花譜ワンマンライブ「不可解」1万字レポート なぜ彼女はVTuberライブの特異点となれたのか?

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不可解な花譜の魅力を紐解く

ここまででも十分長いものの、初心者向けに理解を深めてもらうために、花譜という存在の魅力についても語らせてほしい。

陳腐な言葉で言えば「エモい」となるだろうが、もう少し掘り下げると、彼女に詰め込まれたいくつものギャップが聴くものを惹きつけるのだろう。そう、ちょうどいい言葉が「不可解」だ。

前提となるのが、天賦の才というべき声質と歌い方だ。ビブラートとも違うか弱く震えるピッチや、ささやきを基調にときどき牙をむくように激情的になる歌い方など、それが15歳の可愛らしい声と並存しているのがなかなかユニークだ。

声量に押されるディーヴァ、透き通るような美声、かわいらしさに惹きつけられるアニメ声といったわかりやすい正面突破ではなく、はかないのに不思議と心地よさを感じさせる謎の魅力になる。

 

 
具体例を挙げていこう。歌い方で筆者が一番好きなのが「フラジール」のカバーで、例えば「シ」が「スィ」に近かったりと発音が崩れるところにばっちり惹かれる。

「回送(かいすぉう)列車に揺られ動いている」
「目を落とし(しぃ)た先で笑っていた」
「火がついたように街(まつぃ)が光った」

別の部分のリズミカルな促音の発音も相まって、聴いていてとても心地いい。

揺さぶりをかけてくるサビあたりも素晴らしい。Bメロの低く絞り出す「できれば遠くに行かないでくれ」から「出来るなら痛くしないで」で悲痛さを感じさせ、さらにサビの「構わないで、ないで、離れていて」で叫びのような強い声で心を打った上で、ブレスなしでやさぐれた「軋轢にきゅっと目をつむって」に落とすという、「どうなってんだ15歳!?」という緩急のつけ方が神的だ。

 

 
「またねがあれば」のカバーも最高だ。冒頭から1分19秒をいつものように淡々と歌い、サビで「あなたと過ごした36ヶ月の中に 半生分の幸せと、一生分の後悔が」と力を入れた急展開で惹きつけ、「穿って、育って、白斑の花が咲く」と低域から高域まで伸びる美声を魅せ、さらに「私だけだったのかな」と震える声で落とすという、その表現力にうなってしまう。

筆者だけかもしれないが、サビに向けて溜めていき、こぶし的なサムシングで開放するという、演歌のようなダイナミックな構成にヤバさを感じてしまう。最新投稿作の「そして花になる」なら、落ちサビにあたる「好きなことを 好きなように 好きでいることに理由はいらない」の激情的な歌い方が、最高に「花譜節」といえるだろう。

 
語り始めるとこのまま全曲レビューになるのでこの辺にしておくとして、この歌声にネガティブな歌詞を歌わせ、PALOW氏が手がける可愛いアバターの見た目をかぶせ、さらに川サキケンジ氏の映像でまとめるようにプロデュースしたのが大きなギャップを生んでいる。

別れ、痛み、悲しみ、後悔、苦悩、不条理、呪詛、闇、死──。いつの時代も、ネガティブな歌というのは、超えられない辛さを抱え、それでもギリギリで生きている人たちの心を救ってきた。しかし、そうした歌詞は癖が強いゆえ、朗々と歌い上げる正面突破のアプローチでは聴く人の心になかなか響かないこともある。

その点、花譜では、このはかない声とかわいらしい見た目を暗い歌と映像に合わせて行けると踏んだのがまず神采配で、さらにオリジナル楽曲のプロデュースに「命に嫌われている。」ですでに知られていたカンザキイオリを組み合わせたのが本当に反則技としか言いようがない。

カンザキ氏は、ライブのパンフレットで彼女の声について「すごく特徴的で、良く言えば美しく神秘的、悪く言えば不安定な印象」と初めて聴いたときの印象を語っている。そして彼女の曲をつくる際、テンプレート的な売れ筋ではなく、この不思議な歌声をどう生かすとベストになるのか曲調を模索していったという。歌詞についても、神秘的な声の魅力に寄り添いつつ引き立てることを目指し、幼かったり、子供らしくありしつつも訴えかけて「ハッ」と共感してもらえるものを目指した。

そうした才能の目指す先がすべてが合わさった結果、絶望の曲で希望を感じさせ、はかなさが暴力的に響き、淡々としつつも激情的という矛盾をはらんだ見事な作品が産み落とされたわけだ。

 
さらにかわいさという「魂」のギャップまでかぶせてくるのが最高だ。どのVTuberでも言える話だが、視聴者はふとVTuberの素顔が見えた瞬間に、「あっ、好き」とファンに転向することが多い。普段の神秘さや重さがあった上で、動画やMCでのちょっとした言い間違えを聞くとときめきが加速する。

 

 
 
結局、彼女を表すのに一番ぴったりな言葉が「不可解」で、そのいい意味で創られた稀有さにわれわれは心を奪われてやまない。

 
アーティストやタレントは、ときとしてプロデューサーの手腕で味付けられて、時代が求めた寵児として才能を開花させる。さらにバーチャルタレントであれば、見た目や生い立ちまでも細かくプロデュースできる。そしてVTuberとして伸びるなら、視聴者の身近なネタを取り上げたり、ユーザーと生放送のコメントで交流して距離を近めたり、Twitterで「芸人」になったりと、有効な戦術がいくつかあるわけだ。

にも関わらず、花譜はウケやすい王道を進むのではなく、あえて創作の力を信じて突き進み、魔法の種明かしまでしたうえで、涙にも頼ることなく、多くの心を動かした。そんな事実に衝撃を受けるとともに、VTuber業界の新しい希望を感じてやまない。

花譜が単に彼女だけで終わる現象になるのか。それともバーチャルのシンガー・ミュージシャンがボーカロイドのように音楽ジャンルの一角を成すまで成長するのか。音楽業界の崩壊の中で生まれた初音ミクという特異点がクリエイターを吸い込んで行ったように、VTuberはまた新たな才能を引き寄せる重力を生めるのか。まったく未来は見えないものの、今回のライブはひとつの輝きを示してくれたと感じた。

今、花譜を追わないのは、同じ時代を生きている者として非常にもったいないと感じる。BOOTHで9月11日に発売するファーストアルバム「観測」をゲットしつつ、巡り会えた奇跡に感謝してぜひ観測しておこう

 
 
(TEXT by Minoru Hirota、Photo by 小林弘輔

 
 
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