拡張現実で世界を変えるーNianticのCEDEC基調講演「GO OUTSIDE! Adventures of foot」

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8月30日より9月1日までパシフィコ横浜で開催されたコンピュータエンタテインメントの「CEDEC 2017」。9月1日には「Ingress」「Pokémon GO」を開発したNiantic, Inc.の川島優志氏・野村達雄氏による基調講演「GO OUTSIDE! Adventures of foot」が開催された。

 

右がNiantic, Inc.のアジア統括本部長、川島優志氏。左がNiantic, Inc.「Pokémon GO」シニアプロダクトマネージャーの野村達雄氏。

 

まず最初に台北での「Pokémon GO」のロンチの映像が流れた。ちなみに「Pokemon GO」はその国での正式配信が行われるまでポケモンの出現はしない(海外アカウントを用いてアプリを獲得しても出ない)仕様となっており、日本ロンチ直後とはいえ、この盛況ぶりははなかなか凄かった。

 

まずはNianticの出自について、写真の人物である創設者・CEOのJohn Hanke氏の話題から入っていった。彼は世界初(「ウルティマオンライン」よりも早い)商用MMORPGの一つとなる「Meridian 59」(当時の発売元は3DO)の開発を経てデータビジュアライゼーションのKeyholeを設立。その後KeyholeはGoogleに買収され、Google Earth/Google Mapの開発に携わる。2010年にGoogleの社内スタートアップとしてNianticを立ち上げた。

 

PC・タブレット・スマホが普及する現代社会では大人がモニターを見ている時間が9時間、子供が3時間、その結果十分な運動量を取れてない人が80%、健康被害で死亡する人が5700万人に達しているという。これはいけない、ということで……。

 

15分で行ける距離を6倍の1時間半かけて歩こうとという考えから……。

 

外に出る→運動する→探す→共有する、という過程を経て世界を変えていこう、というのがNianticの目的となった。

 

運動するためのモチベーションを提供し、人々とつながり、現実世界を再発見することで世界を変えていく。その目標として1億回の意味のある新たな場所へのインタラクション、25万人のイベント動員、3000人が週に3km歩くことを目標とした。

 

Field Trip on Glass

こちらはNiantic設立当初に作られたアプリ「Field Trip」。現在もNianticに移管され配信が続けられている。Glass向けにだったが、現在はスマートウオッチにも対応している。

 

こちらは「Field Trip」からの反省点。

 

 

そして次に開発したのが「Ingress」。2つの陣営に分かれてポータルを取り合う陣取りゲーム。この試みは見事に成功し、飛行機で世界各地に向かってポータルを取り合うこともあったとか。

 

日本でも独自にグッズが作られるようになって知名度も上がってきている。

 

 

 

 

 

 

 

「Ingress」のファクトいろいろ。なお、日本では「デートした」という設問は10%程度に下がるとか。また上の画像にある1000ドル以上使ったというのはゲームの課金ではなく旅費のこと。

 

 

 

 

こんな大トライアングルを作るためにインド、オーストラリア、韓国のプレイヤーが協力している。

 

その後、それに参加した韓国のプレイヤーが火災にあうも、プレイヤーの意思で資金を集めて家の再建をしたという。

 

赤十字と組んでプレイヤーが献血を行うイベントをマレーシアで実施。日本でも日本赤十字社との協力でイベントが行われている。

 

 

日本での「Ingress」公式イベントは今でこそ1万人規模だが、2014年3月の日本初のイベントは30人にも満たなかったという。

 

「Ingress」の成功に沸くNianticのメンバーだったが、次のプロジェクトはGoogle Mapの2014年エイプリルフール「ポケモンチャレンジ」をベースにしたものにしようと考えた。これは実際に世界の地図にポケモンを配置し、それを探すというものだ。

Google Maps: Pokémon Challenge
PVでは実際の「Pokémon GO」のような過酷な現地取材が行われている……。

だが、Nianticにはここで重大な岐路が発生する。Googleに残りAndroidのチームに所属するか、IPO(Initial Public Offering)し独立するかの2択を迫られたのだ。結果としてチームの半分はGoogleに残留、サーバなどの資材はなくなり、独立企業となってしまう。大企業の後ろ盾のない独立した中小企業になってしまったNianticだがそれでも任天堂とポケモンは同社に資金面を含めた協力をしてくれたという。

 

 

ここで野村氏にバトンタッチ。野村氏はもともとGoogleでGoogle Mapの担当をしていたが、エイプリルフールのネタ担当も兼任しており、「ドラクエマップ」(2012)、「トレジャーハント」(2013)を経て、半ば冗談で「エイプリルフール担当」と言われていたらしい。

2014年は何にするか、といったときに野村氏が考え付いたのがさきの「ポケモンチャレンジ」となる。これはたまたま、「ポケットモンスター」シリーズの版権管理・ゲーム発売元を担当する株式会社ポケモンがGoogle日本オフィスと同じ六本木ヒルズにあったこともあってか、比較的スムーズに話が進んだという。

