21世紀版「ウルティマオンライン」を目指して──新CTO・蛭田氏就任のモノビットに聞くVR MMOの夢

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筆者(広田)は4年ほどVR業界を取材しているが、面白いのはVR/AR/MRに関わった多くの人物が職を変えているという現象だ。よりよい開発環境を得るために、会社をやめて独立したり、転職したりと非常に激しい動きを見せている。

 
最近で言えば、通信ミドルウェア&総合サーバーパッケージ「モノビットエンジン」で知られるモノビットに、蛭田健司(ひるたけんじ)氏がCTOおよび事業戦略室室長して就任したことがニュースになった。セガで「あつまれ!ぐるぐる温泉」や「サクラ大戦2」、コーエーテクモで「無双」シリーズ、ヤフーでプラットフォーム事業を手がけてきたという業界20年の蛭田氏も、そんなVRの「魔力」に吸い寄せられたのだろうか!?

 
しかも、モノビットとしてはCTOとして中嶋謙互(なかじまけんご)氏がいる上での「ダブルCTO」体制だ。中嶋氏はオンラインゲーム黎明期に国産MMORPGで多数採用された通信用ミドルウェア「VCE」を手がけ、スクウェア・エニックス・ホールディングスの子会社でクラウドプラットフォーム事業を準備していたShinra Technologiesにてクラウドゲーミングプラットフォームの開発にアーキテクトとして参加していた人物だ。

 
さらに今年4月には、スクウェア・エニックスで「スターオーシャン」シリーズや「ヴァルキリープロファイル」シリーズなどを手がけて来た山岸功典(やまぎしよしのり)氏がVRゲーム事業部部長として加わるなど、同社にゲーム業界の「英傑」が集結している。

 
VRでは、Unity向けVRボイスチャットミドルウェア「VR Voice Chat with MUN」をリリースしてミドルウェアの印象が強いモノビットだが、代表取締役の本城嘉太郎(ほんじょうよしたろう)氏によれば、長期的にはゲームとしてVR MMOの提供を目指しているとのこと。なぜVRでMMOなのか? どんな布陣と戦略でその壮大な目標を達成しようとしているのか。蛭田氏を中心に、本城氏、中嶋氏、山岸氏をグループインタビューした。

 

写真左より山岸氏、蛭田氏、本城氏。中嶋氏はリモートワークの富山からSkypeにて参加。

 
ちなみにみなさんの人生で一番好きなゲームを聞いたところ、山岸氏は「メトロイド」で、当時、構造から全体の作り方からバグの無さも含めてつくれと言われても絶対無理だと感じた「神ソフト」だったという。蛭田氏は「グランディア」で、「フィーナを返せ!」というセリフが本当に心に刺さったとか。本城氏は「ウルティマオンライン」で、あまりにハマり過ぎてテレホーダイを解約して「UO断ち」に成功したとのこと。

 
 

VR MMOを目指してのダブルCTO体制

──蛭田さんがCTOに就任されたのは、どういった経緯からでしょうか?

 
本城 今回、蛭田には僕が声をかけたのですが、その先にはVR MMOがあるんです。

 
──御社でミドルウェアだけでなく、VRゲームまでつくってしまうという?

 
本城 それを目指しています。ミドルウェアももちろん開発していきますが、僕の昔からの夢が21世紀型の「ウルティマオンライン」をつくることなんです。19歳の頃に出会って感動して、「これをつくるしかない」と思い込んで、その夢を実現するためにモノビットをやってきています。

 
──VRの中で何かをつくって売り買いして、みんなで暮らすみたいな?

 
本城 まさにそうです。今、VRというと、Oculus RiftやVIVE、PlayStation VR、Gear VRなどを想像すると思いますが、機材の進化レベルで言えば、まだ携帯電話が巨大な百科事典のようなサイズだったころと同じイメージです。確かにできないことができるようになったことは素晴らしいのですが、一般の方が快適に使えるレベルに達するにはまだ改善の余地があって、このまま普及していくとは思っていない。

ただ、携帯電話がスマートフォンになって進化していったように、4、5年後かその先には、VRはみんなが当たり前に持つデバイスになっている。プレイヤーの頭や手の位置をトラッキングして、現実世界にオーバーレイするか、完全に没入するバーチャル空間をつくるかして、何かをプレーするという時代は確実に来ると確信しています。そこに向けて一番早く、ど真ん中のコンテンツをつくっていきたいんです。

