海外展開が失敗する理由は日本人だけでやるから──元DeNA海外担当・ミール氏に聞く「ここが変だよ日本企業」(前編)

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VRの分野に限らず、スタートアップの中には、海外展開を考えている企業も多いはず。そのために海外のパートナーや人材を巻き込んで事業を大きく成長させたいが、一方で日本と海外では仕事のやり方が異なるというのもよく聞く話だ。

 
もちろん外国人にも個人差はあって、「海外の人は〜」とステレオタイプ化するのはよくないものの、どんな心構えで接すれば気持ちよく働いてもらえるのだろうか。前回、日本のコンテンツの海外進出について語ってもらった、Psychic VR Lab(サイキックVRラボ)のCAO(Chief Alliance Officer)・Mir Nausharwan(ミール・ノシェルワン)氏に再びインタビューしたので前後編でお届けしよう。

 
●ミール氏略歴
東京生まれ。インドのパンジャブ大学にてビジネス・コマースを専攻。6つの言語を話せるスキルを活かし、DeNAやグリーなどで6年ほど海外交渉を担当してきた。今年8月にPsychic Labに合流してCAOに就任。その後、Unite Austin、Oculus Connect 4、SVVR、Kelidscopeといった海外イベントなどで講演するなど、精力的に活動する。

 

 
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「チャレンジ」ではない、成功するために行く

──そもそもの前提として、企業の海外進出に外国人って必要なのでしょうか?

 
ミール氏 それは絶対にいたほうがいいです。私は日本生まれで、日本の小学校にも通っていて歴史も学んできましたが、そこで理解したのは、日本は戦後何もなくなったところから、がんばって商品をつくって海外に多く売ってきた国だったということです。昔はそれで成功できましたが、今は消費者の関心がプロダクトからサービスに移っています。

例えば固定電話って、一度買ったら10〜15年は買い換えないですよね? それがプロダクトで、一方で今の携帯電話のように数年でどんどん新しいものに変えていってしまうものはサービスと言えます。プロダクトはワンパターンでいいかもしれませんが、サービスはユーザーに向き合ってどんどん改善していかなければいけない。じゃあ、海外のユーザーの気持ちを理解するなら……。

 
──あっ、その土地に関係している外国人のほうが理解しやすいという。

 
ミール氏 そう。日本に住んでる日本人が海外ユーザーの気持ちをリアルタイムでわかりますか?

 
──それは無理ですね。

 
ミール氏 もうひとつ、日本にいると現地の市場の動きがわかりにくい。携帯アプリでいうと、日本って世界でもモバイルの通信速度が速いんです。その日本に合わせてアプリをつくってしまうと、通信が遅いタイでは最初の50MBダウンロードするだけでも難しいんです。

 
──50MBでもですか!? 「ギガが減る」どころじゃないですね。

 
ミール氏 3、4年前の話ですけどね。その場合、最初は5MBとか10MBにしておいて、あとでアイテムごとに通信するとか仕組みを変える必要がある。

インドの場合は基本的に3Gが多くて、場所によって4Gが使えます。支払いは、クレジットカートや後払いより、プリペイドが多いので、通信を追加するのも手間がかかります。なので、インドの場合は基本的には10MB以下のサイズがおすすめで、できるだけオフラインで遊べるゲームにしたほうがいい。さらに8割はローエンドデバイスなので、その辺も気にする必要があります。

じゃあタイやインドでそんな状況なら、パキスタンだとどうだと思いますか?

 
──もっと酷いとか?

 
ミール氏 実はパキスタンって、4G通信が使い放題で400円ぐらいなんです。

 
──安!

 
ミール氏 だから日本よりいっぱい使っている。携帯電話も1分1円で日本より安かったりするので、現地で誰でも持っています。だからサービスに関しては、現地のスペシャリストを雇った方が手っ取り早いです。

 
──価格やスペックは日本からでも調べたら分かるかもしれませんが、現地ユーザーのサービスに対する捉え方が見えてこないかもしれませんね。同じソフトでも、単に多言語化しただけではやっぱり広まらないですし。

 
ミール氏 広まらないです。まずユーザーと市場の分析があって、さらにリリース後にもマーケティングが必要です。先ほども触れましたが、インドだったら映画の「ボリウッド」やスポーツのクリケットは外せない。香港とかシンガポールはBlogが重要です。そうした話は、海外の人を巻き込まないとなかなか肌感覚でわからない。

 
──確かに。

 
ミール氏 Googleはアメリカの会社ですが、CEOであるサンダー・ピチャイ氏もインド人ですよね。MicrosoftのCEO、サティア・ナデラ氏もインド人。彼らはインド出身で、インドの大学を卒業しましたが、大学院がアメリカです。MicrosoftやGoogleはインド市場が大きくなると予測して、インド人の役員や社長も採用しています。もちろん、実力も含めてです。

