「次のアドベンチャーは画面の向こうだ」 VRでノベルゲームの新時代を切り拓く『東京クロノス』全クリレビュー

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PANORAでも度々話題にしてきた、VRミステリーアドベンチャーゲーム「東京クロノス」。本作は、「画面の向こう側に行くADV」をコンセプトに、立体音響やヘッドマウントディスプレイを用いた表現で描き出す新感覚のVRミステリーアドベンチャーだ。

 
「ソードアート・オンライン」のプロデューサーを務めた三木一馬氏や、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」のモーション監督を務めた柏倉晴樹氏など、ヒット作に携わったスタッフ陣が制作に参加しており、また世界でのヒットを目指して、パブリッシャーとして「CLANNAD」「ネコぱら」といったADV作品のSteamでのパブリッシュに携わったSekai Projectも参加している。

メインシナリオを担当するのは、「謎好き乙女と奪われた青春」などを生んだ小説家・瀬川コウ氏。キャラクターデザインは、イラストレーターのLAM氏が担当している。

 
同作は7月10日より、開発資金と国内のプロモーション費用の補填を目的に、CAMPFIREにてクラウドファンディングプロジェクトを実施。目標金額は250万円に設定されていた同プロジェクトだが、開始からわずか17時間で目標を達成し話題となった。その後はプロジェクトの終了までに800万円を調達している。

 
筆者はこれまで、東京ゲームショウでの試遊レポートや、ファンイベント「制作共犯者ミーティング Final」のレポートなどを行ってきたが、3月20日に遂に本作が発売となった。

今回の記事では、筆者が製品版を最後までプレイしてみて感じた本作の主な特徴やポイントを、あまりネタバレにならない程度に紹介しつつ、その魅力を伝えていきたい。

 

時の止まった渋谷で、9人の少年少女が織りなす物語

 
まず最初に、本作の世界観や物語のあらすじなどを紹介していこう。本作のジャンルとしてはミステリー。ある事件に対して、物語を進めながら謎を解き明かしていくというのが主軸の内容だ。

 
物語の舞台は、破壊不可能な“鏡の壁”に囲まれた、人のいない、時が止まったような渋谷。「クロノス世界」と呼ばれるこの空間は、外界から隔絶された異世界である。クロノス世界に閉じ込められたのは、主人公・櫻井響介と、その幼馴染7人。そして謎の少年「ロウ」。

クロノス世界を脱出する方法はたった1つ、課された“ミッション”をこなすことだけ。世界から響介たちに提示されたメッセージは……「私は死んだ。犯人は誰?

 

 
これは犯人を捜せというメッセージなのか。しかし響介たちからはその事件の記憶がすっぽりと抜き取られており、犯人はおろか、死んだという“私”が誰なのかもわからない。

 
果たして、犯人は誰なのか。“私“とは誰なのか。「ロウ」の正体とは? 失われた記憶には一体なにが? 物語を進める中で徐々に明らかになってく謎を紐解き、真実にたどり着くことを目指す……そういったゲームになっている。

 
ゲームの流れとしてはビジュアルノベル形式のシンプルなもの。テキストを読み進めていき、ストーリーの分岐ポイントで正しい選択をしていくという形だ。

トゥルーエンドにたどり着くためには、ある条件を満たす必要がある。ゲームの総プレイ時間は、テキストを送るスピードにもよるが大体15~18時間くらいが目安だろうか。

 
●色鮮やかなキャラクター

また本作の魅力を語る上で、9人の個性的な登場キャラクターたちの存在を忘れることは出来ない。東京クロノスに興味を持ったきっかけとして、まずはそのビジュアルに目を引かれたという人も少なくはないのではないだろうか。

一目で強烈な印象を与える、イラストレーター・LAM氏によるビビットなキャラデザインは、東京クロノスの「顔」として、作品プロモーションにも大きく影響しているだろう。

 
 

 

 

 

 
以前参加した本作のファンミーティングイベント「制作共犯者ミーティング Final」で語られていた内容だが、東京クロノスのキャラデザインの特徴となっているのは「目力」と「わかりやすさ」とのこと。

VRでは、自分の目線とキャラクターの目線が近いため、引力のある「目」のキャラクターは、それだけで印象に残りやすい。またキャラクターの個性を「色」と「シルエット」で表現することによって、ぱっと見でもキャラを認識しやすいようになっているのだとか。

