花譜ワンマンライブ「不可解」1万字レポート なぜ彼女はVTuberライブの特異点となれたのか?

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バーチャルの存在が歌う自分のリアル

4つ目のポイントとして、「これから本編」といえるほどのアンコールの凄まじさだ。ざっとまとめると

・制服衣装での登場
・「御伽噺」のポエトリーリーディング
・待ち望まれていた「命に嫌われている。」のカバー
・クラウドファンディング発の新衣装お披露目
・最後を締めくくる「不可解」「そして花になる」の新曲2曲

と新要素が盛りだくさんで、「アンコールとはなんだったのか」と言葉を失ってしまった。

「御伽噺」のポエトリーリーディングでは、「魔法」のかけ方が見事だった。合いの手が入るほど熱いアンコールの掛け声が開けて、制服姿で現れた花譜ちゃんに色めき立つ客席。「またあの可愛いMCで今日のライブのお礼を口にするのかな?」と思いきや、彼女は突然、「久しぶり、元気?」と語り始める。客席からは、アンコールを叫んでいたテンションのまま「元気ー!」と返事が飛ぶが、そのまま彼女は言葉を続ける。

「卒業以来だね。
三ヵ月ぶりぐらいか。
よびだしちゃってごめん。
あのさ」

この辺で、MCと何かが違う違和感を感じる。

「あのね、じつはね。君に秘密にしていたことがあるんだ。
絶対に言わないって約束するなら
君にだけには言ってもいいけど。
秘密にしてくれる?」

「いいよー!」と客席から飛ぶ声をさらに流して

「絶対に笑わないでね。
あのね、実はね、わたし未来から来たんだ。」

と衝撃の告白を行う。「ええっ、花譜ってそんな設定あったの!?」と混乱しながら聞いていると、彼女が来た未来では戦争が行われていると話を続ける。この辺で、MCではなくこれは演目なんだと気づいた客席たちが一気にステージに飲まれていく。

BGMとして流れるのはドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の第2楽章。ドヴォルザークが新世界であるアメリカ滞在中、故郷であるボヘミアに向けて書いた曲だ。この心境を重ねて、未来から現在を想っているのかと思いきや

「ぜんぶうそ。
ただの御伽噺だよ。
だけど。
ねぇわたしのことしんじれる?」

と先ほどの話を全否定する花譜。後半は「わたしのこと、10年後も100年後も忘れないでいてくれる?」「たった一度でいいから、本当のこと言って?」と問い詰めに来て、「君って語彙力ぜんぜんないんだね」「きみなんてだいっきらいだ」とメンヘラムーブ(?)で締めるという流れだった。

一体、これは何だったのか。単純に詩を読んだだけなのか、それとも花譜が自分について語った「物語」の一部なのか。狐につままれた「不可解」という心境で、その世界観の底深さに鳥肌を立てていた。

 
カンザキイオリの「命に嫌われている。」のカバーは、全「観測者」(花譜のファン)が待ち望んでいたことだろう。カンザキイオリといえば、花譜の全曲を手がけるボカロP。その代表曲がYouTubeで970万回以上再生されている「命に嫌われている。」で、開演前に流れた「笹木は嫌われている」ではないが、多くのVTuberが課題曲的に歌っていた。なぜカンザキイオリと最もつながりが強い彼女がまだなのか。ファンの誰もが思っていたことだ。

 

 
花譜はあの慣れないMCでカンザキ氏、彼女をデザインしたPALOW氏、映像担当の川サキケンジ氏、運営への感謝を口にした上でこう続ける。

「わたしの周りは自分なんかにはもったいないほんとに素敵な人達ばかりで、すごくポジティブなんです。だから安心してネガティブでかなしい歌も歌えます。だからね、わたしが愛してるこの曲をみんなに聞いてほしいです。『命に嫌われている』」

イントロが流れ出すとようやくかなった願いに会場から大きな歓声が上がり、全員がしみじみと耳を傾けていた。

 
新衣装のお披露目も、「そっちのベクトルに振るのか」と驚いた。新衣装は予想以上に出資を集めたクラウドファンディングのストレッチゴールとして用意したもので、通常衣装を「花譜 第1形態 雛鳥」とし、新衣装は「花譜 特殊歌唱用形態 星鴉」(ほしがらす)と名付けていた。

ステージでは、花譜が「みなさんに約束したことがあって……。おぼえてますか? 新しい衣装……。みんな見たいですか? じゃあ準備するね」と発言。姿を消すと、まるで魔法少女の変身(ロボットアニメの変形?)シーンのようなダイナミックな映像が流れ、フーディーモンスター(使い魔のような存在)である「らぷらす」が彼女を飲み込む。そして新衣装で現れると、「みなさんのおかげでできた衣装です。ありがとうございます」とお礼を述べていた。

筆者的には、先ほどまでの染み入る雰囲気からガラッと変わったことに面食らってしまったものの、パンフレットを読んで印象が変わった。「星鴉」は製作過程としてもイレギュラーな存在なので、「第二形態」ではなく「特殊歌唱用形態」としたとのこと。この辺に単なるバーチャルシンガーではない「物語」がまた潜んでいそうで、今後の展開が非常に気になるところだ。

