ZEPETOといえば、α・Z世代を中心にグローバルで4億人以上の利用者を抱え、自分好みにアバターをカスタマイズして、他のユーザーと交流したり、ライブ配信ができるというメタバースのひとつ。
そんなZEPETO上で、大丸松坂屋百貨店は今年7月にショート動画コンテストを開催(ニュース記事)。8月に審査結果を発表した。「忘れられない夏」をテーマに集まった珠玉の応募から大賞として選ばれたのが、Qooさんの作品だ。
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彼女がどんな思いで動画をつくったのか、ZEPETOが育む新世代のクリエイターは何を感じているのか、Qooさんにお話を聞いた(以下敬称略、2024年9月収録)。
*本インタビューは、ショート動画コンテスト大賞の副賞となります
「みんながわからないところにこだわりたい」
──ZEPETOはどれくらい使われていますか?
Qoo 今年7月で1年になります。元々、写真が好きで、よくミラーレス(一眼レフカメラの一種)を持って出かけていたりしたのですが、動画については何もわからないので勉強したいなという気持ちがあったんです。
ちょうどそのときがZEPETOに2Dアバターが登場したタイミングで、VTuberがすごく流行っていたこともあって、自分の表情に合わせてZEPETOのアバターが動くことに興味を持ってアプリをダウンロードしました。
──スマートフォンではなく、わざわざカメラを持っていくところにこだわりを感じます。今回受賞された動画でも伝わってきますが、写真に対する思い入れが強かったりしますか?
Qoo どこにいくときにもなるべくミラーレスを持って歩くようにしているんです。そして加工で可愛くするっていうよりも、そのときに自分が感じた空気感で、露出を変えたり、色を明るくしたり、コントラストを変えたりして、その瞬間を撮りたいと思っています。
この動画を作ったときにも、自分が夏に公園に行ったなら、目に入る景色はどこだろうと考えて、私だったら花の写真を撮るなとか、自分がその場にいたら何をフレームに収めるだろうと考えてカットをつくりました。
──こだわったシーンや苦労したことはありますか?
Qoo この動画はもう本当に音楽ありきでした。この曲を聞いたときに、自分が夏に何をして過ごして、最後花火に行くまでにどうしたいのか、1日自分ならどう過ごすかなと日常を考えていました。
なんか電車に乗って移動するなとか、お祭りに来たら水ヨーヨーしたいなとか、でもヨーヨーのシーンは相手の方と全体が映るとエモさがなくなるからヨーヨーだけを切り抜こうとか。そのヨーヨーで遊んでいる幸せな空気感なときに、お相手の方はじっと顔を見つめているだろうから、顔をゆっくり長めにズームしようとか、地味なところにこだわっています。
──めっちゃこだわってますね!
Qoo みんながわからないようなところにこだわりたいです(笑)。ZEPETOは「Unity」(動画やゲームなどをつくれるコンテンツ制作ツール)などに比べて立体感が出にくいので、編集するときにその立体感を出すことを意識しています。例えば、別のイベントで投稿した動画では、打ち上がった花火が背景にあって、自分が前に立っていたら、空中で花火がパーンってなったときに自分の顔も明るくなるし、花火が消えれば自分の顔も暗くなりますよね。その花火のタイミングに合わせて、背景の画像全体を暗くしたりとか、結構細かく調整しています。
──このショートの数十秒の中に思いが詰まってることが伝わってきます。
Qoo でもあまりほかのイベントで賞に選んでもらうことがなかったので、本当にびっくりです。本当にただ自分のつくりたいものをつくっただけだったので。
韓国のクリエイターに刺激を受けて映像表現をみがく
──そもそも、なぜこのコンテストに応募されようと思ったのですか?
Qoo ZEPETOが公式イベントをやってるから参加しようぐらいの気持ちでした。動画の技術に関してはあまり自信がなくて、もっとすごい技術を持っている方が受賞されるのかと思っていたので、まさか大賞をいただけるとは思っていませんでした。
ただ、私の投稿を見に来てくださってる中には、韓国やアフリカ、アメリカの方も多かったんです。動画は「日本の夏ってこんなに美しいんだよ」とか、「花火を見に行くときってこんな気持ちなんだよ」といった気持ちが伝わればいいなと思ってつくったので、そうした海外の方がコメントをしてくれるのがとても嬉しかったです。
──日本の身近なものを海外にも伝えたかったという。
Qoo そうですね。動画では、日本らしく黒髪のアバターをメインに使っていたりします。ZEPETOのアバターは全部で15人ぐらいて、色々な層に合わせられるように意識して使い分けているんです。
例えば、ZEPETOが韓国の企業ということもあって、K-POPのダンスを投稿することも多いのですが、そうしたときは韓国風の見た目のアバターを使います。そういうグローバルに活動できそうなものがある一方で、普段はZEPETOでいう「ベビフェ」、ベービーフェイスの略なんですがそのくくりの方々と遊ぶ割合が多いので、そうした方々がかわいいなと思ってくれるようなアバターをつくって使っていたりします。
──アバターの販売もしているんでしょうか?
Qoo フェイスストアの販売は公式さんじゃないとできなくて、フェイスクリエイターに合格された方がフェイスコードというお顔を売るお仕事ができます。
──いつかはフェイスクリエイターになりたいみたいなお気持ちもありますか?
Qoo 実は、先日(2024年11月15日)に公式バッジを取得していまして、フェイスクリエイターになりたてなんです。
──おめでとうございます! そうしたネット上で何かを表現しようとする裏側には、やっぱり自分の持っている何かを見てもらいたいみたいな気持ちが根底にあったりされるのでしょうか?