実際にゲームをプレイしてみると確かに納得で、VRで見る彼らの姿は、横目でちらっと見ただけでも誰だか認識できるほどわかりやすい。

 
また、そんな各々のキャラを演じるキャスト陣の豪華さも本作の魅力の一つだ。キャストについては以下の通り。

ゲームを進めていくと、登場キャラひとりひとりにフォーカスしたエピソードもあり、中には意外な秘密や隠された内面を見せるキャラもいる。個性的なキャラクターたちがどのように関わり合い、物語を紡いでいくのかにもぜひ注目してみてほしい。

 
●東京クロノス キャスト

・櫻井響介
cv.上村祐翔(「文豪ストレイドッグス (中島敦)」、「ダーリン・イン・ザ・フランキス (ヒロ)」)

・二階堂華怜
cv.石川由依(「進撃の巨人 (ミカサ・アッカーマン)」、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン (ヴァイオレット・エヴァーガーデン)」)

・桃野夕
cv.木戸衣吹(「エロマンガ先生 (神野めぐみ)」、「レーカン! (天海響)」)

・東国ユリア
cv.柚木尚子(「ヴァイオレット・エヴァーガーデン (ブルーベル・ユノア)」)

・神谷才
cv.朴璐美(「鋼の錬金術師 (エドワード・エルリック)」、「BLEACH (日番谷冬獅郎)」)

・両角愛
cv.桜あず(僕のヒーローアカデミア (発目明)」)

・街小路颯太
cv.植田圭輔(舞台「弱虫ペダル (真波山岳)」、 舞台「おそ松さん (チョロ松)」)

・蔭山哲
cv.梶裕貴(「進撃の巨人 (エレン・イェーガー)」、 「七つの大罪 (メリオダス)」)

・ロウ
cv.木村良平(「東のエデン (滝沢朗)」、「黒子のバスケ (黄瀬涼太)」)

 

VRを活用した「未来」のノベルゲームの形

さて、ストーリーのことをあまり詳しく話すとネタバレになってしまいそうなので、ここからはVRゲームとしてみた本作のシステムや演出面に注目して紹介していこう。

東京クロノスのゲームシステムは、アドベンチャーゲームの中でも、主に背景イラストにキャラ立ち絵、メッセージウィンドウで画面が構成される、所謂“ノベルゲーム”と呼ばれるスタイルに近い。

しかし東京クロノスのゲームUIや演出などは、「VR」という技術との組み合わせを考え、これまで平面的な画面構成を前提としてきたノベルゲームとは異なる、様々な試みが行われているのが分かる。例えばキャラのセリフなどを表示するメッセージ出し方などはかなり工夫が感じられる。

 
●これまでのノベルゲームの常識を変えるVR専用UI


▲東京クロノスのメッセージの表示

 
通常VRゲームでは、VR酔いや没入感の損失に繋がるので、ゲームUIを目立つ位置に表示させることはあまりしない。

しかし本作は、ノベルゲームの形式をとっている。キャラ同士の会話だけならまだ声で情報を得られるかもしれないが、主人公の心理描写や状況説明など、セリフでないいわゆる「地の文」で物語を進行していくのがノベルゲームの基本であるので、ストーリーを理解するのにそれらの情報は必須となる。

従来の2Dのノベルゲームであれば、基本的に画面下部にメッセージウィンドウが張り付いていて、常にテキストが流れ続けているものだが、VRゲームで常に視界の下部にウィンドウが表示されているのははっきり言って邪魔だ。

そのため東京クロノスでは、従来のノベルゲームテキスト表示と比べると、文字のみを表示させることでUIの面積としては最小限に抑えている。メッセージウィンドウというよりは映画の字幕の形に近い。

 
しかし文字だけの表示となってしまうと、背景に混ざって文字が読みづらくなることも考えられる。また、VRは視野が広く、プレイヤーの視線の向きによっては、字幕がぱっと目に入らずに読むのがストレスになる場合もある。

本作ではそれを防ぐために、文字を出す位置を工夫することでこれを読みやすくしている。上下の位置だけでなく、奥行きも変えて、三次元的にメッセージの位置を調整することで、自然と目に入る位置に字幕を出している。

 

▲例えば普通の会話シーンでは、大体キャラクターの顔の下あたりに表示される。普通は喋っているキャラの顔を見るので、視線に自然と入ってくる位置だ。

 

▲ちなみに、字幕は首を動かすと追従するようになっているのだが、少し上を向くと、字幕がキャラの顔に被らないように今度は頭の上に表示されるようになる。VRの景観を壊さないための配慮を感じる。

 

▲自然と画面の奥に目が行くシーンでは、字幕も少し奥に。こちらも実際にプレイしていると違和感なく目に入ってくる位置に調整されている。

 
VRだからUIを目立たせたくないが、文字はしっかり読ませないといけないという矛盾を解決する工夫として、東京クロノスの字幕は、なるべく必要最低限な面積でありながらぱっと読めるようにしているというのが感じられる。

