タイムカプセル、ライブ配信、VR連携など ぜひ知ってほしい「THETA S」が持つポテンシャル
*本記事は「RICOH THETA アドベントカレンダー」に寄稿したものです。
どもども。PANORAの広田と申します。VRジャーナリストでもありますが、3年連続で3台目の「THETA S」を発売日にお迎えし、カバン内アイテムで打線を組むと3番バッターでスタメンに入るぐらいに持ち歩いているほどのTHETA大好きマンでもあります。
そんな筆者がRICOH THETA アドベントカレンダーの記念すべき1日目として記事を書くことに立候補させていただきました。投稿が遅れてスイマセン……。技術とはあんまり関係ないですが、THETA Sの持つポテンシャルをアツく語っていければと思います。
360度カメラの「民主化」こそTHETAだっ
技術は新しくて面白いだけでは世の中に広まらない。成果を得られるまでの手軽さ、欲しいと思わせる充分な動機、その動機に見合うだけの低価格が揃わないと、多くの人が興味を持たない——というのはよくある話です。「やっぱり面倒なんでしょ」、「で、何に使うの?」、「でも、お高いんでしょう」のハードルを越えなければみんな「いいよねー」とはならないということです。
360度写真もはるかに昔からある技術ですが、カメラを特殊な三脚に固定し、周囲を複数枚撮影したものを後処理で統合するというプロセスが必要でした。つまりは機材も知識も手間も必要なわけで、本業、もしくは360度撮影が「ちょー好き」という方じゃないとなかなか手を出せなかったわけです。それでも個人的には、90年代にQuickTime VRで他の方々が撮った素晴らしい360度パノラマ写真を見て「すげー」と興奮してた記憶があります。
そこから少し時間が経って手軽になったのが、スマホアプリを使うタイプ。特別な機材を使わずに、手持ちのスマホで周囲を何枚も撮影して合成してくれるというマイクロソフトの「Photosynth」などが2011年ぐらいにリリースされていました。しかし、これでもまだ何度も撮るのが手間ですよね。
その先に突如として現れたのが、2013年に登場したTHETAでした。板の両面に魚眼レンズが1枚ずつついていて、握ってボタンを押すだけで360度写真を一発で撮れてしまう。しかもお値段4万円前後! スマホに転送してネットにシェアできる。奥さん、これ買わないわけいかないでしょ! というけで「手軽さ」と「低価格」の2つは、この時点でクリアーされたわけです(4万円は低価格じゃない……という意見もありますが、一眼/コンパクトというデジタルカメラを考えると安い部類でして)。
ワインの寝かせると味わい深くなる360度写真
では「動機」についてはどうかというと、これは現在発展系で発見され続けている状況だと思います。人類がExcelを手に入れて「やべ、これ方眼紙として使えるわ」とか「イラストもかけるわ」と発見していったように、THETAも非常に多くのフロンティアを残しています。
とりあえず、広角がものをいう旅行の風景カメラとしては、抜群に相性がいいことが思いつくはず。THETA Sでは暗所ノイズなどの画質も改善されたので、長時間露光で満点の星空を残す用途にも役立ってくれます。しかし、筆者的には日常系カメラとして使うことをオススメしたいところです。
下の写真は当時、筆者が初代THETAで撮影して、THETA360に初めて投稿した360度写真です。niconicoの地方ツアーである「ニコニコ町会議」の大阪を取材したときに、道頓堀のえびす橋に立って「ピュー」(THETAの撮影音)と撮ったものですね。
道頓堀でTHETA。グリコ看板が見えます – Spherical Image – RICOH THETA
本人的には、このあと1kmほど(?)をダッシュしながら、みんながパレードする様を撮影した苦行が思い起こされるわけですが、それを抜きにしても、例えばSurface 2の「タブレットが嫉妬する」という看板が見えたりして当時の流行が見て取れます。
撮ったときは「グリコの看板入れたいな」ぐらいな気持ちでしたが、時間をおいて見返すと、本人が意図とした以外のところに価値がでてくるのが面白いです。多くの人にとって360度写真を知るきっかけとなった「Google ストリートビュー」でも、写り込んでいる通行人などが話題になることがままありますよね。
そんな撮りたい主題も入れつつ、その心のフレーム以外も残せるというのは、時間をおくとサプライズな価値を生んでくれるわけです。
anime expo 2014 oculus ブースの周りでtheta! コスプレの方々も合間って大盛況です #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA
日本のOculusコンテンツが初めて海外で展示されたAnime Expo 2014の様子。
Post from RICOH THETA. #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA
閉店してしまった綱島温泉「東京園」。VRまつり2015春を開催した会場ですね。
フレーム外の記録という話でいうと、家族や友人との写真にもオススメです。自分の子供頃に撮った写真を思い浮かべてみてください。かしこまったり、ピースサインをして写っている自分達の写真をみながら話に花を咲かせていると、「あのときこんなのがあったよねー」と写真に写っている光景が話題になることもあるはず。そんなときに、空間をまるごと残せるTHETAの写真ならサプライズパワーを発揮してくれます。
