仏の世界を想像する手段にも使える!? リアル住職・蝉丸Pに聞くPlayStation VRの価値

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PlayStation VRといえば、国内でユーザーからの関心が最も高いVRシステムだろう。日本では2016年10月の発売以来、毎月1回ほど追加販売されているわけだが、それでも人気が高すぎて在庫が追いつかず、未だに欲しいという人がすぐに買えない状況にある。これは非常にもったいない。

そんな状況をユーザーはどう思っているのだろうか? そんなタイミングで筆者(広田)の知人である蝉丸Pさんが4月29日の発売分をゲットして、ネットで興味深い感想をつぶやいていた。

 

 
蝉丸Pは、某地方の某お寺で住職を務めている人物だ。一方で、テキストサイトの時代からネットへの投稿を始めており、niconicoやTwitterでも知名度が高く、「リア住」(リアル住職)や「僧職系男子」と呼ばれることもある。アニメ、マンガ、「アイドルマスター」シリーズや「艦隊これくしょん」といったゲーム、古今東西の武器、メタル音楽、そしてもちろん仏教や哲学といった多彩なジャンルに造詣の深い彼の視点から見て、VR業界はどう映っているのか。ご本人に直撃インタビューしてみた。

 
 

行列に並んで買えなくて残念だった

 
──先日、PS VRを入手したという話をつぶやかれていましたが、実際に体験してみた感想などをお聞かせいただけないでしょうか。

 
蝉丸 そうですね〜。PS VRとは関係ないですが先日、「マチアソビ」にてパルマー・ラッキーさんと写真をとりましたよ。

 

蝉丸P w/ PS VR.

 
──えっ!?

 
蝉丸 いつも星海社さんのブースをお手伝いしているのですが、大塚明夫さんのサイン会のときに何かビキニを着た外国人がいたんですよ。確かOculusの……あっ、パルマーだっ!って。

 

 

そしてその証拠写真。

 
──PS VRといい、なかなかVR漬けなゴールデンウィークでしたね(笑)

 
蝉丸 はい。それでPS VRのほうは、開店一時間ぐらい前に某電機屋に行ったら、行列が10人ぐらいで「これは全然行けるかな」と思って並んでみたんです。そうしたら抽選で外れてしまって、後ろに並び直してくれと言われて、よく見たら100人ぐらいに増えていた。壁を曲がったところに人がズラーっといて、「モノ売るってレベルとちゃうぞ! 二度と並ぶかー!」って。

 
──ちょ、そんないきなり俗っぽくて僧侶的に大丈夫なんですか(笑)

 
蝉丸 いやぁ、並んで買えないって、これだけ腹が立つもんなんだと思って。元々、行列があるところっていうのは絶対に近寄らないようにしてるんで。

 
──今回は販売店に行ったら、たまたま少なかったから並んで見たという。

 
蝉丸 そうそう。たまたま並んでみて、「なるほど、並んでアカンって、これだけ腹が立つもんなんだな」と再確認しました。ただ、知り合いから「午後の2時が6時くらいにネットでヨドバシ.comかAmazon.co.jpをチェックしておくとキャンセルが出ることがありますよ」と、以前に聞いていたので、ちょうど法事などが終わった2時頃に更新してみたら、在庫が復活していたんです。それで迷わずポチっと買いました。

 

 
──在庫が潤沢になってきたのかと思いきや、そうでもないんですね。

 
蝉丸 プログラマーやアニメプロデューサー、3DCGクリエイターといった知人と話す機会も多いのですが、液晶の歩留まりが悪くて生産量が増やせないのではという話が出ています。市場規模としても、PS VRはかなり善戦していますが、それでもVRそのものは、「人柱上等」のガジェット好きが対象で30万台ぐらいいけば御の字なんじゃないかと。やっぱりマスに届けるためには、眼鏡をかけるくらいに気楽に着脱できるようになってほしいですよね。

ただ、この辺のマイナス要素を踏まえた上でもVRの体験はやっぱり強烈で、絶対に「おお!これはスゲェ」って思うじゃないですか。

 
──熱のこもったツイートからそう感じました。

 
蝉丸 USJなどのテーマパークで遊べるアトラクションが自宅でできるような感覚というのはやっぱり大したもので、体験した人が「VRスゴイ」っていう感覚になるのはわかります。

ただしその体験できている人数がまだまだ少ない。「マチアソビ」でも「徳島VR映像祭」をやっていましたが、それでもイベントで体験できるのはいいとこ100人超ですよね。せめて家電コーナーに置かれて、誰でも気軽に遊べる状態にならないと。

 
──いやぁ、的確な指摘ですね。業界でも同じ意見の人は多いと思います。

 
 

初音ミクやデレステの「ライブもの」が素晴らしい

 
──ところでPS VRではどんなコンテンツを体験されたのでしょうか?

