SIEが伝授するVR酔い対策とマーケティング施策 「Unreal Fest 2016」のPS VR講演をチェック
10月1日にパシフィコ横浜で開催されたUnreal Engine 4のセミナーイベント「Unreal Fest 2016 Yokohama」。丸1日かけて、ソフト開発スタジオによる開発事例紹介、Epic GamesのスタッフによるTipsなどに加えて、プラットフォーマー各社の講演が行われた。
筆者的には「しあわせ荘の管理人さん。」(ディースリー・パブリッシャー)の開発でも知られるタムソフト開発陣が講演した「四女神オンライン」(コンパイルハートより発売予定)の開発事例がアツかった!ここではソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStation VRに関する講演をレポートしよう。
3人のテスターがチェックするコンサルサービス
第1パートはご存知SIE ワールドワイドスタジオ プレジデント・吉田修平氏による「PlayStation VRの対応コンテンツ向けコンサルテーションサービスの取り組みについて」。このコンサルテーションサービスは、PS VR対応コンテンツにおいてVR酔いの原因になる要素を発見してリスクを未然に取り除こう、というもの。VRを初めて体験した人が酔って気持ち悪さを感じてしまうと、今後VRを遊んでくれなくなる危険性があるため、リスクを可能な限り排除しておくことは極めて重要なことだ。
不快感の主な要因は主に視覚。VR酔いはもちろん、3D表現のグリッチ(=ステレオ違反)も原因になる。また視線移動などを駆使したゲームでは疲労も原因となる。
VRの不快感の主な症状をSIEのテストでは3人のテスターによるアンケート方式で調査。二人が不快な症状を訴えたらテスターを増やして再検証するとのこと。
先ほどの要因をさらに掘り下げてみたのがこちら。VR酔いの原因は遅延以外にも、操作とカメラが原因に。また360度動画のつなぎ目も不快感につながるそうだ。
PS VRでは、最低毎秒60フレーム(リプロジェクション使用時)での制作が必須とされ、それ以下のフレームレートに連続的に落ちるとデバッグメッセージが表示される。 また、リプロジェクション処理の開始タイミングについても早すぎても遅すぎてもダメ、とのこと。
リプロジェクション処理を間違えるとこんな映像になってしまう、という一例。
UIや字幕の距離感で不快感を引き起こすこともある。また長い字幕はVRでは読みづらいので工夫が必要。PS VRでは世界、コントローラ、視界のいずれかに字幕を貼り付けることができるが、使い方にも注意が必要だ。模範例としては「サマーレッスン」のUIが挙げられた。
©️ BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
今回のセッションではジャンル別に見た対策も解説された。写真とともに紹介したい。
「バイオハザード7」や「Farpoint(仮)」のようなFPSタイプの探索型ゲームでは通常の移動速度は遅めに、ボタンなどを押して能動的に移動したときに早く進む、といった処理を入れることや、基本的に視点操作はヘッドセットで行い、大きく動かしたいときは右スティックの左右で一定角度ずつ移動する「スナップターン」を採用することが望ましいとされる。TGSの「バイオハザード7」でも操作方法はこれに倣っていた。
©️ CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
「Bullet Train」など最近多くなりつつあるワープ移動タイプのものは必要に応じて細かいアクションを入れていくほうがいいらしい。ここで紹介された「バウンド:王国の欠片」のPS VRモードではキャラクターの移動に応じて視点が変化する形だ
©️ 2016 Sony Interactive Entertainment America LLC. Developed by Plastic.
