoTと関係あるんですか?

 
山口 具体的には店に「リアルいいね」ボタンみたいなやつをおいて、来店してどんな感じだったのか、どれだけ混んでいるかというデータを集めるものです。居酒屋にいけば、だいたいわれわれは酔っぱらうじゃないですか。でも酔っぱらった後に、おもむろにスマホを取り出してその店の評価を「いいね」ってできるかっていうと、中々厳しいですよね。

 
──まずやらないですね。

 
山口 ですので、どれだけ面倒な部分を減らすかというのが課題です。まずはスマホを取り出して、パスワードロックをといて、ぐるなびを開いて……というところまでは普通いかない。それよりは店のテーブルとかにボタンがあって、いいと思ったら押すだけ。

 
それがどういう状態で、どういう感じで押されていくのか。それを蓄積した売り上げ情報などと絡めていくと、初めて有益なデータとなって、色々なことに活用できるんじゃないか、という青写真があります。全然ITじゃないところをIT化していけるというのも、この通信モジュールがやれることだと思っています。今だってこの部屋の中を見渡しても、鏡やライト、床、イスとか、ネットにつながってるモノってほぼないですよね。

 
──そうですね。

 
山口 でもこういったモノをIoT化しておくと、何かできるかもしれないと考えてる方も結構いらっしゃる。沖縄の事例だと、罠に通信モジュールくっつけるなんてこともあります。

 
──罠ですか!?

 
山口 マングースを捕まえる罠です。マングースは、昔はハブを食べるんじゃないかって思われて連れてこられたんですけど全然食べなくて、むしろヤンバルクイナとかカエルとかをバクバク食べちゃって、いまじゃ生態系を荒らす害獣になってしまっている。どんどん繁殖しちゃって、それをとらえるために罠をいっぱい仕掛けている状態です。

 
その罠も的確なエリアに設置していかないと、また増えたり、被害が広がってしまう。そこで罠に通信モジュールを仕込んでおけば、獲物がかかった罠だけチェックに行けますし、捕まった瞬間も分かるわけです。

 
われわれはITに近いところで仕事してるから、周りもなんとなくIT化されてるみたいな感じに思っちゃっているんですけど、そうではない部分もIT化していく、そのためのツールといいますか。

 
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CESの会場では、パートナーの応用例としてtsumugのスマートロック「TiNK」が紹介された。

 
──とはいえ、もともとさくらインターネットは、ハードウェアをつくっていませんでしたよね?

 
田中 今はつくらざるを得なのでつくってますけれども、うちじゃなくてもいいんです。われわれのビジネスはあくまでもサービスですので、本当はサードパーティーが通信モジュールをつくってくれるのが一番いいんですけどね。

 
──インターネットプロバイダーがルーターを提供するように、IoTでもインフラの役割を担っていくためのハードウェアみたいな。

 
田中 手段としてのハードウェアです。グーグルが「Nexus」、マイクロソフトが「Surface」をつくったのと同じですね。あれ自体はビジネスになりますし、うちのもビジネスになってはいますけども、それが最終目的ではない。ハードウェアのメーカーがIoT化を掲げるのではなく、サービスの会社がIoTを実現するために通信モジュールをつくらざるを得ないケースの方が増えていると思います。

 
──解決すべき問題に対して、最小限のパスが何になるのか提案してもらえるというのは重要ですね。

 
田中 そうなんですよ。今はみんなハードをつくらずにできるだけ近いパスを作ろうとしてるんですけれども、ハードも一緒につくることで近くなることって世の中多くてですね。それに大企業だと何億、何十億かけるのを、さくらのIoT Platformに関しては何百万円代後半でつくって、技適まで取得してますからね。

 
──それはスゴい! 小回りがきく感じがします。

 
田中 そうですね。われわれはあくまでもメーカーじゃないっていうことなんだと思います。将来それこそ、タダで配ってサービス開始するっていうのも当然ありだと思っています。

 
──そうして、インフラとアプリと色々な足並みがそろってきたところで、IoTに火が付くと。

 
田中 それを待ち望んでる感じです。

 
──しかし去年に比べると、今年のCESでは、かなり実用レベルのIoT機器が増えた印象でした。

 
田中 そのすべてにうちのモジュールを入れたい。やっぱりBluetoothとWi-Fiに起因する不便なユーザー体験を変えていきたいです。

 
山口 いろいろな製品をつないで組み合わせないと機能しない、というのをやめたいです。

 
──ワンストップで完結していてほしい。

 
山口 それだけで完結して、それだけでできる。電源入れたらどこでも使えるっていうところまでできると、ハードウェアスタートアップは市場を国内に限定しないでビジネスを考えられるようになる。少なくともモジュールや通信の部分は苦労しなくていいっていう風になると、とっても嬉しいなと思っています。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota、Mirai Hanamo)

 
 
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