 
ライブ中、最も筆者の心を打ったのが、ラストの「そして花になる」だった。

VTuber業界では、アバターの「魂」(演者)の人となりについて周囲が語ることは文化的にあまりない。一方で花譜という存在は、運営チームが書いたnoteにもあるように「魂」の輪郭がだいぶはっきりしている。

プロデューサーが彼女という才能に出会ったときは、まだ13歳の中学生だったということ。東京から遠く離れた地に住んでいるため、本格的な音楽活動をすることに物理的な限界があること。彼女のご両親が顔出しに抵抗があるため、盛り上がっていたVTuberシーンを活用したこと。彼女は「企業」につくられた偶像でも、プロとしての訓練を長く積んできた「卵」でもなく、単なる素人であること──。

運営側も、バーチャルのアーティストは、リアルのアーティストと肩を並べても遜色のないリアルとバーチャルを越境できる存在になれるのか、と問い続けてきた。ライブ後に投稿した「不可解」への想いと合わせて、花譜に興味を持つ人は必ず目を通しておくべき文章だ。その前提があったうえで、「そして花になる」の前MCでも彼女の口から想いが語られる。

 
「この曲は、私が花譜としてデビューする前からあった、今の気持ちを歌っています。この曲はクラウドファンディングのあとにつくった、好きになってくれた人たちへの気持ちをこめた歌です」

「自分のことをいってしまうとね、わたしは歌が本当に大好きで。それ以外に大好きなことがなくて。私は将来何をすればいいんだろうと考えたときに、音楽しか思い浮かばなくて。でもそれで生活していくのは難しいのはわかっていたので、すごく悩んでいました。今も2年後、3年後、自分が何をしたいかわかりません」

「東京にきてレコーディングをしていると自分じゃない気がします。なんというか本とか映画をみているような気がします。ファンのみなさん、運営さんやカンザキさん、川サキさん、PALOWさん、クリエイターのみなさんが花譜を大事にしてくれることいつも感じています。だけどたまにこれでいいのか、と思ってしまいます。労力と結果が見合ってないなと思います。

いつも録り終わってから『あー、もっとここはうまくできたはず』となります。でももっとがんばりたいです。力不足なところだらけですが、これからも色々なことに挑戦したいです。

最後の曲を聴いてください。
この歌が今のわたしのすべてです。
『そして花になる』」

 

 
「そして花になる」の歌詞から引用しよう。

 
「人生だとか青春だとか
不条理に思うことなんてなかった

私が歌を歌うのは
歌が好きだったってわけさ
好きなものを
好きなことを
好きでいることに理由はいらない
だから私は歌うのだ
名前のない花が咲いた
あなたが知らなくたってどうでもよかった
でもあなたがいるから私は私になれる」

 
彼女は単純に歌が好きで、歌詞とのギャップはプロデュースで生まれたものだが、それでも圧倒的な説得力を持つということ。そして、MCの姿はやっぱり素だったということ。種明かしではないが、「この歌が今のわたしのすべてです」と彼女の口から語られる素顔がそこにはあった。「あなたがいるから私は私になれる」と、運営、クリエイター、ファンなど彼女を取り巻く多くの人に感謝していることも伝わってくる。

もしかしたら今までずっと誰かの歌を歌ってきた花譜が、初めて歌う自分の歌だったのかもしれない。歌のうまさ、音楽のよさ、映像の完成度の高さ。もろもろの素晴らしいクリエイティブを十分に見せつけてきた最後の最後で、ロールプレイとしてのキャラクターソングではない、私小説のような本当の言葉を歌わせるという新しい「物語」まで加える。そんな「やり口」があまりに鮮やか過ぎて、言葉を失うしかなかった。

VTuberをリアルに感じさせるとはなんだったのか。そもそもVTuberをつくるとはどういうことだったのか。そんなことを考えながらステージを見ていると、最後に「THE END OF PROLOGUE」と映し出された。あれだけサプライズを詰め込んだ最後に、花譜はまだプロローグが終わったばかりでこれからが「本編」だったと宣言する豪胆さ。

約2時間、花譜に殴られっぱなしでふらふらの頭のまま、これからの展開が本当に期待でしかないと感じて会場を後にした。

 
●セットリスト
──少女降臨──

M1 糸
M2 忘れてしまえ
M3 雛鳥
M4 心臓と絡繰
M5 エリカ
M6 未確認少女進行形
M7 うつくしいひと(リーガルリリーカバー)
M8 五月雨(崎山蒼志カバー)
M9 死神(大森靖子カバー)
M10 祭壇
M11 魔女
M12 quiz(Guiano Remix)
M13 夜が降り止む前に(大沼パセリ Remix)
M14 夜行バスにて
M15 過去を喰らう

──御伽噺(Dvořák「家路」 samayuzame Arrange)──

M16 神様(東京ゲゲゲイカバー)
M17 命に嫌われている ─Prayer ver.─(カンザキイオリカバー)

──誕生星鴉──(新形態御披露目)

M18 不可解
M19 そして花になる(みんなの力で生まれた楽曲)

エンディングロール
 ハミングがきこえる(カヒミ・カリィカバー)
 フロントメモリー(神聖かまってちゃんカバー)
 ダンスが僕の恋人(東京ゲゲゲイカバー)

 
 
次ページでは、さらに花譜という存在の魅力を紐解く

 

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