VRゲームはルールの前に「面白い体験」を考えるべき──バンナムが語るVR ZONEの知見【CEDEC】

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24〜26日にパシフィコ横浜にてゲーム開発者向けのイベント「CEDEC 2016」が開催されている。今回は25日の「『VR ZONE Project i Can』の知見、全部吐き出します!」という講演をピックアップしていこう。

 
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左がバンダイナムコエンターテインメントAM事業部エグゼクティブプロデューサー、小山順一朗氏、右が同AM事業部企画開発1部プロデュース1課マネージャー、田宮幸春氏。

 
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VR ZONEといえば、10月10日までの期間限定で東京・お台場のダイバーシティ東京に開設しているVRエンターテインメント施設のこと。PANORAでも過去にインタビュー体験レポートを投稿し、4月には「Tokyo VR Meetup #04 VR×ネカフェ・アミューズメント施設の可能性」としてトークイベントにもご登壇いただいたこともあった。

 
タイトルに違わずVR ZONEで得られた知見がぎゅっとつまっていて、そこにお二人の掛け合い漫才のようなボケとツッコミが加わり、終始、感心と笑いが絶えないセッションだった。全編お伝えしたいところだが、中でも筆者的に興味深かったのは、最後に田宮氏が語っていた「Project i Can流にVRの解釈をまとめてみた」というパートだ。

 
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「『怖い!』『怖くない!』個人差のワケ」と「『ゲーム』と『VR』の違いの本質」という2テーマが語られた。

 
いずれもVRに関わるすべての人に知っておいてほしいことだと実感したので、がっつりまとめていこう。

 
 

「VR共感力」をアップさせるべし

 
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まずは、「怖い!」「怖くない!」個人差のワケという話。VR ZONEには、地上200mにある板を渡って猫を助けるという「高所恐怖SHOW」というアクティビティーがあるが、まったく怖がらずにスタスタ渡ってしまう人と、寝そべってはって進むほど怖がる人と、驚き方に個人差があることがわかった。これは、なぜななのか。

 
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そもそもVRは「現実そのものではないが本質的には現実」という定義がある。そしてVRの体験で重要な「プレゼンス」(実在感、バーチャル世界にいるという感覚)は、完全に現実と同じものを提供しなくても、厳選して再現することで得られる。「意外と人の認識はいい加減で、それで騙せている部分もある」と田宮氏。

 
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どういう仕組みかというと、結局はまず錯覚。以前、テレビ番組で女子高生と同じ部屋に入れるVRコンテンツ「サマーレッスン」を体験したホストの方は、そんな音は入っていないのに「吐息を感じる」と言っていた。入力されていない感覚があたかもあるように感じてしまう。VR ZONEの「スキーロデオ」でも、雪景色の中白い吐息が出るようにして、さらに送風機で風を当てると「寒い」と錯覚してしまう感想が出ていた。

 
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これらがなぜ起こるかといえば、人は認識や判断を端折りたがるから。「生き物はそうだと思うんですが、生き残らなければいけないので、入力に対して素早く反応するために認識を最適化したがる。例えば、天敵の匂いがしてガサッという音が鳴ったときに判断できるように、同じパターンを繰り返し経験することで入力に対する判断が早くなる。だから『いつものパターン』となると錯覚が起こる」(田宮氏)。その人が得てきた後天的な経験や知識によって、リアリティーの感覚が変わってくるということだ。

 
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同じコンテンツを体験してるのに、個人差が生まれるわけはここにあって、「VR共感力」が届いていない体験者には実在感が生まれなくなってしまう。

 
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「VR共感力」には、増やす要素と減らす要素がある。増やす方は、まず「実際に経験豊富」であること。例えば「高所恐怖SHOW」なら、自衛隊の落下傘部隊にいた方や高所で作業する人は高いところの怖さを知っているので、すぐにギブアップしてしまう。「最近、ネットで『リア充のほうがVRが楽しめる』という話が出ていますが、きっとこういうことなんだろうなと思いました」(田宮氏)。

 
「妄想で経験豊富」というのも増やしてくれる要素だ。VR ZONEでいえば、「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」といったのIP(知的財産)ものや、ロボットもののお約束を入れた「アーガイルシフト」など、そのシチュエーションが好きで脳内シミュレーションできる人はすごく喜べる。

 
逆に減る要素は「VR擦れ」。VRクリエイターの中には、あまりにVRコンテンツをかぶりすぎて、理屈で「こういうことが起こるんだろうな」と思いながら体験する人も多いが、そうなるとダメ。「楽しむ心」「信じる心」を持つことが大切だ。「最初から斜に構えるとつらい。一回素直な心で楽しんで、ワーキャー騒いで、そのあとに検証するのがいい」(田宮氏)

 
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ちなみに現実にあるものは、個人差が少ないので実在感が感じやすい。とはいえ、ファンタジーものもやりたい。「そうした場合は、物理法則のインタラクションをかますととてもリアリティーが上がる。得体の知れないモンスターが出てきても、炎を吐いて『熱い!!』となれば実在感が出る。おそらく『スターウォーズ』を知らない人も、ライトセーバーを地面に近づけて焼け焦げたら『ヤバいものだ』とわかる。みんなの共通認識のパターンを入れるといい。ガンダムでも、ザクがヒートホークを振った際に火花が地面に散ると『うわっ』と思う」(田宮氏)

