進化しすぎて地形が変化する“リアルポピュラス” 「超加速世界! 激アツ!! 深セン 現地レポート」に行ってきた!

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5月2日、新橋のツクモデジタル.ライフ館にて、トークイベント「超加速世界! 激アツ!! 深セン 現地レポート」が開催された。主催はPANORA、協賛はProjectWhite。

このイベントは、中国の電脳都市深センについて語り尽くそうというもの。登壇者は、近藤義仁氏(エクシヴィ代表取締役)、高口康太氏(ジャーナリスト、翻訳家)、山形浩生氏(翻訳家)、クレス・バオ氏(テンセント)、高須正和氏(チームラボ)の5人。司会も務める高須氏の進行により、超絶な進化を遂げる深センの今と、その理由が密度の濃い情報と共に語られた。


トーク前半は登壇者それぞれの深センレポート、後半はパネルディスカッションや観覧者からの質問に答える形式で進んだ。まずは各登壇者のレポートをお届けする。
高須正和氏(チームラボ)


チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部などで明るく元気に活動中。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を手がけている。現在シンガポール在住。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールの実行委員。
連載、著書「メイカーズのエコシステム」など

 

高須氏は、深センの概要から解説。現在人口は1200万人、人口・広さとも「ざっくり東京ぐらい」とのこと。また、1980年代は何もなかった漁村(人口は30万人)が、中国の改革開放によって急速に発展してきた経緯を説明した。

改革開放により、中国では「明治維新に匹敵する社会変革」が起き、さらに香港との国境開放という「黒船に匹敵する改革」が、そして広東省では一人あたりGDPが1995年~2004年で三倍になるといった「高度経済成長」が起こった。

結果、深センは明治維新と黒船と高度経済成長が一気に来た体となり、地形が丸ごと変化。“リアルポピュラス”状態になったのだという。

1985年の風景と2012年の風景。山以外同じ風景がない。

まさに大ダッシュの発展。現在でもそれは続いていて、地下鉄も1年に3本ペースで増えていき、何もないところに人が集まり、深センで年を取る人よりもニューカマーのほうが多く「スマホ決済ができない人はいなくてもいい」的な勢いがあるのだという。

地下鉄も年に3本増加……。

ここまで急激な変化を遂げた要因は、冒頭で高須氏が掲げた「何もない漁村である」点も重要とのこと。他の大都市は、北京もそうだが東京も、それなりの歴史を持っているので、都市計画の調整も必要。深センでは、その必要はない。

こうした深センではまた、「お金がTCP/IPに乗っている」(高須氏)。ストリートミュージシャンからリヤカーによる物売りまで、すべてがQRコードを提示していて、アリババやテンセントの少額決済で支払いが行われる。

さらに深センのスピード感を示すものとして、シェア自転車の例が挙げられた。深センでは街中にシェア自転車が放置されている。これらはカギがかかっているが、スマホで決済すればそこで解錠され、使用が可能となる。使い終わればまた施錠され、課金終了という仕組み。東京でもシェア自転車の実験が行われているが、区をまたいだ返却ができない、クレジットカードを使用しないと一部サービスを利用できないなど、“これから感”があるが、深センでは2016年8月から「Mobike」という業者のものが大量投入され、同時に競合が創業して参入。10万台以上の自転車が展開されている。

約4カ月の間にフィジカルな自転車が投入され、「イケてるイケてない」が判断され、では次の10万台は機能をどうしよう? というところまで行われる。これが「加速世界」と高須氏が言うもので、本イベントの主旨でもある。

そして中国では、遂に「信用」がTCP/IPに乗った。

いまだ利用者は少ないながら、中国では信用管理システムがサービスされ、このサービス上では、お金を払うトランザクションほぼすべてに紐付いている。例に出されたのはアリババのものだが、「複数人でご飯を食べ、通販でバックれ返品をせず、借りたものをきちんと返すことをやっていると、レンタルバッテリーを借りるのに補助金がいらなくなり、シンガポールのビザが取りやすくなり、さらにお金の使い方がきれいな人だけの出会いサービスを使うことができる」(高須氏)。

これによって「昔は共同体が担保していた信用できる人/できない人というのがアーキテクチャ的に実装され、日本では宗教が担保していた“お天道様が見ているから猫ばばはやめよう”ということがシステム的に実装され、つまりテクノロジーの上で共同体と宗教が作り直され社会にインプリメントし直される」(高須氏)という状況に、今はなっているという。

