お店が置きたいと思えるロボットとは? karakuri products松村礼央氏に聞く「1/2タチコマ」開発秘話(後編)

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前編に引き続き、karakuri products代表・松村礼央氏と、カヤックの松田壮氏のインタビューをお届けする。

 
 

タチコマによる接客で2.3倍の売上単価を成立させる

 
──しかし、テストケースの場所は販売店よりも、病院など用途が限定されている場所のほうが実証実験がやりやすかったりしませんか?

 
松村 そこには経済的な観点があります。ロボットを入れるためにコストをかけてインフラを組み替えるとなると、そのコストをペイするだけの収益を生む仕組みが必要になります。病院の医療費はある程度が補助されているから今の金額に収まっているわけで、その枠組に収まらないロボットの導入費用をユーザーが医療サービスという観点で払えるかというと、私は難しいように思います。

 
──PRに使えるという判断はあるかもしれません。

 
松村 しかし、それではロボットを維持管理するコストをペイできる儲けにはつながりません。医療や車のインフラが、税金という形で維持されている前提を忘れていますよね。現状、日常環境で動作するロボットにはその座組が存在しないのだから、インフラの維持管理はロボット導入・管理側とユーザーとの間の経済合理性の成立するかどうかが問題で、それ以上でもそれ以下でもありません。儲けにならないサービスは両者にとってマイナスです。

みんなそこを甘く見積もりすぎていると思っていて、そこを解決する一つの案として、キャラクターグッズを販売する小売店での導入を考えました。このような店舗で販売されているキャラクターグッズは一般的な商材よりは値付けとしては高めで、その中でもより高付加価値な商品の受渡しをタチコマは担当しています。商品として高価なのだから、それに見合うサービスとしてタチコマからの商品受渡しをしようという発想です。

 
──コンシェルジュ的に自分のためだけに持ってきてくれるから価値があるという。

 
松村 はい、高付加価値な商品を買うのだから、それに見合う付加価値を様々な仕掛けで用意しよう、ということです。実証実験の報告書にも数値を出しましたが、タチコマによる商品の受渡しサービスをおこなったことで、攻殻機動隊関連のグッズの売上が2.3倍になりました。

当然、無限に同じ商品をユーザーが消費するわけではないので、この数値を継続して出せるわけではありません。ここで重要なのは「2.3倍の値段」なら、ユーザーはタチコマによる接客に価値を見出してくれたということです。この2.3倍の価格でバランスするようにインフラを設計できれば、ユーザーの要求に見合った対価を用意する限り、この店舗のインフラは維持・管理し続けられるわけです。

冒頭で病院の話しがありましたが、病院での物理的なサービスでは、タチコマ側に要求される維持管理費用を人はとても払えないでしょうし、人に勝てる要素もよほどタスクを限定しない限りあり得ないでしょう。

 
──えーっと、かわいくて癒されるとか……。

 
松村 それも接客っていう部分ですよね。言い方は悪いですが、コミュニケーションでしかお金を取れないなら、そこの部分でお客さんに刺さるようにつくるしかない。

 
──前編の話になりますが、つまりロボットによる水商売や芸能業などのサービス業みたいな感じという。

 
松村 はい、そうだと思います。なぜか世の中では物理的な作業ではないコミュニケーションのタスクのイメージが暗に低く見積もられがちで疑問ですが、人の耳目を集められる、コミュニケーションそのものに大きい付加価値を集められるという、いわゆるモデルやキャスト、芸能業のようなタスクは、それ単体で十分立派な「仕事」で、ロボットによるそれも十分価値は出せると思います。

むしろ、物理的にパフォーマンスが出ないようなインフラの中で、物理タスクを目的としたロボットを置いて「役に立ちます」と主張されていたら詐欺ですよ。

 
──しかしロボット開発者として、夢を語るだけでなく、かなり現実路線で考えられているのがスゴいです。

 
松村 技術的な特異点は存在すると思いますが、一方で我々の生活の未来は今日現在と連続している「明日」です。たとえば、UNIQLOのモデルと同じコーディネートをしても私はイケメンにならないわけで、イケメンモデルと私という前提の違いを理解せずに服を同じにしても意味がないですよね。その差を理解して埋める努力が必要なのと同様、現状のインフラの前提を受け入れた上でどう変えるかの議論が重要ですよ。

弊社はロボットのためのインフラを用意することで、ロボットをこの社会に定着させたい。そのためにどうやって環境を整えて、どうやってユーザーへのサービスを設計し、どうやって経済的に成立させれば良いかを考え、事業としています。その意味で、I.Gストアでのタチコマの導入がどうすれば維持できるかを日々考えています。このタチコマは、単体のガジェットではなくてインフラなんです。

 
松田 松村さんがやってることは、エンジニア以上の仕事が含まれていて、そういう人がいないとさっき言ってた話が夢で終わってしまう。

 
──しかし松村さんのこの話だけで、攻殻機動隊のエピソードがひとつつくれそうですね(笑)

 
松村 実は攻殻機動隊の中では、コミュニケーションロボットって普及していないんです。タチコマだけがイレギュラーで、それ以外は、人並みのコミュニケーション機能をもったロボットは存在しません。正直言うと、僕がやろうとしていることは、そもそも攻殻機動隊の世界観からずれてしまっている。それでも、みんながタチコマというキャラクターのイメージを最初から持っているというのはスゴく大きな意味をもちます。

 
──といわれると?