市場予測では、GDPが2030年に日本の3倍、2050年には日本の5倍に成長するというものもあります。人口も日本の12倍で、世界2位の13億1000万人。さらに206万人もの米国帰化申請者がいます。

ちなみに、インドのエンターテーメントは 1.映画、2.クリケット(野球に似た球技)、3.外食です。また広告でインフルエンサーを使いたい場合も、映画業界やクリケット選手だけがCMに出られて、それ以外一切ほかの業界からは選ばれません。

言語で言えば、連邦公用語がヒンディー語、連邦準公用語の英語、その他、各州の公用語で20以上の言語が使われています。これって日本では想像できないことですよね。でも、都会でビジネスをするときは英語で大丈夫。都会の学校は教科書が9割英語で、国語以外、全部英語で勉強します。田舎は逆で、州によって使われる言語が違います。例えば、タミル州では英語とタミル語のみで、ヒンディー語は使いませんし、パンジャーブ州ではパンジャーブ語、英語、ヒンディー語の3つを使います。

だからGoogleの役員を見ると、その中にインド人がいっぱいいるんです。反対に日本企業で役員に外国人はいますか?

 
──うーん、日本人が目立ちますね。

 
ミール氏 せめて海外事業の担当役員は、外国人にしたほうがいいと思いますが、たいてい日本人です。電通も最初に日本人で固めて海外進出をしようとして失敗し、その後、現地の人に任せるようになって成功しました。HONDAやTOYOTAも現地パートナーと組んで、パートナーが全部仕切っています。

前の記事でも触れましたが、やっぱりアメリカやインドは色々な文化に触れる機会があるので、他の国の文化って比較的理解しやすいと思うんです。でも日本は日本人だけでずっとやってきたから、他の国の文化が理解できなくて失敗してしまう。ユーザーと市場の調査、そして一回着地したらマーケティング。日本人単独でこの3つを遂行できるぐらいに、言語や文化、現地のノウハウ持ってますか?

 
──ハーフや海外在住が長い人なら、できる人はいそうですが。

 
ミール氏 それでも、きちんとした英語を話せない人も多いんです。2050年には日本の人口が半分の6000万人になって、インターネットユーザーも10位以下、GDPも7万ドルで伸び悩むという予測もあります。それまでにインドみたいな複数の宗教、文化、言語の口を理解する必要があります。インドは現在でもインターネットユーザーが4億6200万人いて、高齢者率も5%です(日本は24%)。

あと不思議なのが、海外展開したときによく言われる「大丈夫、いったんチャレンジしたから」という話です。チャレンジってなんだよって。失敗したなら首にしたほうがいいんじゃないかっていう。

 
──なんだか耳が痛い話です。

 
ミール氏 日本だと事業が失敗すると全員が責任を取らされるじゃないですか。プランナー、ディレクター、プロデューサーなど、成功しなかったから全員ダメって。でも海外って、まずトップを首にするんです。

 
──お前がちゃんと指示しなかったからだろうって。

 
ミール氏 そう。海外は上を切って、新しい人を連れてくる。そもそも海外事業を展開するのに、戦略部やマーケティング部がなくて、社長や役員が意味がわからないけどつくっているという企業もあります。戦略やマーケティングって、エンジニアと同じで専門分野なのにですよ。

 
──いや本当そうですよ。

 
ミール氏 私の専門のビジネスアライアンスもそうで、MicrosoftやFacebook、LinkedInなどの企業は、年間数億ドルもの投資している。会社と会社を結ぶことも専門家に任せた方がいいはずなのに、日本ではマネージャーに任せているところも多いですよね。それは無形のものに投資するよりは、エンジニアを採用してもっとものをつくりたい。だって目に見えるから。

 
──とりあえずものをつくっておけばいいだろうみたいな。

 
ミール氏 でも今は海外マーケティングも会社と会社を結んだほうが早いし、専門分野だってあるんです。R&Dで見ても、Amazonやアリババは1500億円規模を投じている。

 
──日本でそこまで羽振りのいい企業はなかなかないですね。

 
ミール氏 海外の新しい市場を取りにいくときに、どんなユーザーがいてどういう市場があって、どんなマーケティングすればいいか。より早く、よりいい結果を出すためにはどうすればいいか研究するのは当たり前です。そこを日本は「ちょっと1回チャレンジしてみよう」ってグレーゾーンで展開してしまう。チャレンジってどういう意味?

 
──成功するために行くので、チャレンジするためではないという。

 
ミール氏 「いやー、彼はチャレンジしたからいい勉強になったよ」ってそれで数千万、数億円の赤字を出していたらいい勉強じゃないですよね。

 
──海外だと首ですね(苦笑)。国内だけで食って行ける企業ならいいのかもしれませんが、こと海外展開に関してはパートナーを探した方が成功しやすいってことがわかりました。それでは海外の人材ってどう雇ったらいいのでしょうか?

 
ミール氏 それはまた次回お話ししましょう。

 
 
*後編はこちら

 
 
(Reported by Minoru Hirota

 
 
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