 

 
──VRにおいてMMOが来るというのは、少し前にインタビューしたgumiの國光さんも同じことを言っていました

 
本城 今、PCオンラインにおいてMMOの市場はかなり大きいですよね。ニーズが完全にある人気ジャンルで、かつコミュニケーションをベースにしているゲームということでVRと相性がとてもいい。さらにVR MMOって、バーチャル空間でみんなが集まって勉強したら教室になりますし、飲み会をやったら酒場にも変わる。イベントや展示会もできるし、非常に適用範囲が広いんです。ど真ん中にはMMOがありますが、その技術をゲームじゃないところでみんなの生活に役立てることもできます。

 
──確かに。Facebookの「Facebook Spaces」を始め、VRでは「場」をつくるソリューションが多く出ています。

 
本城 はい。そのVRMMOをつくっていくうえで、まず通信まわりに関しては、日本で第一人者といえるCTOの中嶋に開発を託しています。

 
中嶋 私は2016年6月からモノビットに参加して、ミドルウェアの抜本的な設計の刷新を担当しています。そのひとつの成果が、UDPにも対応し、CPUの使用率もメモリーの消費量も大幅に改善して軽量化された通信の基本エンジン「モノビットエンジン2.0」のリリースです。これがひと段落して、今夏の終わりをめどに、この製品をインストールしなくてもクラウド上から使えて、かつ負荷具合に合わせてサーバーを増減してくれる新製品を開発しています。

私と本城が、MMOでゲームにのめり込んだこともあって、MMOをスムーズにつくれるという設計で、かつ現在主流であるリレー型のMOタイプのゲームにも対応できる思想です。それを各クラウド向けにつくりつつ、UnityやUnreal Engineなど必要とされるゲームエンジンにも対応して、ゲーム機でも動かせるようにしていきます。さらにその先は、VR MMOをスムーズにつくれるエンジンとして、さらに遅延を減らしたり、ボイスに特別な処理を加えたり……という予定です。

 
本城 そうしたサーバーについては、非常に信頼のおけるものを開発しているのですが、やはり大人数で、しかももともと描画負荷が高いVRとなると、クライアント側の対応も重要になってくる。そこで描画周りの最適化に長けた蛭田にCTOをお願いした次第です。

 
──なるほど。しかし、ダブルCTOって結構珍しくないでしょうか?

 
本城 僕的には自然な発想で、中嶋に相談したときにも「海外の大きな会社ではジャンルごとにCTOがいるのが当たり前なのでいいと思いますよ」という話がありました。VR MMOをつくるうえで、ネットワーク通信と描画におけるクライアントの最適化はまったく違う分野なので、それぞれのCTOが必要という考え方です。

さらに言うと、今後弊社がエンジンを販売していったり、組織として大きくなっていったりするにあたって、蛭田が担当して来た人材開発のノウハウも役立っていくと考えています。

 
 

「現場」が楽しくて一番に出社してしまう

 
──そんな蛭田さんがモノビットさんに入るにあたって、何が一番の魅力的だったのでしょうか?

 
蛭田 非常に難しい質問ですが、やはり私の持ってる得意分野が一番お役に立てる会社だなと感じたことです。弊社はCTOの中嶋を筆頭にオンライン通信のすばらしい技術を持っていますが、当然ネットワークライブラリだけでゲームができるわけではありません。モノビットはゲーム開発もやっているということで、今までやってきた高速化や最適化でお役に立てるところが大きいかなと感じたところです。

 
──仕事自体に魅力があって、かつ自分が最大限の力を投入できる分野という。

 
蛭田 そうですね。本城が信頼してくれて、色々と任せてくれるので思う存分できるのがありがたいです。本当に毎日楽しくて、毎日一番乗りで会社に来ていたり(笑)

 
──なんと! CTOがそんな新人みたいに。

 
蛭田 鍵開けて、電気つけて……と。まだ入社1週間ですが、ヤフー時代はプラットフォーム側でもちろんそれもワクワクする仕事なのですが、久しぶりに「現場」で開発できるのもすごく嬉しいです。

 
──いいですね!

 
蛭田はい!毎日ニヤニヤしながら仕事してます。

 

 
──蛭田さん自身は、どんな経歴なのでしょうか?