乗り物系のゲームではジャンプなどの視点移動、ロールやクラッシュ表現などの回転はVR酔いを引き起こしやすい。
また、現実とは違う挙動の世界というのも酔いやすいらしい。「Until Dawn: Rush of Blood」では建物が回転するなどの演出がある。
その他のTipsとしてコントローラやヘッドセットの動きを見ながらプレイヤーの熟練度を判断して操作の変更や難易度設定を行うことも推奨された。また、ゲームに慣れるまではあまりウロウロさせずに一本道を進ませる、というのもやり方の一つとも。
また、コックピット効果はそれなりに効果はあるものの、FOVを狭めることで目への刺激を誘発する恐れがあることと、UIとの干渉も発生するとの問題点も。
チュートリアルを丁寧に作ることも大事とのこと。
シン・ゴジラやダンガンロンパの制作実例
続いて、SIEJA・秋山賢成氏による「発売直前!PlayStation VR コンテンツ制作のための情報」。PS VRの開発をするスタジオも多くなり、どのゲームエンジンを使おうかと悩むスタジオの開発担当者も多いとか。
ちなみに秋山氏から見たUnreal Engine 4の利点はこんな感じだそうです
ここではコンテンツ制作実例を紹介、したのだが最初の実例がCEDECで紹介した「シン・ゴジラ」の実例だったのでこちらは割愛。
こちらをご覧ください→映画クオリティのVRを目指して! 「シン・ゴジラ」VRコンテンツのメイキング【CEDEC】
別の開発事例として紹介されたのが「サイバーダンガンロンパVR 学級裁判」。スパイク・チュンソフトの「ダンガンロンパ」シリーズのVRバージョンとして、2015年の夏に香港で開催された「動漫電玩節(ANI-COM)」で発表されたものだ。PlayStation Plus会員向けに10月13日より無料配信される。
©️ Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved.
最初は「オシオキシーン」だけで構成する予定だったが、学級裁判シーンを加えたいまの形となった。アドベンチャーゲーム(一応「それは違うよ!」と言っておきますが、「ダンガンロンパ」シリーズの正式ジャンルは「ハイスピード推理アクション」でございます)でもVRになる、というのがコンセプトだったらしい。
当初はゲーム中のミニゲームもVR化する企画もあったがそちらは割愛された。結果学級裁判パートでのウソの発言を打ち抜く、というものがクローズアップされ、キャラクターのアクション性が追加された。
本来の「ダンガンロンパ」ではキャラクター15人分の席があったが、さすがにそれをやると見えにくい、ということで本作ではスケールを再調整している。ちなみに被害者の遺影があるのはシリーズのお約束です。
今回はスパイク・チュンソフトの開発者を交えての事例紹介ではなかったので、簡単な紹介で終了した。機会があれば開発担当者を交えてのマシンガントークバトル、みたいな感じでお願いしたいところである。
続いて開発上のTIPSが挙げられた。まずは内部解像度の設定で、通常の100%から140%以上に挙げるとグラフィックのクオリティが上がる。「シン・ゴジラ」でも使用され、体験の向上に効果を発揮している。
毎秒60フレームで動かすためのリプロジェクション処理は非常に大事でタイミングを間違えると正しい処理が行えなくなってしまう。
「Instances Stereo」で両目画像の同時描画を行うとたいていのケースではCPUのパフォーマンスを稼げる。また、Multi-ViewはPS4のSDKにのみ存在する機能で、これと併用することでGPUパフォーマンスを稼げる。
最後に「PlayStation祭」について。SIEJAでは「すべての遊びがここに集まる」をキャッチフレーズとしたPlayStationのイベントを随時開催している。現在は地方都市4か所で「PlayStation祭 2016秋」を開催、名古屋・福岡・大阪は終了し、10月30日には札幌で開催される。また、かつては「ドラゴンクエストビルダーズ」でファミリー向けのイベントが、「オーバーウォッチ」でスクウェア・エニックス(国内発売元)VS SIEの対決イベント配信が行われている。
東京ゲームショウ2016でもPlayStation祭を冠したステージイベントが開催され、「オーバーウォッチ」などに加えてプロゲーマーチームによる「RIGS Machine Combat League」の対決が行われた。
PlayStation 祭 『RIGS Machine Combat League』(東京ゲームショウ2016)
©️ Sony Interactive Entertainment Europe Developed by Guerrilla Cambridge.
今後はVRタイトルでもこのような施策を続けるそうで、こういう面白いイベント企画がある、というパブリッシャー・デベロッパーに向けたアピールを行った。
体感しないと面白さがわからないVRタイトルではこういう試みは大歓迎なので、筆者はパブリッシャー・デベロッパーの各社にはこの施策に積極的に乗っかってほしい、と思った。今後の展開にも期待がもたれる。
©️ Sony Interactive Entertainment Inc.
(TEXT by Shogo Iwai)
●関連リンク
・PlayStation VR
・「サイバーダンガンロンパVR 学級裁判」公式サイト
・UNREAL FEST 2016 YOKOHAMA