Telepathy Jumperの実機も触れた! 「Telepathy Vision meeting」イベントレポート
2013年に井口尊仁氏の発表により話題になったウェアラブルデバイス「Telepathy One」を覚えていらっしゃるだろうか? あれから2年、途中の創業者の井口氏退任以降、目立った情報がないままであったが、テレパシージャパンは 「Telepathy Jumper」として自社製品の開発を続けている。同社のニュースリリースによると、2015年6月に限定50社向けのサポートプログラムを開始し、8月には単体購入が可能になったことを発表している。
さらに同社は、最近、開発者や企画者向けのイベントを複数開催している。その中の一つが、「ウェアラブル」や「アイウェア」用のサービス企画や開発向け情報発信を目的とした「Telepathy Vision meeting」だ。今回、10月30日に開催された第一回テーマ「ウェアラブルにおけるUX」を取材してきたので、その内容をお届けしたい。
登壇者は左から、テレパシージャパンの代表取締役、鈴木健一氏と、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 専任講師の渡邊恵太氏だ。また、司会進行は、岩淵技術商事の執行役員、岡島康憲氏が担当した。
前半は鈴木氏によるTelepathy JapanのビジョンとTelepathy Jumperの紹介、および渡邊氏によるインタラクションデザインとウェアラブルに関する講演、後半は3名によるパネルディスカッションとTelepathy Jumperの体験タイムであった。本記事では2人の講演概要と体験タイムの様子を紹介する。
体験を分かち合う世界を目指す 「Telepathy Jumper」
鈴木氏によると、人とコンピュータの関わり方はこの20年で変わってきているという。たとえば、かつて同氏が携わっていたノートPCの業界では、DOSを搭載したデスクトップと比較するとノートPCはおもちゃのようなものだと言われていた。しかし、今は多くの人が当たり前のように使っている。ウェアラブルも今はまだ日常に使われるシーンが想像しづらいが、Telepathy Japanでは、「体験を分かち合う」世界の構築をめざし、まずは2020年を目指して新しい世界を実現しようとしている。なお、Telepathy Japanが描く「体験を分かち合う」という世界の一例は同社のコンセプトムービーに現れている。
講演では、Telepathy Jumperのハードウェアの特徴だけでなく、ソフトウェアの開発環境としてUnityに対応していることも言及されていた。Unityといえば、VRクラスタ開発者の多くが使用している開発環境である。Telepathy Jumperは公式HPに記載の通り独特の形をしているが、UnityがあればVRクラスタだけではなく、ゲーム開発者でも開発がしやすい。もちろん、OSがAndroid 4.4であるので、Android StudioやCordovaなどを使うことも可能である。
「自己帰属感」を生み出すためのデザイン
インタラクションデザインとは、人が道具を使うときに得る相互作用をデザインする学問分野である。ここでは渡邊氏の講演内容の一つである「自己帰属感」について解説する。
自己帰属感は、連続的な動きが自分の意思と連動していると感じられるときの感覚である。これは手に持っているか、身につけているかは重要ではない。たとえば、iPhoneの操作が快適であると感じるのは、画面そのものの動きが指と連動しているからであり、このとき自己帰属感を感じていることになる。インタラクションデザインの観点でウェアラブルを考えると、3つのポイントがある。
1.情報の乖離を解決
ウェアラブルの場合、行動しながら情報を活用できる必要がある。たとえば、以下の画像のように、野菜を切り方を確認するとき、包丁の切り方が視界に入っていれば、現実の包丁を見ながら切り方を確認できる。
Introducing Telepathy Jumper – Japanese の動画より抜粋。画像全体が包丁を持っている人の視界で、右下の画面は、Telepathy Jumperの映像。包丁を見る方向と、包丁の使い方を示す情報が同じ向きを向いている。
2.自己帰属感
ウェアラブルは身に付けて使用するため、自分の意思と連動したインタラクションがあると、より身近に感じることができる。Oculus Riftはその一例である。
3.アプリケーション
ウェアラブルデバイスを装着してでも使いたいと思わせるアプリケーションが必要である。近年、「歩きスマホ」が問題になっているが、人々が歩きながらでも使いたい、と思わせるというのは、ウェアラブルの普及を考える上でのヒントとなる可能性がある。
講演後、渡邊氏にお時間を頂戴してウェアラブルの将来についてお話を伺った。代表的なものを掲載する。
Q1 : Telepathy Jumperのようなメガネ型ウェアラブルは日常生活で使われそうか?
「日常生活に入るのはまだ先では?」という意見はあるかもしれない。しかし、端末が間違いなく小型化するので、あと10年もしないうちに考え方が変わる可能性がある。
Q2: ウェアラブルが日常的に使われるには何が必要か?
ウェアラブルを使って便利な世界を実現できるアプリケーションが必要である。学会ではウェアラブルは十数年続いているテーマだが、デバイスありきの議論が多く、アプリケーションに関する議論が不足している。
Q3: ウェアラブルのUIの姿とはどのようなものか?
出力があった後に、制御する操作方法を考えるのが順番である。つまり、何を出力するか、どんな用途で使用するかを決める必要があるため、こうである、という明確な姿はない。しかし、たとえばTelepathy Japanの作成したコンセプトムービーを元にして、Telepathy Jumper向けのUIを考えていくことは可能である。
なお、記事構成の関係で省略させていただいたが、今回の講演では、視覚によって触覚を体感するVisualHaptics、映像世界に入り込むインターフェースであるWorldConnectorなど、同氏が手がけた研究成果も複数紹介された。「なるほどそういう方法もあるのか」と思わず納得してしまう内容なので、ぜひご参照いただきたい。
思った以上にくっきりな表示
会場には6台のTelepathy Jumperが用意され、コンセプトムービーを視聴できるようになっていた。参加者から感想を聞いたところ、思った以上に明るくてはっきり見えることに驚いたとのことだった。
ちなみに、Telepathy Jumperには安定して装着するためのアタッチメントが準備されていた。
保護メガネのような形をしたアタッチメントや……
カチューシャのようなアタッチメントもあった。このカチューシャは後頭部で支えるためのものであり、このように安定して装着できる。
Telepathy Japan 鈴木氏
ハッカソンのお知らせ
終わりが近づいたところで、進行の岡島氏より11月23日にハッカソン「Telepathy Innovator’s Jam」の告知があった。
ハッカソンについては、筆者も運営に協力させていただいている。ご興味ある方はぜひご参加いただきたい。
[参考情報]
Twitter: @TelepathyJumper
Facebook: https://www.facebook.com/groups/987006401320333/
(Telepathy Developer Community で検索)
最後に参加者全員とテレパシージャパン社員で記念撮影をして終了となった。
終わりに
参加者の声の通り、Telepathy Jumperの画面は予想以上にきれいに見えたし、鈴木氏の装着写真の通り、安定して身につけることができる。今年の夏に開発者キットの販売が限定された企業から一般に拡大し、Telepathy Jumperはこれから発展していくという位置づけである。今回のVision Meeting、来月のハッカソンなど、企画、デザイナ、開発者向けのイベントも充実しつつあり、今後日本でどんな形で盛り上げるのかが楽しみである。
先日、UnityよりVision VR/AR summit の開催が発表された。Summitタイトルのように、VRとARは別々ではなく一緒に考える必要があるのかもしれない。Telepathy Jumperのようなメガネ型ウェアラブルをAR側とすると、今後、VR側だけでなく、Magic LeapやHoloLensなど他のAR側のデバイスや技術の動向も追ってみたい。
(文/WheetTweet)
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