米VRアトラクション「The Void」 そのスゴさは「究極のポジトラ」と施設構造にあり

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2016年に米国ユタ州のソルトレイクにオープンを予定しているVRアトラクション施設「The VOID」。複数プレイヤーでVRゴーグルをかぶりながら、実際に部屋のドアを操作したりして施設を動き回りながら楽しめるというのが新しい。

 
このThe Voidに置いて、家庭向けVRゴーグルと一線を画しそうな技術が、無線のモーション&ポジショントラッキングだ。複数プレイヤーがバーチャル世界入って動き回って遊べるようにするには、ケーブルが邪魔になってしまうが、一体、どんな仕組みで排除しているのか。台湾在住で電子機器の動向に詳しいEjiさんに解説いただいた。

 
 

資金の支援を求めていたトラッキングシステム

 
「究極のディスプレーは、ある種の部屋になるはず。イスが提示されたら、座れなければならない。手錠が現れたら、拘束されなければならない」

 

 
「The ultimate display would, of course, be a room within which the computer can control the existence of matter. A chair displayed in such a room would be good enough to sit in. Handcuffs displayed in such a room would be confining, and a bullet displayed in such a room would be fatal. With appropriate programming such a display could literally be the Wonderland into which Alice walked.」

 
「The Ultimate Display」Ivan E. Sutherland,1965 (PDF

 

 
以上は、ヘッドマウントディスプレー(HMD)という概念の発端である。上記の部屋は究極の環境を再現するために、触覚まで完璧に提示された状態を想定している。

 
The VOIDのことを語る前に、VR業界の聖地のひとつ「MTBS3D」のフォーラムで起こったストーリーを知ってほしい。

 
2012年10月17日、「Krenzo」というハンドルネームのアカウントが「RF Tracking System」というタイトルでフォーラムにスレッドを作成。開発に2年を費やし、9割型が完成したというRF(高周波)ベースのポジショントラッキングシステムを明らかにし、資金が底をつきたと支援を求めていた。

 
通信方式は「UWB」(Ultra Wide Band、超広帯域無線)。例えば、無線LANのIEEE 802.11nの帯域幅は40MHzだが、UWBでは数千MHzもの広い帯域に拡散させてデータを送受信する方式になる。そのUWBを使うポジショントラッキングシステムは、消費電力が少なく、妨害電波にも強く、半径10メートル程度なら遮蔽物を無視して位置を検出できるというのが特徴だった。

 
そしてKrenzoは、2015年1月、大型のVRアトラクション施設をつくるビジョンが合致したThe Voidと契約することを発表。同時に技術詳細をスレッドから消した。そのとき世界は、何が起こるのかまだわからなかったのだ。

 
そして2015年5月、The Voidのティザー動画がYouTubeにて公開された。

 

 
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さらに2015年10月には、「UDEN 6」 (Utah Digital Entertainment Network)というセミナーに基調講演として招かれ、「The Full Promise of VR」というタイトルでThe Voidの詳細を明かしている。

 

 
 

全身の動きと位置をとれるRapture

 
The Voidのビジョンを実現するためのハードウェア群は、「Rapture」と名付けられている。

 
施設が開業予定の2016年は、Oculus RiftやPlayStation VRをはじめとする家庭向けHMDの製品版が発売される年だ。The Voidがアトラクション施設として成り立つためには、数段高い体験レベルを目指さなければいけない。そのため、家庭用では到底かなわない潤沢なデバイスにお金をつぎ込んで、質を高めることを基礎戦略にしている。

 
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以下、Raptureを構成する5種類のハードウェアを紹介していこう。Rapture HMDのスペックは10月29日、オランダのイベント「DUTCH VR DAYS」にて発表されたタイミングで話題になった。

 

*53分ぐらいから

 
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片目2Kという湾曲有機ELディスプレーと、専用開発の光学レンズ(The Voidが開発した双重レンズ:Lens-in-Lens design)を使い、180度の視野角を実現。前述したUWBのポジショントラッキングシステムも内蔵している。

 
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高音質のTHXヘッドフォンのほか、マルチプレイを主体にした独自の超高ゲインなマイクも内蔵。

 
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触覚フィードバックを実現するための「Rapture Vest」。5種類の触覚フィードバック、背中に専用PC「Raputue Backtop」を搭載しつつ、軽量化を図ったとのこと。

 
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手袋にも触覚フィードバックを内蔵。手の動きはカスタムのIMU(慣性計測装置)センサーでキャプチャーしている。

 
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アトラクションの世界観を再現するために、例えば、ライフルコントローラの「Rapture GUN」など、周辺機器としてさまざまな武器を用意している。

 
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PCは背中で背負うため、モバイルのHMDに比べると比較的レイアウトに制限が少ないが、それでも放熱対策は大事。

 
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プレイヤーを交代する際の利便性のため、バッテリーはホットスワップ可能とのこと。

 
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Raptureの核を支える、全身のポジショナルトラッキング技術の詳細も見ていこう。

 
1000MHzの更新率で、1mm以下のトラッキング精度を実現。Oculus Riftなどの赤外線センサーとは異なり、UWBなので遮蔽も問題も軽微で、発信機を施設の壁の上に取り付けておけばきちんとトラッキングしてくれる。

