VRは1%のPCユーザーのためのものじゃない AMD「RADEON RX480」が加速するVRの普及
ここ数年、Oculus RiftやHTC ViveといったVRゴーグルが注目を集めるにしたがって、動作環境であるPCにもスポットライトが当たっている。特に重要なのはグラフィックカードで、Rift/Viveともに快適な動作のためには、NVIDIAのGeForce GTX 970、またはAMDのRadeon R9 290以上という2、3年にリリースしたハイエンドGPUが必須だ。
そんな事情もあって、RiftやViveを遊ぶのには、10万円前後の本体に加えて、ゼロから揃えると10万円台後半以上のデスクトップPCが必要だったわけだが、ここにきて状況が徐々に変わってきそうだ。
日本AMDは11日、記者発表会を開催。AMDのVRに対する取り組みと、6月1日に発表して、6月29日に発表したミドルレンジGPU「Radeon RX480」について解説した。RX480は、最新アーキテクチャ「Polaris」世代で、199ドルからかつVR対応というのが特徴になる。AMDの気合の入れようについてレポートしていこう。
GTX970を超えるベンチマークも
AMD Radeon Technologies GroupのKorhan Erenben氏が登壇して、まず199ドルからという価格の背景について解説。
「Polarisの開発時に市場を俯瞰したところ、グラフィックスカードが主に購入されるゲーミング市場では、約85%の人が小売価格が100〜300ドルのものを購入しているとのこと。そこで、この価格帯で最高の製品を提供することを目指した」とのこと。
さらにVRについてErenben氏は、「世界中に14億3000万台のPCが存在しているが、グラフィックスの制限でVRが利用できるのは1300万台にとどまっている。つまり全体のPC市場の1%未満しかVRに対応できていない。ここはPolarisで強力にアプローチできる領域」とRX480をアピールしていた。
右にあるワイン色の2本のグラフがRadeon 300シリーズとその競合で、現在のVRプレミアムと呼ばれるもの。Polrarisによって、VRプレミアムな体験を実現してくれるマーケットを2倍に増やしていくとのこと。
ゲーミング向けのRXシリーズでは、480、470、460という3種類が発表されている。このうち明確にVR対応をうたうのはRX480。
スペック。
フルHDを超える1440pにおけるRX480(グラフィックメモリーは8GB)とGeForce GTX970(4GB)の比較。灰色の部分がGTX970で、DirectX 12で動作した場合、Quantum Breakでは25%、GEARS of WARとASHES OF THE SINGULARITYでは21%、HITMANでは42%高速になったという。
Viveが快適に使えるかどうか、HTCがリリースしているベンチマークソフト「SteamVR Performance Test」を使ったところ、旧世代のミドルレンジとなるRadeon R9 380では「3.6」で不適合、RX 480(8GB)では6.3でクリアーという結果となった。
ちなみに筆者が昨年に買ったVR対応マシン(CPU:Core [email protected] 12コア、GeForce GTX970)を計測したところ「6.6」という結果となった。昨年はハイエンドだったはずなのに、1年も経たずにミドルレンジに追いつかれるとは……。GPUのアーキテクチャ交代、恐ろしい子!
1年後の買い替えを考えるなら今すぐ買い!
その他、会場ではRX 480の各社製品がずらりと並んでいた。6月29日に発売された、AMDのリファレンスデザインに沿ったモデルでは3万円台という価格を付けていたが、各社がつくり込んだ製品は価格や冷却性能でどれくらい違いが出るのか気になるところ。
会場でもHTC Viveを使ったデモを実施していた。
実際のところ、例えば、ドスパラが7月8日から発売した「自作パソコンセット パーツの犬モデル」では、Radeon RX480を採用することで税別10万円以下という、VR対応PCとしては文字どおり桁が違う売価を実現。VR対応PCは15万円ぐらいからというイメージを、10万円台前半に引き下げた印象がある。
一方で、RX 480には公称の消費電力を超えるという問題も起こっているが、このへんはドライバーのアップデートで解決していく模様だ。
ぶっちゃけた話、今、VR対応のPCを購入するというのは、なかなか難しい状況だ。「じゃあ会社の経費で……」と無限の資金があるなら、NVIDIAのハイエンドの「GeForce GTX1080」を買うのがいいだろうが、VR機器のめざましい進化と普及に合わせて、GPUのハードもソフトも大きく最適化されていくのは自明だろう。スマートフォンの初期、2008年前後に端末を買ってすぐに性能差が大きく出てしまった記憶のある方なら、わかっていただける……かも?
筆者が昨年買った当時ハイエンドのVR Readyグラフィックカードが、今やミドルレンジと同じ性能になってしまったように、来年も同じことが起こるはずだ。そしてVRコンテンツをつくる側も、NVIDIAのGeForce GTX 970以上/AMDのRadeon R9 290以上という基準を当分は守っていくだろう。
というわけで、7月に発表された249ドルからというNVIDIAの「GeForcre GTX 1060」とともに、RX 480は「今、VR対応のPCを揃えたい」という層にはかなり響くだろう。RiftやViveの次世代モデルでGPUの要求があがっても、その辺はグラフィックカードの買い替えで対応できるはずだ。今、VRというビックウェーブにのっておかないと、荒削りながらも飛び抜けた面白さを提供してくれるコンテンツを見逃してしまうというもったいない部分もあるので、VR ReadyなPCを検討している方々はぜひRX 480に注目して欲しい。
(TEXT by Minoru Hiota)
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