透き通る金髪の再現を見てほしい 玉置Pが語る「サマーレッスン:アリソン・スノウ」への道(後編)

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前編中編に続き、サマーレッスンのプロデューサーであるバンダイナムコエンターテインメント CS事業部 玉置絢氏のインタビューをお届けする。

 
 

こだわりすぎて一番苦しい道を選んでしまった

──よりVRコンテンツの制作について深い話を聞きたいのですが、3Dモデルと背景で注目して欲しいポイントはありますか?

 
玉置 モデルに関しては髪の表現です。VRコンテンツなので高解像度かつ高いフレームレートを維持しなければならず、ハードはPS4と同Proがある中でどういう表現をすべきか考えていた時に、負荷軽減のために金髪をただのベタ塗りの金色にしたくなかったというのが大きくて……実は半透明描画なんですよ。

ゲーム開発者なら共感してくださる方は多いと思うのですが、半透明描画はとにかく面倒くさいんですよ。半透明が使えるようになってからというもの、ゲーム業界をずっと苦しめているギミックのひとつだと思っています(笑)

なぜかというと、半透明オブジェクトの手前にあるもの、そして奥にあるものを描かなければいけないので2回描画が必要なんです。「透きとおるような髪の毛」って書くと文学的で綺麗な表現ですが、ゲーム製作では要するに「透ける髪の毛」なんですよね(笑)。なので、金色の髪の毛を1層目、2層目、3層目、そのあと背景という具合に描かなきゃいけなくて重い! とにかく重い!

 

この髪をVRで見たらどうなってしまうのだろう……?

 
──その話の先、もうイヤな予感しかしないです(笑)

 
玉置 そしてですね、ただの半透明の磨り硝子の板とかだったらいいですけど、髪の毛の透明度って部位によって変わるじゃないですか。1本単位で見れば毛先のほうが透けていて、束になれば全体として金色がしっかり現れて透け感はなくなるので、そういうところの表現がとにかく大変で。

金髪の人が目の前に居て、モフモフしてそうで柔らかい、髪が軽い感じの印象を3DCGで表現するのって想像するよりかなり難しいんです。金髪を表現するだけでも大変なのに、そのうえVRで左右両目分を描画するわけで、負荷の管理がもう大変!

ちょっと話がずれますけど、そりゃ背景も屋外を舞台にすればオブジェクト数は多くなりますよ。当然です。そもそも、ひかりちゃん版サマーレッスンを開発するときに、「部屋の中で女の子に勉強教えるという内容だったら、舞台は当然女の子の自室内になるのでオープンワールドみたいにめちゃめちゃ背景を書き込まなくて済むし、キャラの表現に集中できる」と思ってあの設定になったんです。

にもかかわらず、われわれ自身で自分たちの首を絞めだしてですね。「景色がいいところにしよう」とか「縁側で」とか言い出して、室内も室外もあっていちばん苦しい道を選んでいるんですよね。

 
──ちょ(笑)

 

確かにオブジェクトが多くて描画が大変そうだ。

 
玉置 結局外から家の中見えてるんで(笑)。家の中も外も描画しなきゃいけないと。これがまぁ難しくて。そこの負荷もかかりました。なので髪の毛にいちばん注目してもらいたいですし、それを表示しているときのPS4の排気音にも注目してほしい感じですね! いかにPS4が頑張っているか分かると思います。

 
──今回のPS4と同Proで画質は違いますか?

 
玉置 そこはひかりちゃんと同じ仕様です。

 
──じゃあProでプレイすると画質が向上するという。

 
玉置 そうです。そこはひかりちゃんと同じクオリティーになるように死守してますが、やることは長大でした。PVを見ていただければお分かりいただけると思うのですが、ひまわりがボコボコ出てますし、遠くに灯台や雲もあったりと、オブジェクト数が増えてますから。

 
 

VRだから必要だった数ドット視差のための「中景」

 
玉置 背景ついでにいいますと、VRでは「中景」という新たな概念を入れたんです。

 
──といわれると?