 
ちなみに電波帯域は独自で、既存の通信用技術とは互換性がないとのこと。ほかの無線機器との干渉を気にしなくて済むが、逆に言うとThe Voidにポジショントラッキング技術を囲い込まれてしまったわけで、単体でライセンスすることはかなり困難だと予測できる。

 
当初、自作したテスト機では、FPGA(回路)以外、高価なハード使ってないとのことで、使用パーツの単価は10ドルを超えてないはずだ。2014年頃にMTBS3Dに投稿されたスレッドの引用では、GHz(1000MHz)の帯域をオーバーサンプリングして扱い、低速なADコンバーターを多数施設の中に張り巡らせて、そのセンサーから得られたデーターを融合させて、大きなアンテナを使うことなく高い精度のトラッキングを実現している。

 

 
http://www.mtbs3d.com/phpBB/viewtopic.php?f=138&t=15623#p84751
「All of my hardware is custom built using electronic parts that are readily available on sites like Digikey. I think the most expensive individual part I’m using is $10. All of those circuit boards are designed and hand soldered by me except for the FPGA board. I don’t think there’s actually a receiver with that much resolution you can just go out and buy that’s cheaper than a thousand dollars. Designing it all myself allows me to keep costs way down compared to paying for hardware that others have developed and will keep the final system ore affordable than any other comparable system.」

 
http://www.mtbs3d.com/phpBB/viewtopic.php?f=138&t=15623&start=40#p121525
「It’s not optimized so the actual update rate is only around 20 Hz. I am aiming for 60 Hz in the final system.I’ve still only tested the range out to about 10-15 feet. 」

 
http://www.mtbs3d.com/phpBB/viewtopic.php?f=138&t=15623&start=120#p155218
「I’m not using any standards. Everything is wired together so I don’t need to do anything like that to figure out what components are in the tracking environment.」

 

 
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さらに全身のポジショナルトラッキングによって、手首、背中、膝などにマイクロRFセンサーを装着して、IKベースの姿勢測定も同時に実現している。手のみは、前述したように手袋が内蔵するIMUセンサーで指の動きを測定している。

 
 

テンプレートの活用で狭い空間を生かす

 
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ここまで来ると、最大の問題は施設の広さだ。The Voidの工夫について、DUTCH VR DAYSの講演者は面白い解説をしていた。

 
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ここに箱があります。

 
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箱の中にまた箱がある。

 
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さらに開けるとまぁ中は何もないが。

 
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あら、方向を変えたら……。

 
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外側の箱は裏側の箱に入れるんだ。

 
このアイデアは、The Voidの重大な戦略だ。どうやって比較的小さいな施設で、「広大なバーチャルワールド」を実現するか。

 
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「2日ください。少し考えます……と思ったら1日で思いついた」と持ち出したのは、この図面だった。図面を眺めて気づくのは、まず重複性が高いパーツ使いまわしてるということ。次に、直線な長廊で部屋をいくつにもわけている。建築としては中々見ない構造ですが、手品の種はこうだ。

 
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直線の長廊は、実は円形だった。VR上で観客に見せる映像は、実空間と一致してない。

 
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この概念を流用して、図のような空間をある程度無理やり入れます。

 
特殊な構造で広さ問題をある程度解決して、60フィート四方(約18m四方)という思ったより小さい空間になっている。

 
こうしたテンプレートのような構造は、同じ施設で異なるコンテンツを提供する上で非常に重要だ。過去にもVRアトラクションをつくった際、1タイトルにかけた莫大なコストが回収できないので、中々更新できないという問題があったが、The Voidでは汎用性のある構造で解決しようとしている。

 
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The Voidは、プラットフォーム自体もオープンにしようとしていて、サードパーティーも場合によってはVOID向けタイトルをつくれるとのこと。結局、チケットを売らなければ利益が出ないので、「お客に何度も来てもらう」ということが一番重要だ。

 
 
こうしてハードウェアや施設自体について知ると、The Voidの全貌が見えてくるはず。

 
同じVRアトラクションというと、オーストラアリアの「Zero Latency VR」が思い起こされるが、こちらはカメラでポジショントラッキングをするため、遮蔽物がない広大なホールを使わざるを得なかった。

 

 
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取得できるデータはプレイヤーの位置やライフルコントローラの方向で、プレイヤーの姿勢はバーチャル世界のアバターに反映されなさそうだ。

 
一方で、The Voidでは、遮蔽に強い無線のUWBベースのトラッキングなので部屋を複雑にできて壁やドアを触れる上、自分や仲間たちのアバターも姿勢がきちんと変わる。

 
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壁をなぞって進むプレイヤー。

 
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パネルをタッチでコントロール。

 
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これらは手袋のIMU&手首の無線トラッキングで実現できる。

 
家庭用のポジショントラッキング技術というと、「HTC Vive」が採用しているValveの「Lighthouse」が、部屋全体を歩ける「ルームスケール」をうたっている。このLighthouseでポジショントラッキングを実現しようとする施設も出てくるだろうが、正直、The Voidはこの界隈において数年先を行っている印象だ。

 
このUWBベースのトラッキングはおそらくThe Voidの独占で共有されないのが残念だが、その先進さを理解してもらえると幸いだ。The Voidは2016年開業予定となっている。

 
(文/Eji

 
 
●関連リンク
The Void

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