299ドルの安さが再びVR開発者を増やす──Unity・伊藤氏が語るWindows MRの魅力【Build】

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マイクロソフトが5月に開催した開発者向けイベント「Build 2017」。同社の取り組みや製品が多数展示されてIT業界は大いに盛り上がったが、PANORAの読者諸氏が注目しているのはやはり「Windows Mixed Reality」(windows MR)対応デバイスの登場だろう。

当日のWindows MRに関する発表内容や、展示機の情報はお届けしてきたが、今回はBuildに参加した開発者目線の話を聞いてみた。お答えいただいたのは、Build 2015でHoloLensの詳細が発表されたときにもインタビューをさせていただいた、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのエバンジェリストである伊藤周氏だ。

 
 

あのスペックで299ドルはスゴい!

 
──いちばんインパクトが大きかったのはどのあたりでしょう?

 
伊藤 Windows MRの価格です。現地でも値段に対する驚きの声が多かったように思います。ただ、Build 2017の参加者でVRに携わっている人は全体の1割程度の印象です。基本はマイクロソフトのカンファレンスですから。HoloLensをかぶっている人も、探して自分1人しかいなかったので、かぶっていたら周りから人が集まって来る状況になってしまいました(笑)

それは置いておくとして、会場が沸いたのもやはりMR用ハンドコントローラーと、価格が発表されたときですね。ただハンドコントローラーの実物展示はありませんでした。

 

 
──実際にWindows MRを装着して体験されたとのことですが、いかがでしたか?

 
伊藤 初日の体験は、VR関連の体験イベントでよくあるように、普通に並んでAcerのMRゴーグルを体験しました。外部のセンサーを使わないトラッキング性能が気になっていたので確かめてみたところ、精度が結構高かったです。多少表示がブレることもありましたが、基本的にどの方向を向いてもきちんとついてきてくれる。VIVEやOculus Riftに比べて軽かったのも個人的には好印象です。

 

 
──解像感はいかがでしたか? 有機ELディスプレイ(OLED)ではなく液晶ディスプレイ(LCD)のようですが。

 
伊藤 すごく綺麗で、とくに問題はなさそうに感じました。MRゴーグルの単体価格が299ドルということを考えれば全然ありです。むしろこれ以上ハードウェアスペックをあげたとしても一般の人は買わないと思うんですよ。それこそ10万円の高級機を出したとしても、結局買うのは僕らみたいな人たちだけなので(笑)

業界全体としてコンシューマーが買う価格を考えなければいけないなか、あのスペックで単体299ドルを実現したということで、購入する人も出てくるのでは。PCのハードウェア要求もある程度は現実的なラインですし。

 
──ただ、前面カメラを使ったビデオシースルー※1や、スペーシャルマッピング※2といった、HoloLensのような使い方ができる機能はWindows MRに搭載されていないんですよね。

 
伊藤 開発段階ではあったような気配はするが、酔ったり遅延したりといった問題があったのでやめたのでは。実際のところはわからないですけど、トラッキングにインサイドアウト※3を採用していること以外は、基本的にVRゴーグルと似ています。

 

※1 VRゴーグルやMRゴーグルに搭載しているカメラにより、装着しながら現実世界の映像を見られる仕組みのこと。なお、HoloLensはカメラの映像ではなく、半透明のバイザーから見える現実とCGを重ねてMRを実現している。

※2 HoloLensに搭載している空間認識機能。部屋の奥行きや壁、机などの物体を認識し、そこにオブジェクトを置けるようになる。

※3 VRゴーグルやMRゴーグルに搭載しているカメラやセンサーで周囲の物体を認識し、相対的に装着者の位置や頭の傾きを検知するトラッキング方式。これに対してOculus RiftやVIVEのように外部設置型センサーを使う方式を「アウトサイドイン」と呼ぶ。

 
──手軽に運用できるVRゴーグルで、しかも安いというような製品になっている感じですね。

 
伊藤 多分、コンセプトはそれじゃないですかね。仮に299ドルを実現するためにビデオシースルーやスペーシャルマッピングをなしにしたのであれば、僕は正解だと思います。

アプリも、Visual Studioでビルドしたやつを全く同じバイナリでHoloLensや他のイマーシブデバイス※4に送っても動きます。中身のソースコードは「if」文で分岐して、例えば他のイマーシブデバイスだとハイエンドで出せるが、HoloLensの場合はスペック落としたモデルで出してくださいとなって、設定を変えなければいけません。ただこうした仕様上、HoloLensでできることはジェスチャー以外ほとんど他のイマーシブデバイスでもできます。

 

※4 マイクロソフトが提唱するVRやMRゴーグル全般を指す言葉。イマーシブは「没入型」という意味で、一般的にはイマーシブコンテンツという言葉がある。

 

 
──広まる可能性は感じましたか?

