VTuberとも共通する「近さ」と音へのこだわり──7/18発売「サマーレッスン」CDの制作秘話を聞く

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VRにおけるキャラクター性を追求し、プレイヤーとキャラクターのまったく新しい関わり方を生みだした「サマーレッスン」シリーズ。そのCDにあたる「ドラマ&ミュージックアルバム サマーレッスン ~未来はいま~」が7月18日に発売される(関連記事)。

3作品まとめてのBGMなど全27トラックを収録する豪華さで、VRという新技術で表現を突き詰めたサマーレッスンに相応しく、ドラマパートをバイノーラル録音(ダミーヘッドなどを使い、実際に人間が音を聴く状況を再現することで、高い臨場感をだす録音方法)するという挑戦で人の実在感を音で表現した。

そもそもサマーレッスンは音のVRをどう考えて構築してきたのだろうか? そして、人とキャラクターとのバーチャルな関係として現在勃興しているバーチャルYouTuber(VTuber)文化に、音はどのような感覚をもたらしてくれるのか? サマーレッスンに携わったディレクター・玉置絢氏、サウンドディレクターの中西哲一氏、ミュージックディレクターのTaku Inoue氏の三氏に話を伺った。

 

 

VRコンテンツの象徴的な存在となったサマーレッスン

──サマーレッスンでは、「キャラが本当にそこにいる」というVRにおけるプレーヤーとキャラクターの新しい関係性をつくられたと思います。同様にVTuberもVR空間におけるキャラクターと視聴者の新しい関係性ができつつありますが、
どう思われますか?

井上 見ていると、キャラクターを動かすのにいくらかかっているんだろうと、まずはそっちが気になってしまいます(笑)。サマーレッスンが発売された2016年のころから技術やコストのハードルが大分下がっているとはいえ、ここまで文化として盛り上がっているのはすごいなって思いますね。

中西 アバターが自然と受け入れられて、魅力的なキャラクターががたくさん出てきていますよね。魅力のあるなしは、中の人のスキルによる部分が大きいとは思いますが、本当の自分とは違う役割、新しい表現ができるのがいいですね。

玉置 VTuberは中の人の普段の日常や、タレント性とうまく結びついているというのが、今までのアイドルやアーティストと違う「近さ」があると思います。個人的にはもっと音楽系のVTuberに出てきてもらいたいですね。以前、審査員でお邪魔した「第1回VTuberハッカソン」ではヴァイオリンを弾くVTuberがいましたが、将来性を感じました。VTuberは音楽と相性がいいと思います。

中西 みんな持ち歌あったほうがいいよね。

 
──VTuberそれぞれのキャラクターソングは興味深い発想ですね。

玉置 キャラソンという概念でいうと、サマーレッスンのはゲームやアニメと違って、VRがもつキャラクター性や可能性を歌った、VR自体に対するキャラソンでもあったわけです。では、今のVTuberのキャラソンは何を表現するのか。それはきっと、さらに違う概念になってくるんじゃないかなあと思っています。

 

実は同じ方向性のサマーレッスンとVTuber

──VRコンテンツにとって音はバーチャルな空間を作り上げるための重要な要素で、サマーレッスンでも音に相当こだわられたそうですが、どこでどんな効果音を鳴らすのかのか、どのように決めたのでしょうか。

玉置  本シリーズでは、アニメーションキャプチャーを収録する前に、必ずリハーサルをしていました。絵コンテだけで考えるのではなく、画面上と同じ状況を実際につくって、スタッフ全員が役者になって動いています。「ここでその音がならないと、キャラクターはそっちを向かないよね」とか、実際にやってみて気がつくことも多かったです

 
──VRコンテンツは音での誘導も必要になるとおもいます。どう考えましたか?

玉置 一般的なVRコンテンツと違って、本シリーズはキャラクターに主眼を置いています。プレーヤーは基本的にキャラクターに注目してくれていますから、声や指差しで十分画面の中を誘導できています。キャラクターにフィーチャーすることで有利な点はそこだと思います。キャラクターからプレーヤーに語りかける声に違和感がないように、そしてリアリティーが生まれるようにサウンドチームに音を作ってもらいました。

 
──キャラクターと一緒の空間を体験することに重点が置かれているんですね。

玉置 今回のCDでも、全27曲のうちボーカル曲を4曲も収録している。ふつうのゲーム・サントラと比べたら、キャラクターにすごく寄っていると思います。この、キャラクター自体がコンテンツのメインであるVRソフトというコンセプトは、サマーレッスンを発表した当初は「なぜ?」と首をかしげられたものですが、発売されて以降は、どんどん浸透してきていると感じています。昔よりキャラクター自体が重要視されるようになってきていて、その先の展開として今度は同じバーチャルでも全く違う角度からのキャラクター体験としてVTuberが流行っているのは、本当に面白いことですよね。