 
松村 例えば、今ここで話している僕が新垣結衣さんだったらうれしいじゃないですか。「ロボットのインフラが〜」という話の内容はどうでもよくて、新垣結衣さんと喋ることができているだけで価値が生まれるでしょう。接客においては「なにを」「どのように」話すか以上に「だれが」コミュニケーションをしているか、の方がクリティカルだと思います。

もう少し丁寧にいうと、コミュニケーションを互いにとるAとBという存在がある時に、A-B間のコミュニケーションに価値が生まれるかどうかはA-B間の「関係性」がどれだけ築けたか、だと思います。そしてこの築いた「関係性」が何によってもっとも代表しやすいかという点が「だれが」だと私は考えています。なので私の考えでは、コミュニケーションにサービスとして高い付加価値を見出すのであれば、「だれが」という点がロボットのデザインにおいて考慮されていないとかなりマズい。

たとえば、Pepperが店頭で価値を持つためには、そのキャラがみんなにとってクリティカルになるような仕組みが必要不可欠だと思います。その観点では、PepperはCMなどでキャラクター作りがなされていたのでスゴいなと。ただ、最近CMで見かけないのでその点は残念です。

ロボット単独で愛されるような「関係性」をユーザーとの間に完全自律で紡げるのであれば話は別ですが、現実問題そのようなロボットの実現は膨大なコストをかけない限り、きわめて困難です。そう考えると、高い付加価値をロボットとのコミュニケーションに求めるのであれば、ユーザーのみんなから愛されている「関係性」が確立できているキャラクターを選定し、その関係性を再生できる機能をコストとのバランスで設計するべきです。その観点にたつと、設置する店舗がProductionI.GのIP関連のグッズを販売する「I.Gストア」なら、選ぶべきロボットのデザインは、まぁまず「タチコマ」ですよね。

 

 

 
 

ロボットレストランにみるロボットの店舗導入

 
──4月より店舗への再設置が決まりましたが、これからも実証実験を地道に重ねていく感じでしょうか?

 
松村 そうですね。現状でも、ここまでやったらお客さんも踏み込んでこないし、安全性を確保する施策として検討できる、というケーススタディとして経産省に報告書を提出しています。

 
──次はライントレースではなく、店内を自在に動かすことは難しいですかね。センサーを使ってお客さんを避けるみたいな。

 
松村 それはシステムを運営する上で、店舗のスタッフのオペレーションの負荷にも影響する問題なので慎重に判断しています。昔、レーザーレンジファインダーを搭載したセンサーユニットを研究所で開発していました。それを活用したシステムは、非常に頑健に距離計測が可能で、ライントレースを置き換えるのは技術的には十分に可能です。ただ、ここで問題になるのが、キャリブレーションやシステム維持の負担です。店舗スタッフの技術リテラシーをいきなり向上させたり、弊社のリソースではそれらの維持管理をしきることも困難です。結局、技術的にやりたいことと、資金的に我々ができることと、ユーザーがどこまでを望むかのバランスですよね。

 
──ドライですね。その割り切る姿勢が面白い。

 
松村 というか、飯が食えないのでは誰もかれもやっていられなくなるでしょう。

 
松田 とても現実的ですが、技術的ハードルをぐんぐんあげてくるのは割と松村さんだったりしますけどね。

 
松村 我々の間でも「こんなんできへんの?」という議論はいっぱいあります。できるならやればいいと思いますが、導入する店舗自体も一方でロボットの消費者なわけです。店舗の側に立ったら、普通に考えてオペレーションが増えるのはきつい。導入店舗のスタッフが「ロボットを、タチコマを置いてもいいよ」という意識になるようにするのが、最低限、重要なのではと思います。

我々の知らないところで「光学迷彩中」という看板を作って、店舗としてタチコマが出張しているという状況をプラスに変えて対応いただけてるのも、店舗のスタッフが導入を楽しんでいるからこそだと思います。「経済的に成立するんだったらいていいよ」というロボットの居場所をきちんとつくらないと。

 
──現状は、いるだけでコストになってしまう。

 
松村 普通に考えて、人がやったらいい作業をロボットにやらせる意味がないですよね。ロボットに「なにを」させるかの設計も重要で、キャラクターグッズではないような商材、たとえばアイスを売るような接客を考えると、どの商品も大きく価格が異なるわけではないので客単価にそこまで大きな差はでません。

そのような商材の販売接客をロボットがやったところで、売る商品の価格帯に大きな差がないのであれば、人がやってもロボットがやっても客単価に大きな差はないはずです。むしろ、接客のスピードはロボットの方が劣るケースが現状は多いはずで、単位時間あたりの売上は減る方向に向かうのではないでしょうか。そうなるとロボットの居場所は、儲けがあまり上がらないPRとしてでしか用意されなくなります。

