エフェクト&キャラの作り込みに刮目せよ! スクエニ・加島氏に聞く「ミリアサVR」開発秘話

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スクウェア・エニックスとグリーはと5月25日よりゲーム配信サービス「Steam」にて、「乖離性ミリオンアーサー VR」(ミリアサVR)の配信をスタートした(ニュース記事)。

 
……とサラっと書くのは非常にもったいない話で、実はこのミリアサVRは、日本のVRの歴史と切っても切り離せない関係にある。

 
というのも、製品版のVIVEが2016年4月に発売される前の2016年1月。まだ日本のVR開発者の大半がHTC VIVEに触っていない状況において、開発者向け製品の「VIVE Pre」を6台も用意し、同ゲームシリーズのリアルイベント「御祭性ミリオンアーサー」にてVRデモを展示するという冒険をしていたからだ(レポート記事)。VIVEは、2017年の今でこそ国内でも存在感のあるVRゴーグルに大躍進しているが、当時はOculus Rift全盛でまだ無名だった。

 
VRがまだごく一部の開発者で騒がれていた初期から、ミリオンアーサーという著名なタイトルをぶっこんで、デモとして展開してきたのがかなりの挑戦だったのだ。その後も東京ゲームショウ台北ゲームショウ店頭ゲームセンターといった様々な場所での展示を経てようやくリリースされて、発売当日にSteamの上位ランキングに食い込んだという流れを知ると、「ああ……ようやく(涙)」という筆者(広田)の感慨がわかるかもしれない。

 
では、ミリアサVRの制作側はどんな気持ちでこの発売を迎えたのだろうか。発売当日にプロデューサーであるスクウェア・エニックス 第10ビジネス・ディビジョンの加島直弥氏にインタビューした。

 
 

VR向けエフェクトは全て新規作成

 
——最初のデモは去年の「御祭性ミリオンアーサー」でしたよね。

 
加島 去年の1月に初めてVIVEを使ったデモ展示をしたときは、まだ製品としては考えておらず、あくまでも乖離性ミリオンアーサーのファンのために作ったものでした。

 
——当時はまだVIVEを使ったデモ自体が少なかったので驚きました。そもそも容易に入手できるハードがOculusだけで一強の時代でしたし。

 
加島 確かに当時はVIVEがあまり知られておらず、日本国内でもVIVE自体の展示すらなかったように思います。

 
——わずか1年半前なのにかなり昔に感じます。

 
加島 そうですね(笑)。そのデモの反響がすごくよかったので、製品版も作ってみようという流れになって開発がスタートしました。デモ版はモバイル版のアセットやキャラクターを流用して、手を加えたのは背景のブラッシュアップくらいでした。

新規で作ったものといえば、「拠点」のヘヴリディーズなどモバイル版乖離性ミリオンアーサーのユーザーは正面しか見られないのですが、VRは後ろに振り向けますので、こんな風になっているのかというのを見てもらえるように、その辺りの背景ですね。エフェクトも流用できなかったので新規で作っています。

ただ、これはデモ版のお話で、今回の製品版についてはモデルやエフェクトを全部作り直しています。

 
——スゴイ! ところでVR版を作ろうとしたそもそもの理由は何ですか?

 
加島 昔から、某カードゲームのように目の前にカードがバッと出て攻撃! みたいなものに結構憧れがありまして(笑)。デモを作り始めたのは2年前の夏頃なのですが、そのときはまだVIVEなんて存在もなく、Oculus DK2の時代です。デモ版の制作は僕が担当したのですが、VIVEとLeap Motionを使って手のジェスチャーで操作するというレベルのものでした。

僕が趣味でVRが好きだったので、乖離性ミリオンアーサーのアセットを流用して何か面白いものができないかなとテスト的に作ってみて、割と社内でもうけがよかったんですね。ちょうどそのタイミングで、来年1月のリアルイベント「御祭性ミリオンアーサー」でファン向けに何か出し物はないかと色々検討していたときに、VRを出してみようとなり、そこからスタートした感じですね。

 

御祭性ミリオンアーサーでは、ステージイベントでもVR体験コーナーを紹介した。

 
——そこからずっと開発を続けてきたんですね。

 
加島 もともとミリオンアーサーシリーズ自体が、新しいプラットフォームに挑戦していくタイトルで、前作の拡散性ミリオンアーサーもモバイルからPS Vitaや3DSなどにいろいろ展開して成功してきています。

今回もミリオンアーサーで新しい市場ということでVRに挑戦してみようと。私の所属している部署の第10ビジネスディビジョンは、会社の中でもいろんなプラットフォームにチャレンジしてきた先駆者的な立ち位置なので、VRに興味があったというのもあります。

 
——実際に制作するにあたって、いちばん難しかったところはどこでしょう?