最後に高須氏は、「昨日のイノベーションが今日はありふれたものに」「深センでの一週間はシリコンバレーの一カ月」という言葉を紹介し、次なる登壇者 高口康太氏と山形浩生氏にマイクを渡した。

 

●山寨工業の終演と加速世界「深セン」

このセッションでは、高口康太氏と山形浩生氏のお二人が深センの企業状況について語った。

 

高口康太氏(ジャーナリスト、翻訳家)

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、経済、文化について幅広く取材を伝え、さまざまな雑誌・ウェブメディアで論考を発表している。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

 

山形浩生氏(翻訳家)

東京大学都市工学科修士課程およびMIT不動産センター修士課程修了。大手調査会社に勤務のかたわら、小説、経済、建築、ネット文化など広範な分野での翻訳および作家業を手がける。本業は地域の経済発展や投資誘致促進の支援を展開しつつ、またフリーソフト/オープンソース運動の紹介でも知られる。深センには1980年代末の無人の荒野時代から通いつづけてきたけれど、その発展ぶりにはいまだに驚愕しているとのこと。

 

高口氏の話で印象的だったのは、深センのGDPについて。工業が盛んだと思われる深センだが、実はリーマンショックの時期から深センのGDPを稼ぐのは金融や不動産となり、工業は脚を引っ張る産業になってしまっているのだという。深セン市福田区政府が作成したドキュメンタリー「解読・華強北」では、「涅槃の鳳凰」(もうオレたちは死にかけている……的な)、「剣が峰のダンサー」(追い詰められている感)といったタイトルの回もあるとのこと。

山形氏は、(不動産業にせよ金融業にせよ)製造業の人が家を買ってくれるというベースになっているので、それはそれで危ういという見解を示す。また、昔はごちゃごちゃと電気街が並んでいた場所も、メーカーのショールームや楽器屋などが建てられ、仕方ないけれど、つまらなくはなってきているとも言う。

中国の経済が衰えて終わりだという記事も散見されるが、現在はちょうど、伸びてきた次に行くかどうかの境目ではないか? という見解も示された。高口氏はまた、ファーウェイやテンセントといった「頭のいいところ」だけでもつまらなくなると述べ、話はコピーキングの紹介に移っていった。

高口氏は、iPadのコピーを作った「山寨王」呉氏を紹介。彼は「自分では偽物を作ったのではなく、インテル版iPadを作っただけだ」と言っているとのこと。紹介された彼らコピーを作っている人々の思想は独特だ。日本であれば商標や高い技術力で他者を凌駕しようとするが、彼らの場合は「オレたちは超高速で偽物を作る/ほかに偽物がないところに行く」という考えを持ち合わせているのだとか。もちろんコピー品は肯定できないが、「モノを作って売って稼ぐ」という行為における逞しさも、一方で感じられた。

高口氏の著書「現代中国経営者列伝」

 

セッション内ではたびたび、高須氏の著書「メイカーズのエコシステム」での記述も触れられた。

山形氏によれば、イノベーションは頭のいい人がいるからという以外に、組み合わせという側面もある。まさに携帯電話は組み合わせで、無限の組み合わせを試しているうちに千撃てば当たるということをやって、いいものが出てきた。深センでは基盤レベルではなくチップそのものをいじれる環境がある。ヘンな組み合わせの妙を発揮して、これまでイノベーションが出てきた。それがシリコンバレーにも注目されていて、まだこうした力は残っているという。

高口氏はまた、自著にも登場している企業のリーダーを複数紹介し、「これまでの中国の経営者というと、政府とのネゴシエーションがうまい人という印象だったが、現在は違ってきている。そういう経営者を見ていれば、今後の中国もまだまだ面白いのでは?」と語った。

 

●超加速世界 深セン VR編

近藤義仁氏(GOROman氏)

「GOROman」の愛称で親しまれるVRエヴァンジェリスト。2012年のOculus Rift DK1発表に感銘を受け、初音ミクに会えるVRソフト「Mikulus」や、握手できるハードウェア「Miku Miku Akushu」を手がけて体験者に衝撃を与える。2014年にOculus Japanチームを立ち上げてFacebookに入社したのち、2016年退社。現在は様々な講演に呼ばれるなか、もっぱらゲーム機の改造したり、Twitterをしたりと多忙の日々を送っていらっしゃる……。

 

続いては、近藤義仁氏(GOROman氏)による深センのVR事情レポート。こちらは写真をご覧いただければと思うが、ショッピングモールをはじめ、街中いたるところにVRを楽しむ機材が設置されているとのこと。ただ現状、ハードウェアはいいものがあるのにコンテンツが「ヤバい」(悪い意味で)ものばかりで、「日本の企業もワンチャンあるのでは」とのこと。また、韓国企業はすでにこの状況を見て、中国に売るためのVRコンテンツを制作しているという。

