箱にも箱の意地がある! FiresTV「JiDome-1」から見える中国VR事情

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この年の瀬、中国のFiresTVからスマートフォン向けVRゴーグル「JiDome-1」がいきなり発表されました。Gear VRキラーとしてみる向きもあるこのJiDome-1が持つポテンシャルはどれくらいなのか? 台湾在住で電子機器の動向に詳しいEjiさんにご寄稿いただきました。

 
 

ユーザーを満足させる「確実にいいVR体験」とは

この世代のVRの旗手の一人であるOculus VR創業者、Palmer Luckey(パルマー・ラッキー)さんは、大抵の場合何を言っても注目の的となります。ここ数日でも、Twitter上での発言が話題になっていました。

 

 

 

 
一部始終はすぐにいろいろなサイトで取り上げられました。アメリカだけではなく中国も。

 
Oculus founder: Rift VR headset is ‘fancy wine’; Google Cardboard is ‘muddy water’
Oculus创始人:明年发售后,你可能买不起Rift头盔

 
パルマーさんの語っていることは今までと同じで、ブレない軸があります。

 
「3Dテレビや3D映画のようなな過ちを繰り返してはならぬ」
「確実にいいVRだけつくって届けろ」

 
技術が進化し、VRはいつか万人向けのモノになるが、確実にVRが求められる「あるリクエスト」をクリアできる初代デバイスでは、やはりアーリーアダプターではないと受け入れられない価格になるだろうと。

 
ただ、その求められるレベルは一体どれくらいの高さなのか、それは本当に意味あるモノなのかは、現状VR業界でも見方がバラバラなのが正直なところ。しかし、VRをビジネスチャンスとしてとらえて、色々な製品が世に出てくるのはもはや止められない流れでしょう。

 
市場を考えると、閉鎖的でありありながらも、ボリュームが広大でここ数年資金も潤沢という中国は、非常に気になる存在のはずです。

 
The World’s Largest Market Has Seen VR and It’s in Love

 
今の中国だけを見ても、200ほどのVR関連ベンチャーがあります。ハコスコやGoogle Cardboardのような「スマホを入れる箱」なら100種類以上が存在し、FacebookがOculusを買収した時点から加速して、ほぼ2週間ごとに新製品がリリースされています。欧米の製品も入れると、ざっと400種類を上る数です。

 
ただ、どれくらいの企業が生き残れるかは未知数です。VRに関係するTrendForceなどの市場調査を調べてみると、いちばん楽観視しているものでもVRゴーグルの端末は1000万台前後しか広まらない。

 
中国の「箱会社」は「高価なデバイスは高嶺の花で広がらない」と口をそろえて言いますが、はたして本当なんでしょうか? 仮に1000万台のうち、8割くらいが段ボール製やプラスチック製の箱だったとしても、1種類ごとに数万台しか売れない計算になります。

 
つまり、どの会社も順調に製品が売れたとしても、会社の維持だけ考えると、このVRバブルならぬ「箱バブル」はすでにはじけています。現状のプレイヤーは9割以上が事業を維持できずに、淘汰が進むことが予想されます。

 
ちなみに、初年度のVRゴーグルの販売台数について私の周囲に聞くと、内訳については、Oculus VR、PlayStation VR、HTC Viveというハイエンド機の「御三家」でとらえていて、「箱」の数は誰も考えてないらしい。

 
 

デバイスだけではない「JiDome-1」

ではどんな「箱」が生き残っていくかという理由を考えると、結局、冒頭のパルマーさんが触れた「あるリクエスト」を実現するための技術が揃ってるかどうかがキーファクターになるはず。

 
箱にも箱の意地がある!

 
中国のFiresVRが発表した「JiDome-1」からは、そんな叫び声が聞こえたような気がします。名前は「ジド目」ですが。

 
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JiDome-1。2016年の第1四半期に開発者版を199人民元(30ドル、約3700円)でリリース予定。製品版は第2四半期のリリースを予定。

 
それもそのはず、FiresVRの公式サイトを眺めると、CTOの王明楊さんが目に入ってきました。彼は中国において初期からVR開発に携わってきた人物。中国の大手配信プラットフォーム、暴風(baofeng)が出すVRゴーグル「暴風魔鏡」向けのアプリ元開発者で、その後独立してFiresVRを設立しています。

 
2015年4月には、Android向けのUnity3D開発ツールの「VRFires SDK」を発表しました。開発者が短時間でVRシーンを構築できるように手助けしたり、ジャイロの遅延を減らしたり。ほかにもマルチスレッドの最適化や、ローカルストレージへの低遅延アクセスなど、中国の今までの「箱ベンチャー」とは一味違うアプリのバックアップ体制を立ち上げています。

 
王さんいわく、自分がやってるのは「VRメガネ向けのMIUI(ミーユーアイ)かな」とのこと。MIUIは、北京のベンチャーであるXaomi(小米科技、シャオミー)が開発した、スマートフォン・タブレット向けのファームウェアです。

 
FiresVRのCEO、婁池さんも、元Tencent(テンセント)でした。11月にTencent VRが発表され、その開発者懇談会が開かれた12月22日の翌日(12月22日)にJidome-1を発表するのは、非常に重要な関係性が見えます。

