【TGS2018】全盲のプログラマーが手掛けた音だけのゲームを体験 インディー開発チーム「Audio Game Center」

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9月20日~23日に幕張メッセにて開催中の「東京ゲームショウ2018」は、国、会社の規模などを越えて古今東西のさまざまなゲームが集まることも魅力のひとつとなっている。近年はインディーゲーム(法人格の有無を問わず、個人もしくは小規模の開発チームによって開発されたゲームの総称)も非常に注目されており、「TGS2018」でも多数のインディーゲームが出展されている。

 
インディーゲームコーナーをぶらぶらと見ていて、筆者の目になんとなく入ってきたのが「Audio Game Center」という開発プロジェクトチームだ。コンパクトなブースだが、出展しているのは「音だけで遊ぶゲーム」なので、巨大なディスプレイやVR機器などは一切必要ない。数あるインディーゲーム出展の中でも「音だけで遊ぶ」というコンセプトに惹かれて、ゲームを実際に体験してみることにした。

 

「想像力」が生み出す「リアル」

「xR」全般を扱うメディアであるPANORAとしては、このゲームのコンセプトは「VR」と対極にあると感じるかもしれない。しかし、筆者個人の「バーチャル」な「リアリティー」は、必ずしもシネマライクでゴージャスな映像表現に限らないと考えている。良質なVR体験には、プレイヤー自身の「想像力」や「錯覚」といった「脳が勝手に補完する部分」、それを引き出す「音」などのきっかけも重要な要素であると感じるからだ。

 
かつてセガサターンで「リアルサウンド ~風のリグレット~」というゲームがあった。このゲームも画面表示が一切なく、ボイスドラマと選択式アドベンチャーゲームを掛け合わせたようなゲーム性となっており、ゲームの世界観や登場人物のビジュアルなどはすべてプレイヤーの「想像力」に委ねられた。「Dの食卓」などで知られる飯野賢治氏がプロデューサー/ディレクター/ゲームデザインを担当。大ヒットとまではいかなかったものの、当時大きな話題となったことを思い出した。

 
「Audio Game Center」のブースに立っていた男性(プロジェクトでゲーム監修を務める犬飼博士氏)に取材と体験プレイをお願いすると、すぐに快諾してくれた。ゲームの説明にプログラマーを紹介して下さるとのことで、呼ばれたのは、白杖をついた男性だった。ゲーム制作・プログラミングを担当する野澤幸男氏は、全盲であるという。

 

出展ゲーム「Screaming Strike」をプレイ


何はともあれ、ゲームをプレイしてみなければ何もわからないので、早速ゲーム開始。タイトルは「Screaming Strike(スクリーミング・ストライク)」。以下、ゲーム画面がないという大前提のもとで想像して頂きたい。

 
出展ゲーム「Screaming Strike」は、アクションゲームだ。迫ってくる敵を攻撃して倒すというシンプルな内容で、一定数の敵を倒したら次のステージに進み、徐々に難易度が上がっていく。敵を倒し損ねるとダメージを受け、3回敵を倒し損ねたらゲームオーバー。ハイスコアを目指してひたすらプレイするタイプのゲームである。

 
真ん中と左右、あわせて3本レーンがあり、プレイヤーはどのレーンから敵が迫って来ているか「足音」で判断する。プレイヤーの位置はデフォルトで真ん中のレーンに戻るようになっており、レバーで左右に移動。敵がプレイヤーの間合いに入ったら、ボタンを押して攻撃を繰り出す。「←」「→」「ボタン」しか使用しない。

 
装着したヘッドフォンから聞こえてくる「足音」に「集中」して耳を澄ます。何なら目を閉じて「集中」をさらに研ぎ澄ます。最初は1人ずつゆっくり襲ってくる敵だが、ステージが進むと敵出現の間合いが狭くなるため、「集中」する余裕が徐々になくなり、あっさりとゲームオーバーになってしまった。

 
レトロゲームのようなシンプルさだが、何度もプレイしたくなる「くやしさ」、プレイするほど上達するであろう「希望」を確実に感じることができ、本質的に面白いゲームであると思えた。

 
一点だけ筆者の希望を挙げるとすれば、「TGS2018の会場」という雑音が多い場に不向きであるということだけだ。静かな場所で集中して遊ぶ、もしくはゲームの内容として多少の雑音に負けない何らかの工夫が必要であると感じ、プレイヤーのプレイ環境、ゲームの仕様のどちらか、あるいは両方が雑音対策に歩み寄る必要があるかもしれない。「TGS2018の会場」というのは極端だが、プレイヤーのプレイ環境が必ずしも静かな場所であるとは限らないのも事実だ。

 
ちなみに今回出展しているものにはゲーム開始前にチュートリアルもあった。これも、音と音声合成ソフト(多少読み間違いがあるが何とかなる)による案内・説明だけで構成されていた。画面は一切使わない。

 

▲念のために撮影したゲーム画面。何かプログラム立ち上がっていることしかわからない

 

オーディオゲームクリエイター・野澤幸男氏

野澤幸男氏は、現在慶應義塾大学環境情報学部在学中の若きクリエイターだ。幼少期から独学でプログラミングを学び、視覚障害者向けのアプリケーションを含めて、数十本のタイトルを開発してきたという。

 
全盲である野澤氏にとって「音」に含まれる情報のウェイトが、我々よりも遥かに大きいことは想像に難くない。そんな野澤氏だからこそ、「音」の情報をエンタテインメントに昇華するゲームを自らの手で開発したくなったのかもしれない。

 
今回「TGS2018」に出展した「Screaming Strike」の監修を務めた犬飼博士氏とともに話をうかがうと、やはりVRにも興味を持っているとのこと。バイノーラルなど、より立体的に音を感じる分野にも挑戦していきたいと語ってくれた。

 
しかしながら、現在はUnityによる開発が視覚障害者向けに整っていない面が多々あるため、ユニティ・テクノロジーズに相談しながらになるという。たしかに、ゲーム開発環境のユニバーサルデザイン化はまだまだ難しい面もあるだろう。

 
それでも、今後も新しいゲーム開発に取り組んでいきたいと語ってくれる野澤氏は、とにかく前向きでポジティブだ。野澤氏ならきっと、映像の有無を問わず、我々の知らない「音」の世界の面白さを引き出したゲームを生み出してくれるのではないだろうか。

 

▲Audio Game Centerブースは、少し離れた9~11ホールのインディーゲームコーナー

 

「TGS2018」で体験し損ねた人へ

開発プロジェクトチーム「Audio Game Center」は、9月29日・30日の2日間、南青山・スパイラルエスプラナードにて、イベント「Exhibition」を開催する。入場無料で、筆者が今回体験した「Screaming Strike」もプレイできるようなので、プロジェクトチームやゲームが気になる人はぜひ気軽に足を運んでみてほしい。

 
●Audio Game Center「Exhibition」
・開催日時:9月29日・30日 11:00~20:00
・会場:スパイラルエスプラナード 中2階
 (東京都港区南青山5-6-23)
・入場料:無料

・主催:DDD Project / being there
・会場協力:spiral
・協賛:メルカリ
・助成:東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京

 
(文 津久井箇人 a.k.a. そそそ/編集 花茂未来

 
*東京ゲームショウ2018の記事まとめはこちら

 
●関連リンク
東京ゲームショウ2018 公式サイト
Audio Game Center ウェブサイト

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