日本の文化財をHoloLensで学べる! 博報堂が建仁寺と「風神雷神図屏風」の共同研究を開始

LINEで送る
Pocket

博報堂と博報堂プロダクツは4日、京都の建仁寺(けんにんじ)にて記者発表会を行い、マイクロソフトのWindows Mixed Reality技術を利用して、同寺院が所有する俵屋宗達作の国宝「風神雷神図屏風」を体験可能にする共同研究「京都Mixed Realityプロジェクト」を開始すると発表した。早ければ年内に、建仁寺や京都国立博物館にて一般公開される予定だ。

 

制作を手がけるのは、博報堂プロダクツが有するVR/ARの専門ファクトリー「hakuhodo-VRAR」。作者である俵屋宗達の意図や作品に込められた願い、題材となった「風神雷神」の由来や後世への影響といった作品にまつわる情報を3Dグラフィックで再現して、マイクロソフトのMRゴーグル「HoloLens」を装着して鑑賞できるようになる。この共同研究により、新たな文化財の鑑賞のあり方や文化教育、観光の新モデルの確立を目指すという。

 

建仁寺は、京都最古の禅寺で臨済宗建仁寺派の大本山。「風神雷神図屏風」の所蔵者として、研究への協力と画像などの使用権利の提供、研究成果を一般に公開するためのスペースを提供する。発表会を取材したので、その様子をレポートしていこう。

 
 

本物を見るために現場を訪れてほしい

マイクロソフトの一体型MRゴーグル「HoloLens」といえば、特定の位置にCGを出現させて、さまざまな方向から見たり指や声で操作ができるという先端デバイスになる。従来、同じことをスマートフォンなどでやろうとするとマーカーを用意して認識させる仕組みだった、HoloLensでは内蔵センサーで周囲の空間の状況をスキャンして、リアルタイムで空間情報を構築していってくれるというのが新しい。

 
国内でも入学式建築物の確認といった用途でB2B活用が進んでおり、生みの親であるアレックス・キップマン氏からも「日本は最も成長しているMR市場」と一目置かれる存在になっている。

 
そうした中、今回教育という観点から文化財をMRで体験するという新しい試みが発表されたわけだ。発表会では、今回のプロジェクトが始まった背景やコンテンツについて関係者から解説があった。

 

まずは臨済宗建仁寺派の庶務部長、奥村紹仲氏が登壇。「風神雷神図屏風がテーマとして取り上げて、建仁寺としても大変喜んでいます」とコメントしていた。

 
奥村氏によれば、建仁寺には年間32万人以上が訪問して文化を体験しているとのこと。「現在の拝観は各所を回って、説明の文章を読んで理解していただいてますが、これはアナログ的な形。デジタルではどうかというと、先日、HoloLensで体験したのが、坂本龍馬風の人物が登場して屏風の前で解説してくれるというコンテンツです。拝観の形も時代によって変わって行くのだなと実感して、屏風以外にもお寺の伽藍や庭園、法要、お茶会、座禅なども研究対象にしていただいて、まったく新しい文化体験ができるようになることを望んでいます」と、このプロジェクトへの期待を見せた。

 

hakuhodo-VRARからは、博報堂のビジネスインキュベーション局スダラボのエグゼクティブ・クリエイティブディレクター、須田和博氏が登壇。須田氏は社内プロジェクトとしてクリエイターを集めて自身の名を冠した「スダラボ」を主催する人物。

 

スダラボは過去3年の活動で6つのプロトタイプを制作し、70以上の国際広告賞を受賞したという。VR系の人にとっては、2014年に渋谷のTSUTAYA店頭にて実施した「PANICOUPON」が記憶に新しいだろう。そのラボの第7弾がこのプロジェクトになる。

 
須田氏によれば、今回のコンセプトは「文化財×MR」で、MRにより貴重な文化財に情報レイヤーを重ねて、歴史観光や美術学習を実空間の中で体験可能なものにするのが狙いだ。

 
同じ文化財を体験するという用途ならVRでも実現できそうだが、あえてなぜMRなのかというと、本物を見るために現場を訪れてもらうという意図があるという。本物のよさはそのままに、HoloLensをかぶってMRで関連情報を体験して、主体的に文化財を学習して欲しいという思いだ。

 
さらに遺跡や考古物といった文化財に関して言えば、歴史の中で一部だけ残っていたり、完全に失われてしまっているものも多い。そうしたものもCGで復元してHoloLensで見ることで、在りし日の全体像を把握できるのもメリットだ。

 
「京都はそうした文化財が非常に多い土地で、さらに俵屋宗達の『風神雷神図屏風』という国宝で最初のトライアルができることはすごくありがたいこと。ぜひ色々なアイデアを試していきたい」と須田氏は語っていた。

 

具体的にどんな体験を考えているかと言えば、例えば、屏風の前に400年前の京都の町衆の人たちが現れて語っていたり、そこに俵屋宗達が現れて制作意図を語ったりといったものになる。

 
ほかにも、「仮装特別展示室」といった形で、屏風以外の関連コンテンツをCGで周囲に出現させて一緒に見たり、この絵に込められた種を広める風神、雨の恵みをもたらす雷神=「五穀豊穣」という思いを空間に再現したりといったアイデアがあるそうだ。

 

日本マイクロソフト 業務執行役員 マーケティング&オペレーションズ部門 windows &デバイス本部長、三上智子さんも登壇。「今までモニターやスマートフォンのスクリーンの中にとらわれたデジタルの体験をリアルの世界にもってきて、学び方や人とのコミュニケーションがより自然にできるアップデートされた体験ができる」とHoloLensのメリットを語った。

 

京都市産業観光局、観光MICE推進室長の横井雅史氏によれば、2016年における京都市の観光客は5500万人で過去3年同じ水準を維持しており、外国人が318万人と過去最高という。また修学旅行生は110万人来ていて、1万2000人ほど増えたという。

 
その観光客のアンケートには、伝統文化や伝統産業を体験したいという声があるとのことで、京都の中に残っている数々の「本物」に触れてもらって、過去に思いを馳せてほしいという思いがある。そうした背景で、新しい鑑賞、観光のやり方を付加してくれるHoloLensについて、本当に可能性を感じているそうだ。

 
先ほどの須田氏の話にも関連するが、秀吉の聚楽第など失われたものも体験できるように、この建仁寺を皮切りに思いを馳せてもらえるような観光や文化発信をしていきたいと語っていた。

 

現地では今回の共同研究における調印式も。

 

登壇者4人。しかし先の蝉丸Pの記事じゃないですが、お坊さん+ゴーグルってすごく写真映えしますよね……。

 
文化財のデジタル再現というと、スマートフォンやタブレットを使ったARでの事例があったりするが、HoloLensなら先にあげたようにマーカーレスで空間にさまざまなものを配置して、ハンズフリーで鑑賞できるというのが大きなメリットだろう。

 
海外では美術品をHoloLensで見るという動きもいくつかあるが、過去の文化財の体験という観点はまだあまりない事例だ。年内にどんな成果が出てくるのか、引き続き注目していきたい。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
ニュースリリース
スダラボ
博報堂プロダクツ
博報堂
建仁寺

LINEで送る
Pocket