CEDEC運営委員長に聞く「VR Now!」への意気込み──知見を共有して、みんなで高め合いたい
8月24〜26日、パシフィコ横浜にて国内最大級のゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2016」(セデック)が開催される。200を超えるセッションから興味のあるものを聴講したり、実際にデモを試してみたりと、ゲームにまつわる基礎から最先端の技術を3日間にわたって学べる貴重な機会だ。
「VR元年」の今年は、何と言ってもVR関連のセッションや展示を集めた「VR Now!」が注目だ。PANORAでもメディアパートナーとしてCEDECに参加することもあって、まずはその意気込みを運営委員長を務めるバンダイナムコスタジオ、植原一充氏にインタビューした。
植原一充氏。
1999年スタート、6000人規模のイベント
──CEDECの成り立ちを教えていただけないでしょうか。
植原 CEDECの主催であるCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)は、東京ゲームショウが始まった1996年に立ち上がった団体です。ゲームショウは一般ユーザー向けの展示会ですが、その併催イベントとして開発者向けの勉強会もやろうということで、1999年にCEDECもスタートしました。
──今年で18回目なんですね。
植原 はい。そこから規模がどんどん大きくなっていきまして、近年では5000名、6000名という参加者に来ていただいております。おそらく日本でも最大の開発者向けカンファレンスではないでしょうか。運営はCESA加盟企業等に所属する開発者が担当しておりまして、開発の現場やマネージメントの立場の人達が50人ほどボランティアベースで集まって運営委員会を組織し、セッション内容などを決めています。
──VRに関しては、昨年もバンダイナムコエンターテインメントの「サマーレッスン」を扱うセッションが満員だったり、Oculus RiftやPlayStation VR(PS VR)のデモが大盛況だったりと、すごい人気でしたよね。そうした昨今の状況をどう見られていますか?
植原 VRは90年代に第1次ブーム的なものがあって、特に学会やコンピュータ研究者の方々からは「そんなの20年、30年前からやってるよー」という声も聞かれます。そこから視界がどんどん広がり、応答速度も速くなって、リアリティーがより増した新しい波が出てきたのが今回ですよね。
実際僕も数年前に米国のゲーム開発者向けイベント「GDC」にてRiftを体験してスゴいなぁと実感しました。すべてのゲームがVRに行くということはないでしょうが、ひとつのジャンルとしては大きく盛り上がるのではとは思います。
CEDECでも一昨年、去年のVR関連のセッションに集まった方々の熱意が高かった。今年はRift、HTC Vive、PS VRなどが実際に市場に出て、一斉にVRゲームが体験できるようになる「まさに今がそのとき」ということで、「Now is the Time!」というキャッチコピーを設けております。そしてVRに関しても、特別感を出したいということで、「VR Now!」という特集企画を用意しました。
──参加者やスポンサーから「もっとVRを扱って」という要望というのはあったのでしょうか?
植原 CEDECのセッションは例年、6、7割ぐらいが公募から選ばれたものなのですが、今年はやはりVRが非常に多い印象を受けました。招待講演などをも合わせると20前後で、全体の200のセッションのほぼ1割ほどがVRです。僕らの意図だけでなく、応募していただいたみなさんの熱意もあふれていると思います。
──先ほどもRiftの話が出ていましたが、植原さんの「VRでこれが面白かった」や「ここに期待している」という部分はありますか?
植原 色々体験していますが、やはり没入感はスゴいですね。ただ、弊社でお台場の「VR ZONE Project i Can」に関わっているからというわけではないですが、現段階では場所やインターフェースの問題で家庭よりアーケード向けだと感じます。
──確かに。
植原 VRの第一波にアーリーアダプターが飛びついていくということは非常にいいこととはいえ、そこから次の波をどこまでつくれるのか。例えば、女性だったら髪の毛が乱れたり、お化粧が崩れてしまったりという点も気になるかもしれません。誰でも被るのが当たり前な世界になるためには、数年かけてそうしたハードルをクリアーしていかなければいけない。ただ、面白いことには変わりないので、CEDECでも注力していきますし、開発者にも投資していきたい。
──「開発者に投資」というのはいいですね。
植原 同志というわけではないですが、CEDECの成り立ちが、自分たちがやっていることを共有して、さらにいいコンテンツをつくりましょうよというところにあります。この有名タイトルはどんな技術を使っているのか、うちはもっとスゴいことがやれないのかと、みんなで高め合っていくのを後押ししていきたい。
興味外のセッションが、大きな刺激になることも
──しかしCEDECも18年目というと、初期に参加していた学生が、ゲーム会社に入って開発のコアメンバーになっていそうですね。
植原 そこまで細かくデータはとってないですが、ただ、去年のアンケートを見ると、実は6000人のうち半数ぐらいが初来場者なんです。
──なんと! 意外ですね。
植原 ソーシャルでしたりスマートフォン向けだったりと、新しいタイプのゲームが増えてまして、それに伴い属性が違う開発者にも多く入ってきていただいてます。
──近年だとインディーズも伸びていますよね。
植原 そうですね。小規模チームや個人開発者の方も増えているなぁと実感しています。もともと僕らは「コンピュータエンターテインメント」という言い方をしていて、コンピュータエンターテインメントに関わることならなんでもCEDECで扱いますし、運営委員会としてもあえてゲームを離れた招待講演をお願いしています。
今年だと、はやぶさ2の話が出てくる「JAXA小惑星探査機はやぶさ2のソフトウェア」や、クックパッドさんにサービス開発を聞く「何故クックパッドのサービス開発の進化は止まらないのか」です。あとはアカデミー科学技術賞を受賞した「MARI」というCGツールを扱う「世界で戦うソフトウェアエンジニア 〜アカデミー賞受賞ツールMARIの開発現場から〜」もそうですね。別業界の知見を共有してもらって、開発者の刺激になってもらったらうれしいです。自分たちも聞きたい話ですしね(笑)。
──その「自分が聞きたい」というのは重要ですよね。
植原 業界が先鋭化していくと、「こんなのゲームじゃないよね」という話を出す人達も出てきますが、そうではなく「コンピュータ使って面白いことをやろうよ」というのが、運営委員会みんなの意思です。基調講演をお願いさせていただきました、カーネギーメロン大学の金出武雄先生も、ロボティクスの第一人者で、「この時期にやっていたんですか!」という研究も多いです(関連記事)。学術の世界では、VRも数十年の歴史があるのでそういうところの知見もぜひ聞きたいですよね。
──確かに興味の中心が例えばVRゲームであっても、領域をまたいで受ける刺激も多いです。
植原 いろいろな興味を持ったいろいろな方がいらっしゃると思うので、セッションもVRに限らず、AIやグラフィックエンジン、ビジュアル周り、さらにはビジネス面など、さまざま用意しております。ぜひ自分の興味の外かなというセッションも顔を出していただき、知見を広めていただければと思います。
そして「これは勉強になった」や「これは悔しい! うちでやりたかった」という気持ちを持って帰っていただき、自分たちのタイトルに役立てていただいて、来年以降のCEDECで発表していただければありがたいです。CEDECという場を活用し、自分を高めて、開発意欲を上げていただけると、ひいては業界全体のハッピーにつながっていくはずです。受講申し込みのうち、レギュラーパスは7月31日まで5000円ほど安い早割が利用できますので、ぜひ今月中にお申し込みください。
●関連リンク
・CEDEC 2016