 
玉置 ゲームなどで背景をつくるときには、「近景」と「遠景」という切り分け方をします。2Dの格闘ゲームだとわかりやすくて、例えば、プレイヤーが立っているところの近くにある床や壁は近景、奥に見える山や空の雲は遠景なんですが、ひかりちゃんは窓の外が見えないので、近景しか見えないんです。

そこからアリソンちゃんのすごく遠くの水平線まで見える背景をつくろうとなったときに、当初は奥行き感がどうしてもうまく出せなかったんです。近景が大事なのはひかりちゃんのときに分かっていて、扇風機が真横とかにおいてあるところで、自分の目線と同じ高さにものが存在している。ああいった物が置いてあるから、プレイヤーが背景含めた世界に実在感を感じられるようになっている。家そのものも、立ち位置としては近景になります。

そこから遠くを望んでいくわけですが、当初はひまわりも何も存在していなくて、すぐに海が見えて雲がある状況だったんですが、そうすると近くにあるものと遠くにあるものの距離感の差があまりわからなかったんです。何か奥行き感にシームレスなところがなくて、地続きで繋がっているように感じられなかった。言い方を変えると、「書き割り」感がしてしまったんです。

そうじゃなくて本当に雲は立体的に浮いているものなんだよと明確に感じてもらうために、遠景と近景の間にある「中景」という考え方を入れたんです。それは手が届かない結構遠めな距離なんだけど、雲や水平線よりは手前にあるものを置かないと、これは奥行き感が出ないなということがわかったんです。

 
──なんと!

 
玉置 そこでひまわりや灯台、ガードレールを置いたところ、ほんの少しだけ視差がつくので、そのおかげで世界が本当にその場にあるような感覚が出てきた。それが2年前の発見でした。

 

少し遠くに見えるひまわりやガードレール、灯台がポイントになる。

 
──新しいゲームづくりの概念が生まれたという。

 
玉置 そうですね。サマーレッスン流の屋外の表現の仕方がわかって、その経験がひかりちゃんのDLCから登場している神社に生かされているんです。神社の背景をよく見ていただくと、そのノウハウがわかるかと思います。

 

 
 
──実在感をより高めるという。

 
玉置 背景の実在感ですね。背景の本来の目的は、実在感(Sense of Presence、プレゼンス)ではなく、没入感(Immersive、イマーシブ)を高めるものなんです。この世界はないんじゃないかというツッコミを排除するのがImmersiveだと思いますが、そこをやった上で「猛ダッシュでそこに走っていけば目の前にそのものがあるかと信じられるかどうか」という実在感も大事なんだと分かってきました。「距離的には離れているけど、そこにプレゼンスしているという感覚」に近くて、それを表現するのが大変だったんです。

 
──面白い!

 
玉置 これ、発見ではあるのですが、近距離にあるものはプレゼンスが出しやすいのに、中距離以上は難しい。

 
──それはものの大きさの感覚の問題でしょうか?

 
玉置 厳密にいうと、現在のVRのハードウェアでどれだけ繊細な視差が実現できるかです。目の前にあるものは視差がめちゃくちゃ大きいから、どんなVRゴーグルでも立体感が出せるんです。だからPresenceもわかるんですけど、1ドットだけ視差があるものはPresenceが出しにくい。でも視差が数ドットあるのと、完全にないという境目は必要で、そのために中景が必要になってくるんです。

 
──はー! なるほど!

 
玉置 雲とかは数十、数百km先にあるので、今のあらゆるVRのハードウェアでは視差を出せないんです。当たり前の話ですが、忘れてはいけないことです。

 
──ハードの限界はあって、そこをどうコンテンツ側で最適化していくかという。

 
玉置 そうですね。単純にディスプレーが2Kか4Kかとか、そういう話になります。

 
──自分もよく記事で「VRは近さの表現がわかりやすくて得意だ!」とか書いてしまうんですが、それは単に現世代の各VRハードウェアの限界だったという。

 
玉置 その近いというのは大発見で、サマーレッスンも「キャラが近い」という体験に特化しているのですが、その近さをより支える上で中景が必要になってくるという話です。

 
 

最高スコアでクリアーしたときの演技が絶妙!

 
──首を振ってYes/Noを選んだり、目線でポインティングするといったインターフェースはひかりちゃんの時と変わっていたりします?

 
玉置 そこらへんのシステムは同じですね。

 
──モーションは新録でかなり増えているとか?

 
玉置 もちろんそうです。人が違うので、流用しているアニメーションは一切ありません。それに、アリソンちゃんのアニメーション収録はひかりちゃんとは毛色が随分違いました。さっき言ったようにアリソンちゃんはおとなしい性格で、ひかりちゃんより喋るスピードが遅いんですよ。でもゆっくりしゃべると、アニメーションの尺が伸びるんですよね。それが台本書いているときからすると想定外で、いざ録ってみると「これひかりちゃんのときよりもめちゃくちゃ秒数が伸びてるな」と。

 
──なんと!

 
玉置 でもそこで喋るスピードを速めてしまうと、仕事などから疲れて帰ってきた人がその世界でまるで温泉に入るように癒される、というコンセプトから外れてしまう。そこはいろいろなスタッフにご迷惑をおかけしましたが、歯を食いしばって録りました。

 
──モーションの方と声優さんは別の人ですか?