「ポケモンチャレンジ」においては火山の近辺にほのお系のポケモンが出たり、ミュウ(「ポケットモンスター赤/緑/青/ピカチュウ」でのレアポケモンで通常のゲームプレイでは入手不可能)をブラジルに置いて、150匹ゲットしないと出現しないなどを実装していった。これは当時のゲームプレイの噂を再現したかったから、とのこと。

 

それを経て、Nianticのポケモンプロジェクトの話を川島氏から聞かされた野村氏はNianticに合流。リアルな世界でポケモンを捕まえる新規ゲーム「Pokémon GO」の開発に携わることになる。

 

「Pokémon GO」のファクト。150か国以上・7.5億ダウンロード。プレイヤーの歩いた総距離は160億kmにのぼる。なお、リリース時は日本が後回しにされたこともあって誤解もあったようだが、基本的には出せる国には全部出す、ということだそうだ。

「Pokémon GO」の成功要因として、まず「ポケモン」という強いブランドがあったから、というのが一つ。「ポケモン」は今年で21周年、現在は日本や欧米はもちろん、繁体中国語版も発売されているゲームであり、TVアニメ、映画、キャラクターグッズなどポケモンを目にしない日はほぼないくらいのコンテンツに成長している。

そのため、どの媒体からでも「ポケモン」を知っている人ならだれでも遊べる、ということをコンセプトにしており、ゲームをあまり遊ばない人のためにUI・メニューなどもできる限りシンプルにする必要があったという。

 

 

 

「Pokémon GO」のヒットした理由のもう一つが拡張現実(AR)であることも忘れてはならない。ARではGlassやHoloLensなどの外部機器がメジャーではあるものの、スマホなどで展開しているアプリも多い。

 

 

 

 

「Pokémon GO」ではジャイロとカメラだけでARを扱うのが厳しい、と考えられたらしく、初期バージョンのポケモン捕獲シーンではGoogleストリートビューの画像にポケモンのキャラクターを張り付けていたのだが、当然ながら撮影した時間帯の写真しか出せないため、違和感が生じてしまった。

しかし、ある週末にエンジニアがジャイロとカメラによるARを使ったバージョンを開発しそれをデモしたところ、理想的なものだったことからこのバージョンを元に製作を進めていくことになった。また、反省点として「やる前から判断をしない/とにかくやってみてそこから判断しよう」ということも挙げられた。

 

もう一つの拡張現実の要素として、「ポケモンの生息地」があげられる。ゲーム中ではみずポケモンは川や海のような水のある地帯に生息することが多い。現実の上に「ポケモン」というゲームのルールにのっとったレイヤーがあるというのも「Pokémon GO」の成功の理由の一つという。

 

 

また、「Pokémon GO」で取り扱う拡張現実は“1つ”であることにも触れられた。MMO RPGなどではサーバー、つまりプレイヤーが集うワールドの増設は日常茶飯事だが、「Pokémon GO」では7億人以上のプレイヤーが一つの拡張世界の中でプレイする、という形をとっている。それはキャラクターによって発見できるポケモンが異なることを防ぐためだ。

 

しかし、それは一つのサーバに多数のトラフィックを送り込むことになる。ロンチ時は特にそれが顕著になりがちで、想定される最悪のケースを「ロンチ時目標の5倍」と見積もったところ、現実には即5倍をオーバー、結果的にはロンチ時目標の50倍以上に膨れ上がった。

なお、システムにはGoogleのクラウドサーバが使われており、スケーラビリティであることから大きな問題は発生しなかった模様。

 

 

「Pokémon GO」のトレーナー。「Ingress」同様公式・非公式を問わずリアルイベントが開催されている。

 

横浜スタジアムで開催されたミュウツーとのレイドバトル。

 

拡張現実の定義。ただ現実世界に何かがぽかりと浮かんでいるようなものだけではだめ、ということなのだろう。

 

80歳足腰の悪い女性が息子さんの協力を経て「Ingress」プレイヤーになったという図。チームメンバーにアップルパイを作ってあげる、ということがきっかけとなり「Ingress」プレイヤー同士の架け橋になっているという。

 
ARで重要なのはやはりプレイヤー、つまり人が動くことで拡張現実のレイヤーに影響を与える、プレイヤーの現実が拡張されるか、ということにあり、それはテクノロジーだけでは実現は難しい。

Nianticの出すタイトルで重要なファクターはどのように「プレイヤーの背中を押して」外の世界に冒険に出かけよう、ということになる。技術はもちろん必要だが、それはメインとして押し出していない。最後に川村氏は「Dreams Come True、現実世界と夢が混じっているような世界を作るために今後も邁進していきます」と基調講演を締めた。

強いIPがあってもそれを活かす術がなければ夢は半ばで終わってしまう。それをうまく実現できた背景には「Pokémon GO」での拡張現実のこだわり、表現のこだわりがあったからだろう。今後Nianticはどのような手段で世界を変えていくのか、にも期待したい。

 
*CEDEC 2017記事まとめはこちら

 
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