まず体験してもらうためのローエンド 村本取締役に聞くdTVのVR戦略

LINEで送る
Pocket

8f2a0586

昨今、注目を集めているVRのジャンルでは、名だたる企業の参入も相次いでいる。どんなきっかけでVRに興味を持って、何を狙って参入して来たのか。PANORA編集長の広田を聞き手に、各社のVRへの取り組みをまとめていく。

 
1回目のDMM.comに続いてお話を伺ったのは、エイベックス通信放送 取締役の村本理恵子さん。エイベックスでVRといえば、映像配信サービス「dTV」が、人気アーティストの360度映像を配信しているスマホアプリ「dTV VR」(無料)を7月末にリリースしたのが大きな動きだ(関連記事)。

 
dtvvr08
dTV会員でなくとも、Acid Black Cherry、AAA、超特急ら、人気アーティストのVR作品を16作品を無料で視聴できる。

 
a-nation_2016_3
さらに月額500円のdTV会員になれば、8月27、28日に東京・味の素スタジアムで実施した音楽フェス「a-nation island & stadium fes. 2016 powered by dTV」におけるライブの360度映像も視聴可能だ(関連記事)。

 
dtvvr02
a-nationではダンボール製のオリジナルVRスコープも制作し、会場で体験できるスペースを用意して、来場者約11万人全員にVRスコープを無償配布するという積極的な姿勢を見せている。

 
インタビューで特に興味深かったのは、フェス会場での体験者はほとんどが女性だったという話だ。VRというと、日本では作り手も受け手も男性が目立つものの、dTVはなぜ女性を引きつけることができたのか。村本さんに同社の目指すところを語っていただいた。

 
 

あえて選んだローエンドのダンボール製

 
──そもそもVRに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

 
村本 実は最近ではなく、以前から触れてきた新しい技術やサービスの中にあったひとつがVRだったんです。私は音楽畑の出身ではなく、ITベンチャーなども経験してきました。インターネットも1996年ごろから使っていて、ネットやスマートフォンの盛り上がりを何度も見ています。

 
そんな中、AIや自然言語処理のようにずいぶん前から言われ続けてきた技術のひとつがVRで、ようやく技術が追いついて来て、リアルにそこそこ楽しめるようになったのが今年始めという感覚です。個人的には、VR業界はここから4、5年というのが一番面白くなるのではと思っています。

 
──そのVRの面白さを実感したコンテンツというのは?

 
村本 いろいろなイベントでVRを見て来ましたが、興味を持ったきっかけは今年4月、グーグルさんを訪ねたことです。段ボール型のスコープを渡されて、そのときは組み立てがちょっと面倒臭いなと思いつつ見ました。

 
──なんと! VRの可能性を語る際、多くは手を使えたり大型筐体をからめたハイエンドのことが多いです。ダンボール製のスコープはローエンドですが……。

 
村本 そう、私はローエンドの体験がいいなと思ったんです。ハイエンドでいうと、お台場のVRアトラクション施設にもいきましたが、私たちのお客さんはもっと「マス」というイメージです。素晴らしい体験ができるゲームにハマるというのではなく、日常的に音楽を聴きたかったり、エンタメが大好きっていうような人たちなんです。

 
今の段階ではdTVのユーザーがOculusやPS VRを買って遊ぶかというと、そうした姿が想像できない。ハイエンドの体験で「うわぁすごい」と言ってもらうよりは、ローエンドのものでも体験してもらって、「こんなことができるんだ、もっと鮮明に観たい」と上がっていくのが普通じゃないかなという。

 
──といわれると?

 
村本 まずは360度の中に自分がいて、何かが見れるっていうところがスタート。その体験を経て、今度は自分のやっていることをもっと反映したい、もっときれい映像が見たいという欲求が出てくるんです。例えばカメラで言えば安価なコンパクトデジタルカメラで始めていろいろ写真を撮っていくうちに、「もっとズームができたら」という思いが出て来て、一眼レフが欲しくなるみたいな、そういう流れだと思います。自分がいちユーザーとして考えてもそう。

 
YouTubeの360度動画もローエンド向けかもしれませんが、ユーザーはそこで頭を動かすだけで済むので、これなら分かりやすいと思ったんです。そこから徐々にハイエンド向けになっていくと、何らかの能動的なアクションを求められてしまいます。自分の体を使ったゲームというのは好きな人にとってはいいけど、普通の人はそこまで動きたいかなという。

