コミケで注目の叶姉妹、「VR元年」前にOculus Riftを体験して「叶指数」を生んでいた
コミックマーケットの訪問で話題になっている叶姉妹だが、実はバーチャルリアリティー(VR)業界とも関わりがある。しかも、「VR元年」とよばれる2016年より前にあたる2015年3月というかなり早い段階で興味を示して、Oculus RiftのDK2を体験していた(叶姉妹のブログ記事)。
叶姉妹の体験を案内したというVRクリエイターで、株式会社桜花一門の代表取締役、高橋建滋氏に当時のエピソードを披露していただいた。高橋氏が名付けた「叶指数」など、VRコンテンツをデザインする上で非常に興味深い話なので、ぜひ知ってほしい。
どんなにお金を積んでもできない体験に価値がある
高橋氏といえば、伊集院光氏の「伊集院光のてれび」をはじめ、テレビやラジオなどのメディアでVRが紹介される際に協力し、多くのタレント・芸能人にVRを体験させてきた人物だ。
そんな高橋氏が2015年3月頃、フジテレビのゴールデンタイムの番組に協力して、松本人志氏や坂上忍氏にVRを体験してもらったあとに、叶姉妹から最初のコンタクトがあったという。
「番組が放送された少しあとに、その関係者から『テレビを見た叶姉妹がVRを体験してみたいと言っているのですが』と電話があったんです。唐突すぎる話のあまり、状況を理解するのに3分くらいかりました。そして自分の電話番号は叶美香さんの手に渡り、ついには連絡が来たんです」(高橋氏)
まず印象に残ったのは、コミケでも話題になっていた気遣いだったそうだ。
「叶美香さんはたいそう物腰の柔らかい方で、電話口でも色々を気を使っていただいるのが解る感じでした。そして日にちを決めて、後日指定された都内某所で待ち合わせということに。自分も失礼がないよう、一番いい服、一番いい靴、いつものPC類一式が入ったスーツケースで現地に向かいました。そしてテレビで見たままの叶姉妹が現れたのです」(高橋氏)
この時点でOculus Riftを経験済みだったという点にも驚きだ。
「早速、ホテルの一室に通されて機材をセッティングして、恭子さんが体験。お二人ともすでに進撃の巨人展でVRを体験済みとのこと。そして事前に美香さんと打ち合わせさせていただいて、恭子さんのお好きなもの、嫌いなものはリサーチずみでした」(高橋氏)
2015年の3月といえば、Oculus Riftの第2世代開発キット(DK2)ぐらいしか出ておらず、コンテンツも限られていた時代だ。高橋氏は、自作の「VR Ski jump」をはじめ、その場で持てる限りのデモを披露したそうだ。そこで話についでにハワイの360度動画に触れたところ、意外な反応が返って来た。
「当時、H.I.S. Hawaii 新宿三丁目店でOculus Riftを常設展示する直前で、コンテンツ制作にも関わっていたので、恭子さんに『VR技術を使えばハワイに行った気になれることもできるんですよ』と紹介したところ、『ハワイは自由に何度も行けるので興味がない。むしろ危険で自分ではできないことに興味がある』と言われたのです。その時、自分の中である方程式が生み出されました」(高橋氏)
それが「叶指数」と言われる方程式だ。高橋氏はこう続ける。
「『叶指数 = それを体験するのにかかる費用 ÷ 体験者の年収』。例えば、年収100万の人が100万円の世界旅行をするとしたら、叶指数は1.0でかなり高い。でも同じ世界旅行でも年収1億円の人にとっては、0.01で低くなる。体験の価値は人によって大きく変わるんです。
ハワイもわれわれ庶民にとっては気軽にいけないからこそ、VRで疑似体験することに価値があるけど、自由に行けるセレブにはそこまで興味がない。お金をいくら積んでもできないものこそ、VRでやる価値があるんだろうと直感したんです」(高橋氏)
では、セレブにとっても価値あるVR体験とはなんだろうか? 一例として、高橋氏は「命がかかるシチュエーション」を挙げていた。
「命がかかるシチュエーションとなると、費用は無限大になるので、どんな人にとっても叶指数は高くなる傾向になるんじゃないか。恭子さんもその時体験した色々なコンテンツの中で、ジェットコースター、スキージャンプ、進撃の巨人の順に好きだとおっしゃっていた」(高橋氏)
そんな高橋氏は、リアルではなかなか体験できないジャンルの一つであるホラーゲーム「CHAIN MAN」を開発中だ。
考えてみればコミケという戦場も、単にお金を積むだけですんなりいける場ではない。グッドルッキング・ガイたちを置いてくるなど、美香さんが入念に準備をしていたのも、本当に興味があって楽しんでいた可能性が高い。
さて、このエピソードには続きがある。高橋氏のデモで叶姉妹はVRを存分に楽しんで、1時間ほどでお開きになったとのこと。
「実は美香さんとの電話打ち合わせの中で『甘いものはお好きですか?』と聞かれており、酒が飲めなく甘いものが好きだという話をしたら、ものすごいお土産をいただいたんです」(高橋氏)
そのときにもらったのは……。
・(夜遅かったということで晩御飯代わりの)カツサンド
・お取り寄せ超高級たまごプリン
・千疋屋のショートケーキ
・グレープフルーツゼリー
とのこと。す、スゴすぎる。
「さらに『(体験の)費用はいくらですか?』と聞かれたので『VR普及のためですから無料です」と答えたら、『せめて車代だけでも』と渡してくれました。今回『コミケスタッフ1万人分の差し入れを……』という話を聞いたときに、『解る。叶姉妹の気配り力ならさもありなん。あの二人ならやる』と思いました」(高橋氏)
われわれ庶民にとっては、リアリティーの逸脱に事欠かない叶姉妹の生活が「叶指数」の高いVRコンテンツになるのではないだろうか。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・叶姉妹オフィシャルブログ
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