今のままではスケールしない──けもフレ・福原Pがジャストプロで仕掛ける理想のVTuberとは?(前編)
「中の人頼み」にならないキャラクターをつくる
──ジャストプロでVTuberのオーディションを初めて、今(インタビュー時)、書類審査を終わらせた段階だと思いますが、どんな風に仕掛けていくのでしょうか。
福原 そうですねー。実はあまり主体性がないです(笑)。
見野 現状はやってみたら予想以上に人が集まって、いっぱいいっぱいという感じです。意外と男性で「中の人」をやりたい人が多いのも驚きでした。YouTubeを見ると女性キャラが多いので、応募も女性がスゴいのかなと予想していましたが、最初は男性ばかりでした。
──なんと!
見野 最終的には女性の方が多かったですが、募集直後は男性ばかりで、「やりたくて待ってました!」みたいな人がいたのかなと感じました。
──ネットの有名人や声優など、応募してきた人の傾向はありましたか?
見野 声優経験者の方、素人の方、タレント志望で今回やってみたい方など、本当にまちまちという感じでした。「ジャンルは問わずやってみたい方」と募集したので、それも影響していると思います。
──話を戻して、ジャストプロがVTuberで仕掛けていきたいことは何になるのでしょう?
福原 今は黎明期なのでのVTuberでも色々な方がいらっしゃいますけど、今後は「企画」か「中の人」のどちからで押していくパターンに二極化していくと予想しています。
今、YouTubeの広告モデルで収入を得ようとしても、相当チャンネルの登録者が増えないとお金にならない。しかし、創造意欲や承認欲求だけで続けていくのも、どこかで限界が来ると思うんです。僕の場合はそういう形ではなく、最終的には商業に持っていかなければいけないので、スケールする展開を考えたい。
例えば、単体のYouTuberではなく、何かのコンセプトの下で複数人いるとか、海外も見越して企画を考えるとかですね。
お客さんの立場を考えると、VTuberが増えてきてじゃあ誰を応援するのかってなったとき、より「本気度」の高いキャラのほうが応援し甲斐があると感じますよね。突然いなくなったりせずに長く続けていく中で、お客さんに「自分が最初から目をつけていて、それが売れたんだ!」って思ってもらえるような、そんな構造にしたいと思っています。
──ということは、結構長い期間でVTuberを継続していきたいという感じでしょうか。テレビでは1クールなど期間が決まっていますが、VTuberは終わりがないですよね。
福原 VTuberの場合、確かにストーリーをつくらないぶん永遠に続けられるよさもあるんですけど……。例えば、初音ミクは、特に設定が載ってないからみんなが味付けしていって、いろんな着眼点からいろんなものが出てきたりするよさがあったと思います。
一方でVTuberは世界観をもっている割に情報が少ないので、CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)になりづらいですよね。余白に対して人は想像をするんだと思いますが、余白がありすぎる部分とまったく無い部分があるのでとっつきづらいんでしょうね。
▲初音ミク
ミクの場合はそもそもCGMのためのソフトですし、「ニコニコ動画」の文化と重なって無限にコンテンツが広がりました。VTuberは一見CGMっぽいですが、やっぱりあれ自体がひとつの作品やコンテンツと捉えています。だからこそ、中の人のタレント性頼りになってしまうのはよくないと思っています。
──といわれると?
福原 言ってしまえば、面白い「中の人」を見つけられたかどうかの運になってしまいますよね。ある種の炎上商法やトラブルなどがきっかけで人々の話題になるのではなく、プロデューサーとしては作品的なアプローチを考えなければいけない。最終的なスケールの仕方も視野に入れて、プラットフォーム依存にならないようなIPを育てないと、と感じています。
──スケールについて具体的にいうと、ネットメディアを飛び越えたマルチメディア展開のようなイメージでしょうか?
