ペディキュア塗りや医者体験、痴漢再現など、傑作・奇作を生んだ「例のカノジョ ハッカソン」徹底レポ

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2017年7月9日、都内の某2ヵ所にて「例のカノジョ ハッカソン」が行われた。そのレポートをお届けする。イベントの募集定員に対し3倍の申し込みがあった注目の集まったイベントであったが、当日は多種多様なハック成果が勢揃いし大変盛り上がった。様々な配慮の上秘密にされた情報も多く、参加者・関係者以外には詳細な状況が公開されていないイベントではあったが、その様子が少しでも伝わると幸いだ。

ちなみにハッカソンとは、広い意味では主にはソフトウェアのエンジニアリングを差す「ハック(hack)」いう単語と、「マラソン(marathon)」を組み合わせた用語で、ある開発テーマに沿って、複数のチームが決められた期間内で、マラソンのように一斉に開発を行って成果物を競い合う活動のことを差す。
今回のハッカソンのテーマはとあるゲームのキャラクター「夕陽さくら」に関するハックを皆で集まって行おう、というものであったが、諸処の事情によりゲームの起源を明かせないため「例の」という呼び方を冠している。事情を知らない方については分かりづらい表現になっているが、そのあたり空気を読んでご了承いただきたい。

 
 

事前説明会「夕陽さくらちゃんの部屋」

本ハッカソンの詳細については、参加者募集ページを兼ねていたconpassのイベントページと、そこからリンクがはられている事前説明会「夕陽さくらちゃんの部屋」の資料で説明されている。

 
5月末には当選者向けの事前説明会を開催して、ハック対象のキャラクターである「夕陽さくら」のアセットデータ提供に関する注意事項、成果物に関するレギュレーションなどが周知された。面白い試みとしては、音声アセットについては事前に台詞リストが公開された上で、なんと希望する音声の追加が依頼できるようになっていた。そこからアイデア募集とチーム作成を同時にスタート。ここからアイデア検討・プロトタイピングをガンガン進めたチームもあれば、当日ソロチームとして夕陽さくらのハックを試みた猛者もいる。

 
なおイベントの規模について想像していただくために、参加者数やチーム数についてもふれておこう。Connpass上では募集181人に対して当選65人。事前にチームとして登録があったのは13チーム、ソロ予定または当日その場でのチーム結成を想定の上個人で参加した方が31人という話だった。チームの分割や合流も多数あって、最終的には24チームがハック成果を披露することとなった。

 
 

会場の様子

8時に開場、8時30分から2会場をビデオチャットで接続して開会式をスタートし、レギュレーションを再確認したうえ、タイムテーブルを解説した。なお、ハッカソン自体は第1会場と第2会場に別れての実施だったが、体験会と審査・表彰が第1会場で開催されるため、18時をもって第2会場は撤収して、19時までに第1会場に移動することとなった。

 
第2会場のメンバーにとっては1時間の作業時間の減少もさることながら、稼働している環境を畳んで再度別の場所でセットアップが必要という点について、とくにHTC Vive組が苦戦していた様に見えた。そのようなVR組と比較すると、HoloLensチームは本体ごと首にかけて移動していて、VRも早く現行フラッグシップ級のデバイスがスタンドアロンになってほしいと強く感じた。

 
第2会場は直前になって利用可能が決まった会場のため、どちらでの作業になるかはかなりギリギリのタイミングでのアナウンスとなったとのこと。特にHTC Viveのベースステーション運用について、狭い空間では干渉対策などの難易度が上がるため、この規模の参加者を1会場に詰めるよりはメリットがあったと思われる。

 

こちらは最優秀賞チームに送られる盾。ヴァーチャルではなく、リアルに重い。

 

HoloLens組であるTeam ARtistのテーブルにはSpectator View環境がセットアップされていた。プロモーションビデオでも撮ろうとしていたのだろうか。

 

