「薩摩義士伝」を語る黒ギャルVTuber・皇牙サキ、そのエンターテイナーとしての真摯さ

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「薩摩武士と黒ギャルって、なんか似てんじゃん」

これは、BitStarがプロデュースするバーチャルYouTuberグループ「アマリリス組」のひとり、黒ギャルVTuber「皇牙サキ」の、最初の生放送での一言である。テーマは時代劇画家・平田弘史さんの「薩摩義士伝」。黒ギャル×「薩摩義士伝」という組み合わせは、新人VTuberを追うファン界隈に衝撃を与えた。

「サキぽよ」こと皇牙サキさんは2018年5月のデビュー以降、極めて幅広い文化的知識と的確な語り、そしてその「強さ」と「可愛らしさ」でVTuber界隈に一石を投じている。本記事では、そんな彼女の魅力を解説する。

 

衝撃の「薩摩義士伝」語り

皇牙サキさんの生放送の中でも「語り」と付いている一連のシリーズ(本人は自身のYouTubeチャンネルに「ぽよ語り」という再生リストでまとめている)は、彼女の魅力が最も強く出ている。Twitterなどでの発言を見るに、資料の読み込みや語りの構成作りなど、かなり入念な準備をもとに臨んでいることが伺える。

第1回は前述の通り「薩摩義士伝」語り。事前に予告されていたこの「語り」は、「新しくデビューする黒ギャルVtuberが薩摩義士伝を紹介するらしい」と漫画好きを中心に話題となった。そして実際に生放送を見た多くの視聴者が、その語りのクオリティーの高さに驚愕することになる。

 

 
落ち着いた声色で、まずは序盤の流れを紹介。そこから、1話2話を読んだだけでは分からないが、これは治水工事にまつわる物語であり、しかも史実である……という解説が始まる。「宝暦治水事件」(Wikipeida)のことだ。薩摩義士伝という作品を知らない者も、この段階でグッと引き込まれる。

この後、彼女は薩摩人の「強さ」を描いた本作について、作者自身の著作「超絶サムライ画の描き方」を引用しつつ解説。さらに、とても穏やかな見た目の登場人物が道端で切腹をするという作中内のエピソードを紹介し、「性格と見た目と思想は別物なんだと改めて感じる、人を見た目で判断しちゃだめなんだよね」と、「黒ギャルの姿をして薩摩義士伝を語るVTuber」が初回生放送で語るのである。

さらに彼女の語りは「薩摩義士伝の構成」に及ぶ。薩摩義士伝はマクロではなく「ミクロの歴史」、つまり、その時々に生きていたひとりひとりの人間を描いており、一見すると面食らうものの、彼女はこれは日本の歌舞伎や能、文楽などに見られる、伝統的な物語の描き方ではないかと説いていくのだ。こうして彼女の語りは、物語論にまで射程を広げていく。

最終的に平田弘史さんの作画技術のレベルの高さにまで言及していく彼女の語りの影響で、この日「薩摩義士伝」はTwitterトレンド入りをはたした。彼女自身もそれを聞いて「すごいね日本。捨てたもんじゃないね」と驚きを見せる。後にリイド社はこれを受けて、「薩摩義士伝」を期間限定で全話無料公開するに至った。

 

「講釈師」皇牙サキの真摯さ

語りシリーズではこの後も「薩摩義士伝・補講」を経て、白石晃士監督のオリジナルビデオおよび映画作品「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」や、魔夜峰央さんの漫画作品「パタリロ!」を取り上げている。

 

 
「コワすぎ!」回では、クトゥルフ神話からドリュー・ゴダード監督「キャビン」、殊能将之さんの小説「黒い仏」までに言及しながらその魅力を紹介。漫画以外にも豊富な知識をベースに熱い語りができる部分を見せつけた。

 
https://www.youtube.com/watch?v=xb2DCYRFKWo&t=293s
*動画が長尺で埋め込めないためURLにリンクを貼っております(以下同)

 
「パタリロ!」回では、ハードSFエピソードとして名高い「果てなき旅路」をメインに取り上げ、構造として参考にしているとされる落語の話を交えつつ、古典落語「愛宕山」を経由して、さまざまな古典ジャンルへの広がりを持つ本作の文化的豊かさを解説。最終的に「古典に触れること」の価値を啓蒙するという、極めてメッセージ性の高い語りを行なっている。

彼女は別の回で、自らを「講釈師」のようなイメージで捉えており、スーパーチャット(投げ銭)は木戸銭のような感覚で投げてほしいと言う。この点に関連して、「ユリイカ2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber」への彼女の寄稿「『声』という商品のパッケージとしてのVTuber」から引用する。

ウチは黒ギャルというガワから妙に詳しい漫画、映画トークが出てくるという「ギャップ型」です。(中略)「ギャップ型」は当初の期待を裏切る形になってしまうので失望を抱く視聴者が出るというデメリットも発生してしまいます。ですから最初の期待を裏切ったとしても、それ以上におもしろいと思わせるような内容を用意しなければなりません。

皇牙サキさんが極めて自覚的に、かつ真摯に「エンターテイナーとしての2DVTuber」として視聴者に向き合っていることがよく分かる。それ故に、彼女のこの「語り」シリーズは、恐るべきクオリティが保たれているのだろう。

 

黒ギャルは絵も上手いし、ホラーゲームでもビビらない

語りシリーズ以外にも、彼女は雑談、絵描き、ホラーゲーム実況、朗読、と多種多様な配信を行なっている。すべてにおいて「黒ギャルらしい喋り方」を前面に押し出しつつ、ギャップ感のある配信を形作っているのが魅力だ。

 
https://www.youtube.com/watch?v=HD3x8xRALH8

 
雑談では、皇牙サキさんの可愛らしさや「素」に近い様子が多く見られる。特に上記の回では、筆者は思わずガチ恋しそうになってしまった。必見である。

 
https://www.youtube.com/watch?v=wKRZB7pUq3Q

 
漫画語りを得意とする彼女は、絵も上手い(正直、上手いというレベルではないのだが)。現在はアマリリス組の集合イラストを描いている様子を定期的に配信している。

 
https://www.youtube.com/watch?v=j14UzEvksoE

 
YouTubeチャンネル登録者数1万人突破の際には、ホラーゲーム「返校 -Detention-」を実況した。ホラーゲーム耐性が高い彼女はほとんど驚くことなく、本作の舞台である台湾について語り始める始末。第4回では同じアマリリス組の由持もにさんを「悲鳴要員」として後ろに控えさせての実況プレイとなった。

 
https://www.youtube.com/watch?v=CECqRJJ4mIs

 
皇牙サキさんの落ち着いた声色を最も堪能できるのが朗読シリーズ。江戸川乱歩「押絵と旅する男」や、中島敦「山月記」を朗読してくれる。

 
豊穣な文化的素養をバックボーンに、黒ギャルらしい押しの強さで視聴者を翻弄する皇牙サキさん。彼女のまっすぐなあり方は、4000人を超えたとされるバーチャルYouTuberの中にあっても、唯一無二と言える存在だ。ぜひ彼女の「語り」を体験してほしい。

 
 
(TEXT by みね)

 
 
●関連リンク
皇牙サキ(YouTube)
皇牙サキ(Twitter)

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