 
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婁池さんのブログより引用した写真。

 
TencentVRでは12月21日、レンダリング、インプット、ビデオ、アカウント認証と支払いなど多岐にわたる「VR SDK 1.0」が発表されています。ビジネスモデルもPC、セットトップボックス、モバイルなど極めて広く範囲に手を出していますが、あえて言うと「Tencentが直接関わる独自のハードを出す」つもりが感じられず、あくまでエコシステムを創りあげたいように見えます。

 
では、韓国サムスン電子など、ワールドワイドのVR企業と比べて、Tencentの独自の技術アドバンテージはどこにある? 「中国の会社はもっと中国の市場について詳しく、リソースも多い」という話は、技術面ではないですよね。

 
結局、世界大手の一つであるTencentも、現状はあくまでポジショニングをやってるだけ。Tencentは「QQ」と「Wechat」といったアプリで中国におけるSNSとモバイル支払いの絶対的優位性を確保しているので、モバイルVRにおけるフレームワークは最低限意識はしてるが、VRにおける技術的難点を自ら挑むつもり現状がありません。あれっ、まだ市場立ち上がってないのに支払い?

 
それと比べると、FiresVRは12月22日において

 
・FiresVR Dawn SDK V0.9を発表
・JiDOME-1を発表
・VR向けのJIDOME OSとストアを発表
・内製ゲーム「THE LAST HONOR」(最後の栄光)を現地メディアに体験させる

 
といった具合に、着々と駒を進めています。

 
 

「VRの暗黒大陸」を避けるために

 
JIDOME-1のスペックを見ると、「9DOF」(ジャイロ、地磁気センサー、加速度センサー)とアクセスボタンに加えて、長時間のモバイルVRプレイを意識してスマホ用の放熱ファンも装備しています。光学系も5〜5.7インチの高性能スマホに特化して、FOV(視野角)を90度に固定。スクリーンドアエフェクト(網戸問題)を考えると、FOVを無理やり広げるのは悪影響をもたらします。

 
解像度は、5.7インチ液晶を備えたXiaomiのフラグシップスマートフォン「Mi Note」を使用した場合に1920×1080ドット、同じく5.7インチの「Mi Note Pro」では2560×1440ドットとなります。その際、「最低ランクにはこれくらいのGPUが必要」と説明していました。

 
Dawn SDKではGPU向けベンチマークツールを用意し、性能に見合った表現でない、もしくはハードが支えられないと判明した場合、無理やり悪体験をさせない(走らせない)ようにする工夫が整っています。具体的には、Adreno 330(Snapdragon 800)以上のチップセットが求められていて、Mi Note ProはSnapdragon810のためAdreno 420となります。

 
現状、「箱」における最高画質で表現できますが、今度は放熱も課題になるので、前述したようにスマホをある程度冷やせるファンがついています。

 
ただ、「箱」では、市販のスマホを使う限り、OSレベルまでいじれないという弱点があります。この「スマホ内部をいじらないと届かない箇所が多数ある」という話が、サムソン電子がOculus VRとコラボしてGearVRで確保した最大の利点です。

 
FiresVRが提供したSDKでは、現状中国において唯一、「Asynchronous Timewarp」(非同期タイムワープ)機能を提供しました。Oculus RfitやGear VRも採用しているもので、周囲を見回した際に起こる映像のブレ(ジャダー)を軽減してくれる。Asynchronous Timewarp以外にも、パノラマ動画における映像フォーマットもハードデコーダにおける再生を確保しています。

 
Jidome-1は、正直雑ともいえる外観デザインですが、最適化については、ある程度見た目はスタイリッシュでありながら中身には何も手をつけていない他社の「箱」と比べるとかなり充実しています。Gear VRには追いついていないとはいえ、それもスマホの中身までいじれないので仕方ないこと。

 
冒頭の「あるリクエスト」を達成する次のステップは、いわゆる一体型VRゴーグルに行き着くが、FiresVRによれば、あくまで「現状だと(中国国内の)どの箱もいい体験を送り出してないのため、仕方なくハードまで手出しました」とのこと。まずいい体験でユーザーをつなぎ止めるのが先決です。

 
同じ話は開発者にも言えます。Gear VRにもタイトルを出している中国のソフトベンチャー、TVRの創業者、方相原さんも、TencentVRと次日のFiresVRのイベントに顔を出していました。ハイレベルの開発者はどの企業もつなぎ止めたいところです。

 
結局、最初のパルマーさんの話に戻って、VRにおける「いい体験」とは、VRに詳しい開発者たちにとって「現状の最適化してない一般なスマホにアプリだけ入ることでは実現できない」レベルということを指しています。

 
ここ数年、VR市場ではしびれを切らした創業者が立ち上がってますが、こうした状況は必ずいい結果をもたらすわけはありません。スケールアップだけ考え、「現状の80%」を前提にすると、もしかすると「あるリクエスト」に達していない悪夢だけ広がって、せっかく立ち上がろうとしているVR市場が冷え込んでしまうかもしれません。

 
グレードファイアウォールに囲い込まれ、海外ベンチャーでは思い通りに展開できない中、国内では猿真似がだけが広がっていく——。このままだと中国は「VRの暗黒大陸」となってしまう可能性があります。そのためにFiresVRは違う道を選んだ。それを見て応援したい気持ちはあります。

 
(文/Eji

 
 
●参考資料(Leiphoneより)
王明杨:不是每个人的智商都在130以上
腾讯虚拟现实布局曝光,将推VR头盔
与其期待腾讯的VR头盔,不如先看看这家公司的产品
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●関連リンク
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