 
──VTuberもいまは番組として放送するという形が一般的だけど、徐々にVRチャットのように双方向性が増すほうに移行しています。それはサマーレッスンに帰結するように思います。

玉置 そうですね。サマーレッスンのようなキャラクター体験VRコンテンツとVTuberが進もうとしている方向は同じで、単にコンテンツを発表するスピードとつくり込みのバランスの違いだと思っています。「ガチ恋距離」って言葉があるじゃないですか。VTuberの顔アップ映像を大きな画面で見ると、まるで眼の前にいるように近さを錯覚してドキドキしちゃう……。そんな距離を本当のものとして体験できるようにしたのがサマーレッスンであるという言い方もできます。

なので、将来的に合流しても不自然ではないと思います。両方楽しんでいる方にはお分かりいただけると思いますが、両方とも「近さ」がキーワードですから。 そして、VTuberのすごいところ、VTuberが発見した新たな「近さ」とは、「ソーシャルの近さ」なんです。VRのような物理的な近さとは別の次元からのアプローチ。「今日、配信するよ」と直に告知して、コメントを確認して視聴者とチャットする、その体験も「近さ」としか言いようがなくて、それがやっぱり素晴らしいですし、「サマーレッスン」のような作り方では真似できなかったところですね。

中西 その点で、VTuberは不特定の視聴者、みんなに近いですよね。一方でサマーレッスンはプレーヤーあなただけに近いというと違いはあります。映像だけでもドキドキするのに、音からも耳元にささやかれるような、対面の近さを表現しているんです。

 

 

バイノーラルが生み出すキャラが隣にいる錯覚

──そんな近さというキーワードでいうと、今回のCDではバイノーラル録音を利用し、音だけでキャラとの近さを表現していますよね。

玉置 今回のバイノーラル録音で一つ気づきがあって面白かったのは、VRのコンテンツでマイクを吹くのがアリかナシかという話です。バイノーラルで作られたコンテンツは、シチュエーションもののドラマCDなど以前からたくさんあって、マイクを吹く表現をしている作品が数多くあります。サマーレッスンは VRの音声としてバイノーラルと向き合ったはじめての作品だと思いますが、はたしてVR作品でもマイクを吹いていいのか。

中西 マイクを吹くと、耳のすぐそばで音がなって、鼓膜がボーっと響くような表現になりますよね。

井上 本来、録音の仕方として、「吹かれ」はNGなんです。たとえばボーカル収録のときに「吹かれ」が入ったら撮り直しになります。

玉置 でもバイノーラルの場合は、すごく近くにいるという表現になる。どうしようか? となったとき、先ほども言いました通り、「サマーレッスンはなんでも実際にやってみて、表現を決める」というルールを思い出しました。例えば、女の子からケーキを食べてさせてもらうシーンでは開発者同士でケーキを食べさせあってますし(笑)。みんな事前にやるんですね。じゃあ、実際に耳に息がかかったらどう聞こえるのか、これも試さないと! と思って、ついさっきの話しなんですが、中西さんに私の耳を吹いてもらいました(笑)。

中西 いやあ、照れたなあ(笑)接近すると緊張のあまりしゃべらずにいられないという!

井上 「喋んなくていいです。息だけでいいですから」って言われているのにね(笑)。

玉置 吹きかけてもらってわかったのですが、言葉をしゃべっているときは、息の音はしないんですね。だから「吹かれ」はマイク収録でしか起きない現象なんですよ。では、サマーレッスンではどうか。VRキャラクター体験は、バイノーラルを楽しむ体験ではなくて、その場にいる雰囲気を楽しむ体験。だから今回は「吹かれ」は抑えめにしようという方針にしました。……こんな感じで、ルールをもってリアリティーを調整している。そんな感じが、現場の方法論です。

中西 いつもポリシーをきめて作っていますよね

玉置 われわれはいわゆるドラマCD業界とは違うところから今回バイノーラルに挑戦したので、VRに相応しい表現を一から考えています。だから「ドラマ&ミュージックアルバム サマーレッスン ~未来はいま~」の演出を、あたらしいキャラクター表現に挑戦している各業界の人とも共有できると嬉しいです。ぜひ聴いてみて下さい!
 
 
声優さんの心音を収録した話など、本編制作中の裏話も飛び出した鼎談は7月18日発売の 「ドラマ&ミュージックアルバム サマーレッスン ~未来はいま~」ブックレットにも収録されているのでお見逃しなく!

 
 
(TEXT by 八坂豚、Edited by Minoru Hirota

 
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 
 
●関連リンク
ドラマ&ミュージックアルバム サマーレッスン ~未来はいま~ 商品ページ
サマーレッスン

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