 
蛭田 セガやコーエーテクモ、直近ですとヤフーに勤めてきましたが、開発だけでなく、プロモーションや経営といった幅広い立場でゲーム事業に関わってきたのがユニークだと思います。ちょうど1年ほど前には、業界を俯瞰する「ゲームクリエイターの仕事 イマドキのゲーム制作現場を大解剖!」といった書籍も書かせていただいて、ゲーム開発者の集まりであるIGDA日本にて推薦図書の1位に選ばれたこともあります。CEDECやUniteなど講演も多く行ってきました。事業の新規立ち上げや組織力の強化というのが得意分野ですね。

 
──自ら新ジャンルに飛び込んでいく感じという?

 
蛭田 まさにそうです。コーエーテクモで「無双」シリーズを制作していたときも、誰も手をあげなかった「真・三國無双Online」の技術責任者に立候補しましたし、カナダスタジオへの出向も希望して行きました。

 
──モノビットさんのCTOも、VR業界がまさに新ジャンルで、まだまだ伸びる余地があると感じたから?

 
蛭田 それもあります。やっぱりVRの、特にBtoCはもっと伸びると考えています。その成熟していないところを切り開いていくのはとてもやりがいがあります。

特に3Dグラフィックの表現については、セガサターン時代から取り組んできたことです。iPhone向けレースゲーム「ACR DRIFT」では、ハードの限界までグラフィック表現に挑戦して、日本のゲームで初めてApp Storeの全世界フィーチャーの枠を獲得しました。VRでもグラフィックの描画負荷が高くなりがちですが、そこはまさに昔の貧弱なハードで3D表現をやろうとしていた頃のノウハウが生きる部分です。

オンラインゲームという点でも昔からやっていて、例えばドリームキャスト向けにリリースされた「あつまれ!ぐるぐる温泉」というテーブルゲームで、サブリードプログラマーを勤めました。実はこれが世界初のコンシューマー向けクライアント/サーバー型ゲームなんです。

 
──えっ、そうなんですか!?

 
蛭田 遠隔対戦はメガドライブの時代からありましたが、それまではインターネットではなく、電話回線で直につないでいたんです。それがドリームキャストでモデムが標準搭載されて、初めて実現できた。そのあとコーエーテクモで「真・三國無双Online」」の技術責任者を担当して、なんと10年以上運営が続いています。

カナダでは、PSP移植版の「無双OROCHI」にて、まったくオンライン対応されていなかったところから、私1人で3週間でオンライン協力モードを完成させました。これもオンラインゲームを昔から手がけていて、熟知できたからこそ実現できたことだと思っています。もうひとつ、AIの技術についても昔からやっています。

 
──AIまで!

 
蛭田 大学院では人工知能専攻で、コンピューター将棋のプログラムを自分一人でつくっていたのですが、もともと将棋を指していたこともあって、第十回世界コンピューター将棋選手権にて何十人も関わってつくり続けて来た研究室の将棋ソフトよりいい成績を残せました。

「あつまれ!ぐるぐる温泉」の将棋におけるコンピューター対戦のプログラムも私が手がけていますし、「サクラ大戦2」や「真・三国無双」シリーズのAIも私が手がけています。その辺もモノビットでお役に立てるところだと思っています。

 
──本当に色々やってきてるんですね。

 
蛭田 さらにヤフーだけでなく海外拠点でも責任者をやってきたという経歴なので、今回CTOだけでなく、事業戦略室室長も任せていただくことになりました。VR MMOなどの目標に向かって、今、どんな仕事を受託するのか、それとも自社開発にリソースを割り振るのかといった判断を行います。技術的にも、事業としても、実際に実現可能なオペレーションレベルまで落とし込んで、明確化させる役割を担うということです。

 
──それもいくつかの企業とその現場を渡り歩いていた人脈が生かせそうですね。

 
蛭田 20年以上やってきて、本当に色々な会社さんに助けて頂いていて、それも私にとって強みというか、ありがたい支えだと感じています。

 
 

ロケーションでのテストを実施予定

 
──山岸さんはどういった形で関わっていますか?

 
山岸 もともといたスクウェア・エニックスではずっとRPGをつくってきたのですが、将来を見ると先ほどから話題になっているようにVRのMMOは必然ででてくるものだろうなと。もちろんハードの普及は必要ですが、今から下地をつくって、基礎固めをして、いつでもVR MMOに移れるようにしておくのが一番いいやり方かなと思って、つくり始めています。

 
──現状、もうデモで遊べたりしますか?