Viveのベースステーションに、レーザーの出力範囲を制限するカバーがつけられていた。もちろんトラッキング範囲も制限されるが、混線を避けたい広い会場では有効な手だ。ちなみにこのカバー、あつらえたように見えるが実はカーテンをまとめて縛る帯である。

 
 

受賞作品の紹介

続けて、体験会の様子を交えつつ、受賞作品の紹介にうつる。まずは5人の審査員特別賞から。

 
例のVRアーティスト賞:チーム名「Team ARtist」

Microsoft HoloLensを使用。ポーズをつけたモデルを表示し、重ね合わせた表示で現実でお絵かきができるアプリ。音声認識による画像認識もでき、単純にトレスでそれっぽい絵がかけるホビーユースから、3Dモデルを用いた正確なパースを補助するプロフェッショナルユースまで幅広い発展が考えられる。審査員コメントでも「すぐにでも使いたい」と述べられていたが、実用性の観点で頭一つ抜けていた印象。

 
例のアナウンサー賞:チーム名「例のエンジンチーム」

HTC Viveを使用。夕陽さくらちゃんをペディキュアや頭飾りなどでメイクアップし、盛れたところで写真を撮ってSNSにアップするというトータル体験のアプリ。肝となる足のオブジェにはVive Trackerがセットされており、手に夕陽さくらちゃんの足の裏の感触がある状態でペディキュアを塗れるのが特徴だ。ペディキュアを人に塗るのはもちろん、自分で塗ったことも、人の足を持つ体験もなかったため、不思議な気持ちになった。

 
ちなみに、この「例のエンジンチーム」ともう1チーム(のはず)が開発環境としてUnreal Engineを選び、残りはUnityであったが、プラットフォームをまたがってアセットが利用されて、発展していく様子をリアルタイムに見れたのは、このイベントで面白かったことのひとつとして挙げておきたい。

 
例のOcufes主催者賞:チーム名「調布の大学チーム」

Oculus Riftを使用。タイトルは「トントンカノジョVR」。タイトルの通りトントン相撲のVR。Oculus Touchを両手に装着し、リアルのダンボール箱を叩くことでトントン相撲が楽しめる。ダンボール側にマイクロスイッチがしこまれており、振動を認識していた。ダンボール箱を叩く感覚と、Oculus Touchのホームポジションである「人差し指を伸ばした指のポーズ」がうまくマッチングしていた。

 
例のハコスコ医学博士賞:チーム名「わっふるめーかー」

Oculus Riftを使用。タイトルは「温泉彼女VR 湯煙あわあわ編」。石鹸まみれになった状態の夕陽さくらちゃんになって、温泉でゆっくりできる。泡を流すところまでやりたかったが技術的課題が解決できなかったとのこと。審査員コメントでは「洗い場の鏡に自分が映って欲しかった」と不足点を述べられていたが、背景の妙なリアリティと、泡まみれのテクスチャのクォリティーがマッチングし、手を添えて腕をなででるだけでもつるつる滑るような感覚があるのが不思議だった。ぜひパワーアップ版を体験してみたい。

 
例のMikulus開発者賞:チーム名「さくらドクター訓練室」

HTC Viveを使用。タイトルは同チーム名。夕陽さくらちゃんが指導医として、被験者になったりしてくれる体験ができる。夕陽さくらちゃんの指示にしたがって、床に寝てる状態から椅子に座らせ、その後聴診器で心音を確認する診察、最後にお姫様抱っこの上スクワットで筋トレという訓練メニューになっている。

 
夕陽さくらちゃんのボディは首にVive Tracker、足にViveコントローラがついた状態。首にはBluetoothスピーカーが配置されており、リアルSpatial Audioになっていた。右手は肩の下、左手は膝裏に回して抱えるとボディの重みのほか、腰の角度や膝下がプラプラするリアリティに非常に緊張した。

 
やっとのことで椅子に座らせると今度は聴診器の診察、押し当てることを検出するスイッチとバイブの組み合わせによりリアクションがきちんと返ってくるため、「胸にあてる」→「ドクドク振動が来る」→「ビビって離す」→「いや離したら診察にならないじゃないか」みたいにオタオタしてしまった。

