【連載】神足裕司 車椅子からのVRコラム「VR ZONE SHINJUKU その1」
6年前にくも膜下出血で倒れた人気コラムニストの神足裕司さん。闘病中の氏が車椅子の上から隔週でお送りしているVRコラム第8弾です!
今回のボクはちょっと違う。
なにかというと今までVRの世界をちょっとづつ垣間見てきて、毎回新しい驚きはあったのだけど今回は未来が見えた。
実は口の悪い友人にはVRの世界について「実際のものにはかなわないでしょ、しょせん」そんなことを言われていた。まあ、そうかもしれない。膝枕してくれるVRだって実際はクッションに膝枕の代わりを務めてもらっている。映像の中の自分は膝枕してもらっているけれど、生身の人間の膝枕とは違うものだ。それを「所詮違うもの」と切り捨ててしまうか、未来を感じるかは自分次第。そう思っている。けれど、そんなことがあってもなにか言い返せない悔しさがあった。「VR ZONE SHINJUKU」 に行くまでは。
新宿にできた「VR ZONE SHINJUKU」は新しい形の超現実エンターティメント。入った瞬間に本気さが伝わってくる。「安っぽくない」と表現したら怒られるかもしれないが大人が本気で楽しい場所を作ろうとしたことがわかる。本気を出したからちいさい子どもがいる家族連れでもデートでもぼくみたいなおじさんでも楽しめる。今回体験したVRアクティビティは3つ。そのなかでもう一度やりに行きたいと思っているのは「釣りVR GIJIESTA」だ。
開発者が1年以上もルアー釣りをしまくって作ったと言うだけある。リアルである。VRゴーグルをつければそこはもう自然に囲まれている湖畔である。静かな空気まで伝わってくるようである。釣り竿を振って自分のめがけるポイントにルアーを投げる。糸が送られていく重みも竿に感じる。当たりがくれば竿が撓る。右に左に魚が暴れるのを抑えながら必死に糸を巻く。手元まできたら網で魚をすくって計量、リリース。
VRゴーグルの中の自分は真剣そのものでルアー釣り。当たりが来ても逃げられてしまったり巻ききる前にばらされてしまったり。
実際車椅子のボクにはこんな山奥のルアーフィッシングは相当の覚悟が無ければいけない場所だ。そこにいられる。この「釣りVR GIJIESTA」もできた直後は車椅子では使用不可能だったらしいのだが今は要相談で可能になった。この釣りを体験して、お世辞でも大げさでもなくボクはVRの未来を感じた。行けないとあきらめていた場所に行って釣りができる。VRゴーグルを外したら目の前は室内だけれどボクは本当に湖畔にいて釣竿を振っていたのだ。これは真剣にそして楽しんで作った証だ。
VRは膝枕だって釣りだってすぐにいけない人や何かの事情でいけない人にだってそぐそこで体験できる。ボクは自由に動けない分切実だ。まがい物ととるかエンターテイメントととるか、ぼくはまよわず後者だ。
VR自体は13歳未満の方は体験できない。けれど、virtual Resort Cafe のまわりにちいさい子用ミニボルダリングのある壁や、小さなテント、テレビで見たことがあるかもしれないが、実際の砂を使った砂浜にプロジェクションマッピングの波打ち際の映像で本当に海辺にいるような場所もある。砂浜に写る蟹を追いかけたりグランピングをテーマにしたダイナーは子どもの遊び場にもってこいだ。それにこのカフェ&ダイナー料理やドリンクが本格的で美味しい。そしてかわいい。そのクオリティーには驚いた。1階はそのほかにも施設のセンターに聳え立つ巨大な木がやはりプロジェクションマッピングと照明で様々な表情に変化する。映像をタッチすると花が開いたりなかなか凝っている。1階のどこを切り取ってもインスタばえする。
「VR ZONE SHINJUKU」は小型店舗の「VR ZONE Portal」としてロンドンに1号店がオープン、世界進出したそうだ。神戸にもできるらしい。きっと日本のお家芸の一つのなることだろう。
●著者紹介
撮影:石川正勝
神足裕司(こうたりゆうじ)
1957年、広島県出身。黒縁メガネ・蝶ネクタイがトレードマークのコラムニスト。「金魂巻(キンコンカン)」をはじめ、西原理恵子との共著「恨ミシュラン」などベストセラー多数。2011年にクモ膜下出血発症。1年の入院生活を送る。半身マヒと高次脳機能障害が残り、要介護5となったが退院後、執筆活動を再開。朝日新聞をはじめ連載も多数。最新刊は「一度、死んでみましたが」「父と息子の大闘病記」などがある。
●関連記事
VR ZONE SHINJUKU まとめ
●関連リンク
・VR PARK TOKYO
・朝日新聞デジタル 連載 コータリンは要介護5
・神足裕司Twitter