任天堂、株主総会で「VRは有望な技術として研究している」と説明 宮本茂氏はやや消極姿勢か
任天堂は、6月29日に開催された第76期定時株主総会の質疑応答にて、VRに関する質問に答えた。会社として「有望な技術として関心を持って研究をしている」と答えた一方で、「スーパーマリオ」の生みの親として知られる代表取締役クリエイティブフェローの宮本茂氏は、さまざまな懸念点を例に挙げ、やや消極的な考えを示した。
任天堂が行う株主総会の質疑応答において、株主からVRに関する質問がいくつか挙げられた。それに対し、代表取締役社長の君島達己氏や、代表取締役クリエイティブフェローの宮本茂氏は次のように答えた。内容を抜粋して紹介する。
【Q2より】新世代のVRはどうなっているのか、参画もしないのかという点を問いたい
君島氏の回答:
「VRについてですが、他社さんがVRのテクノロジーを使ったゲームの関連製品を発売されたり、お客様が関心を持たれたりしていることは認識しています。現時点では具体的なお話をすることはできませんが、当社も有望な技術として、関心を持って研究をしているということを、まずご理解いただきたいと思います」
→任天堂として、現時点で具体的に話せることはないが、有望な技術として感心を持って研究している。
【Q9より】安全面の問題やゲーム開発上の制約の多さ等からVRがすぐに家庭に普及するとは思えないが、真剣に研究してもらいたいし、それはARやMRといった技術についても同様だが(中略)製品に採用する際に新技術を効果的に活かす開発体制もあわせて整えねばならない
宮本氏の回答:
「VRについてですが、我々はVRに限らずARやさまざまな技術について研究を続けており、3D技術を含めて基礎技術は一通り有しており、自社開発ハードウェアへの採用の可能性を含めて検討し続けていますが、ことVRに関しては、当社の現行の主力製品が比較的長時間継続してご利用いただくことを念頭に置いて開発していることに対して、短時間の利用で価値ある体験を提供できるのかどうか、あるいは、長時間継続利用いただく際の懸念点を払しょくできるのかどうか、そして、例えばリビングルームでお子様がVR機器を装着している姿を親御さんが心配せずに見守っていただけるようにできるのかどうかといったさまざまな点も踏まえて、研究を続けています。今年のE3ショウにおいても、私は会場にいて、VRがそれほど大きな話題になったとは感じませんでしたが、それは、実際に体験できた人は高評価を与えていたとしても、周りで見ている人にはそれが理解できず、また、その体験がどのような商品として実現できるのかがわかりにくかったからではないかと推論しています」
→VRやARの技術研究を続ける中、自社ハードへの採用の可能性も検討し続けている。しかし、任天堂ハードが長時間利用を念頭に開発しているのに対し、VRは短時間利用が好ましいという状況で、価値ある体験をユーザーに提供できるか、逆に長時間利用するための懸念点(子供が安心して利用できるかといった点など)が払拭できるかという課題がある。宮本氏がE3 2016でVRが大きな話題と感じなかった理由は、推論として、体験者だけに高評価を与えて周囲の未体験者にそれが伝わらなかったのではないかという点と、VR体験が商品になるイメージがわきにくかった点を挙げる。
上記の通り、任天堂は会社としてVR技術の研究を行っているのは確かなようだ。しかし、ビデオゲーム黎明期から子どもや家族に向けてゲームを制作し続け、古くからの任天堂を知る宮本茂氏は、子どもが安心して遊べるのかといった点など、自社ハードにVR技術を採用するにはいくつかの懸念点の払拭しなければならないという考えを示し、現時点ではやや消極的な姿勢であると言える。老舗の玩具メーカーでもある同社にとって、VR技術を採用するためには、クリアすべき課題が複数あると言えそうだ。
●関連リンク
・任天堂 第76期 定時株主総会 質疑応答