 
蝉丸 とりあえずは「初音ミク VRフューチャーライブ」と「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」。あとはローンチタイトルとして出ていて、存分にVRの楽しさを体験させてくれるだろうということで「PlayStation VR WORLDS」の3本です。

ライブ系は、この先、VRでも活路が見い出せるいいジャンルですよね。これなら人ごみ嫌いな人間とかでもライブ感覚も味わえて、さらに目の前でキャラクターが踊ってくれる。それは一番強烈な体験というか、VRの世界に多くの人を引き込んでくれるコンテンツになると思います。

 
──わかります。「初音ミク VRフューチャーライブ」と「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」(デレマスVR)、どっちもできがいいですよね。

 
蝉丸 両方できがいいんです。個人的には、初音ミクは本当に間近まで行けるのに、デレマスVRはどこまでいっても2列目というのが残念でしたが。

 
──あれはあえて1列目の人を視界に入れて、ライブに来てる感覚をより演出するために、そうしているのだと推測されます。

 
蝉丸 そういう話もあるんですけれども、もっとモデルをよく見たいのに、「VRでも接近は禁止か!」みたいなブランドイメージ戦略を垣間見た思いです(笑)。だからわざわざスタート時に腰を低くして、スタートと同時に立ち上がって3mの高さから見るという裏技(*編注:俗にいう「森キノコ式3メートル法」)も編み出されれいるわけで。

 
──確かにライブでなくともモデルを間近に感じられるモードはあってもいいかもしれません。VR WORLDSはいかがでしたか?

 
蝉丸 やっぱりよくつくってありましたね。いくつかの体験がセットになっていますが、一番強烈なのは海の中にもぐっていく「Ocean Descent」。体験者は周囲を見回すだけで、体の軸は動かさなくて済むにもかかわらず、すごく臨場感がある。

逆に「バイオハザード7」や「HereTheyLie」といった探索系、要するに身体の軸と顔の軸が同期せずにコントローラーで変えるようなタイプは、やっぱり酔ってしまいますね。あれ車酔いしない自分でも酔いかけましたからね。

 
──おおお……。

 
蝉丸 だって酔わない人間でもウェってなるんです。目と目の間の眉間の辺りぐらいに感覚を集中させているときに、体軸と視界がバラバラで同期しないと脳が気持ち悪くなるわけですよね。あれ、ディスプレイを脱ぐ手間をかけずリアルの視界に瞬時に戻せないとかなり辛いと思うんです。そこが眼鏡対策と並んでVR普及に向けての難点かなーと。だって一番最初にプレイして気持ち悪くなったらもう二度と手に取りませんよ。

 
──それはVR界隈でもまさに同じことが言われています。

 
蝉丸 酔う危険性があるものよりは、動かずにみんなで集まって見られるライブ系とか、360度映像の「日本驚嘆百景 白亜の要塞〜姫路城」みたいなのもいいかもしれません。500円で売ってて「おぉ、姫路城スゲェー」なんて見てました。ポテンシャルはすごく秘めてます。タイトルを選びながらリリースしていくか、思いっきり実験するか。まぁ今は実験して色々やる時期だとは思うんですけども。

 
──個人的には、音楽シューティングの「Rez Infinite」、バットマンになりきれる「バットマン:アーカム VR」、無料ならVRアニメの「Allumette」あたりもぜひ試していただきたいところです。ところで、蝉丸Pさん的には、PS VRはどんな人が買うといいと思いますか?

 
蝉丸 そうですね。PS VRぐらいの接続の手軽さになって、ようやくガジェットファンが手を出すレベルだと思います。うちには実はOculus RiftのDK2(*編注:2014年に発売した第2世代開発キット)もあるんですが、ソフトの導入やアップデートなど諸々面倒くさくて、もうほとんどつないでいない。

 
──あー、もったいない……。

 
蝉丸 あとはコンテンツですよね。PS VRがある程度流通するようになってきたときに、5万円をポンと払って遊べる人たちが興味を示すようなコンテンツをもう少し揃えておいてほしい。好きな人は言われなくても買いますから。

 
──買いますね。私も買いましたし。

 
蝉丸 ゲーム好きも、現状の「ソシャゲ重課金」の方向性はよしとしませんが、それ以上に「これと言って、やるもん無いなー」という閉塞感はあって、その点でVRは新機軸としてはピッタリではあると思うんですよ。現段階で手っ取り早く実績を上げるなら、マスに向けた「サマーレッスン」のようなリアルよりのモデルより、初音ミクやデレマスVRのような3DCGアニメのほうが、喜んで突撃してくる人柱候補を呼び込めるし数字も出せるでしょう。そのうちブレークスルーが起こって、一般の人にも強烈にオススメできるっていうタイトルが出たときに、大々的に仕掛けて行けばいいと思います。

 
 

仏の世界をイメージできるのは個人の才能

 
──そういえば、TwitterでPS VRにからめて仏教的な話をされていましたが、あれはどういう意味ですか?

 
蝉丸 人間の五感っていうのがいかに頼りないものであるかという話です。

 
──そういう説法があるんですか?