 
また、事前にチームビルディングを行ったチームが多い中、このチームは当日結成して、「たまたま上半身の人形を持ってきた人と下半身の人形を持ってきた人が居て試しに合わせてみたところ、ぴったりだった」という奇跡のコラボレーションができたとのこと。筆者はこれが一番気に入った。

 
最優秀賞:チーム名「夜のくまさんチーム」

HTC ViveとPerception Neuronを使用。タイトルは「再現VTRメーカー」。Vive Trackerも用いて複数台の連携というハードウェアシステム的にもボリュームのある本デモは、事件の再現VTRを作成するというアプリで、電車内で痴漢する側と痴漢される側を担当し、それをVive Trackerをつけたカメラで近寄ったり、電車の外に離れたりして撮影することができる。

 
Perception Neuronは全身に使いたかったとのことだが、最終的には上半身のみの装着となっており、絶対座標のトラッキングの目的か、腕にもViveコントローラをテープで巻きつける形で装着している。

 
また、電車での痴漢シーン再現のみではなく、同車両に乗車していたイケメンに途中で痴漢を止めてもらった後で、自宅に紹介の上手料理を振る舞うところを痴漢に邪魔されるというコミカルなシナリオもついていた。パッド入りの下着とウィッグを用意していたため、プレイ時の絵面のインパクトは強かったが、技術観点でもシナリオ観点でもボリュームがあって、さらに社会課題への応用も見えていると、最優秀賞納得のコンテンツであった。

 
 

他チームのピックアップ

入賞には至らなかったが、面白い成果が多数展示されていたので、一部をピックアップしてお届けする。

 

こちらはユニティちゃんシェーダー2.0を夕陽さくらちゃんと夕暮れ時の部屋に適用させた、絵作りのデモ。撮影工程でエフェクトの入ったアニメのワンシーンのようで、自分の頭がカメラになった気分で人力PANをすると雰囲気が出て面白かった。

 

ロボットアームを利用したポッキーゲーム。人工唇の素材が用意されており、最後のアクシデントまで楽しむことができる。

 

こちらはUnityのエディタ拡張で、操作フェーズに応じて夕陽さくらちゃんが褒めてくれたり、次にやるべきことを教えてくれる。iPad Proのサイズとスペックを活かしたリニアレンダリングでまばたき・呼吸モーション入りの1/1スケールはディスプレイ表示ながらリアリティがあり、ぜひ未来のAIホームエージェントはこのクォリティで動作してほしいと感じた。

 

こちらはVive複数台を使った対戦型ペイントゲーム。Gになって水着のさくらちゃんにペイント弾を打ち込んでボディペイントをする側と、Vive Tracker複数台を装着の上、全身トラッキングしたプレイヤーが夕陽さくらちゃんになってスリッパや殺虫剤でGを退治する側に別れて対戦する。ボイスチャットも実装されており、相手側の悲鳴が聞こえてくるのも良かった。

 
 

まとめ

長いチームは5月から、当日は朝8時から受賞式が終わりの22時まで全力を尽くした大規模なハッカソン。参加者、スタッフ、審査員、当日会場には居なかった方々も含め、素敵なイベントを実現した関係者の方々には賞賛を送りたい。特に19時の体験会開始から審査員5名による全24コンテンツの体験・審査検討・受賞式までのラスト3時間は、力尽きてソファーや椅子で爆睡する方々も散見され、当日現場に居た人しか味わえない高密度なクライマックス感があった。

 
最優秀賞チームは東京ゲームショウ2017で展示を……という話であったが、残念ながらイリュージョン社の出展は諸事情により見送られることになったと表彰式の場で発表された。代わりに、別の形でハッカソン成果物の展示会が開催されるかも、という噂を聞いたので気になる人は期待して待たれたし。

 
 
(TEXT by ようてん、Photo by きゅう

 
 
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