 


▲なお、ノベルゲームでは以前の会話の流れを確認するログ機能があるが、本作ではコントローラーのメニューボタンでゲームメニューを開き、「LOG」を選択することで閲覧が可能である。

 
また、ノベルゲームで重要なストーリー分岐の場面で、選択肢を選ぶ際のUIも特徴的だ。従来のノベルゲームであればテキストで行動を選択するが、本作では文字でなくキャラクターや浮かび上がる画面をコントローラーで指し、選択する形となっている。

 

▲分岐の選択画面。この場面では、目の前にいる桃野(左)か、別の場所にいるため画面で表示されている二階堂(右)のどちらかを選択できる。

 
VR専用のノベルゲームとして設計された本作のUIは、今後のVRノベルゲームにも影響を大いに影響を与えそうだ。

 
●360°の世界で描く世界感

また本作では、演出面でVRを活用する工夫も多くみられる。例えば、常に360°周りを見渡すことができるという特徴を活かして、普通なら見えないプレイヤーの背後の景色を作り込んで、状況を表現したりといった形だ。

以下は、登場キャラクターたちが渋谷のスクランブル交差点にみんなで集まっているシーン。3つのスクリーンショットは全て同じシーンだが、周りを見渡すことで、自分を中心にほかのキャラクターたちがどんな状況にあるのか確認できる。

 

▲自分と同じテーブルには桃野、二階堂

 

▲向かって左のテーブルに東国、街小路


▲右には神谷、両角、蔭山がいる。3つの映像は全て同じシーンだが、周囲を見渡せば周りの景色が自由に見られるというのは、従来のノベルゲームにはない特徴。

 
通常、平面の画面構成を前提とするノベルゲームおいて、自由にカメラを動かせるということはほぼないが、本作では主人公の現在の状況やほかのキャラとの位置関係など、周りの様子を直感的に把握することができ、よりゲームの臨場感を感じることが可能だ。

 
さらにゲーム内では、この自由に視点を変えられるという要素を活かすように、キャラの声や仕草、視線などで「プレイヤーの視線をある方向に誘導する」といった場面が多く見受けられたのも印象的であった。

 

▲キャラクターたちの仕草やセリフで誘導し、プレイヤーがそちらを向くように仕向ける演出。


▲実際にそちらを向くと風景に変化が起こっていたりする。

 

▲本作では、立体音響によって相手キャラのいる方からその声が聞こえてくるようになっている。突然後ろから声が聞こえてきて、振り向くとそこに立っている、といった「音」を使った視線誘導の場面も。

 
せっかく360°見渡せるVRの世界を作っても、プレイヤーがそれを見てくれなければ意味がない。こうした視線の誘導を駆使して、意識的に周りの景色を見回すように仕向け、「クロノス世界」を体感してもらうことを狙ったものだろう。

 
●VRならではの距離感でキャラの魅力を演出

また、仮想世界の風景がすぐ目前にまで迫ってくる臨場感や迫力も、VRの持ち味。本作はそれを活かすため、一部のキャラクターと顔が触れ合わんばかりに接近する演出なども見られる。

 

▲キャラクターの顔がすぐ近くまで迫る演出。この近さは平面のディスプレイでは伝わりにくいので、ぜひVRで味わってほしい。

 
以前、東京ゲームショウで試遊版をプレイした際は、女性キャラの一人「桃野 夕」に抱きつかれる状況にドギマギした体験を綴った筆者。キャラクターの魅力を演出する手段として、これがかなり効果的なのは実際に体験してもらえばよくわかるだろう。

このように、東京クロノスはノベルゲームのこれまでの常識を打ち破り、3DとVRを用いた表現を大いに活用している。

 
イラストとテキストで進行する従来のノベルゲームでも、魅力的なキャラクターと重厚なストーリーの体験は、決して画面の派手なアクションゲームなどの作品に劣るものではない。

ストーリー分岐などがよくできた作品であれば、たくさんの選択の結果から望むエンディングにたどり着いた時、味わう感動の深さはこのジャンルならではの魅力の一つでもある。

本作はそんなノベルゲームの進化の1つの形として、さまざまな可能性を示唆している作品であるように感じた。というのも本作の演出などを応用することで、さらにノベルゲームを面白くすることが可能だと感じたからだ。

 

▲視線誘導は見せたいものを見せるだけでなく、見せたくないものからわざと目を逸らさせることもできる。応用次第で様々な演出ができそうだ。

 
例えば、上で紹介したようなプレイヤーの視線誘導をうまく使えば、手品などで使われる「ミスディレクション」のようなことも可能だろう。重要なものからわざとプレイヤーの目を逸らさせて、謎解きゲームに深みを与えるといった演出も可能かもしれない。

また、ミステリーの東京クロノスとは題材が違うが、ノベルゲームの中でも人気のジャンルといえる恋愛アドベンチャーゲームなどでは、上記のキャラクターの顔がすぐ近くまで迫る演出などと相性が良さそうだ。

 
東京クロノスのキャッチコピーである、「次のアドベンチャーは画面の向こうだ」。このゲームの在り方そのものが、そのメッセージを世界に発信する役割を担っているように感じた。

 

「東京クロノス」こんな人におすすめ!

