国内で無償レンタル開始! 3Dで360度が撮影できる「Google JUMP」「GoPro Odyssey」とは?
グーグルは2日、六本木ヒルズのYouTube Space Tokyoにて「YouTube Space Tokyo 360/VR シンポジウム」を開催した。YouTube Live 360の記事に次いで、GoogleでManager of Technology Programsを務めるTom Small氏が解説したプロ向け360度カメラプラットフォーム「Google JUMP」と、その理念を実現したカメラ「GoPro Odyssey」についてまとめていこう。実は日本(どころかアジアで)初上陸となる貴重な1台だというので注目だ。
実は360度カメラをレンタルしてました
Google JUMPは昨年5月、グーグルの開発者会議「Google I/O」にて発表された360度カメラのプラットフォームだ。その後、昨年9月にこのJUMPに基づき、ゴーブロが16台の「GoPro HERO4 Black」を使って、3D(立体視)で最大8K/30fpsの360度動画を撮影出来る「GoPro Odyssey」を発表した。
……と、製品自体は1年前に発表されていたものの、1万5000ドル(約155万円)と高額なうえ、さらに応募して選ばれた方しか使えないという「狭き門」だったため、筆者も実際のモノとして見かけることはなかった。
今回、YouTube Space Tokyoに1台、このOdysseyが到着。実はYouTube Space Tokyoでは複数の360度カメラを用意しており、条件が合えばYouTube Space外でもレンタルできるプログラムも開催しているとのこと。
ああっ、使ってみたい!
16のカメラから8000の視点を合成
イベントでは、Tom氏によってGoogle JUMPの設計理念が明かされた。そもそもなぜカメラが16台も必要なのか。それは360度映像を3Dで見せるための挑戦だった。
人間の右目と左目は微妙に異なる角度から世界を見ており、それらを脳内で合成して立体感を得ることで、近くにあるもの、中程度のもの、遠方にあるものと、触れずに距離を判断している。
360度の静止画では、ノーダルポイント(視差が生まれない場所)を中心にして三脚上にカメラを置き、回して撮影することが可能だ。しかし、周囲で起こることを同時に収録したい360度動画では、1セットのカメラを回すというのは不可能。そこで登場するのが、JUMPとOdysseyだ。
普通の飛び出して見えるステレオ写真なら、こんな感じでそれぞれの目を担当するようにカメラを置いて撮れば奥行き感が得られる。
それでは3Dを360度で実現するにはどうですればいいか。例えば、両目の距離の位置に2つの魚眼レンズを備えたカメラを置いた場合、映像が重なる紫の部分は立体で見られるが、左側のブルーや右側のピンクの部分ではそれぞれ逆側の目から見えなくなってしまう。
360度を撮るために両目用のセットを前後に置いた場合、後ろがカバーできるので先ほどよりはマシになるが、結局横のグレーの部分が3Dで見られない。
さらに一歩進んで、前後左右に8台のGoProを置いた場合では、一部は3Dに見えるが、白い部分は対象外。3Dの部分が4つに分かれている。ちなみにこういった手法を「ゾーンステレオ」と呼ぶそうだ。
一方で、360度ではスティッチングの問題も出てくる。SP360とTHETA Sを例に、立体感を得るためには両目の距離にあわせてカメラを離して設置したいが、360度ではカメラ同士を近づけた方がスティッチングしやすくなると解説(別々のレンズでとらえた映像の重なる部分が大きくなるため、と思われる)。スティッチングのためにはよせたいけど、あえて離れていないと3Dが成立しない。ここが3D360度の難しいところだ。
VuzeやiZugar、360Herosといった3Dで360度を撮影できる既存の製品も、各レンズがどちらかの目をになうゾーンステレオで立体感を出している。それに対してグーグルはハードではなく、自分たちが得意なソフトで解決するようにした。Odysseyの16個のカメラは、右目用や左目用に固定されているのではなく両目として利用する。
2つの目の中に入っていく光景を矢印で表現するとこんな感じ。
頭を回した際、それぞれのポイントで異なる光景が見えている。
全周見渡すとこんな感じ。
ただ、この頭の動きに合わせて、全周が立体的に見えるようにカメラを置くのは物理的に不可能だ。例えば、8Kの360度動画を3Dでつくりたい場合、1ドットに対して1台ずつ、つまり全周で8000台のカメラが欲しくなるが、コストがかかりすぎる上、1システムとして落とし込むのも難しい。
JUMPがやっていることは、16の物理的なカメラの間に、500ずつバーチャルカメラが入ってるということを想像すると分かりやすい。2つのレンズを元に、間に入った500のカメラが右目と左目でどう見えるかというのを想像して合成することで、16×500で8000台になる。
JUMPはアルゴリズムの名前。Odysseyで撮影したデータをクラウド上にアップロードすることで、JUMPアルゴリズムが解析してシームレスに立体視できるように間を埋めてくれる。
よく「なぜアップロードが必要なのか。ローカルで作業できないのか」と聞かれるが、この合成作業のために時間がかかってしまう。クラウドにアップロードして、同時に何千万ものコンピューターで作業することで、2日ぐらいで結果が出てくる。
Tom氏が撮影した360度映像のひとつ。「木の根元にOdysseyを置いたら、ボス猿が降りてきてくれてカメラの近くまで来てじっと見てくれた。僕らは隠れながら大喜びしていました」とのこと。
最後に「東京のYouTubeクリエイターたちが、この機材を無償で借りて使うことができます。JUMPが東京に来たことををぜひ歓迎してください」と締めくくって、会場からの拍手を集めていた。
近くでは目ではなく「顔の中心」に合わせる
ほかにもTom氏による、JUMPの撮影テクニック話が興味深かったので、一部をまとめていこう。
JUMPでは、カメラの上と下は撮影の範囲に入らず、映像を合成して埋めている。なので撮影できない底面の範囲には撮影対象を入れないこと。
天面についても同様で、遠方の高い建物に注意しよう。
この特性を利用して、見せたくないものを隠すこともできるよ、とTom氏。
あとは目線を合わせること。対象が4ft(約1.2m)のところに立っている場合は、目ではなく鼻の位置に合わせるといい。顔の中心に合わせた方が、VRゴーグルでの視聴時にいい結果を得られるとのこと。
座っている場合でも4フィートなら顔の中心。ただし対象が離れれば離れるほど低い位置の方がよく、10ft(約3m)で立っている場合は、体の中心に合わせるといい。その法則を考えながら試行錯誤すべし。
3Dで見られる最短撮影距離は40cm。
なので近づきすぎるといい立体映像がつくれない。逆に見晴らしはいい山の頂上のような撮影対象が遠すぎる場所では、立体感が全く得られない。
JUMPのアルゴリズムも常に進化していて、以前につくった映像もスティッチングし直したいとTom氏は語っていた。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・Google JUMP
・GoPro Odyssey
・360度カメラのレンタル申し込み
・YouTube Space Tokyo