手の操作なし、言葉なし、でもたのしー! 異色のPS VRゲーム「ヘディング工場」レビュー
ジェムドロップが17日にリリースするPlayStation VR向けゲーム「ヘディング工場」。プレイヤーはアミューズメント施設のライドマシンのように台に乗って運ばれていき、要所で止まって前から飛んでくるボールをヘディングし、特定の的に当てて条件をクリアーして先に進んで行く──という内容だ。
筆者もメディア向けの先行体験会で試遊したが、シンプルながらVRコンテンツとしては初心者にもおススめできる秀逸な出来になっていると感じたので、簡単にレビューしていこう。ちなみに3行でまとめると、以下のような感じだ。
・ヘディングが楽しい
・風景が美しい
・ラストが衝撃
モーションコントローラーって難しくない?
面白いと感じるVRコンテンツをつくる上で、キーになってくる要素のひとつに自分がバーチャル世界に干渉できるインタラクティブ性がある。
VRゴーグルでは、かけて視界いっぱいにバーチャル空間が広がるだけでも驚きだが、さらに手でCGのものに触ったり、足で世界を歩けるようになったりすると、あちらの世界にいる感覚が非常に高まる。例えば、ボールやコップを取って投げたり、スイッチを押したりといったように、実際にやってみると現実世界と同じアクションで反応が返ってくるのが楽しいのだ。
その手を再現するためには現状、モーションコントローラーを使うのが主流だが、この操作を覚えるのがなかなか難しい。以前の記事にも書いたように、モーションコントローラー自体がそこまで一般的ではなく、特にVRに慣れていない人は突然渡されても使い方の想像がつかないのだ。
現状のモーションコントローラーは乱立しており、ゲームコントローラーなら「十字キー+ボタン2つ」、マウスなら「左右クリック」といった他の入力機器のような「お約束」も存在していない(あえていうなら人差し指のトリガーなのだが、DayDream Viewのリモコンが親指クリックだったり)。
そもそも持ち方を間違えたり、ボタンが多いと意図せずに押してしまって誤操作してしまったりと、認知度的には「人類には早すぎる」ところもあったりする。コントローラーを棒として振るぐらいの操作ならわかりやすいのだが……。
かといってVRコンテンツのインタラクティブ性をなくして「見るだけ」にしてしまうと、よほど演出に気をつけないとVRに慣れている人にとっては退屈になりがちだ。このバランスがなかなか難しい。
ヘディングは人類にちょうどいいVRの操作
インタラクティブ性を残しつつ、初めてのVR体験でも簡単に操作できるようにするにはどうすればいいか──。前置きが長くなったが、そんな難しい問いに対して、ひとつの解決手段を提示したのが、ジェムドロップのヘディング工場になる。
ゲーム中の操作は、前から飛んでくるボールをひたすらヘディングするだけ。モーションコントローラー(PlayStation Move)はおろか、ワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)すら持たなくて、頭だけでプレーすることになる。
やることも単純で、先導してくれる砲台キャラがこちらに向けてボールを発射してくるので、あとはヘディングして前方の的に当てるだけ。……と書くとつまらないように見えてしまうが、現実世界でも飛んできたボールをヘディングしてうまく的に当てられたときには、「やった!」とガッツポーズを取ってしまうはず。VRなら、ボールが当たってひたいが痛くなることなしに、その楽しさを味わい続けられるのだ。
砲台のキャラクター。
ガッツポーズを取る筆者。素直にうれしい!
ステージが進むと、複数の的に当てなければいけなかったり、パズル的な要素もあったりと、難易度が上がってくる。何度も失敗した的にコツをつかんでようやくぶつけられて先に進めたときは、かなりのカイカンだ。
移動も前方だけで、強制スクロールのように自動で進んで行く。セーブもオートで、ユーザーが指示を出すことはない。もっといえば、画面には文字が一切出てこず、スタート画面もチュートリアルすらもない。本当に頭だけでシンプルに遊べるので、まったくVRを体験したことがない人にも、「前から来た球をヘディングして返すだけ」と教えるだけで済むのが素晴らしい。
天空の城は本当にあったんだ!
そのシンプルな操作性に、バーチャル世界の美しさが加わって、VRゲームとしての魅力を大きく引き立てている。
PS VRをかぶったプレイヤーは、空に浮くお城のような世界に存在している。そして目線を落として自分が乗った台が進んで行く一本道の下を見てみると、雲海が広がっており地上がまったく見えないことがわかる。目を上げれば、そびえ立つ建物の高さを実感できる。人間、現実世界でも高さで感動するために、タワーの展望台に登ったり、巨像などの大きなものを観光しにいくが、そんな本能的にわかるスゴさを刺激してくれる演出がうまい。
たかーい!
でかーい!
たのしー!
バーチャル世界自体も丁寧につくられている。特にステージが進むにつれて、昼間から夕方になって日が落ちて、暗闇から日が明けて……と時間帯が変化し、それに合わせて街並みの色合いも移ろいで行く。この流れが純粋に見ていて美しい。そしてスコアなども含めて文字が一切出てこないので、脳が自然とこの世界を受け入れてくれる。
昼から
夕方になって
夜に。城壁の様々な表情がいい感じです。
筆者的には、天空の城というと脳裏にはあの国民的アニメが浮かんでしまい、プレー中に思わず「なんかラ○ュタの世界に来たみたいですね。ラピ○タは本当にあったんだ!」と口に出してしまったが、それぐらいバーチャル世界における実在感が高かった。
ロボット兵を探してしまいますね。
ちなみに「バルス」とか叫んでも壊れません。
VR酔いにも気をつけられている。ライドマシンで一本道を進むというと、いかにも気持ち悪くなりそうなシチュエーションだが、なるべくゆっくり動くことと、動き出し/停止の時間を極めて短くする工夫でVR酔いを抑えている。実際、20分ほどプレーしたのだが、ヘディングで体を動かすことが楽しかったこともあって、乗り物酔いしやすい筆者でもまったく気持ち悪くならなかった。
そして衝撃のラストだ。ネタバレになるので深くは語らないが、2種類のエンディングがあるのでぜひ両方ともチェックしてほしい。
唯一、欠点(?)と言えるのが、体を動かしてヒートアップしてくると、汗でPS VRのゴーグルが曇ってしまうというところ。逆に言えばそれだけ運動になっているということなので、意外とダイエットにつながるのかも!?
グラマラスな美少女も出てこないし、派手な銃撃戦もない。パッと見のわかりやすい要素はないのだが、実際にPS VRをかぶって体験してみると、非常に考えこまれている良質なVRゲームだということが体感できるはず。価格も2200円とお手頃なので、ぜひPlayStation Storeからダウンロードしてヘディング工場の住人になってみよう。
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(TEXT by Minoru Hirota)