世界トップクラスの技術を海外に──新潟の建設会社・小柳建設が語るHoloLens活用の情熱

LINEで送る
Pocket

VR/AR/MRの技術というと、ゲームを始めとしたエンターテインメントで注目を集めているが、実は着実に定着しているのがビジネスの分野だ。

 
「あんなおもちゃみたいなゴーグル、本当に仕事に使えるの?」と思うなかれ。

 
例えば、ビルの3D CGデータは、平面のディスプレーに表示するより、ゴーグルをかぶって目の前にCGを出現させた方がデザインや構造を直感的に確認できる。原寸大で表示すれば、自分がその中に入って動き回り、広さや高さ、物の位置などをすぐに把握可能だ。不動産の内覧、医療トレーニング、旅行の観光地PR、製造の安全確認……。今後あらゆる業種でゴーグルで見た方が手っ取り早いものは、VR/AR/MRの活用が進んで行くだろう。

 
実際、先の建設の話はいくつかソリューションが出ており、MicrosoftのMRゴーグル「HoloLens」(ホロレンズ)で使える「Holostruction」(ホロストラクション)もそのひとつだ。開発したのは、新潟県三条市に本社を構える小柳建設(おやなぎけんせつ)。HoloLens自体はまだ開発者版で、日本でリリースされたのは今年1月だ。そしてHolostructionは、直後の4月というかなり早いタイミングで開発を表明している。

 

HoloLens。中にWindows 10が含まれており、3D CGを出現させるだけでなく、PCで見慣れたウィンドウを中空に出して扱うことも可能だ。

  

 

 
Holostructionの紹介動画。

 
筆者の偏見だが、建設といえばITなどに比べるとデジタル化があまり進んでいないアナログな業界という印象がある。逆に言えば、デジタル化することで仕事の効率を大幅にアップできる余地があるものの、そうした状況では得てして案件を通すために、まず決済権を持った上長に理解してもらうことのハードルが高い(そして頓挫することも多い)。

 
そうした逆境の中、なぜ小柳建設はHoloLensのような最先端の技術が導入できたのか。8、9日に開催された開発者イベント「Microsoft Tech Summit 2017」の場にて同社の代表取締役社長である小柳卓蔵氏をインタビューしたところ、若きリーダーの業界を変えたいという思いが浮かび上がってきた。

 
 

なくならないがゆえにICT導入が遅れる建設業界

──今回、HoloLenの導入に踏み切ったきっかけは?

 
小柳氏 根底にあるのは、私自身が建設業のアナログな仕事の進め方について「もっといいやり方があるのに」と感じていた思いです。そこでHoloLensに初めて出会った際、「これはぜひやりたい」と即断して導入の話を進めました。

 
──HoloLensのどこに魅力を感じました?

 
小柳氏 本当にすべてを直感的に見られて、操作についてもみんなが使えると感じたからです。建設ではそもそもデジタル機器の扱いに慣れていない人も多いのですが、HoloLensでは手のジェスチャーで操作できるので理解しやすい。

みんなで同じ建設データを共有して体験できるところも素晴らしいです。今回のTech Summitで発表した新バージョンでは、遠隔地にいる人をアバターとして出現させて、まるで目の前にいるような感覚で言葉でコミュニケーションしながら確認作業を進められます。生産性、安全性、透明性という部分で群を抜いてるので、もうこれしかないなという思いで取り組んでいます。

 
──小柳建設は、Holostructionの前から新技術の採用に積極的な会社だったのでしょうか?

 
小柳氏 そうですね。色々探していて、HoloLensも昨年7月に海外で見せていただきました。弊社は新潟の会社ですが、今の日本の状況ではこれから東京に進出しても……ということで海外展開も視野に入れて視察していたんです。

 
──そもそもの話として、建設業界はどんな現状なのでしょうか?

小柳氏 まず人材の確保が難しい状況にあります。特にちょうどバブル崩壊後に就職活動をしていたわれわれ30、40代やリーマンショック後の世代は、大学の土木工学科や建設工学科を出ても仕事がないから、建設会社に就職せずに他の業界に行ってしまった。だから絶対数がいないんです。

 
──高齢化が進んでいるという。

小柳氏 そもそも建設に行こうという人もだんだんいなくなっている。だからこそ、まだまだ新しいことに挑戦できる魅力ある業界だよと可能性を見せるために、HoloLensのような新技術が必要なんです。

 
──日本では電機メーカーでも大手が撤退してますし、自分の出版業界も斜陽と言われて久しいです。

 
小柳氏 でも建設は、絶対なくならない業界なんです。災害があれば復興しなければいけないし、建物のメンテナンスもあります。ただ多くの若い人が興味を持って、業界に入ってきてもらうために、防寒着を来て、ヘルメットを着けて……という昔ながらの泥臭いイメージを変えていきたい。あとは地方では建設の仕事がどんどん細くなると言われています。

 
──その中で生き残りをかけてる?

