冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」レポート到着 2017年4月に追加公演も決定
今年5月に逝去した日本を誇る作曲家で世界的シンセサイザー・アーティストである冨田勲氏の追悼公演「冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク『ドクター・コッペリウス』」が、11月11日・12日に東京・Bunkamuraオーチャードホールにて公演された。
作曲家・冨田勲とシンセサイザー、そして初音ミク
冨田勲氏と言えば「新日本紀行」や「ジャングル大帝」のテーマソングを思い浮かべる人も多いだろう。もっと身近なところでは、「きょうの料理」の“あの”テーマソングを手掛けたのも冨田勲氏である。壮大な風景から身近な生活まで、さまざまなものを音楽で描いてきた日本を誇る作曲家は、世界ではシンセサイザー・アーティストのパイオニアとしても有名だ。1970年代、シンセサイザーによる音楽が極めて珍しい時代に「月の光」「惑星」といった作品で世界にその名を轟かせた。
晩年、冨田勲氏を夢中にさせた音楽が、あの「初音ミク」である。ヤマハが開発した「ボーカロイド」の技術はいわば歌うシンセサイザーだ。「初音ミク」の歌声に魅了され、冨田勲氏の創作意欲が刺激されたかどうかは定かではない。しかし、世代を越えて愛され続ける音楽を生み出すことを、新しい音楽へのチャレンジを、84歳で続けていた事実は、日本の音楽史にしっかりと刻み込まれた。
その実質的な遺作となったのが、冨田勲氏の音楽と初音ミクの歌声によって表現されるスペース・バレエ・シンフォニー「ドクター・コッペリウス」である。
晩年の2作品とゲストが生み出す冨田勲の世界
「冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク『ドクター・コッペリウス』」は、2部構成で届けられた。第1部の前半は、2012年に発表され、初音ミクをソリストに起用したことで大きな話題となった「イーハトーヴ交響曲」。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏に合わせて、伸びやかで透き通る初音ミクの歌声と合唱団のハーモニーが響き渡り、会場を魅了した。
第1部の後半には、Dub Mix(リズムを強調するリミックスサウンドの始祖にあたる音楽ジャンル)の巨匠、エイドリアン・シャーウッド氏が登場し、冨田勲氏が1977年に発表し世界的なヒットとなったシンセサイザー作品「惑星」のLive Dub Mixを披露した。70~80年代にDub Mixを世に広めた彼は、この追悼特別公演のために来日。つい先程までオーケストラが奏でられていた会場に「立って観ていただいて大丈夫です」という場内アナウンスが流れ、実際に立ち上がって曲に合わせて体を揺らして楽しむ観客も多かったようだ。目、耳、そして全身で、音を楽しむ。これもまた、冨田勲氏が追い求めた音楽のひとつなのかもしれない。
第2部に入り、いよいよ、スペース・バレエ・シンフォニー「ドクター・コッペリウス」が披露された。
宇宙へ飛び立つことを夢想する主人公「コッペリウス」と、それを叶えるべく異界からやってきた「初音ミク」が織り成すストーリーが展開。小惑星イトカワ、その先の未知なる星へと、宇宙を自在に行き来する時空を超えた壮大な作品だ。
バレエ衣装に身を包んだ「初音ミク」と「コッペリウス」がバレエを踊るシーンでは、それが現実なのか虚構なのかわからなくなってしまうほど、観客たちを幻想的な世界へと導いていく。「コッペリウス」と「初音ミク」によるリフトのシーンでは大きな拍手で会場が包まれた。
ラストには、晩年の冨田勲氏の姿も映し出され、長年、彼が追い求めてきたテーマのひとつでもある「宇宙への夢と希望」が場内に満ち溢れる。大きな歓声と鳴り止まない拍手がこの作品に関わったすべての人々に、そして冨田勲氏に贈られた。
2017年4月に「ドクター・コッペリウス」再演決定
好評の内に幕を閉じた「冨田勲 追悼特別公演」だが、会場に行けなかった方、もう一度冨田勲氏の音楽を体中で感じたい方も多いことだろう。そんな方々への朗報が発表されている。第2部に披露された冨田勲氏の遺作、スペース・バレエ・シンフォニー「ドクター・コッペリウス」が2017年4月にすみだトリフォニーホールにて再演されることが決定したとのこと。詳細は後日発表となるそうなので、続報に期待しよう。
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・冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」 公式サイト
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