以前、MIRO(@mobilehackerz)さんに教えていただいた、子供にTHETAを持たせ、目の見える範囲で遊びに行かせてスマホから遠隔でシャッターを切るという撮り方は、素晴らしいアイデアだと思いました。子供が見ている世界を大人への警戒心なしに自然に全方位記録できるというのは、なかなかできることではありません。その点で、「Sphericam 2」の犬マウントなど、動物につけてみるのもTHETAで真似したいところですね。
家族や友人に関しては、定点に放置して、タイムラプスで定期的にシャッターを落とすという「NARRATIVE CLIP」的な使い方もアリでしょう。20年、30年後に寝かせて、VRヘッドマウントディスプレーなどで見たときに、「ああ、リビングすげー散らばってたなーw」と何でもない日常がタイムカプセルを開けたときのように貴重な一枚に変わるわけです。逆に言うと、今から仕込んで寝かせないと価値が出てこないわけで、即、THETAをゲットしておく必要があるわけです。
生配信者も見てる光景も一緒に中継できる
もう一つ、360度ライブ配信の可能性というのも、動機を補強してくれます。
THETA Sでは、側面のモード切替ボタンを押しながら電源をオンにすることでライブストリーミングモードになります。すごくざっくりいうと、USBやHDMIケーブルでつなぐことで、PCからウェブカメラのようにTHETAを扱えるわけです(HDMIではビデオキャプチャーが必要ですね)。
筆者も10月に「デジタルコンテンツEXPO2015」が開催された際、会場の展示レポーターである声優の有野いくさんと一緒に、THETAを使って360度生配信をテストしました。特におもしろかったのが、360度さまざまな場所から音が出る「音響樽」の中に入って中継したシーンです。
360度といっても、このセットではYouTubeの画面に前後のレンズがそのまま現れるだけになりますが、前と後ろが同時に見られる利点は案外大きいです。例えば、1台のカメラで表情を映しながら見てるものも表示できるので、配信者はリアクションのしがいがあるはずです。ポーカーなど2人で遊ぶゲームを撮っても面白そうですね。実用的な話では、自宅にいない時のペットの監視カメラとしても使えそう。
機材のセットとしては、THETA S以外に、HDMI接続でカメラの映像をライブ配信できるCerevoさんのネットワーク機器「LiveShell」、テザリング用のiPhone 6s、三脚、充電用のモバイルバッテリー、USB/HDMIケーブル——というもの。あっ、忘れちゃいけないのが、THETA Sを底上げして、USB/HDMIのケーブルをつなげるようにする三脚用マウンターですね(現状ではなんらかの手段で自作するしかないですが)。
操作もカンタンです。最初にTHETAのバッテリーが満タンなら、USBから給電しながら撮影しても本体が発熱しにくくなるというチップスがあるので、とりあえず充電しておきましょう。あとはウェブブラウザーでLiveShellのサービスにログインしてYouTubeなどの配信先を設定。その状態で現場に持って行って、あとはLiveShellとiPhoneを無線のテザリングで、THETAとバッテリー/LiveShelをケーブルでつないで配信スタートです。
実際に使ってみた感想は、カメラが小さく配信セットが簡易なので、とにかく機動力があります。持ち運びの点だけでなく、THETAが小さいので、狭いところにぶっこんで撮れるというのも小回りが利きます。ライブ配信の機能はまだまだ進化の余地はありますが、現状でもアイデア次第で非常に有用なものになると思います。
そういえば筆者も行った「ASCII THETA部」の大阪ユーザーイベントにて、リコーさんが開発中という金属製の三脚用マウンターを披露してくれました。神アクセサリーの香りがぷんぷんするので、ぜひマッハで発売してほしいです!
ほかにも買う動機として、3世代目となって機器が成熟して、静止画の画質が上がったり、内蔵メモリーが増えたりと、基本的な機能がアップしたのも見逃せません。一般的にハードウェアは、世代を重ねるごとにフィードバックを反映してどんどんよくなっていきます。「面白いけど、ちょっと様子見かな」と見送りしていた方も、3世代目で「そろそろ買ってもいいかな」という気持ちにさせてくれるレベルになってきているはず。
あとはVRメディアとして忘れちゃいけないのが、VRHMDとの連携。11月30日の神アップデートで、Galaxy S6シリーズでも動画の共有が可能になりました。つまり、THETAで撮影した画像を転送してFacebookに投稿して、VRHMDモードに切り替えてGear VRにつけて見られるという、ワンストップでできるようになったわけです。
これはもうVR者にとっては革命でしょう。イメージとしてはドラクロワの「民衆を導く自由の女神」がTHETA Sを持ってる感じです(はしもとさん、hiroyukiさんあたりなら即クソコラをつくってることでしょう)。
語り始めると話が尽きないというのは、いい機材の証拠。さらに開発者なら、SDKを利用して新たなソリューションを構築できる魅力もあります。みなさんぜひTHETA Sを手にして、360度の魅力にどっぷり浸かりましょう。
(文/広田稔)
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