【連載】神足裕司 車椅子からのVRコラム 認知症の気持ち体験VR 編
6年前にくも膜下出血で倒れた人気コラムニストの神足裕司さん。闘病中の氏が車椅子の上から隔週でお送りしているVRコラム第15弾です!
渋谷ヒカリエで行なわれたTOKYO SOCIAL FES 2017に行ってきた。今回のVRはちょっと違った角度のVR、実際自分が認知症になったらどう感じるか、どう見えるのかをVRで体験できるという。
1日のイベントで3回体験できるチャンスがあったが思った以上の混雑だった。並んでみたが先着順の整理券がいただけるか微妙な感じ。しかも所要時間が90分とある。今迄の体験上、「VR映像を90分みるのはちょっと大変だろうな?」と思っていた。ほんとうに最後の何人かで整理券を入手でき、無事入室。
6〜7人ひとテーブルに座る。ひとり30秒以内で挨拶をしあうようにと司会者から指示がある。もちろんボクは喋れないから同行者にかわりに挨拶してもらう。同じテーブルにはケアマネさんや介護従事者に交じって、素敵な女性で見た目どんな障がいかわからないけれど「私は障がい者」そう挨拶されている方もいた。ボクみたいに車椅子にのっていればひとめで障害を持っているのはわかるけれど、彼女のように外見わからない方は苦労も多いだろう。そんなグループで認知症のイメージを話し合う。ほんの少しの時間で認知症の思いついたイメージを付箋に書きつけていく。付箋で机の上が一杯になる。「怒りやすい」「ものわすれ」「すべてがわからなくなる」などなど……。それからVRゴーグルをつけて、ある認知症の方の実際の体験を基に作った360度の映像を見る。
ボクは認知症のおばあさん。高いビルの屋上の淵に立っている。「さあ、大丈夫ですから降りてください」そうやさしい声でうながされている。上は青い空。下を覗けば、はるかかなた下に地上がみえる。後ろを振り向けばヘルパーさんだろうか、やさしい声で「大丈夫ですよ」といっている。「ここから飛び降りろってどういうことなんだ!」足がすくむ。
VRの臨場感はすごい。まさにビルの屋上から飛び降りろといわれている自分がそこにいる。
動画がすすみ、そこは実際の場面。ボクはどこかの施設についた送迎用バスのドアの前で、たかが30センチぐらいのステップから車の外へ出ようとしている。ヘルパーさんが声をかけている「大丈夫ですよ、降りてください」
これが認知症のひとにはビルの屋上に見える場合もあるという。いくら大丈夫だっていわれても、手を引っ張られてもそう簡単に降りれるものではない。だってここから飛び降りろっていわれてるんだから。そのVRにはなかったが、「いやだ、お前は私を殺す気か!!」そう暴言をはく高齢者の気持ちもわかる。今回はVRによって、その認知症の方になってより現実的にその場面が体験できた。言葉で聞くより、VTRでみるよりその方の気持ちを知ることができたんじゃないだろうか?
こんなVR映像も観た。レビー小体型認知症の方がどう見えているか。幻視。実際に見えていないものがみえる。チョコレートケーキの上にミミズのようなものがヌメヌメ動いている。いないはずの人が部屋の中を歩いている。もちろんグロテスクでケーキになんて「どうぞどうぞ」と進められたって手が出るようなものではない。ほんとうにいる人間と幻視も区別もつかない。「何もすることができないじゃないか」そう思った。怖い思いをした。このワークショップに参加して認知症の方がどう感じているのか、ちょっと理解できた。
VRはまさしくリアリティーを感じこんな世界にも活躍しているのだなと、わが子の活躍を誇らしく思ったりした。
●著者紹介
撮影:石川正勝
神足裕司(こうたりゆうじ)
1957年、広島県出身。黒縁メガネ・蝶ネクタイがトレードマークのコラムニスト。「金魂巻(キンコンカン)」をはじめ、西原理恵子との共著「恨ミシュラン」などベストセラー多数。2011年にクモ膜下出血発症。1年の入院生活を送る。半身マヒと高次脳機能障害が残り、要介護5となったが退院後、執筆活動を再開。朝日新聞をはじめ連載も多数。最新刊は「一度、死んでみましたが」「父と息子の大闘病記」などがある。
●関連リンク
・株式会社シルバーウッド
・朝日新聞デジタル 連載 コータリンは要介護5
・神足裕司Twitter