 
小柳氏 そうですね。でも建設は、なくならない業界がゆえに、あまり新技術や人の成長に投資してこなかったのです。私は前職が金融業界のノンバンクでした。そして銀行はかつての地位にずっとあぐらをかいてきたから、今グラグラきてしまっているわけです。

 
──金融もIT化の波が激しいですよね。

 
小柳氏 そうですね。建設も保守的な考えが主流です。私が業界出身ではなく、うちぐらいの会社規模だからという様々な条件が重なったから、たまたまHolostructionに挑戦できたということもあります。

金融では、お金を融通して人を良くする、要は会社を大きくしたり、住宅ローンで家を購入したりと、こちらからのサービスでお客様とその周辺が良くなるという価値を提供してきました。建設でも、新しい技術で生産性高めれば、安価にいいものを提供できてお客様のためになる。競争社会で勝ち上がる力をつけて、世のため、人のためになる価値を提供するのがあるべき姿ですよね。

 
 

「私の思いでなく、現場で使えるものにしてくれ」

 
──社内ではどういった形でHolostructionのプロジェクトを進めて行ったのでしょうか。

 
小柳氏 まず昨年7月にHoloLensと出会って衝撃を受けたあとに、社内で有志を募って海外視察に行かせました。そこで社長が指名しちゃうとどうしても「連れていかれた」みたいな話になってしまうので……。

 
──わかります。

 
小柳氏 それで手を挙げてもらい、さらに思いの丈を文章に書いてもらって選抜して、アメリカのシアトルやシリコンバレー、ヨーロッパの4、5カ国に視察に行ってもらって準備しています。

 
──そうして開発している中で、小柳さんが一番気に入っている機能は何でしょうか?

 
小柳氏 やっぱり遠隔コミュニケーション機能で、あそこまでかっこよく仕上がるとは思っていなかった。音も3Dオーディオになっていて、アバターが動くと声の出る場所が変わって本当に人がそこにいるってぐらいの実感を得られる。これはスゴいなと思って感動しました。

 

Tech Summitの基調講演でもデモが披露されたコミュニケーション機能。

 
──社長としては「この機能を入れてほしい」という要望は出しているようなものなのでしょうか。

 
小柳氏 基本的には私が育ってきた環境が、技術畑ではないので、はっきり言えば現場がわからないんです。だから「私の思いだけでつくっても、現場で使えないという話になったら意味がない。とにかく現場で使える形にしてくれ」とおまかせしたところ、現場の意見がすべて凝縮された形になりました。

 
──スゴい。それはなかなか決断できることじゃないです。

 
小柳氏 現場が使える、みんなが使えるというのがあるべき姿で、「こんなの取り組みました。うちスゴいでしょ?」で花火的に終わっても意味がない。

 
──単なるデモではなく、本当に現場で使える物として育てていきたい意思があるという。

 
小柳氏 そうですね。前にもお話した通り「業界を変えたい」という思いが一番にあります。現在、国土交通省は「i-Construction」という建設業界へのICT導入を推進するプロジェクトを進めています。これを実現するためにも、現場から出たソリューションが普及して行くという夢のようなストーリーを見せられたら素晴らしいなと思っています。

 
──Holostructionのプロジェクトを進める上で、苦労した点は何でしょうか?

 
小柳氏 これは業界の課題でもあるのですが、3D CADって、中小規模の零細企業ではまだ使いきれていないところも多いんです。導入する気がないというとちょっと語弊がありますが……。

 
──まぁでも業界の高齢化が進んでいるなら、新しいことに取り組もうというところも自然と少なくなりますよね。

 
小柳氏 そうなんです。難しいものと捉えている部分と、「別に俺らの頭の中で3D化してるからいいじゃねーか」という部分ですね。そこで3D CADができるようになれば、HoloLensで離れた場所でもみんなで同じ建設データを共有しやすくなるから、間違った施工が発覚して手戻りということがなくなるんです。

建設の平面、側面、上面から書かれた設計図から、実際の建設物を想像するというのはある程度の経験者しかできないことです。それがHoloLensを使えば、業界に入ってきた新卒でも「あ、こういうことですね」と直感的に把握できる。Holostructionで現場の間違いがなくなって、効果が確実に見えてくれば、次の世代のことまで考えるとやっぱり3D CADの導入が必要だねという感覚になっていくと思います。今、変わらなければ淘汰されるという分岐点に建設業界は立っている。

 
──でもそのタイミングでHoloLensに出会えたのは非常に幸運でしたね。

 
小柳氏 本当に今回に関してはそうですね。

 
 

国交省からもポジティブな意見

 
──4月に大々的に発表された際はニュースにも取り上げられましたが、反響はいかがでしたか?

 
小柳氏 社内では、転職組から「スゴいね」と評価してもらっているという声を聞きます。社外でも、国土交通省関係の方から好評をいただいてます。

 
──遠隔で作業できるなら、海外の案件も受注していけそうですよね。

 
小柳氏 そうなんです。日本の建設業界は法律で厳格に縛られた中で仕事をしているがゆえ、技術的にも世界トップクラスなんです。HoloLensとHolostructionを使うことで、例えば発展途上のベトナムやカンボジアでも施工に関わっていくこともできるわけです。そうした形で日本のスタンダードをどんどん世界に広めていって、われわれ建設業界の新しい世界での働き方みたいなものをつくっていきたい。

 
──同じ業種でも、建物を必要としている市場でやるからこそ急成長できるわけで、そうした場所に日本から打って出ていける体制がつくれるという。

 
小柳氏 はい。海外事業はどうしても規模の大きな会社が請け負っていますが、ICT技術の活用で中小零細企業でも新しい市場に挑戦できるようになります。私はHolostructionを通じて小柳建設をICTに特化した建設会社に育てて行って、業界に新しい生き方ができるという可能性を示したい。

 
──Microsoftがミッションとして掲げるデジタルトランスフォーメーションとも合致しますよね。それに逆境だからこそ、開拓し放題だという。

 
小柳氏 最初に市場をつくれたのが一番強いと思います。建設でICT導入を進めていきたいという企業は、他県でもぜひ弊社にご相談いただけないでしょうか。一緒に業界を変えていきましょう。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
小柳建設
HoloLens
Microsoft Tech Summit 2017

LINEで送る
Pocket