 
伊藤 うーん、価格面では可能性がありますが、ただマイクロソフトの盛り上げ方はそりゃあもうスゴイかったです。今回は3つの柱があって、AI、クラウド、そしてWindows 10の一部としてのMRです。なので、HoloLensやイマーシブデバイスに力を入れているのは間違いない。

 
──発表内容にシェアリング※5が簡単になったという話もありましたが、セミナーも受講されたとのことでこのあたりいかがでしょう?

 
伊藤 開発側の話になってしまいますが、今までもそうだったように、シェアリングするときはサーバー側をUnityで立ち上げないといけないんですね。それが劇的に簡単になって、「Prefab」と呼ばれるオブジェクトを置くだけでUnityのサーバーを介して共有できるようになったんですよ。

なので、サーバーを気にしなくても誰がホストかだけ決めてしまえばシェアリング自体は簡単にできてしまいます。ハードルがすごく低くなりましたね。ハンズオンセミナーの2時間という限られた時間の中でできてしまうのは驚きました。

それにマイクロソフトがもっている市場は大きいですから、ストアを作って299ドルという価格で展開するなら、これに乗らない手はないのではと思いますね。

※5 HoloLensを複数台用意し、サーバーを立てることで、ネットワーク経由での空間共有が可能になり、同じ位置にあるものを複数人でさまざまな角度から見られるようになる機能。

 
 

「そう、Unityならね」

 
──ただ一方で、マイクロソフトはここ数年、ストアで存在感を示せていないように思います。スマホのストアはアップルとグーグル、ゲームはSteamに取られてしまいましたし、そこでVRを展開して広がるのかと考えると個人的には懐疑的になってしまうのですがいかがでしょう?

 
伊藤 ストアに関しては確かに後発ですし、AIやクラウドサービスのAzureはどちらかというとビジネス寄りなんですよね。これがVRでコンシューマーに戻ってきたということで、彼らにとってはチャレンジではありますよね。なので僕も先は見えないですが、一方でマイクロソフトのあの力の入れようは間違っていないですし、正しい戦略なのかなと。MRゴーグルを安くして、後はソフトウェアで頑張りましょうよという。

ただ、開発者目線だと、デバイスとかストアにこだわらずにいろいろなところで提供していけばいいんじゃないかなと思いますけど。

 
──あっ、そうか! Unity上でつくったコンテンツを、様々なVRプラットフォームに対して書き出せる「そう、Unityならね」という話ですね!

 
伊藤 そうです(笑) いやいやUnityの人間だから言うわけじゃないですけど、開発はソフトウェアを信じてどこの市場でもいけるって考えた方が、市場が広がっていいんじゃないですかね。

 
──安い製品が出ることによって、市場は大きく変わるものなのでしょうか? 例えば開発者がものすごく増えたりといった影響はあるのかなと。

 
伊藤 開発者は増えるでしょう。確かに僕らの周りには開発者はいっぱいいますけど(笑) そうではなくて、例えば学生だとOculus RiftのDK1やDK2は買っていたけど、製品版は高くて買えない人は多いように感じました。その開発キットとMicrosoft MRはほぼ同じ価格なので、「ちょっと面白そうだ」と自宅でいじっていた頃をみなさん思い出すんじゃないでしょうか。

 
──たしかに開発者キットとして入手して、Unityなどを使ってOculus RiftやVIVEに書き出してもいいわけですもんね。開発にはすごく役立ちそうですし。

 
伊藤 基本的には安いVRデバイスが登場したという感覚でもいいんじゃないですかね。日本では発売しないからという人もいますけど、今は情報として出せないだけで、HoloLensのように1年も待たせることはないと思います。多少後発にはなるでしょうが、日本でHoloLensが売れていることはマイクロソフトも知っているでしょうし。

 
──なるほど、ありがとうございました! ところでTwitterでつぶやかれていた球場の貸し切りパーティーって一体なんですか?

 
伊藤 球場に何千人という参加者を呼んでパーティーをやっていたんです。Buildはご存じの通りMicrosoft最大の開発者イベントなので、その規模に驚きます。講演も平均して11トラックやっている時もあります。そのうち3トラックほどは小規模なものですが、それでも周りに30人くらいは集まっています。

 

 
HoloLensのブースは6カ所くらいあって、回転率もよかったので、興味ある人なら1度は体験できるくらい充実していました。Windows MRは当日、Acerの実機が1台、体験できる状態でした。

 
──展示内容はやはりビジネス向けが多い感じでしたか?

 
伊藤 そう感じました。HoloLensもビジネス的な用途が中心で、ゲームやエンターテイメント向けの展示はなかったかな?

 
──最後に、ほかの開発者に向けて、来年Buildに参加すべきか否かを一言いただけますか?

 
伊東 今回僕が期待していたのはHoloLensの新バージョンだったのですが、それは発表されませんでした。ということはもう、来年に登場するのが濃厚なわけです(笑)。なので注目度の高い来年のBuildは、いちはやくHoloLensの新型に触れられるかもしれないので、参加したほうがいいと思いますよ!

 
 
*Build 2017まとめページはこちら

 
 
(TEXT by Minoru Hirota、Mirai Hanamo)

 
 
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