13歳以下のOculus Rift利用は是か非か? 医学的見地から考えるVRの年齢制限

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Oculusが公開しているベストプラクティスガイドの中に「13歳以下の小児は当製品を使用すべきでない」との記述があることは、VRコンテンツのクリエイターにはよく知られた事実です。

 
その理由として、当該文章の中では「13歳以下の小児は視覚の重要な発達時期にある」ことが挙げられていますが、それ以上の詳しい根拠は述べられていません。これについて、11月7日に開催されたVRCカンファレンスでは、大阪大学大学院医学系研究科・感覚機能形成学の教授を務める不二門尚(ふじかど たかし)氏による講演が行なわれ、医学的見地からの具体的な情報が明らかになりました。

 
 

VRでは表示パネルにピントが固定されてしまう

 
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大阪大学大学院医学系研究科 不二門尚氏

 
「HMDのガイドライン─小児の輻輳・調節、眼球運動の発達の観点から」と題されたこの講演では、3DテレビやVRHMDによる人工的な立体視について、視線の位置(輻輳)とピント(調節)が日常と一致しないことを問題点として挙げています。

 
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立体感は、2つの目から得られる視差を脳内で組み合わせることで得られます。

 
現実とVRは、立体感・距離感を得るために両眼視差を用いるという点で共通していますが、映像が光学的に実際に存在する位置、つまりピントを合わせるべき位置が異なるというのがポイントです。現実では融像位置(両目の視線が交差し結像する位置)とピント位置は比例していますが、VRでは映像は常に表示パネル上に存在しているため、ピントが一定距離に固定されることになります。この違いが、日常と異なる眼球と水晶体の動作を利用者にもたらし、個人差はありますが、違和感の原因となります。

 
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両眼視差を用いる立体映像は、日常とは異なり、ピント位置が固定となります。

 
その一例が次の図です。これは注視する対象(視標)の距離を変化させながら両目の角度(輻輳)とピント(調節)を計測したものです。左図は、実視標を遠→近へと移動させた場合の輻湊と屈折度の変化(調節)を示しています。ここでは輻湊が視標距離に応じて変化し、調節もそれに応じて変化しています。

 
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人工的な立体映像における、ピントの調節と視線の輻輳の連動を示したグラフ。

 
右図は3D視標を見た時の輻湊および調節の変化を示したものです。輻湊は、実視標と同様に変化していますが、映像の表示位置は固定であるため、調節は過渡的な応答の後は画面上にピント合うように戻り(矢印)、輻湊と解離します。

 
このように、眼球の2種類の運動、すなわち輻輳と調節は、本来なら適切に連動するようになっています。VRではそれとは異なる動きを眼球に強いるため、長時間の使用を行なうと、一時的に日常視の変化を来す場合があります。講演資料では「近見視力の低下」、「輻輳近点の延長」、「遠見時の眼位の内斜偏位」といった症例が挙げられています。ただし、これらの影響はVR視聴後、10分ほどの休憩でほぼ正常に戻るようです。

 
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80分間のHMD視聴を行なった後、短時間ながら現れる視力への影響
 
一方、成長過程にある小児では、長時間のVR利用による影響が長期間あるいは不可逆的になる場合があります。講演では、正常な4歳11ヶ月の小児に3D映画(飛び出す表現が多いもののようです)を視聴させたのち、急性内斜視を発症した例が紹介されていました。この例では回復に手術を必要としたとのことで、小児のVR利用には慎重になるべきという論も頷けます。

 
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3D映像の長時間の視聴により、急性内斜視を発症した例。

 
では、VR利用によって影響を受ける部分である立体視能力は、どのような年齢で完成するのでしょうか。不二門氏の講演によれば、これは2つの要素に分けることができます。立体視能力に関する脳の発達と、頭蓋骨の発達による瞳孔間距離の増加です。

 
前者については、正常者ではおおよそ6歳までに成人と変わらない機能を獲得するとのことです。例えば、乳児・小児期に発症する内斜視は、この期間内であれば治癒・矯正できるといいます。裏を返せば、6歳までの期間では不自然な立体視環境による悪影響が永続してしまう可能性もあるということです。

 
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およそ6歳までの小児は立体視能力の形成期にあると考えられ、内斜視の治療はこの期間内に行なうことが効果的とのことです

 
後者の瞳孔間距離の変化は、肉体的な成長に属する部分です。不二門氏による講演では、およそ13〜14歳まで増加していくというデータが示されています。OculusがVRHMDの使用について13歳以下を非推奨としている理由は、このあたりにあると考えられます。

 
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瞳孔間距離はおよそ13〜14歳頃まで、年齢とともに大きくなっていきます。

 
不二門氏の講演のまとめとしては、6歳までの小児は立体視の発達過程にあるため、HMDの使用は慎重になるべきとしつつ、13〜14歳頃まで増加する瞳孔間距離への対応については、瞳孔間距離を考慮したHMDの開発が必要、としています。

 
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不二門氏による小児のHMD利用についての見解。6歳以降13歳以下の小児については利用可能なニュアンスがあります

 
補足すると、瞳孔間距離の調整機能がないOculus Rift DK2やGear VR等では、確かに13歳以下の使用は避けたほうがよさそうです。しかし、Oculus Riftの製品版やHTC Viveでは瞳孔間距離の調整機能がついていますので、7歳以上であれば大きなリスクなしに利用できるかもしれません。

 
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Oculus Rift製品版。瞳孔間距離調整用のノブがついています。

 
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HTC Vive。こちらも瞳孔間距離の調整が可能です

 
冒頭にご紹介したOculusのベストプラクティスガイドでは、小児の利用について言及している健康と安全についての警告の章について、「正確性と完全性を高めるために適宜更新される」としています。現在のガイドラインがOculus Rift DK2などの開発版を前提としているのであれば、Oculus Rift製品版の発売に合わせて13歳以下の利用についてもある程度容認する方向に改定される可能性はあります。このあたりは、医学的根拠と最新の技術仕様に基づく正確な規制を期待したいところです。

 
(文/佐藤カフジ

 
 
●関連リンク
不二門 尚氏
VRCカンファレンス2015

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