花譜ワンマンライブ「不可解」1万字レポート なぜ彼女はVTuberライブの特異点となれたのか?
バーチャルシンガーの花譜(KAF)は1日、東京・恵比寿にあるLIQUIDROOMにて初のワンマンライブ「不可解」を開催した。
約2時間のステージで19曲と1編のポエトリーリーディングを披露し、会場に集まった観客のほか、生中継を配信した全国14ヵ所のライブビューイング会場やYouTube Liveで見守った視聴者の心を大きく揺さぶった。
ネットでの熱狂はすさまじく、YouTube Liveの同時接続数は2万(!)を超え、Twitterではライブのハッシュタグ「#花譜不可解」が世界(!!)のトレンドで1位に輝くほどの勢いで、「伝説のライブだった」「世界が変わった」と絶賛が相次いだ。筆者の周囲のVR・VTuber関係者も衝撃を受け、15歳の少女から受け取った何かを伝えようと高い熱量でネットに想いを綴っていた。
バーチャルYouTuber(VTuber)の音楽ライブというと、今となってはそう目新しいものでもないが、なぜ「不可解」は参加した者の心を震わせ、同じ業界のクリエイターが嫉妬するインパクトを実現できたのか。LIQUIDROOMの現地レポートをお届けしつつ、さらに彼女の魅力を紐解いていこう。
なお、語ることがありすぎるので非常に長く、ライブを見た人前提で書いているのでネタバレが含まれています。
ライブで完璧に再現された花譜という存在
筆者が会場に入ったのは18時20分頃。オールスタンディングの客席のほどんどが埋め尽くされ、異常な蒸し暑さで会場の冷房が微妙に追いついていない中、BGMとしてKizuna AIの「AIAIAI」、輝夜月の「Dance With Cinderella !」、月ノ美兎が歌う「ネコミミモード」、笹木咲の「笹木は嫌われている」などVTuberの有名曲が流れ、「あれ、花譜ってこんなイメージだったっけ?」と面食らったのを覚えている。ネットのライブ配信では、お祝いメッセージが流れていたようだ(見たかった)。
しかし、そんな違和感は19時を迎えて始まったライブですぐに払拭された。ステージの幕が開いて始まったオープニングは、「少女降臨」と名付けられた彼女のモノローグ(ポエトリーリーディング?)と、ステージいっぱいに広がるLEDに映し出されたモーショングラフィックスだった。
「うみ、
そら、
かぜ、
あさ、
よる、
あめ、
おんがく、
いのち、
いたいこと、
みたされること、
なつのにおい、
あいすくりーむ、
ねこ、
かみさま、」
ささやくような声で並べられた美しい言葉と、映し出される彼女の姿に引き込まれ、一気に暑さも引いていく。最後に
「わたしはきょう、ふかかいなはなになる
きょうからあしたのせかいをかえるよ
すべてをうたにかえてうたう
バーチャルとリアルの、つなぎめから
いまここにいるよ
ここにいる
いるよ」
と鳥肌が立つような予言を残して、彼女がステージ上に登場し、「みなさんこんにちは。花譜です。ワンマンライブ、今日は盛り上がっていきましょう」と告げる。そして1曲目の「はじめてのわたしだけのうた」(初のオリジナル曲)である「糸」のイントロが流れると、会場から「待ってたぜェ!!」とばかりに大きな歓声が上がった。
ライブについては、全体の流れをつぶさに追いたいところだが、とんでもない文字数になってしまったのでポイントを絞って筆者の「ここすき」なところを伝えていこう。
まず舞台装置が圧巻で、花譜という世界観をそののままに音楽ライブを成立させようという意気込みが伝わってきたことに感動した。
通常、バーチャルタレントのライブというと、大型LEDや透明ボード(ディラッドスクリーン)を1枚使うケースが多いが、今回のライブでは、ステージ奥から背景用の大型スクリーン、花譜用の透過パネル、さらに手前にモーショングラフィック用の紗幕スクリーンという三段構えの豪華さだった。