近藤氏が体験したVR機器

 

床が振動するなど、ハードウェア自体はよくできていたが、コンテンツが「ヤバい」。

 

VRの技術解説書も多く出版されていた。

さらに近藤氏は、企業訪問のレポートも。「INSTA360社の加速感」と題したスライドでは、同社が2014年5月の企業にもかかわらず、現在世界中の量販店が扱う全方位カメラを開発・製造するところまでになっているという点を紹介。社員も200人ほどに成長している。日本ではちょっと想像が付きにくいスピードである。 INSTA360の取引先一覧には、ヨドバシカメラやビックカメラ、東急ハンズのロゴも見られる。

そしてテンセント。今回登壇したクレス・バオ氏は、近藤氏が同社を訪れたことがきっかけでイベントへの参加となった。

テンセント社屋。写真左下には、18周年記念キャラクターが並ぶ。

テンセントは創業して18年。ICQのようなチャットアプリでスタートした同社は、本社だけで2万人の社員がおり、時価総額は30兆円を超える。同社の名刺には、主力であるチャットアプリ「WeChat」用のQRコードが印刷されており、近藤氏がバオ氏と友達になったところ、アイコンが女の子のイラストだったので、そこから話が盛り上がり今回の来日に至ったのだとか。


ここで注目したいのは、今回のバオ氏の来日が、WeChatのやりとりで決まった点。日本企業であれば、メールでのやりとりは当然ながら、上司の決済から何から時間がかかることは間違いない。この、チャットで話をしてサッと来日……というスピード感が、まさに「加速感」ではないか。

高須氏もこれを受け、深センの企業とやりとりをするならWeChatのアカウントをとっておくことだと言う。アポイントも「よき日程をお願いします」ではダメ。「何月何日の何時からはどうですか? それがダメなら……」と、具体的に日時を提案するべきだと語った。配慮や忖度より、スピードと実利ということであろう。

 

●クレス・バオ氏 ~日本で暮らしたこともあるアニヲタ~

クレス・バオ氏

深圳に本拠を置くゲーム売上高世界一のテンセントの中の人。IBMと業務提携したり、脱出ゲームをデザインしたり、ローカライズビジネスを手がけている。ご本人は超オタクを自称されており、セイバーが大好きで謎にラノベを連載中。
クレス・バオ氏の話は、現在深センで働いている人物の生の話として、とても興味深いものとなっていた。

バオ氏はまた、キャラクター的にも親近感を持てる人物。前述したWeChatのアイコンは、なんとバオ氏が執筆した小説の登場人物であり、彼の紹介スライドには、「セーバー好きヲタク」とのタイトルで、セイバーのドールはもちろん(もちろん?)、聖闘士星矢(解像度的に分からなかったが、聖闘士聖衣神話EXシリーズと思われる)、ガンダム系(パッケージからしてMETAL BUILD ストライクフリーダムガンダムなど多数)がズラリと並んだ棚の写真が紹介された。
バオ氏の写真。画面右上にも注目。

 

そんなバオ氏は日本に住んでいた時期もあり、いったん中国に戻った後、ゲームデザインなどを生業とした後テンセントにPMとして入社。現在はテンセントのVR部門ビジネスデベロップを務めている。

バオ氏によれば、中国は昨年からVRブームとのこと。2018年には400万台、2020年は1000万台にVR機器が普及しているとの予測もあるそうだ。また、モバイルのVRではビデオ系がメインで、ライブ実況が人気がたかいのだとか。投げ銭のシステムなどもあり、人気の高い実況の女の子は月収100万円にもなるという。

テンセントはソーシャルツールやゲームがメインで、ハードウェアはやってこなかった。VRに積極策を打ち出すテンセントに、同社を知っている人は驚くという。なぜテンセントはVR事業を推進するのか?