「東京クロノス」第2弾トレイラー / 藍井エイル「UNLIMITED」

 
ここまでストーリーや世界観などのミステリー作品としての観点と、システムなどのVRゲーム作品としての観点からそれぞれ本作を紹介してきたが、「それでは結局どういった人におすすめなのか?」といった点を考察していこう。

まず、ストーリー面からみた場合、本作はミステリーであるが、凝ったトリックや謎の解明というよりも、キャラたちの内面や、人間ドラマにフォーカスした内容。ゲームをプレイすることでそれぞれのキャラについてより深く知ることができる。

また本作はノベルゲームで稀にある、いわゆる「鬱ゲー」のような“救いのない物語”という感じでもなく、ちゃんと最後までプレイすれば、スッキリ終われるような内容になっているように思う。

なので「ミステリーは難しそう」「話が重そう」といったことはあまり考えずに、キャラクターにビビッと来たならオススメだ。

 
また上記のゲームシステムの特徴で述べた通り、本作はVR+ノベルゲームという組み合わせを活かすための、挑戦的な試みが多く見られる作品でもある。

だからこそ、従来のノベルゲームのファンにもぜひ一度体験してみてほしいと思える作品でもある。近年のノベルゲームと比べると、ストーリー分岐点やゲーム性は控えめだが、「これからのノベルゲームはこうなっていくのかもしれない」という“未来”を体感、いや確信することができる作品なのではないかと筆者は思っている。

 
特に本作はゲームジャンルの特性上、アクションゲームのように激しく動き回ったりすることがないので、VR酔いの心配があまりない。加えて、身体を動かす必要が無いので座ったままプレイでき、プレイエリアの確保なども気にする必要がない。

そういう意味では、初めてのVR体験の入り口としてうってつけの作品。この作品を機にVRデビューというのも大いにアリな選択ではないだろうか。

もちろんこれはあくまで筆者の意見なので、「やりたいと思ったらやる!」が一番であるが、現状やってみようかどうか迷っている人などは参考にしてみてほしい。

 
東京クロノスは、現在SteamやOculus Storeにて販売中で、対応デバイスはいまのところHTC VIVE、Oculus Rift、Oculus Goの3つ。また、今年の7月からはPlayStation VRでの発売も予定しており、さらに時期は未定だがOculusの新たな一体型VRゴーグル「Oculus Quest」への対応も予定している。

クロノス世界の“10人目”の仲間として、ぜひ彼らの物語を見守ってみてはいかがだろうか。

 
●ゲーム概要

・配信概要
タイトル:東京クロノス(TOKYO CHRONOS)
ジャンル:VRミステリーアドベンチャー
配信開始時期:2019年3月20日(※PSVRは2019年7月予定/Oculus Questは未定)
プラットフォーム:Oculus(Oculus Go, Rift, Quest)、SteamVR、PSVR
対応言語:Japanese / English / Chinese

・キャスト
櫻井響介: cv.上村祐翔/ 二階堂華怜: cv.石川由依/ 桃野夕: cv.木戸衣吹/ 東国ユリア: cv.柚木尚子/ 神谷才: cv.朴璐美/ 両角愛: cv.桜あず/ 街小路颯太: cv.植田圭輔/ 蔭山哲: cv.梶裕貴 / ロウ: cv.木村良平

・制作スタッフ
監督:柏倉晴樹(「楽園追放 -Expelled from Paradise-」モーション監督)
シナリオ:瀬川コウ(「今夜、君に殺されたとしても(講談社タイガ)」ミステリー作家)
プロデューサー:三木一馬(「ソードアート・オンライン」プロデューサー)
キャラクターデザイン:LAM(イラストレーター)
海外パブリッシャー:Sekai Project(「CLANNAD」「ネコぱら」Steamパブリッシュ)
プロモーションパートナー : Tokyo Otaku Mode Inc.

 
(文 高橋佑司/編集 花茂未来

 
●関連リンク
東京クロノス 公式サイト
Steam 販売ページ
Oculus Store 販売ページ

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