 
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複数の感覚器から得られた情報は、錯覚しやすくなる。

 
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ガンダムVRでも爆発の映像に、音を加えて、さらに地響きを起こすと、驚きが増した。

 
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「いろいろな感覚の入力器を同時に刺激すると実在感が飛躍的に上がる」(田宮氏)

 
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まとめとしては上の3つになる。裏技として、「サマーレッスン」におけるホストのように、体験者をコンテンツに適した人に厳選するというのもあるそうだ。「『その道のプロが驚く』という文句はしばらくVRで宣伝に使ったらいいのでは」と田宮氏。

 
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以上のことをやると、体験者の共感力も上がって、強烈なプレゼンスが発生する。

 
 

「その場に自分がいたら」をもう一度想像し直す

 
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もうひとつのテーマは、「『ゲーム』と『VR』の違いの本質」。これ以降は、ゲーム=ビデオゲーム、VR=VRゲームという前提で話をしている。

 
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よくゲーム開発者にいわれるのが「VRでは従来のノウハウが通用しない」ということ。

 
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VR ZONEでも、「脱出病棟Ω」で当初HPゲージを導入していた。しかし、丸ノコが体に当たるまでギャーギャー騒いでいた人が、いざ体に丸ノコが当たってHPゲージが減っていくのを見ると「あれっ、痛くない」と冷めてしまうのだという。

 
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田宮氏はゲームとVR、何が違うのかと言われた際に、「旅番組を見るのと、実際に旅行に行くのの違いですよ」と説明しているという。画面越しに対面するのと実際に見る行為、三人称と一人称という違いだ。ユーザーは何に感動するのかといえば、ゲームでは画面の向こうのキャラクターに感情移入して、VRは自分が体験したことにそれぞれ心を動かされる。

 
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なので、VRではユーザーの感情移入を促すようなお約束表現はあまり効果が出ない。画面を揺らすカメラワーク、場面を盛り上げるBGMは白けてしまう。ヒットエフェクトやヒットストップは、痛みや手応えの表現に使う場合、VRでは上手くいかない。

 
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入力でも、ゲームはレバーやボタンで「意思を伝える」、VRでは自分の体で「自ら行動する」と異なる。「VRではユーザーの行動制限が不能だけど、一方で、見回すとか歩けるとかそこにいるだけでも驚いてくれる。これはゲームではありえない」(田宮氏)

 
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VRは経験そのものを与えることができる一方で、ゲームは感情や行動、感覚を強制して、作者の狙い通りに感動体験の気分を与えられるという差がある。

 
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ゲームルールについて。「『これはVRじゃなくても面白いよね』というものをつくってると、ルールが面白いので体験はどうでもよくなってしまう」(田宮氏)

 
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昨年9月に東京ゲームショウでOculus Touchのデモをやっていたけど、これが抜群に面白かった。「われわれずっとゲームのルールをつくるって楽しませることをやってきたけど、ルールをつくるのがアホらしくなるほど楽しかった」(田宮氏)

 
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「VRの面白さは、ゲームルールの面白さとは違うところにあるんじゃないかとわれわれは思っている。体験自体が面白いことが重要なのでは。VRとゲームは重なってる部分もあるけど、ひとくくりというよりは、VRとして何が面白いのかを考えるべき」(田宮氏)

 
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「ゲーム開発者は、いきなりどんなルールで楽しませようかと考えがちがだけど、それより前に面白い体験は何かを考えるべき」(田宮氏)

 
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「大切なのは、その場にいたら本当に起こったらと豊かに想像する力。これは結構やってるよと思ってるけど、本当にそうなのかと深掘りすると人はスキーの息でもびっくりしてくれるとか、意外に簡単なことでも驚いてくれる」(田宮氏)

 
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「『高所恐怖SHOW』の企画書も自分で書いていて不安になるけど、この板に自分が立った時の気分が想像できるか。これが企画者としての勝負です」(田宮氏)

 
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「アニメなどで見慣れたガンダムも、お台場に実体化したことで多くの人がその場に足を運んでくれた。これがリアルでできるかどうか。特に日本はコンテンツが豊かなので、アニメとかゲームのシチュエーションで慣れてしまっているが、『その場に行けたら本当にすごいですからね』という視点で自分のつくるコンテンツを見直す必要がある」(田宮氏)

 
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「百見は一体験にしかず」は、VR開発者が肝に銘じる言葉。

 
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大事なのは、「その場にいたら?」や「本当に起こったら?」を豊かに想像する力。

 
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VRは結局、リアルの体験の感動が得られることにみんな驚いてるし、面白がっているし、可能性を感じていると思う。

 
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「われわれが考えているのは、リアル体験じゃないと得られない感動を深掘りして、コンテンツの中心に据えてみてはということ。もしよかったらVR ZONEに遊びに来てください」(田宮氏)

 
 
●関連リンク
VR ZONE Project i Can
CEDEC 2016

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