福原 そうですね。最終的にはアニメ化やゲーム化の展開ができるようにはしておきたい。例えば、初音ミクってアニメ化していないですよね。ユーザーごとに「ミクはこうあるべき」っていうイメージがあるものは、やっぱりアニメ化しづらいです。VTuberも同じで、求められるキャラ像の上に、また設定を乗せてやり切るっていうのは結構きついと思います。
──なるほど……。
福原 一方で、設定が乗っていないとスケールできないジレンマもあります。「アイドルマスター」(アイマス)シリーズでいえば、キャラとしてライブをやれば何万人とお客さんが集まるけど、「中の人」である声優さんのライブはそれよりも規模が小さくなってしまう。キャラクターという設定が乗っかっている方が、本来はスケールしやすいんです。
話はそれますが、アイドルって特にキャラ付けしないで世に出しても、お客さんとのコミュニケーションの中でどんどんキャラが確立していく状況がありますよね。
──あります。そして今のVTuberにも似てますね。
福原 そうですね。ただ、アニメのキャラって、最初から持っている情報以外は、掘り下げても何もないんです。例えばショートカットのキャラに「昔は髪が長かった」という設定があれば、「何かあって髪切ったんだな」っていうストーリーを掘り下げられるんですけど、設定がなければそこで終わってしまう。一方で生身の人間なら無限にエピソードが出てきます。
だからVTuberも、あらかじめ設定をつくり込んでいなければ何もない。だから今はキャラではなく、「中の人」を掘り下げていってますよね。例えば「シロ」ちゃんはゲーム得意で、いろんな言動から「サイコパスだ!」みたいにバズってますが、それはもともと「シロ」というキャラに込められた設定ではない。もちろん非常に難しいことなのですが、そこで「キャラ」と「中の人」の魅力を狙ってプロデュースできるといいですよね。
「てさぐれ!部活もの」では、「中の人」の魅力ももちろん使っていましたが、それでも設定やストーリーはしっかり用意しました。同じやり方をVTuberでも使うことで、もう少しキャラを光らせていけるんじゃないか。先ほどの「アイマス」の話じゃないですが、キャラの魅力をあらかじめつくっておくことで、「中の人」だけでは引き寄せられなかったファンをもっと増やせると思うのです。
▲「てさぐれ!部活もの」
逆にそうしたアイデアなしに「中の人」頼みで進めてしまうと、今、人気になっている人たちは先行者メリットでどうにかなるかもしれませんが、後発は生き残るのが厳しいと思います。個人でVTuberをやっている人なら、最新技術や高価な機材を継続的に取り入れるのもコストがかかります。今後VTuberは、趣味としてそれなりの技術でコツコツとアウトプットする個人と、企業の運営に二極化していくと思います。
コンテンツビジネスで重要な「認知」と「人気」
──そうしたVTuberで、今、福原さんが興味を持っているキャラっていますか?
福原 うーん……。結構見てはいますが、先ほどから言っている「中の人」頼みでやっているケースが多くて、スケールという観点では「ちょっと惜しいな」と思ってしまうことが多いんです。
デザインの可愛さなどの直感的な部分もあるものの、スケールの方向性は従来のYouTuberと同じ「広告で収入を得るモデル」で、それはキャラをかぶせる意味はあるんだっけと感じてしまう。もちろん知名度が高ければグッズになるかもしれませんが、それだと生身のYouTuberがやっていることとあまり差がない。
ゆるキャラの「ふなっしー」がいい例だと思います。中の人は面白いし、企画力も高いですけど、「中の人」が普通にテレビに出てきたら、トーク力はお墨付きのはずなのに、そこまで人気は出ないと思います。VTuberは、キャラという皮をかぶることで爆発力を持つところに可能性があるので、ライバルはヒカキンではなく、ふなっしーなんです。
ふなっしー。写真は過去にDMM VR THEATERで行われた舞台挨拶のもの。
──とても興味深い話です。
福原 「伸びしろ」という、僕のつくるもの全般に対する考え方があります。ファンや観客、お客さんという捉え方は、最近のデジタルコンテンツではあまり通用しなくなっていて、「お客さんも込みで作品」みたいにしないといけないと考えているんです。