そして一番目を引き、このライブを特徴づけたのが、紗幕スクリーンに映し出されるモーションタイポグラフィクスだった(文字が印象的に動くやつですね)。歌詞というと、花譜が過去、YouTubeに投稿してきた動画でも「魔女」や「過去を喰らう」など言葉の魅せ方で曲を印象づけてきた作品も多い。カバー曲においても、自分は1枚絵(写真?)でも歌詞のテロップはきちんと載せるほど、歌詞を意識させることにこだわっている(制作の手間でテロップしか入れられないのかもしれないが)。
そして花譜の作品といえば実写合成が印象的で、今回のライブでもステージに立つ彼女、背景映像、このモーションタイポが合わさると、まさに彼女の動画が見事にリアルに再現されたという錯覚を覚えた。
個人的な話を言わせてもらえれば、モーションタイポグラフィクスのような表現をステージで使うのは、文字を読むほうに目を奪われてしまいがちなのであまり好きではなく、主役にきちんとスポットライトを当てる演出の方が好みだ。一方で花譜という存在は単なる女の子の姿だけではなく、この歌声、音楽、歌詞、映像のすべてという見方もできる。花譜のライブをつくるというのは、単純に女の子をステージに投影して歌えば済むわけではないのだろう。
考えてみれば、先のモーションタイポグラフィクスも背景映像も、わざわざOP+19曲+1編ごとに異なるものを用意しなければいけないわけだ。事前のクラウドファンディングで得られたお金があったとはいえ、このコンセプトを打ち立て、合わせられた最終形を想像して各クリエイターを調整するだけでも異常な手間がかかっているはず。それをまとめあげて、舞台装置を最大限に生かす演出を実現し、多くの人の心を動かしたという点だけでも素晴らしさしかない。
2つ目のポイントは音楽へのこだわりで、まず大半がカラオケではなく、バックバンドによる生音という丁寧さが印象に残った。VTuberのライブというとアイドル的にコール&レスポンスして一体感を楽しみながら盛り上がれるものが多いものの、今回は(恐らくスクリーンに写り込むため)会場でペンライトの使用が禁止されていたこともあり、観客がほとんど目立たず、手拍子すら戸惑う空気感だったので歌声と演奏を存分に楽しめたのもよかった。
MCにほとんど時間を割かない上、アンコール含めて19曲+1編中、7曲+1編が新曲という構成も異常だ。現地にて、「やったー!新曲」→「えっ、また新曲……?」→「!?!?!?」→「?????」と、新曲が披露されるたびに圧倒されていたことを思い出す。リーガルリリーの「うつくしいひと」、崎山蒼志の「五月雨」、大森靖子の「死神」、東京ゲゲゲイの「神様」というカバー曲のチョイスもドンピシャだった(「わたしがすきなうたをうたうよ」ですね)。
何より素晴らしいのは、ネガティブな歌詞とのギャップで音楽の力を最大限に引き出し、見るものを圧倒して、自然と涙腺を緩ませるはかない声質と歌い方だろう(この辺、めちゃくちゃ長くなるので後述する)。
花譜という存在は、先のクラウドファンディングのように間違いなくファンの熱意と一緒につくってきた部分もあるのだが、今回のライブに関していえば客席との一体感で成り立つというより、ただただ圧倒的な音楽の力と世界観で見るものをねじ伏せていた印象だ。
3つ目のポイントとして外せないのは、MCのかわいさだろう。あれだけの壮絶なパフォーマンスを見せておきながら、MCパートになると、ちょいちょい噛んだりとステージ慣れていない等身大の15歳の女の子に戻ってしまう。このギャップの暴力さよ。
かわいさといえば、6曲目の「未確認少女進行形」ではハローの歌詞に合わせて手を振る姿を見せたりと、歌の最中にもときおりチラ見せしていたのが実にあざとい。
*次ページでは、アンコールのすさまじさをピックアップ