 
加島 エフェクトまわりですね。いま世に出回っているVRゲームはリアルよりで、銃を撃つと火花が出るようなエフェクトは多いと思います。ただ意外とファンタジー系のエフェクトが派手に広がるようなタイトルはあまり多くはなく、あったとしてもおとなしいものが多いと思います。

このゲームではド派手に目の前で爆発したり、あるいはド派手なエフェクトの攻撃をくらったりするので、そういうところで薄っぺらく見えないつくり方をしています。また、自分が攻撃するときに、ちゃんと相手が見えるようにも気をつけています。適当に作っちゃうと目の前で光りすぎて何も見えなくなっちゃうので。あとは距離を感じさせるところなどでしょうか。

 

VRゲームはテレビやPCディスプレーで遊ぶものとは異なり、プレイヤーが動いてさまざまな角度から同じCGを見られるのが特徴だ。そのためエフェクトも多様な位置から見ても迫力を感じられるものが求められる。

 

迫力と見やすさなどのバランスが調整されたエフェクトは、VR開発者の方々もぜひ自分のVIVEで体験して参考にしたいところだ。

 
——技術的な面ではいかがでしょう?

 
加島 負荷の調整です。描画範囲が大きいと負荷が高くなっちゃうので、ド派手にしたくても普通に作ると負荷が高すぎてフレームレートが落ちてしまいます。それに大抵のエフェクトはビルボード(*編注:常にカメラの方を向かせる技術)を使いますが、VRでそれやっちゃうと薄っぺらく見えちゃうので、ちゃんとポリゴンで作ったり、あるいは薄っぺらさを感じさせないビルボードの置き方をして、なおかつ負荷を高くしない作り方というのは大変でした。

 
——確かに従来のゲーム作りとは別物になるでしょうし、エフェクトをVR空間上で展開するのは大変そうですね。

 
加島 モバイル版のエフェクトをVR版に流用できなかった理由はまさにそれです。モバイル版の乖離性ミリオンアーサーは、固定したカメラに対していちばんいいエフェクトを見せるというところで、結構モバイル版のエフェクトもカッコいいのですが、それをVRの場面で使ってしまうと不都合が多い。

なのでエフェクトはイチから作り直そうと。ただそのまま作っても、例えばテクスチャーの氷が飛んでいっても薄くて見えないので、モデル化しています。あとは光りすぎてもわからないので、一度出現させて、発射して、着弾してから派手に爆発させるというVRでの見栄えを意識しました。

 
 

間近で見ても可愛いキャラ作り

 
——自分の感想では、プレイしていて爽快感がありました。言葉は悪いかも知れませんが、「厨二」感あふれていて、先ほどの話に出ていたエフェクトも「俺TUEEEEEE!」という感覚を煽ってくれてすごく楽しい。

 
加島 乖離性ミリオンアーサーのシナリオは「とある魔術の禁書目録」などでおなじみの鎌池和馬さんによるもので、作風に合わせたエフェクトはもちろん、キャラクターのモデルも作り込んでいるんです。

とくに、可愛いと思えるキャラ作りは心がけています。モデルを作り込んでもシェーダーやライティングによっては怖く見えてしまう。その違和感をなくすように、近づいてどの方向からみても可愛く見えるように、モデルやテクスチャー、シェーダー、ライティングは全部調整しています。

 
——キャラのモデルをVR向けに調整するのもやはり大変なんですか?

 
加島 そうですね。ある一定の角度から見たら可愛いけど、別の角度から見ると変な感じがしたり、後ろ側に回り込んでみると頭や顔にすごい影が入ってしまって、リアルだけどネガティブな印象になってしまいます。

なので、ある程度リアルにライトの当たり方などは調整しますが、不気味にならないように細かいチェックを重ねていきました。

 
——3Dアニメは見栄えのいいアングルの映像をつなぎ合わせて作れますが、VRだとどこから見てもパーフェクトな状態にしなければいけないですからね。

 
加島 ひとつのカメラで見るときは違和感がないのですが、立体視になるとシェーダーの加減などで微妙に変に見えたりするので、そういう風に見えないように作っています。あとキャラクターの服のシワはもちろん、材質もスペキュラー(*編注:物体に光源が映り込んで生まれるハイライト)の処理をちゃんとしているので、ゲーム内拠点に居るウアサハの服を見ていただくと細かく光っていたりします。