応援する/されるだけじゃない方が、より関係性が強くなっていくというか……。例えばアイドルのライブとかって、ファンがサイリウム振ったりコールかけたりという現場の盛り上がり込みで、「ライブ感」が出ていると思います。そういうのを見ていると、お客さんをどう巻き込んでいくかっていうのが結構重要なんです。ひとつのコンテンツが出来上がっていくと、どこかの段階で新規に参入するのが辛くなって、やっぱり古参が強いみたいな雰囲気が出てきてしまう。
──niconicoが今、そんな感じですよね。10年前は誰もが無名だったので参加しやすかったけど、今からボカロPを始めて大成するのはちょっとハードルが高い。
福原 そうですね。だから新規の方も含めて、お客さんを継続的に巻き込んでいくためには、「伸びしろ」やツッコめる部分をたくさん用意しておいたほうがいい。
今のVR界隈は、IT出身の人たちがリードしていると思います。IPやコンテンツよりの人たちは、今僕が言ったことを理解してくれると思いますが、IT系の人たちはやりながら今まさに把握していっている状況なのかなと感じるんです。
そこを一番理解しておかないといけないのは、VTuberなら「中の人」で、Twitter含めて、お客さんを巻き込みつつ盛り上げていくのが求められます。そして声優や元々がYouTuberの方なら、経験則としてお客を巻き込むノウハウを持っているので、うまくハマることもあります。その辺に、スケールする秘訣がありそうだなと。
あとスケールのためには、プラットフォーム選びも大事です。コンテンツって、「認知」と「人気」という両極端で大事なものが違うんです。
──「認知」と「人気」?
福原 「認知」が大事なものというと、「水曜日のダウンタウン」でやっていた「勝俣州和ファン0人説」になぞらえて例えると、勝俣州和さんというタレントはみんなが知っていますが、失礼ながらグッズまで持っているファンは身の回りにそう多くないと思います。つまり圧倒的な知名度があっても、必ずしもお金を落してくれるわけではない。
逆に「人気」であるオタク向けのコンテンツにはお金は落ちるけど、世間的な認知度はそこまで高いわけではない。VTuberトップの「キズナアイ」ちゃんも、ファンや業界の人は知っているけど、知り合いのおじいちゃんに聞いてもわからない。
その話をVTuberに当てはめると、「認知」を大事にするならより一般向けなプラットフォームであるYouTubeで、「人気」が大事なオタク向けなら「SHOWROOM」のような「投げ銭」式に寄せた方がスケールしやすいのかなと思います。
──なるほど。しかし「投げ銭」は、地下アイドルじゃないですが、ファンが先鋭化しすぎるとあまりスケールしない気もしますが。
福原 そもそもアニメ文化が、「人気」と「認知」でいえば人気よりのビジネスで、狭いプラットフォームの中でパイを奪えた者が人気よりになれるという前提もあります。
──「人気」を目指すなら、よりロイヤリティの高いお客さんを確保して、いかに楽しんでもらってお金を落としてもらうかを考えるのがまだスケールできる方法だという。
福原 それが本来の人気寄りのコンテンツのビジネスのやり方です。そこで作品としてきちんと固めて、スケールする方向に持っていく。
YouTubeは、もともと見ている人がすごく多いから、その中でアニメとかが好きな人が一部しかいなくても、チャンネル登録が50万以上いけるポテンシャルはある。対してSHOWROOMは1回の放送で100万人は来ないですよね。作り込む「動画」はYouTube、コミュニケーションが軸の「生配信」はSHOWROOMと使い分ければいいわけです。結局、どのプラットフォームを選んでも、一長一短はありますが。
──最近のSHOWROOMでいえば「東雲めぐ」ちゃんがバズってたりします。
▲バーチャルSHOWROOMER「東雲めぐ」
福原 そうですね、生配信の方に行くと、今度は企画色がない分、本気で「中の人」のパワーが重要になってきます。僕らは後発なぶん、そうした分析をもとに改善した状態でスタートしなければいけないので、なかなか大変です。先行者メリットを得ている方々に、どのくらい追いつけるかという感じはあります。
あとはもうひとつ、すべての要素で一定の基準を満たしてスタートできるかっていうのもありますね。ただやりはじめるだけなら簡単なんですけど、「成功する」ゾーンに収めるとなると、中の人がいい人見つかるかとか、モデリングや技術が良い等、条件が揃うのを待たなくちゃいけない部分もありますので。
*後編はこちら
(TEXT by 高橋佑司)