 
蝉丸 説法ではなくて、結局の所、人間の五感っていうのは簡単に騙されるし、ごまかされるという話です。

2015年に阿佐ヶ谷ロフトで「洒洒落落・伯楽夜話#1 〜プロが語るほんとうの恐怖〜 朝松健×藤井直敬×蝉丸P」というトークイベントがあって、そこでハコスコの藤井先生とご一緒したんです。そこで藤井先生から、人間はすごく視覚に頼り切っていて、簡単に騙されるんですよという話を聞いて、体験させてもらって、これは確かにいかようにでも騙しようがあるよなっていう。

 
──おおー。

 
蝉丸 そのときにやっぱりハコスコはスゴいなと思って、Oculus RiftのDK2にも手を出したんです。だからVRは潜在能力がすごく高いんですが、今は周知が問題になるかな。

さっきの話に戻すと、「私」というのは五感から得たさまざまな感覚が統合されて成り立っているもので、恒常不変の自我が先に存在するのではない。私が「私」と思っているものがいかに頼りないか、それを仏教では「空」といいます。眼(げん)、耳(に)、鼻(び)、舌(ぜつ)、身(しん)という「五識」、これに意(い)を加えた「六識」とも言いますが、要素の塊であると。そのうち顕著なのは視覚を騙されることで、「私」が把握していた世界がいかに薄氷の上に成り立ってるかっていう。

 
──すごく興味深い話です。

 
蝉丸 チベットの高僧は、日本やアメリカなどの海外でテレビがガンガン流れているのを見て、「この人たちは『空性』を理解するために、こういうものを見ているのだろう」と理解していたなんて笑い話もあります。そういう修行でもしているのかなと、彼らは真面目に勘違いしたという。

 
──すごく面白い話ですね。そういう映像メディアの最先端にあるVRゴーグルは、人に悟りを開かせるじゃないですけど、宗教的な大切な観念を伝えるのに向いているかもしれません。

 
蝉丸 VRで宗教的という観点から言うと、「観想」といって、昔は全部、自分の頭の中でイメージしなければいけなかったんです。南方の上座部とは違い大乗仏教、特に密教系は教義や重要な概念をビジュアルとして仏さんの姿や持ち物にシンボライズしつつ、そういうものを頭の中に思い浮かべながら、真言を唱えたりするわけです。そのビジュアルである観想の部分をビジュアルでハッキリ伝えられるものをつくったら面白いだろうなと。VR浄土シリーズとか、VR須弥山とかね。

 
──今まで絵や彫刻で伝えられてたのは「圧縮」されたデータであったと。

 
蝉丸 そうなんです。絵や彫刻で伝えてたものは、意味を伴わなくてもそれなりに残されてるんですね。ただキリスト教でもそうですが、神の国みたいなものを脳内でイメージできるのは個人の才能になるんです。ただそれは難しいから、実際に体感できるようにしてあるのが宗教建築ですが、とにかくコストがかかる(笑)

 
──確かに。

 
蝉丸 「○○が見える!」という霊能者の人っているじゃないですか? ああいうのも異能の一つではあるんですが、 仏教の世界では、一応そういうものは基本的に排して、個人の才能に依存しなくても悟りを開く方法に特化しているわけです。それでも、イメージを頭の中に強烈に描けるのは本当に個体差なんです。そういった不確定なものに頼らず、イメージを補強する手段としては、VRは強烈だなと思います。

 
──ある意味、世界をイメージできるのはクリエイターですよね。

 
蝉丸 まさにクリエイターと一緒で、絵を描ける、描けないという話と似ています。描ける人は簡単って言うけど、それ才能よって。それができない人間には無理だから。もちろん、デッサンを学ぶなりで後天的に身に付く要素もある程度はありますが。

 
──作り出す技術とは別な気もします。

 
蝉丸 先天的にそういうのを感じられたり、頭の中で極彩色の世界を思い描ける人って、やっぱり稀なわけですよね。そういう意味での補助の一助としてはできるし、逆に言うと悪用もできる。

 
──なるほど。新興宗教とか。

 
蝉丸 簡単に洗脳ツールをつくれるという。藤井先生とも話をしていましたが、自己啓発セミナーや新興宗教でVRを使って、慣れてない人間に離脱や超意識を体験させたら一発だろうって。

 
──確かに。ヤバいですね。

 
蝉丸 怖いです。技術をどう使うかっていうのは、人次第ですから。

 
──おっしゃる通りだと思います。最後に、蝉丸Pさん的にVRはどう発展していってほしいと思いますか?

 
蝉丸 そうですね……。ゴーグル系のVRに関しては、コストは高くなっちゃいますけど、カメラを仕込むなりなんなりで外界とパパっと視界を入れ替えることが、究極的には必要になってくると思います。

 
──確かに。界隈でも、最終的にはひとつのゴーグルでVR/AR/MRのすべてをできるようになると言われています。あとはメガネぐらいの手軽さですよね。

 
蝉丸 まぁ小型化するとどうしてもバッテリー問題はつきまといますよね。いっそヘルメット方式にしてもいいと思いますが。死ぬまでにフルダイブ環境が整うことを祈っています。ソフト的には現状、能動的に動くモノよりも受動的ながら色々見て回れるライブ系が増えていくと、面白いんじゃないかと思います。

 
──蝉丸さんの法話や生放送も、VRライブで目の前で聴ける時代をお待ちしてます!

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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