Qoo 自分の作品を見てほしいというのは、そこまで強い思いは持ってはいなかったです。初めは写真を撮って1人で遊んでいたりして、自分が楽しいように加工した写真を投稿したり、色々な公式イベントに参加していくうちに、自然とフォロワーさんや見ていただける方が増えていった感じです。
特に韓国のすごく優しくしてくださる方が多くて、最初にコメントをいただいた方とやり取りしていくうちに刺激をもらいました。韓国の方々って映像のクオリティーがすごくて、「なんでこの人たちはこの曲を聞いたり、このダンスを見たときに、こういう表現の仕方をするんだろう」って気になり始めた時期があって。自分の投稿なんて赤ちゃんみたいで、この韓国の方々みたいに自分の考えていることを動画として表現できるように活動していきたいなって切り替わったタイミングがありました。
そこで自分が写真として残したい空気感や光を、動画ならどうやって表現したら実現できるんだろうと、もうちょっと柔らかい雰囲気にしたいなと色々調べ始めたきっかけがありました。
──お話を聞いていると、受賞されるべくして受賞されたんだなという印象を受けました。
Qoo 根底にはいつも自分の技術が足らなさすぎて恥ずかしいっていうのがあって、その恥ずかしいと思うことを一つずつ解消していったら今よりステップアップできるんじゃないかと思って続けていたら、まさか選んでいただけるとはみたいな状態になったんです。
──すごい。刺激を受けたという韓国の方ですが、何か海外でQooさんが見つかるきっかけがあったんでしょうか?
Qoo ZEPETOで一番人気のハッシュタグに「おすすめ乗りたい」というのがあって、その韓国版のハッシュタグから日本の方に流れてくることも多かったりするんです。それでいいねを下さった方がいて、その方の投稿を見に行ったらものすごくて、フォローしたらフォローバックしてくれて、そこから「あなたの動画すごいですね!」ってお話して仲よくなりました。
その方はUnityも本格的に使いこなされていて、そうした方が私の投稿を見たときに残念に思ってほしくなくて、動画の勉強をちょっとずつ始めました。
──実際にお会いされたことはないという?
Qoo ないんです。ないけど、他にもすごい作品を作ったりしてくださってる方々が、「今日の投稿のここがよかったね」とか細かくアドバイスしてくれたりして、日常的な交流はあります。あとは私が好きな洋服などつくっている韓国のクリエイターの方がいて、その方のアイテムを使った動画を投稿していたら「あなたの投稿はとてもきれいです」ってコメントをくれて、相互フォローになったこともあります。だから、どうやったらアイテムがきれいに映るかなというのも意識しながら撮影するのが楽しかったりします。
ひとつのアバターでは表現しきれない
──ZEPETO自体のここにハマっているというのはありますか?
Qoo やっぱり海外の方とつながれるのが楽しいです。始めた頃はこんなに人と関わるSNSだとは思っていなくて、好き放題投稿していたんですけどね。私自身、英語が話せるとか、人と仲よくなれるっていうスキルはそんなにないのですが、ダンスチャレンジなどのイベントで同じ目標に向かって投稿して、「あなたのアバターはなんでこんなにきれいなの」とか、「洋服可愛いね!」とか、お互いにやりとりできるのが楽しいです。ライバーさんのライブ配信を見に行って、みんなと仲よくなれることも増えてきたりして、そんな関係も心地いいです。
──時代の申し子という感じです。ちょっと話が変わってアバター文化、現実の自分は自分としてあるんだけども、アバターとして別の姿を持てて平行して生きれる時代になってきていますが、そうした状況はどう見ていますか?
Qoo その現実の自分とひとつのアバターだけだと足りなくて、例えば可愛いしか表現できなかったら、それって自分じゃないって思ってしまうんです。かっこいいところや可愛いところ、大人っぽかったり、子供っぽかったり、きれいなだけじゃなくて、黒い性格の部分もあったりとか、色々な自分を表現したいなと思って、アバターがどんどん増えていっちゃうんです。
自分はそんなにみんなが思うほどきれいな存在でもないと思うので、他にもっと投稿の中でもっとダークっぽかったり、かっこよかったり、セクシーだったりとか、色々と表現できるといいなと思っています。
──バーチャルでもひとつのアバターにこだわるのではないんですね。
Qoo ライバーさんやVTuberさんみたいに、ひとつの体で歌ったり配信したりというものが根底になかったですし、まわりに頼らなくても自分一人で色々なものをつくりたかったという思いがあってアバターが増えていきました。
どんどん増えていくなか、みんなからしたら新しいアバターが出てきたらえっ知らなかった。とかこんなにいたんですね。とか なっていくんですけど、今は基本的にライブ配信するときはこの子かなっていう感じで決めてます。
──最後にこれからZEPETOでどんな活動をしていきたいですか?
Qoo なんだろう、優しい世界をつくりたいです。
──いい話です。
Qoo ZEPETOってそれぞれいろんな世界、いろんなメタバースの空間があって、それぞれ自分に合う人のところに行きますよね。自分と同じ空気感だったり、同じ考えだったり、同じ作品をつくりたかったり。その場で、みんなで可愛いねとか、こんなところが素敵だねとか、このイベントって楽しいよねって、お友達みたいな感じで話せるリアルじゃないけどリアルな空間をつくりたいです。
そうした状況を実現されているのが今1番すごいライバーさんだなと思っているので、自分も同じ世界をつくりたいなと思っています。
(TEXT by Minoru Hirota)