ありがちなのが、近づいてみるとテクスチャーがガビガビになったり、のっぺりしたりしますが、乖離性ミリオンアーサーVRの場合は近づいても綺麗に見えるようにしています。ウアサハの服は金色のラインが入っていますが、ここも近づいて見ても光が反射して綺麗に見える作りになっています。

キャラクターとのふれ合いは、乖離性ミリオンアーサーVRの最初のコンセプトから決まっていたので。ド派手な戦闘とキャラとのふれ合いがこのゲームの軸であり魅力です。

(実機を取り出し)衣装の映り込みに関しては、この辺りを見ていただくと。点が見えると思いますがこれが映り込みです。

 
——(ウアサハのお腹のあたりを見ながら)うわっ、めちゃくちゃ細かい!

 
加島 細かい装飾や反射は、かなり作り込んであります。それにキャラクターはこちらを向いて、意識してくれますので、本当に一緒に居る、ふれ合えているという実感が沸くのではと思います。近づけばより可愛さがわかるというのは、こだわったところです。

 
——いままでは体験会で、制限時間の中でしか遊べなかったのですが、家でじっくり見られるようになったのはうれしいですね。

 
加島 キャラクターの衣装も着せ替えてふれ合えるので、このあたりも楽しんでいただければと。キャラを愛でるという部分だけでも、好きな人にはたまらないと思います。というかここが一番楽しめるところかもしれません(笑)。開発者全員この部分をウキウキしながら作っていました。企画会議でもこの部分が一番盛り上がるんですよ。

 

お腹のあたりの衣装のキラキラ具合など、近づいてわかるよさがあふれている。等身大のフィギュアを目の前にして、「この部分、めちゃくちゃ作り込んでるなぁ……」とじっくり堪能する感覚に近い。

 
——わかります(笑)。衣装のバリエーションは今後増えていきますか?

 
加島 まずはゲームをプレイしていただいて、要望が多ければ追加していきたいなと考えています。

 
——PlayStation VRでの展開を期待しているユーザーも多いと思われますがいかがでしょう。

 
加島 随時検討していきます(笑)

 
 

世界中のファンに向けてローカライズ版も展開!?

 
——アニメを見るパートもあっていいなと思ったのですが、どういった経緯で用意したのでしょうか?

 
加島 今回のVR版は、ひとつは元々のミリオンアーサーユーザーに、さらに世界観に入り込んでいただいて、より好きになってもらう。もうひとつは、ミリオンアーサーは知らないけれども、VRゲームは好きだよという人に興味を持ってもらえたらということで作っています。その世界観に入り込んでいただく手段として、VRの圧倒的な没入感を活かしてミリアサの魅力を感じてもらえるように、シナリオの一部をVRアニメ化しました。

 
——ストーリー全編をアニメ化するのは時間的に厳しかった感じですか?

 
加島 膨大なストーリーで、普通に読むだけでも5〜6時間かかるボリュームなので……。

 
——確かに、それだとアニメ化したら4クールくらいできちゃいそうですね。

 
加島 作ってみて思ったのは、全方位見ても大丈夫なようにするのって、普通のアニメ作るよりさらに工数がかかるので、それを含めて全編作ると……。大変なことになってしまいますね。そのため、今回はより重要性やインパクトのあるところをピックアップしています。

 
——今後のプロモーション展開はどのようにお考えですか?

 
加島 現在は、VIVEを展示している全国のドスパラさんで東京ゲームショウ版を展示していて、それは引き続きやっていきます。今後、体験版もアップデートするかもしれません。このあたりは検討中なのですが、東京ゲームショウ版よりも現在の方がより進化していますから。ほかにも体験場所を増やして、ミリオンアーサーを知っていただく機会を増やしていきたいと思います。

 
——御社として出展するイベントに展示する可能性はありますか?

 
加島 出せる場所があれば、積極的に出していきたいなと。やっぱりVRは体験しないとわからないので。

 
——スマホVRでの展開はいかがでしょう? 本日HTCさんからスマホVRゴーグルの「LINK」も発表されました(レポート記事)。

 
加島 今回は体験として品質の高いものを提供したいというところで、VIVEをプラットフォームとして選びました。たしかにLINKは興味のあるデバイスです。まだVR市場はわからないことが多いので、今回のVIVE版を元に調査して、そこから発展していくのか、どうなのかというところでしょうか。

社内でVRコンテンツの開発を行っている部隊は本作の第10ビジネスディビジョンだけでなく、2016年の東京ゲームショウで展示した漫画をVRで読める「Project Hikari」を手がけているテクノロジー推進部もあります(関連記事)。チーム間の交流は頻繁ですし、ミリアサVRで得たものは随時社内に還元していきますので、それが今後のVR開発につながっていくと思います。

 
——マンガをVRで読むというのはユニークで面白いですよね。

 
加島 乖離性ミリオンアーサーVRのデモを作り始めるタイミングで、テクノロジー推進部のほうでもVRコンテンツを開発しているという情報を聞きつけて、色々と教えてもらいに行ったことがあります。今回のミリアサVRは、スクエニとして初のVR専用製品なので、これが社内的にも今後の参考になっていくのではと思います。

 
——ワールドワイドで展開されるご予定はありますか?