 
玉置 いや、ひかりちゃんのときと同じ仕組みで、モーションも声あても一緒の人です。だからアリソンちゃんのアクターさんである阿部里果さんを探し出すのにとても大変だったんです。実はE3版と製品版では別々の声優さんを起用していて、歌だけは引き続きE3版でお願いしたJenny Shimaさんにお願いしています。だからまず声色が近くなければいけない。E3版では全部英語だけでしゃべっていたのですが、製品版で全部英語で、VRでは臨場感を落としてしまう字幕もなしでというのはかなり辛い。そういう英語を理解しないと遊べないというロックな選択肢もあったのかもしれませんが。

 
──(笑)。「アリソン先生のサマーレッスン」みたいな英語教材ならよかったのかもしれませんけどね。

 
玉置 そういう考えも心によぎることはあり、アイデアは追加コンテンツの「縁側の国際交流」で実現しました。でも全編通して英語にするというのは、これからもPlayStation VRがどんどん世の中に出て行くタイミングで、VR業界を応援する意味から考えても、そこまで意味不明な挑戦をするのもどうかなと。やっぱりある程度、意思疎通ができて、どういう気持ちで何をしゃべっているのか理解できた方がいいなと。だから、E3からの2年間でちょっと日本語が上手くなっているという「雰囲気」です。

 
──おっ!!

 
玉置 なので、ゲーム本編は日本語さえわかれば誰でも理解できるようになっています。一生懸命しゃべっている、英語がつい混じっちゃうたどたどしいところが上手くて、かつモーションアクターとして演技もできて、表情もつけられるという人を探すと……。

 
──それは相当難しくないですかね!? では演技ができるモーションアクターさん側から探していったという?

 
玉置 でもかなりの量を録音するので、それに慣れている声優さん側から選ぶ必要がありました。

 
──演技してもらってここが一番見て欲しいというシーンは?

 
玉置 ひかりちゃんのときと同じですが、一番いいエンディング、ベストランクでクリアーしたときの演技がかなり印象に残っているので、ぜひ見てほしいです。あとは何気ないときなんですが、休憩しているときに声をかけると、「何かありますか?」とアリソンちゃんが話を聞こうとしてこっちに寄って来てくれるんです。そういう何気ない仕草から感じられる、アリソンちゃんの性格のよさがすごくいいところなので、ぜひ見て欲しい。

 
──たまらん!

 
玉置 やっぱり心の疲れたときに、ぜひやってほしいんです。「激しいゲームもなんとなく疲れたし、対戦して打ち合う気分でもない。かといって、ガチャを回すのもなぁ……」というMPが0の状態でも、かぶりさえすれば気軽にできるというコンテンツとしてのサマーレッスンはあると思います。

 
──そういえば、アリソンちゃんのファミリーネームは「スノウ」だったんですね。この理由は?

 
玉置 いやー、わからないんです。これは原田さんとマイケル・マレイ(Michael Murray、原田氏と一緒に「鉄拳」シリーズの海外ユーザーとのコミュニケーションを担当する人物)さんが2人で決めたものなんです。設定も台詞も全体設計もしたけど、なぜかアリソンちゃんの名前だけは私もノータッチなんです……(笑)

 
──あとは、ひかりちゃんのときにCGモデルの中に顔を突っ込むと心臓の音がするというすごい仕様になっていましたが、アリソンちゃんでも心音はあるんでしょうか!?

 
玉置 ちょっとド忘れしたのですが、確かに録ってるかもしれないですね。それはサウンドのリーダーである中西さんという人物がですね……。

 
──あれっ、ずっと玉置さんのこだわりで指示して心音を録音していたのと勘違いしてたんですが、違うんですか?

 
玉置 それは心外ですよ!(笑) 「聴診器マイク」を使うアイデアとかは、サウンドチームの発案です。サマーレッスンはいろんな奇抜なアイデアの集合体なんですね。サマーレッスンは最初にとにかく変な人が集まったんです。

 
──あと聞いておきたいのは、E3版ではいた原田さんが、製品版では忽然といなくなってしまったことです。ファンとしては残念ですが、あれはなぜですか?

 
玉置 あのキャラも元々は原田さんじゃなくて、たまたま雰囲気が似ていた別のキャラクターだったんですが、あまりにも原田さんっぽかったので「試しにサングラスをかけさせてみよう」「ヒゲを生やしてみよう」と面白がってやっていたら原田さんになってしまったという経緯があります……。

それはともかくですね(笑)。アリソンちゃんの「癒し」には本当にこだわっています。PS VRを入手された方はぜひPS Storeでご予約いただき、PVを見て想像を膨らませて、6月22日0時の配信開始を心待ちにしていてくださいね。

 

 
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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