 
ということでダンボールのゴーグルを体験したときに、これだったら普及しそうだ、あるいは私たちのお客さん達に気軽に楽しんでいただける形で、はじめの一歩ができるんじゃないかと思ったんです。

 
──ハイエンドも体験としてはスゴいんですけどね。

 
村本 そう、スゴいのは間違いないですが、これで日常的にやるかな、みたいなことです。生活の一部としてVRを見てもらえるようにするには、もっとハードルを下げなければいけないと思ったんです。

 
もちろん上を見ていないわけではないです。でもdTVのユーザーはほとんどの方が「最近VRって聞くけど何だろう」くらいな感覚のはず。だから「あなたの好きなアーティストがすぐそばで見られるよ」と言われて、初めて体験してみて「わーすごい、これって何?」となったときに、「これVRっていうんだよ」と知る流れだと思います。

 
お客さんにとってやりたいことがやれることと、われわれコンテンツを作る側がお客さんに体験してもらいたいことが、どれくらいのレベルで実現できるのか。そこの組み合わせだと思います。

 
──ちなみに今年というタイミングでのVRアプリリリースは何か理由があるんでしょうか?

 
村本 360度映像に関しては、実は2年前から着手していて、今年3月には「サイコルームからの挑戦状」という脱出ゲームのアプリを配信しました。一方で、定期的に人気アーティストのライブ生配信を行っており、a-nationも一昨年より生配信しています。そんな中で「また毎年同じことやるの」という思いはあり、「何か新しいことやりたい、じゃあ今年ならVRだろう」という事でVRに本格的に取り組んだということです。

 
 

5種類から選べるのが女性にとって重要

 
──a-nationの会場で体験ブースを設けていましたが、反響はどうでしたか?

 
村本 スゴかったです。多分、普通のVR体験会と全然違って、ほぼ全員が女子でした。われわれにとってVRはあくまで映像作品を配信する上でのひとつの表現形式で、この技術を突き詰めようというのではなく、ただ来場者に楽しんでいただくことが重要。楽しんでもらうために、VRスコープをつくるというのが、まったく違うアプローチだと思うんです。

 
VRスコープについても、「VR」をあまり知らないお客さんに「何これちょっとつくってみよう」と思ってもらわなければいけないので、ものすごく簡単にしています。畳んだ状態から四角にして、スマートフォンをセットして3辺のマジックテープをとめるだけで見られる。これでおしまい。

 
dtvvr05
すでに完成していて、スマホをセットしてマジックテープをとめるだけ。

 
dtvvr03
3箇所のマジックテープも色が異なっており、視覚的にとめる場所がわかりやすくなっている。

 
──スマホを置く場所には、吸盤があってちゃんとずれないようにしてますね。

 
村本 はい。VRスコープづくりは本当に工夫して、制作が決まったときにまず「もらった時に組み立てるのか?」という議論がありました。二個のパーツを組み合わせるとなると、女の子はそこで嫌になっちゃう。「これじゃあもらっても絶対組み立てないじゃないの」という声があって、結局1枚の紙を組み立てるだけにしようと。あとはデザイン。ダンボールの元の色だと、女の子は嫌がるから、「じゃあ可愛くしよう」とアニマル柄で5種類用意しました。

 
dtvvr06
動物の目をあしらった5種類のデザイン。

 
──5種類もあると用意がかなり大変そうですが。

 
村本 やっぱり何種類かあると、友達同士で来ていても「私これをもらったけど、あっちの色も欲しかったなー」とか思いますよね。その気持ちが、きっとVRスコープを忘れないことにつながると思うんです。

 
──それはすごく重要な視点ですね。iPodも、miniで4色展開されてから、女性が多く手に取り始めたという話を思い出します。

 
村本 だからやっぱり可愛いとか、ちょっとオシャレとか、そういうところはすごく大事。今回はフェスなので、カワイイっていうよりはカッコイイ要素。なので「We are party animal」というキャッチコピーをつけて、パーティーに来ているんだっていう感覚でVRを見ることにつなげています。

 
dtvvr04
「We are party animal」

 
──外観デザインや組み立てを簡単にするというのは、もちろん他社さんもやっていますが、そこを女性の欲しいところにストンと落とせてたというのが、同じように見えて全然違うんだなと感じました。

