「傷物語VR」を体験レポ! VRプロジェクションマッピングによる映像・音の新体験

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5月20日、都内某所にてカヤックとSIEJA、アニプレックスの三社が共同開発したPlayStation®VR向けコンテンツ「傷物語VR」の体験イベントが行われた。

本イベントを体験できるのは抽選の当選者のみとなっており、応募数は予想を大きく超える勢いであったことから注目度の高さがうかがえる。今回はそんな傷物語VRの体験レポートと、面白法人カヤックのクリエイティブディレクターである天野清之氏へのインタビューを中心にお伝えしたい。

 

こちらは5月1日に公開された体験会募集に伴う映像。後半にはチラッとVR内の映像が映っている。

物語シリーズは西尾維新氏による「怪異」など不思議な事柄を題材にした小説。「傷物語VR」は、シリーズの主人公である阿良々木 暦(あららぎ こよみ)が、吸血鬼になるまでの経緯を描いた劇場版「傷物語」の映像を、VRを使ってヒロインと一緒に振り返るという内容になっている。

このコンテンツで気になるのは、VR空間上でプロジェクションマッピングを行う「VRプロジェクションマッピング」という技術を用いていること。詳しくは5月8日〜9日に行われた「Unite 2017 Tokyo」のセッションで語られた(参考記事)が、ここでは筆者自身がその表現技法を体験して感じたことを書いていきたいと思う。

 

 

 

会場の様子。白と黒のボックス状の物体は、液晶ディスプレイが埋め込まれていて、VRヘッドセット装着者が見ている仮想世界をプレビューできる。

それでは、早速PlayStation®VRをかぶって体験を開始。
 

最初は学校の教室から始まり、真横にはヒロインであるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(以下キスショット)が座っている。2Dアニメーションはもちろんだが、3Dモデリングされた姿もとても可愛らしい。そんなキスショットを眺めていると、目の前にある黒板に向かってリモコンのスイッチを押す指示がでるのでそれから映像がスタートする。

映像の内容は基本的に戦闘シーンで構成されており、周囲の環境もそれ合わせて変化してゆく。例えば雨の中の戦闘であれば周囲に雨が降り、水たまりに映像を映し出す。強い風が吹き荒れている校庭での戦闘であれば周囲も校庭に移り、風によって揺れ動くような映像が宙に映し出されるといった具合だ。

 

吸血鬼退治の専門家であり身長2メートルを超える大男 ドラマツルギーが、水面のいたるところに映っている。

 

フォグスクリーンのように、霧に主人公である阿良々木 暦の姿を投影しているところ。

また、建物や砕けたオブジェクトの破片にも映像を映しだしていた。これらの映像投影はVRプロジェクションマッピングを構成する3つの技術のうち、立体物や変化する空間、動く物体に違和感なく自然な映像を投影できる「オールラウンド・マルチディスプレイ」と、立体空間内に平面的なシェーディングを施す「バーチャル・フラットシェーダー」によって実現している。

 

建物のような構造物に、複数の映像を同時投影。一見すると複数の窓枠だが、徐々に変化して別の映像を映し出す。この部分はどことなく現実世界にありそうな、ほどよく非現実的な演出で、ふとした瞬間怪異や異世界と関わる物語シリーズの世界観とマッチしていた。

 

ピラミッド型のオブジェクトに映像が投影されている様子。拡大縮小、回転しているが、映像がずれることはなく、ガラスの破片に映り込んだ風景のよう。

さらに、吸血鬼退治の専門家 エピソードが、巨大な十字架状の武器を自分に向かって投げるシーンもスゴイ。うなるような風切り音が立体的に、それこそ目を閉じていても十字架がどこを飛んでいるのかわかるほどの音響で聞こえてくる。

頭を動かしたときの音場の移動も現実と思えるほど、あるいはそれ以上に正確で音に対するこだわりも感じられた。このリアルな音響は、VRヘッドセット装着者と音を発する物体の位置関係や映像と連動して音を演出する「ショートディスタンス・サウンド」技術によるもの。前述の2つと合わせて、VRプロジェクションマッピングはこれら3つの技術を組み合わせることで「超立体空間」を作り上げている。

ちなみに、隣にいるキスショットもただ座っているだけではなく、雨のシーンでは体験者を濡らさないように傘を差してくれたり、体験者の影の中に身を潜めたりと様々な動きを見せてくれる。こうした仕草を行うときの音、話し声も前述の技術でまるでそこに居るかのように聞こえるので、正直ずっとここに居たい。

しかし、こうした絶妙な演出により筆者は作品の中に引き込まれてしまい、気づけば約7分間の体験時間はあっという間に終わってしまった。

 

ユーザーのリアルを浸食する段階的演出

 

体験イベント当日は、面白法人カヤックのクリエイティブディレクターである天野清之氏にお話を伺うことができた。

「傷物語VR」の制作は、天野氏がSIEJA制作技術責任者の秋山賢成氏と話をしていた際に、何か一緒に面白いものが作れないかと意気投合したのがきっかけだ。

2年ほど前から天野氏は、西尾維新氏に関連するWebサイト制作や、作品をアニメ化したシャフトの設立40周年を記念した展示イベント「MADOGATARI展」に携わっていた。加えて「傷物語VR」の制作に使われたゲームエンジン「Unity」にも精通している。

こうした天野氏の知見や知識を背景に話し合いを重ね、展示イベントのディレクションや映像制作、プログラミングなどの技術を活かした新しい視聴体験をVRで提供すべく「傷物語VR」は形作られていったという。

ただ、「傷物語VR」の開発は、試行錯誤の連続であり一筋縄ではいかなかった。VR空間で感じる空気感や距離感、音そのものの雰囲気を高め、さらにはVRならではの演出を考え出し、それらをアニメの該当シーンに合わせて構築していく必要があったからだ。

とくにユーザーをいかに物語シリーズの世界へと引き込むかは頭を悩ませた。なぜならVRは体験ありきのコンテンツ。単に映像作品としてまとめればいいのではなく、その世界にユーザーを引きずり込まなければいけない。しかし物語シリーズは前述の通り、怪異に関わる不思議なエピソードを題材としているので、一般的にそうした世界をいきなりユーザーに見せてもあまりに非現実的でリアルさがなくなる。

そこで、作中の超常体験を体験者に「実感」してもらうために、段階を踏んで演出を変えていく手法を採った。最初は現実的なシーン(今回は教室)から始まり、徐々に非現実的な要素を加えてユーザーのリアルを浸食。作品世界にどっぷりのめり込ませたあと、最終的に非現実的かつ大掛かりな演出をすることで体験の質を高めている。

 

「傷物語VR」はさらに完成度を上げていく

気になるのは「傷物語VR」のリリース予定だが、残念ながら今のところ未定。ただ、今後もキャラクターのリアクションや演出などに調整を加え、より完成度を上げて行くという。これからの新しい情報は随時発信していくとのことで、PANORAでも追いかけていきたいと思う。

 
 
(TEXT by まぶかはっと

 
 
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(c) 西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

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