「人々は360度に慣れると戻れない」 360camが目指す写真と動画の未来
前編に引き続き、360度カメラ「360cam」を手掛ける仏GiropticのCEO、RICHARD OLLIER(リチャード・オリエ)氏のインタビューをお届けしよう。
「われわれはリセットボタンを押した」
——360camのターゲットは?
オリエ もちろん一般人です。ボタンをひとつ押すだけで終わりで、ソフトも使わずに、みんなが360度の写真と映像を撮影できる。そうして気軽に撮って、YouTubeやFacebookにアップする方々がターゲットで、ユーザーインターフェースもそこに合わせています。
360camは、みんなが少しでも早く360度の世界に慣れるようにするための「教育用」です。今、FacebookやYouTubeにはスマートフォンで撮った動画が数多く投稿されていますが、撮るときには縦画面なのに、見るときは横画面だったりするギャップがあります。
360度ならそのギャップを埋められるし、さらに自分の視点で見回せるVRゴーグルも使える。写真が発明されて約200年間、人類はフレームの囚人だったけど、われわれのテクノロジーで解き放つことできます。
——確かに一般向けの360度カメラやVRゴーグルは、まだ始まったばかりですね。
オリエ デジカメが始まったときに、イメージセンサーも小さくて画質もそんなによくなかった。今の360度カメラもそのときと同じ。音楽でも過去にはカセットテープがありましたが、今はほとんどの人が使っていない。なぜかというともっといいものが出てきたから。われわれはリセットボタンを押したわけです。
——映像の世界がリセットされて、フラットから360度に変わるという。
オリエ 以前、GoProに360度カメラをつけて同時に撮影して、映像作品をつくったことがあります。そしてGoProの映像を見せてから、マウスで視点を動かせるPCの360度版を見せるとみんな「これは面白い」といってくれる。さらにスマートフォンを持たせて、ジャイロセンサーで360度映像を見せると「すごい!」と興奮する。そのあとに最初のGoProの映像をスマートフォンで見てもらうと、最初は「あれっ、動かない」と感じてしまう。つまりは、人々が360度に慣れてしまうと、戻れないのだと思います。
——面白い話ですね。
オリエ 今の360camは2K/30fpsですが、技術の進歩に従って4K/60fpsなどに進化していく。将来的にフレーム付きの映像は、あえて視点を定めたいジャーナリストやアーティストだけが使うようになる。普通の人は360度で撮ればいい。
そこでVRゴーグルで見られるのも大きいです。360度カメラだけでもダメで、VRゴーグルとの両方が必要。製品版の360camにも内蔵マイクが3方向にあって、3トラック録音できる。VRゴーグルでも、正しい方向から音が出てくるようにできます。
——日本でも一般向けのVRゴーグルが出てきてから、360度カメラマンが忙しくなったという話も聞きます。
オリエ 360度撮影だけじゃなくて、VR自体も簡単にしたいんですよね。Giropticは基本的にはハードの会社だけど、VRのためにはソフトも必要。
今の実写の360度映像をVRゴーグルで見た場合、ヘッドトラッキングで周囲を見回すことはできますが、空間の中の頭の位置(ポジショントラッキング)は取れない。だから3Dを使わなければいけないので、ソフトをつくっています。
——といわれると?
オリエ 360度映像を3DCGに変換します。ゲームでも、CGモデルの表面にテクスチャーを貼り付けていますよね。でも写真や映像から3DCGをつくるとなった場合、表面だけしかわからない。そこで、3Dオブジェクトのライブラリを持っているフランスの企業に協力してもらって、実写のオブジェクトをどうやって認識するかを研究しています。ライブラリの中に似たデータがあれば、そこに実写のテクスチャーを貼り付けて、バーチャル世界で実写の360度映像にも触れるようになる。
——未来すぎる!
オリエ 映画「マトリックス」の世界ですよね。人々がチューブにつながれたみたいな(笑)。だから映像とビデオゲームは将来的に融合すると思います。
日本語がペラペラな社員がサポート担当に
——話は変わりますが、なぜフランスでは360度撮影が盛んなんですか?
オリエ それはわからない(笑)。Kolor、VideoStitch、Giroptic、全部フランスだね。そしてみんなB2Bから会社が始まっている。フランス人はビデオが好きで、プロジェクションマッピングも人気だから、360度動画も同じなのかな?
——将来的には360camはどう進化していくのでしょうか?
オリエ 今、動画をリアルタイムプレビューできるようにスマートフォン向けアプリを開発しています。アプリの開発者が2ヵ月前に入ったばかりなので、まだつくっているものも多いです。
また出荷のタイミングと同じ1月に、開発者向けSDKを無料で配布します。プレイヤーやコントローラーなど、自分自身で必要なソフトをつくれる。製品はまずは一般向けから始めて、2016年には、大きいレンズと大きいセンサーのプロ向けも考えています。
——日本向けのサポートはどうなるのでしょうか?
オリエ 来年1月から日本語がペラペラな社員が日本のマーケットの責任者として入って、フランスでサポートを開始します。そして今、販売代理店も探しているので、いいパートナーに恵まれたら、ローカルでのサポートも始めます。
——安心して買っていいということですよね?
オリエ もちろんだよ。ぜひプレオーダーしてください。
(聞き手/広田稔)
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