 
山岸 はい、デモもできています。構想だけは今から立てておいて、あとはVRを使って実際に人間が動き回った時にどんな反応をするのか、酔いの問題はどう解決するのか、本当に疲れないでずっとやれるのか……といった、調べておかなければいけないことが多々あります。とりあえずつくっておいてロケーションベース(アーケード)でお披露目させていただいて、プレイヤーの反応を見たり、ビジネスとして成立するのかを見極めようと今進めているところです。

 
本城 ここから先、MMO型のRPGの一番ミニマムな形になるはずなので、その実験も兼ねてのロケーション展開です。

 

 
──内容としてはどういったものになりますか?

 
山岸 HTC VIVEを使って、最大4人でプレーしながらバーチャル空間に隠された謎を解いて宝探しをする、いわゆる脱出型ゲームです。途中、スケルトンなどのモンスターも襲ってくるので撃退しつつ、罠を回避しながら鍵を見つけたりして次の部屋に進んでいきます。

 
──正統派のRPGだ!

 
山岸 それを4人くらいで一斉に遊べる。今いくつかのバリエーションがあって、ここからさらに改良に改良を重ねて、最終形はまた違った形になっていくと思います。

 
──VIVEというと最大で対角5mのバーチャル空間を歩き回れる「ルームスケール」ですが、そうしたひとつの空間を自分の足で動き回って遊ぶ感じでしょうか?

 
山岸 いえ、それ以上の空間を動き回れるようになっています。現状はコントローラーのタッチパッドを押すことで、ワープ移動するのではなく、ゴーグルが向いている方向に少しずつ進んでいく感じで、特にVR酔いしないようにチューニングしています。

 

最新版では「Trip Trap Travelers」というタイトルに変更された。

 

親指部分のタッチパッド前方をクリックして、目線の方向にサクサク移動できる。さすがのチューニングでVR酔いしやすい筆者でも、まったく気持ち悪さは感じなかった。ちなみに近距離なら歩いて移動することも可能だ。

 

デモとはいえ、全体的にグラフィックも手が込んでいる。

 
──話は変わりますが、長年ゲーム業界で関わられてきた方々が、続々とVRに関わるようになっているのが不思議ですね。

 
本城 VR以前、ゲーム業界ではスマホゲームを当てて大きくなることをみんな目指していましたが、ここ2、3年でスマホゲームの投資規模が大きくなりすぎて、もはやベンチャーが戦える市場ではなくなってしまいました。もう1度、スタートアップでも勝負できて、急成長のカーブを描けるような、やりがいのある技術が出てこないかとみんなが待っていたそのときに、センセーショナルに現れたのがVRでした。

 
──みんなやっぱりVRの原点があるんですね。蛭田さんもありますか?

 
蛭田 そうですね。私がゲームを開発し始めた理由が、子供の頃にひどいぜんそく患者で、好きに外で遊べなかったんです。ただ、ゲームの中では自由に飛んだり跳ねたり、空だって飛べてしまう。そういうこともあってゲームにすごく救われたんです。

だから自分がつくるゲームでも、世の中の人に同じように救いになって欲しいし、心から楽しんで欲しいっていうのが自分の中でのモチベーションになっています。今の主流はスマホゲームですが、VRの世界ならより私が救われたような体験を伝えられるんじゃないかというのは思ってるところです。

 
──いい話! しかし、VR業界の人は取材すると面白いし、才能が集まってきている印象です。

 
本城 本当に今がいいタイミングだと思います。早すぎても、遅すぎてもよくないですし。

 
蛭田 今こそっていうのは感じてます。

 
──2、3年前は本当に早くて、その魅力はなかなか誰にも理解されなかった。それが今やテレビなどでも扱われて「VRというものがある」という認知度になってきている。

 
本城 僕の中では2015年の「サマーレッスン」のPVが衝撃で、VRによってキャラクターの魅力ってここまでアップするんだなと、「これは来るな」と実感しました。それからずっと「これからVRやるんです、絶対きますよ」という話をしてましたが、半分以上の人は反応が鈍かった。それが去年の後半以降、誰に聞いてもVRをやりたいと言い始めてきてます。弊社としても全力で取り組んでいきますので、まずはロケーションでのゲーム展開についてぜひご期待ください。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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