本来、付加価値を生むためにどんな接客をすべきか、どんな商材を販売すべきかを冷静に設計するべきで、それをクリアーした上で、お店の中の側の人達が楽しんで使ってくれるようにしないと、誰も扱えないですよ。

 
──その視点はめちゃくちゃ重要ですね。

 
松村 そのためのアプリで、今後はお店の宣伝まで含めてどこまでアプリ経由でできるかが鍵になっています。例えば、「新商品届いたよ」みたいな。

 
松田 そういうあざとさもどこまで許されるのかという。

 
──でも自分が好きなキャラが自分の好みにあったものを勧めてくれるんだったら、ファンとしては許せるんじゃないですかね。

 
松田 アプリ内課金で、解析の速度が上がる「天然オイル」というアイテムがあるんですが、それもどこまでユーザーに受け入れてもらえるのかという実験でもあります。

 
──オイルはリアル店舗でももらえるんですかね?

 
松田 いやアプリ内だけですね。

 
──実店舗でもオイルっぽい飲み物をもらえて話せたら、それって本当にロボットキャバクラじゃないですかね(笑)

 
松田 クラブタチコマっていう。

 
松村 ただ、あながち冗談ではなくて、インフラが税金で賄われていない以上、実際に商品を購入していただいたユーザーの消費によって支えられているわけで。そのユーザーのみなさんが満足する次のビジネスを設計し続けなければいけません。

たとえば、I.Gストアさんのメインの顧客は女性で、その女性の皆さんに人気のアニメでかつ売れ筋の限定グッズの集客力にはかなわないところがあります。キャラクターに合わせた香水が限定販売されたとすると、数百人がすぐに集まる。そうなるとタチコマの存在は一瞬で吹き飛んでしまう。

一方で、集客力では負けますが、1人のお客さんにより高付加価値なものを買っていただく方向で、お客さんにも店舗にも喜んでもらうことはできる。それを突き詰めていくと、一度買ったら終わりというグッズより、その場で消費できてしまう商材のほうがより大きな消費サイクルを生む可能性を秘めていて、そのような店舗形態として飲食をベースとしたサービス業を考えると、カフェやキャバクラ、ホストクラブなどに代表される店舗形態は合理的な解の一つと十分にいえると思います。

 
──ロボットカフェも面白いかもしれませんね。歌舞伎町の「ロボットレストラン」に対抗してみたいな。

 
松村 ロボットレストランは、非常に興味深く捉えています。ロボットを社会実装する上では、あのサービス設計を見習わないと駄目だと個人的には思っています。ロボットレストランの社長はアパレルの分野の出身の方で、知り合いにダンサーの方々が多かったそうで、そのキッカケからショーパブなどでダンサーが出演できる場所が少なくなっていることを憂いでいたそうです。

友人の働く場所が減少していく中、その舞台を用意するために歌舞伎町にショーパブとステージを作った。そのサービスとして付加価値を生むために、店舗のステージなどのテーマに「ロボット」を掲げた。実際に、歌舞伎町を歩いてみるとロボットレストランの店舗の前には訪日観光客が溢れています。

接客というサービスの中で、コミュニケーションとしてのロボットではなく、ダンサーのステージの付加価値を生むために訪日外国人の興味を引くような「関係性」をロボットのデザインとロボティクス、そして人のダンスで産んでいるわけです。私の価値観からすると、社会実装としてとても合理的に思います。ロボットを導入することありきで設計していたら、ああはならない。

 
──ロボットレストランといいつつ、実際にいってみるとロボットよりもダンスがメインですものね。

 
松村 ショーパブのお店なので、それで正しいと思います。ただ、私がさらに面白いと思うのは、今、ロボティクスのエンジニアを募集しているところです。合理性が担保されているサービスをよりよくするために、ロボティクスのエンジニアが求められている、というのはあるべき社会実装の在り方だと思います。「ロボットのプラットフォームを作ったから、さぁ使ってください」というスタンスからはまず生まれないような事例だと思います。

 
──VR/ARのBtoBにも通じる話だと思います。

 
松村 なのでタチコマにおいては、すべき仕事が接客、とくに物理タスクではない部分だけに絞っています。カゴを使って商品を持ってくる、という作業以外の物理的なタスクは全て切り捨てています。

そこを捨ててでも残したかったのは、タチコマとユーザーとの「関係性」の構築と演出であり、その「関係性」に基づいたコミュニケーションをサービスとして消費するサイクルの構築であり、その消費サイクルによるロボットのためのインフラの実装によるバリアフリー化です。アプリを実際に利用いただき、店舗に実在するロボットを通してコミュニケーションしてもらうと、店舗とユーザーの関係がどう変わるのか、ぜひ体験しに来てください。我々は、その経験を皆さんが「並列化」していけるよう、ロボットのインフラ普及のために尽力していきたいですね。

 
© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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