Oculus Connect 3に見るVRの将来像【ティーポットの独り言】
近況:日本から来た某氏を案内する道すがら、旧Steve Jobs邸に訪れてみました。何の変哲もない住宅街にある普通の家なので、ある意味拍子抜けする場所かもしれません。ご近所さんに迷惑にならないよう、静かに訪れるのがマナーらしいです。
こんにちは、あるしおうねです。
先日、10月5〜7日にかけて、米国シリコンバレーのサンノゼにて、Oculus VRの自社イベントである「Oculus Connect 3」が開催されました。近所で開催されているのにも関わらず、諸事情にて自分は参加できなかったのですが、各日に行われたキーノートをライブストリームや録画で見ることが出来ました。
今回は、FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏と、Oculusのチーフサイエンティスト、マイケル・アブラッシュ氏の基調講演から読み取れるOculus社の将来の方向性について、私見ながら書いていきたいと思います。
ソーシャルVRデモの先にある「ホーム画面化」
初日のザッカーバーグ氏のキーノートでは、VR製品が市場に登場し始め、多くの人がVR環境に触れられるようになったことを受け、ソフトウェア面の進化で体験の充実を行う局面に来ている、と開発者にメッセージを送りました。そして、Oculus社のソフトウェア面の取り組みとして、まずは人ありき、ということで、遠隔地の人同士でシームレスにコミュニケーションするソーシャルVRが大きく紹介されていました。
このソーシャルVRでは対面コミュニケーションを想定していますが、ユーザー自身はHMDで顔が覆われているため、代わりにデフォルメされたCGアバターを用いており、実写の視界に対してAR的な重ね合わせがなされています。さらにこのCGアバターは、ユーザーの表情を何らかの方法で認識し、それを反映させているようです(デモ中で実際に認識しているかどうかは不明ですが、研究開発を行っているのは間違いないと思います)。
ソーシャルVR(Oculus Connect 3 Opening Keynoteより)
このようなソーシャルVR環境は、ソフトウェアの取り組みとして、ゲーム以外のひとつの可能性を示しているだけにも見えます。が、Facebookの視点からすると、単なるいちアプリケーションとしてでなく、既存のPCのデスクトップのような、いわばOSのホーム画面(シェル)の置き換えを狙っているようにも感じられます。
仲間があたかも周りにいるロビーのようなFacebook(という名前のままか分かりませんが)環境をホームとして常時維持しつつ、必要に応じて特定のアプリをシームレスに立ち上げ、そのまま知り合いとマルチプレイのゲームを遊んだり、共同作業したりといった、プラットホーム的な環境です。
この環境が実現すれば、ユーザーは煩わしさを感じることなく、仲間と一緒に複数のVRアプリを行き来できるメリットがあり、Oculus/FacebookとしてもVR環境の総使用時間を飛躍的に増やせる、という意図がある様に思います。
ここで総使用時間を奪う相手となるのは、ライバルのHTC ViveやPlaystation VRといった他のVRデバイス……ではなく、スマートフォンになるはずです。ザッカーバーグ氏は、大量にいる現在のスマートフォンベースのSNSユーザーを、徐々にVR/ARのプラットホームベースに切り替えていきたいというグランドデザインを描いており、今回のソーシャルVRはその端緒を見せているように感じられました。
PCからの決別
一方で、現状のOculus Riftの環境は、高性能のPCにケーブルで接続される事が前提のため、VRユーザーである以前に、PCユーザーである必要があります。その結果、必然的に金銭的にもリテラシー的にも、VRユーザーの数はPCユーザーの数より少なくなります。
また、ケーブルによって移動が制限されるため、使える状況も限られます。より手軽なGearVR等のスマートフォンベースのVRデバイスの場合、位置トラッキングが備わってないのと、3Dグラフィックス能力が十分でないという点で、アプリケーションでできることは限られています。
そこで、高性能PCとスマートフォンの間を埋める「ある程度の3Dグラフィックス能力が有り、PCとは独立したスタンドアロン型VR環境」の構築が、より多くの人に使ってもらうために重要だという認識が各社で広まっています。今回、ザッカーバーグ氏はスタンドアロン型HMDへの取り組みとして、「Santa Cruz」というプロトタイプを公開しました。
プロトタイプ”Santa Cruz”(Oculus Connect 3 Opening Keynoteより)
このようなスタンドアロン型はOculusだけでなく、インテルの「Project Alloy」やクアルコムの「Snapdragon VR820」、さらにスタートアップだとAMDからバックアップを受けている「Sulon Q」や、IdeaLensの「K2」などが次々と発表されており、今後さらに開発競争が活発化する様相を見せています。
緻密なグラフィックスが魅力なゲーム向けVR環境として、ハイエンドPC用のHMDも並行して進化(ケーブルの無線化など)していくと思われますが、上記のソーシャルVRと合わせて、より多くの人に長い時間使ってもらう環境としては、Oculus社もスタンドアロン型を本命に見据えているのかもしれません。
進化の方向性の具体化
2日目にあったアブラッシュ氏の基調講演では、今後のVR環境の進化の方向性として、具体的な数値を交えながら紹介されていました。
昨年、一昨年は、未来の目標はこうなるだろう!と言う感じで、理想を含めて述べていましたが、今回は数値がより現実的で、それらをどのように実現するか、と言った具体的な方法論にまで踏み込んでいた印象があります。研究開発の結果、ある程度現実的な見通しが固まってきたのかもしれません。
アブラッシュ氏による5年後のスペック予想(Oculus Connect 3 Opening Keynote: Michael Abrashより)
中でも視線追跡については、実験映像を交えながら、その技術の重要性と困難さを説明していたのが印象に残りました。視線追跡は、見ている領域に焦点を合わせる可変焦点方式(講演中、固定焦点の問題を解決する1方式として説明がありました)に使用できると共に、視線以外の領域の解像度を落とすFoveated renderingにも用いることが出来ます。
先述のスタンドアロン型のVR環境は電池駆動である以上、ハイエンドPCと比較すると3Dグラフィックス能力が限られるため、このFoveated renderingが画質を維持するためのキーテクノロジーになると考えられます。Oculus社が視線追跡とFoveated renderingを重視しているのも、その後のスタンドアロン化への布石かもしれません。
Foveated Renderingのコンセプト図(Oculus Connect 3 Opening Keynote: Michael Abrashより)
まとめると、今回のOculus Connect3では、下記のような未来への方向性を見ることが出来ました。
・ソーシャルVR環境の導入による総使用時間の増加
・PCから独立したスタンドアロン型VR-HMDの研究開発
・スタンドアロン型を想定した技術開発の重点化
もちろん私見のため、Oculus社の真意とは大きく異なる可能性があります。今後、Oculus社だけでなく、各社それぞれの思惑でVR分野の技術開発が進んでいくと思われますが、今回の具体的な内容を交えたキーノートは、ひとつの現実解として興味深く感じられました。
アラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉の通り、上記の方向性をそのまま推し進めて未来を実現してしまうのか、それとも他社と複雑に絡みつつ意外な方向転換が待ち構えているのか、これからが楽しみです。
●著者紹介
あるしおうね 大学院にて、VRを専門とする研究室に所属。卒業後、国内電子機器メーカーで約9年間、Augmented Realityおよび画像処理の研究開発に従事。2015年11月に外資系電子機器メーカーに転職し、2016年6月より渡米。
●関連リンク
・Oculus Connect 3
・Oculus VR