 
加島 ワールドワイド展開は検討しています。もともと乖離性ミリオンアーサーのモバイル版は、アジア圏を中心に、中国や韓国、台湾でもサービスを展開していたので、そうした国々に向けてローカライズして展開したいです。これに関しては……あれ、この先は大丈夫ですよね?

(同席の広報さんからOKのサイン)6月に韓国と台湾で展開します! ただ、今まさに作っている最中なので具体的に何日かまではまだ決まっていない状況です。他の国々に関しても検討しているところです。

 
——ローカライズに当たって声優さんは現地の方を起用されるのですか?

 
加島 いえ、逆に日本の声優さんの方が好まれるようです。既に日本のアニメが大好きな人たちがたくさんいるので、吹き替えられるよりむしろ元々の声優さんであったほうがうれしいと。

好きな声優さんが声を当てているからゲームをプレイしてくださる方も多いです。なので、今回のローカライズに関しては、字幕やストーリーのテキストを翻訳するだけにとどめる予定です。

 
——確かにキャラを愛でるのに言語は関係ないですからね。

 
加島 はい。ただ、そうした海外展開を考えたときに、過激にしてしまうと海外ではNGがでてしまうので難しいところです。とくに欧米の方だと抵抗感を示す場合が多いです。開発段階でいろいろな人に「乖離性ミリオンアーサーVR -ふれあいデモ-」を体験してもらったのですが、特に欧米の方はキャラとのふれあいに抵抗があったようです。海外展開をするにあたっては、頭をなでる程度であればいろいろな国でもおおよそ許容範囲だったので、今回は頭をなでるところまでに抑えています。

 

モーションコントローラーで頭をなでるとウアサハが嬉しそうにしてくれる。かわいい。

 
——確かにそこはすごく難しい問題ですよね。VRだからなんでもできちゃうけど、じゃあやっていいのかと。

 
加島 僕らは「こうできたら楽しいよね」と純粋に作っていた部分なのですが、意外と海外では「これはアカン!」となることも多くて。それを知って僕自身もカルチャーショックを受けた部分はあります。

それにVR市場はまだそこまで広くないので、そのうえさらに狭めるのは好ましくないので、なるべく幅広く展開できるように作りました。もともとキャラの露出が激しいゲームだったりして、現段階でミリアサVRは「CERO D」で17歳以上対象なのですが、日本の「CERO D」は海外だと普通にアウトになることも多い。なので、なるべくアウトにならない範囲で調整しています。

あと、アニメ寄りなゲームも、ダウンロードの割合を見ると思っているよりは欧米の方々も割と買っている人が多い印象です。今まで日本のアニメテイストはアジア地域だけでなく欧米での人気も高まっているので、海外展開は非常に重要になってくるのかと思います。

 
——キャラの可愛さや愛でるといった部分は、日本独特の要素だと思います。その強みを生かして海外に展開していく感じですか?

加島 そうですね。幅広く展開できたらと思います。実際、今日のリリース直後にイタリアの方が「私はずっとこれを待っていた! でも何でプレイできないんだ!」(*編注:取材時点では海外からの購入はできない)とSteamにコメントがあり、非常に心苦しいです。

こうした欧米圏の方でも、Steamのプロフィールを拝見するとアニメが好きなことが伝わってくるので、海外展開に関しては前向きに検討していきたいです。

 
——みんな待っていた感じなんですかね。

 
加島 てっきり僕はアジア以外の地域でアニメテイストは受けないと思っていたんですけど、好きなファンは居るというのを実感しました。基本的に海外のVRゲームはたくましいお兄さんお姉さんが銃を撃ちまくるというのが多いので、そういったものとはまた別のジャンルとして受け入れられるのではと考えています。ぜひSteamでダウンロードして遊んでみてください。

 
 
(c) 2017 SQUARE ENIX CO., LTD. / GREE, Inc. All Rights Reserved.

 
 

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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