 
村本 うちは「ユーザーオリエンテッド」というのをしつこくやっています。フェスに来ていただいて、VRスコープをもらって嬉しかったとか、感動したという体験を持って帰っていただきたかった。そうしたら家に思い出として置いておくと思うんです。その発想のために、VRを使いましたという。

 
──お話を聞いていると、本当にお客さんが違うんだと実感します。現地はやっぱり大盛況だったのでしょうね。

 
村本 もう女の子たちは歓声を上げていましたね。ブースの体験人数が2日間で1万人。dTV VRアプリのリリースから1ヵ月でしたが、その2日間で急激に伸びて今は15万強ダウンロードされています。今も着々とコンテンツを更新するタイミングでダウンロード数が増えています。あとはVRスコープをほしいという人がすごく増えた。

 
──普通の人がVRスコープをほしいという。

 
村本 そうです。スマホの画面だけだと、左右の目に合わせた映像なので、VRスコープで見たいって。VRスコープで作品を見たポジティブな感想をアーティストファンがSNSで投稿したのが広がって、私も欲しいっていうお問い合わせをいただいたりとか。

 
dtvvr07
360度動画を表示したところ。

 
──それってすごくいい方向に回ってますね。

 
村本 多分、VRの技術を持っている企業の方がご覧になると、すごいローエンドで画質も……という意見があるかもしれませんが、一方で初めて見る人はそれがハイエンドかローエンドかも正直わからない。でもそこはこれからどんどん改良して行けばいい話です。

 
──まずは体験してもらうことから。

 
村本 まずは体験ですね。体験しないと絶対にわからない世界じゃないですか。

 
──おっしゃるとおりです。私もいろいろなところで原稿で書いていますが、文字では全然伝わらないです。

 
村本 そうなんですよ。VRスコープを11万個配ろうというのもまず体験をつくって、口コミで「dTVのVRが楽しいという」のをどんどん広めてもらってから、じゃあ欲しいと言う声がさらに上がってくるみたいな。そこを期待しています。

 
 

VRではなく「あの箱」

 
──VRの提供をやってみて、一番良かった点はどこになりますか?

 
村本 一番良かった点は、本当にお客様が喜んだってことにつきます。このコンテンツは喜んでくれるんだという。もちろん喜んでいただくためにやっているんですけど、でも狙い通りにできたことが一番大きいです。

 
──新しい技術って、作り手側が「これ絶対ウケるだろう」みたいにボールを投げてしまって、反応が悪いということも得てしてあります。

 
村本 ありますよね。でも、今回は本当にストライクゾーンに入ったなと。これは自分の好きなアーティストのすぐ側で一緒に見ている感じがするわけですから。それって初めての体験なわけですよね。それを見てキャッキャ言っているわけですよね。新規コンテンツを配信するタイミングで、「a-nationでもらったあの箱がようやく役立つときが来た!」という口コミがいまだに上がったりとか。

 
──VRじゃなくて「あの箱」なんですね(笑)

 
村本 あの箱です(笑)。それでいいと思うんですよ。だからVRスコープにも一切「VR」という文字は入れてません。それでも使ってもらえて広がっていくことのほうが大事かなと。

 
──「VR元年」なのにVRって言葉を使わないで、さりげなく浸透しちゃっている状況が面白いです。最後に、dTV VRの今後の活用について教えてください。

 
村本 ライブやアーティストの素顔が見えるコンテンツはもちろん、それらとはまた違った作品もつくっていければと思っています。例えば、dTVの中で「がんばれ! エガちゃんピン」という江頭2:50さんの人気コンテンツがあるんですが、これをVRにできないかとか。急に江頭さんが出てきたらやっぱり驚きますよね。

 
──想像するだけでインパクトがあります(笑)

 
村本 「うわーきたー」みたいな。弊社でも人気コンテンツはいろいろあるので、それをVR化していくのがひとつの路線です。あとは女子の妄想系というのも強いジャンルなので、女性に楽しんでいただけるようなVRコンテンツもつくっていきたいです。ぜひdTV VRの進化をこれからもご期待ください。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
dTV
dTV VR
エイベックス

LINEで送る
Pocket

のじゃロリLINE公式スタンプにじさんじLINE公式スタンプ猫宮ひなたLINE公式スタンプにじさんじ2期生LINE公式スタンプときのそらLINE公式スタンプ
        
バーチャルYouTuber
のじゃロリLINE公式スタンプ
にじさんじLINE公式スタンプ
猫宮ひなたLINE公式スタンプ