VRに気持ちよさを! SCE×サテライトの「Project Morpheus」取り組み【CEDEC 2015振り返り】
8月26〜28日に実施していたゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2015」。最終日は「Project Morpheus Day」と銘打っていいくらいにPlayStation 4向けVRヘッドマウントディスプレー「Project Morpheus」の企画が集中していた。
メインホールでは午後の3コマを使用した「サマーレッスン」の企画、技術、制作に関するセッションを、別会場では「サマーレッスン E3 2015 Ver.」を含むMorpheusの体験会をそれぞれ実施していた。日本ではプレス向け以外では初めてとなるE3バージョンの体験会とあって、整理券が午前の基調講演中に配布終了となるほどの人気だった。
同日には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)によるスポンサードセッションも実施。ここでは「Project Morpheusが具現する新しいアニメのカタチ -アニメ業界とゲーム業界の融合とミライ-」と題したセッションをライターの岩井省吾氏にレポートしてもらう。
登壇者はソニー・コンピュータエンタテイメント SCEJAの秋山賢成氏。
まず、発表以来、注目度が高まっているMorpheusの状況を紹介。E3のブースに並ぶ待機列やプレイヤーの姿を紹介した。
秋山氏は、「VRのよさは現実の拡張ではなく、クリエイターが頭の中で想像した世界をそのまま体験できることが面白い」と力説した。
その面白さをもっと多くの人たちに体験してもらうためには、まずはエンタテインメントコンテンツを作っていきましょう。
そしてその次はゲーム……といいたいところだが、Morpheusのゲームに関しては東京ゲームショウのプレスカンファレンスで明らかにされるということだ。
PS4はゲーム機なのでゲームコンテンツに注目が集まるのは当然だが、Morpheusでは映像や旅行などといった非ゲームのコンテンツにも着目している。今回は日本の誇るエンタメのひとつであるアニメをピックアップ。「ゲーム制作技術×アニメ×VR」のコラボで得られた知見を紹介してくれた。
「今までの」アニメとゲームの共通点はカメラを通した見える画面で最適化してきたところ。
しかしVRではユーザーがどこを見るかわからない上、背景でよく使われるビルボード(テクスチャを張り付けた板ポリゴン)は本当に壁のように見えてしまう。そのため、空間演出を再考する必要がある。
VRの課題といえば、視覚情報と三半規管の乖離≒VR酔い。なので、VR空間では体が歩いているのに、リアルの体は動いていないFPSをそのままVRにもってくるのは難しい。まぁ、どこのVRプラットフォームホルダーもこれは命題にしているわけですが。
そこで必要になるのが、視線誘導や行動予測のヒントを与えながら、シナリオや演出で行動の自由度を狭めつつ体感を高めるというアプローチだ。この手法は映画やアニメとの相性がよく、アニメ・CG業界の制作や演出テクニックをゲーム向けに落とし込んだらどうなるか、という話をまとめていた。
その際、SCEJAが探し求めたパートナーが、河森正治氏を擁するアニメ制作スタジオ、サテライトだ。同社は「マクロス」シリーズや「シンフォギア」シリーズなどの制作実績を持つ。
サテライトでは昨年の「東京ゲームショウ2014」にて同社のコンテンツである「AKB0048」と「アクエリオンシリーズ」をコラボレートさせたVRコンテンツを制作し、Project Morpheusコーナーで展示していた(ニュースリリース)。
制作には「Unreal Engine 4」を利用。理由はカットシーンエディタが標準搭載されており、ゲーム未参入の映像会社にも導入がしやすいから。
上から落ちてくる敵に対してどう視線を誘導するか、という課題には……
声で行っている。声での誘導は昔からゲームでは定番ですからね。「上から来るぞ気を付けろ!」(セガサターン版「デスクリムゾン」)とか「エリック上だ!」(ゴッドイーター)とか。
空のような何もないところでキャラクターに注目させたい場合は……
キャラクターが飛んだ軌跡を表示させると視線誘導の目印となる。
アクエリオンは体長50m以上で、普通に見上げてもビルなどに阻まれてほとんど見えない可能性がある。
そこで視点を強制的に上げることで全景を見やすくした。これで体験者の角度を軽減してくれるが、過度な調整は感覚のずれを生じやすくさせるので注意が必要とのこと。
アニメやゲームでは、重量物が接地したときに画面をブラして重さを実感させる「画ブレ」というテクニックを常用している。
通常の映像作品では、ロール・ピッチ方向のカメラ操作を多用しているが、VRでは酔いを誘発しやすいため基本的に採用しない。
ただし、今回はアクエリオンの無限拳(パンチ)のシーンだけ、迫力を出すために一回転ロールを組み込んだ。
時間切れでできなかった未達項目として3Dオーディオの対応、適切なスケールでの作成(ほとんどのビルがアクエリオンより小さい数十メートル程度の高さに留まっているため模型のように見えてしまう)、キャラ目線のインタラクティブ化などがあった。
CGアニメは基本的にプリレンダリングで表示しているが、そのデータをリアルタイムレンダリングが基本のVRで描画すると、処理が重すぎたり質感が表現できないなどの問題が発生してしまう。LODデータの作成などもアニメではほとんど行われていないが、リアルタイムのVRでは重要だ。
サテライトからデジタル部の畑秀明氏(左)と畑山勇太氏(右)が登壇し、アニメとVR映像の違いを発表。新作として「アクエリオンEVOL」をモチーフにした新作VRコンテンツが開発中であることを発表した。
今回はインタラクティブ性を追求するため、PlayStation Moveを使った搭乗シミュレーションになり、通信などでは2Dのセルキャラクターを使った演出も盛り込まれている。
サテライト側からはアニメでのノウハウがVRでも生かせることで、他業種からの参入も容易であることが語られた。ハードの進歩によってさらなる没入感を得られるとも。
秋山氏はVR酔いを起こさないコンテンツの仕様は必須であり、その範疇でいかに気持ちよさを追求できるかをチャレンジしてほしいと語り、講演を締めくくった。
(C) サテライト/AKB0048製作委員会
(C) 河森正治・サテライト/Project AQUARION
(C) 河森正治・サテライト/Project AQUARION EVOL
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