バオ氏によれば、それはテンセントの、企業としての姿勢に基づいている。かつてテンセントがいったん苦境に立たされた際、WeChat(スマホのチャットソフト)で復活を遂げた。これは、新しい市場を発見・開拓したからこそ。テンセントは、市場の発見と開拓の持つ重要性を、誰よりも認識しているのだという。つまり今後中国では、VRが“来る”という判断なのだ。そこでハードウェアも含め、VR事業が推進されている。なお、同社のサービスはQQとWeChat合わせると7億人(!)のユーザーが存在するという。今さらながら中国市場の規模感には圧倒される。

そのほか中国におけるコンテンツ制作についてなど、貴重な情報も語られたのだが、VRコンテンツの中国進出に関しては、盛り上がる直前のこの時期、“今のうちに”輸出をしておいたほうが得策なのだという話も。

 

パネルディスカッション

一通り登壇者の単独セッションが終わり、進行はパネルディスカッションに移った。ここでは、観覧者からの質問を受け付ける形式。観覧者にはポストイットが配布され、それに書き加えられた質問を登壇者が選択して読んでいく形式がとられた。その中からいくつか紹介する。

 

●雇用形態について

Q 深センにはどのような雇用形態が存在するのか? (終身雇用的に)同じ会社で出世するのか? 労働組合は?
高口氏:
ピンキリだ。たとえば、一生テンセントに勤める、という人は少ないだろう。40歳でまだやってるの? 40歳ならセミリタイアしているのでは? という雰囲気はある。そしてパートや非正規雇用のように、稼げない人達もいて、二極化している。

質問者:失敗したらクビになったりは?

バオ氏:
テンセントはよほど酷いことをやらないとクビにはならない。テンセントの給与水準は高いが、成功プロジェクトに参加していればその上乗せがさらに高い。転職事情に関しては、たとえば腕の立つプログラマやビジネスデベロップメントはヘッドハントで誘われたりもする。また、同じ会社で何年も働けば、限界もくるので転職Webサービスやヘッドハンティングに頼むということもある。友達から誘われるというケースも多い。

●偽物について
Q HoloLensの偽物は出たか?

高須氏:
自分がみている限りは、ない。一個目のコピーができるまでは、なかなか偽物氾濫という状況にはならない。一個目が出るか否かがポイント。

●ネットワークインフラについて

Q お金や信用がTCP/IPの上に乗っているというのは、アプリケーションレイヤーの話だと思うが、物理レイヤーはどうなっているのか? 回線が細ければできない話だと思うが。

近藤氏:
自分は香港のSIMを使っていたから大丈夫だった。ホテルのWiFiは遅かったと記憶している。

高須氏/高口氏:
どうやら光回線が張り巡らされているようだ。中国国内のインフラはちゃんとしているのではないか。ファーフェイとZTEは特許取得が世界で最も多い企業。それらレベルの高い通信機器会社が存在しているほか、インフラ会社もサービスプロバイダも激しい競争を繰り広げ、ネットワーク構築がチューニングされまくっている。CDNのミラーも、中国には3、40箇所は存在する。

そして〆の言葉へ……

いよいよ会も終盤。名刺交換タイムを挟んだ後、〆の言葉へと移った。

 

近藤氏:
高須さんのもとで深センのVRツアーをやってほしい。行きましょう!(会場では手を挙げる人続出)

高須氏:
(会場で手を挙げた)30人まとまって、作品のリストも一緒に持って深センに行けば、向こうの企業もかなり時間をとってくれるのでは? 僕が知っているだけで、すでに6本くらいプロジェクトが立ち上がっている。お金にならない段階でも、面白ければやろう! という雰囲気がある。

近藤氏:
現地では“面白さドリブン”を感じました。

高口氏:
深センについて調べたのはここ1年くらいなので、深センというひとつの興味で情報交換ができて面白かった。また、みなさんからも教えていただければと思う。

山形氏:
深センは最近になって汚いところからきれいなところになりつつある。つまらなくなってくる部分もあり、一方ではまだヘンな“組み合わせ”も出てきている。知らないものを皆さんにも見つけていただきたい。

バオ氏:
VR関連の内容でもいいですし、ほかの業務でもいいので、なにかあれば(このあと)僕に話しかけてください。

 

これにてイベントの最後の最後。高須氏の〆の言葉によって、終了となった。

 

高須氏:

シンガポールに住んでいるせいもあるが、最近Facebookなどでシェアするニュースは外国のものが多い。これからは、国境を越えて、興味の近い人々が繋がっていくと思う。今回のイベントも、インターネットがなかったら、2万人の社員がいる企業の人(テンセントのバオ氏)と、契約もなしにやることはなかったろう。こうしたイベントが増えて、皆さんと一緒に未来を遊んでいければと思う。


2時間以上にわたって、極めて密度の濃い話が次々と繰り出された「超加速世界! 激アツ!! 深セン 現地レポート」。ただし、話を聞くのと実際に行くのとではまた大きな開きがあるはず。興味のある方は、機会を作って是非現地に足を運んでいただきたい。

 

 

●関連サイト

・ツクモデジタル.ライフ館
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