MikulusをVR OSに──GOROman氏が想い描く「空間パラダイム」の世界
すでに報じられている通り、Oculus Japanの立ち上げに深く関わり、日本のVRエバンジェリストとして活発的に活動してきた、GOROmanこと近藤義仁氏(以下GOROman氏)が、12月24日付けでOculusを退社し、自身が開発してきた「Mikulus」の開発にフルコミットする。GOROman氏はすでに有給休暇に入り、個人としてMikulus開発に全力を注ぐ体制だ。
ここでは、GOROman氏へのインタビューを、主要な部分の抜粋という形でお伝えする。
なお、全文だとあまりに脱線も多く、長文になるのだが、UIやVRの未来について非常に示唆に富んだものになっているため、別途、電ファミニコゲーマーにて、大量に注釈を入れた上で掲載を予定している(編集註:12月27日にこちらの記事で全文版が掲載されました)。
まずは本インタビューで、GOROman氏の「本気」を読み取っていただきたい。あくまで本記事は「GOROman氏Mikulusへフルコミット」を伝えるニュース的なものであり、全文とはニュアンスが大きく異なることにご留意いただきたい。(以下敬称略)
X68000を赤子のように抱えるGOROman氏。
VRを「本当に便利」にするにはVR OSが必要だ!
──これからはMikulusにフルコミット、ということでいいんですよね?
GOROman はい、そうです。Oculus Touchがローンチして、クリスマスイブに、Oculusを退社、ということですね。
──フルコミットすることに決めた、スイッチが入ったきっかけは?
GOROman Mikulus自体は3年前から作ってました。でもDK2のために作ったので、動かなくなっちゃったんです。みなさんが求めているのはわかったので、CV1向けにベタ移植を公開したんですよね。そのうち、呼吸しているようなモーションを入れてみたら、確かにすごく良くなった。ミクさんがどんどん「生きている」感じになったんです。自分も楽しくなってきて。
そのうち、昔からの命題を改めて考えるようになったんです。
VRのヘッドセットって、なんだかんだ言ってもめんどくさい。毎日つけたくならないんですよ。
でも、スマートフォンは毎日毎日使いますよね。
その差はなにか、というと、自分にとっての「不便」を解決してくれたり、より生活を豊かにしてくれるもの、という点です。
Mikulusは「ミクさんかわいい」でいいんです。
ミクさんかわいい。
ミクさんかわいい!
ミクさんかわいいいいいいい!!!
GOROman でも、ずっと見ていてはもらえない。飽きちゃう。ミクさんを超かわいくして、生き生きしたものにしていっても、どこかで毎日触るものではなくなっていく。
それに、今のVRの仕組みって、「アプリのレイヤー」なんですよね。あくまで。
──というのは?
GOROman せっかくOSがシングルタスクからマルチタスクに進化したのに、今のVRはしょせんひとつのアプリしか動かない。
──要は、かぶる=ひとつの目的を果たす、ワンタスクである、と。
GOROman 「それって不便になってんじゃないの?」と。
じゃあ、発想をひっくり返してですね、VR時代のアプリをOS側のレイヤーに寄せていけば、問題が解決できるんじゃないかと。
今、まだVR OSはないですよね。「マルチVRタスク」みたいなものはない。せっかくMikulusを作るモチベーションが高まってきたので、そこにこの機能を乗っけてみよう、ということです。
実際、デスクトップ表示の機能を入れてみて、DAU(1日単位でのアクティブユーザーの状況)を測ってみたんです。
バーチャルデスクトップを試験的にいれてみると、なんと平均滞在時間が30分以上上がったんです。
VRアプリで、これは驚異的ですよ。一般に、VRアプリは5から10分くらいでプレイが終わるものが多い。平均滞在時間が50分というのは、驚異的な値です。
そこから、「VR時代のOSのコンセプトデザインを、自分でできるんじゃないか」と思ったんですよ。
要は、アラン・ケイが、段ボール切り抜いて「ダイナブック」のコンセプトモデルを作ってる段階ですよね。
ペーパーパラダイムから「空間パラダイム」へ
──どういうUIを目指すのですか?
GOROman VRは「空間ディスプレイ」時代です。平面であるディスプレイには制約があります。
ディスプレイのフレームから解き放たれて、視界全部がディスプレイになると、できることはむちゃくちゃたくさんあるんです。
例えば、本を並べて同時に参照したりしますが、これと同じ事は、意外とやりづらい。結局Alt+tabで(本を積み重ねて入れ替えて)これですよね。超消耗するんですよ。
結局いままでは「ペーパーパラダイム」なんですよね。
コンピュータが発明される前の仕事のしかたとは、紙になにかを書くこと。そこにパーソナルコンピュータが入ってきて、すごく便利になったわけですよね。セーブもアンドゥもできる。さらに「ウインドウ」を使って並べ変える、という概念ができた。
そこでマウスが生まれます。なぜかというと、重力に引きつけられているので(机の上で手を滑らせて)こういう動きでないと、人類にはつらいんでしょうね。
──結局、コンピュータって人間の体にUXがかなり支配されているので、水平に近い平面上でしか腕は動かせない。ということですね。
GOROman 身体性の問題が大きいので、「疲れたらダメ」なんです。一方で、スマートフォン・タブレットの時代になっても、マウスが指になっただけで本質的には変わっていない。
VRでやっと、「フレーム」の呪縛から解き放たれるんです。ガンダムに例えると引力に魂を引かれた存在から宇宙に出てニュータイプになった、みたいな話ですよ。VRやARのような新しいコンピューティング時代には、新しい才能が生まれるんだと思っているんですね。
そこでペーパーパラダイムから、Spatial(空間という意味)、「空間パラダイム」へのシフトが、絶対だと思っています。
──そこを考えても、「便利だと思ってもらう」とか「かぶりたい」と思ってもらう意味付けが必要。さらに「生き生きとしたミクさんが横にいる」ということなわけですよね。そういうモチベーションが重要、ってことですか。
GOROman そうそう。それは「オレ的に」という意味ですけど。自分のへのモチベーションとして(笑)
だって、一人で作るのはしんどいじゃないですか。
ゲーム開発者はゲームをやっているから、「これが気持ちいいUIである」とか「これがスカッとするUIである」とかという部分がわかっている。
ダメなUIがデファクトになってしまうと、その後何十年も苦労することになるんです。この先空間にUIが入る中で、みんなでデファクトを作り上げたいと思ったんですよ。
とはいえ、完全に新しい概念だけではだめで、「階段」を作るのは大事だと思っているんです。例えばMS-DOSからWindowsに移行する際にもコマンドプロンプトは残したように。
今、バーチャルデスクトップが見えるのは階段に過ぎないんです。
現状では、PCの画面に表示されているものがバーチャルデスクトップとしてMikulus内に現れる。画面は八王子P「デスクトップ・シンデレラ feat. 初音ミク」のMVを流しているところ。
GOROman 僕がやりたいのは……。
例えば、タッチコントローラーを持って画面の中に手を突っ込んで、MP3ファイルをとって耳をちかづけたら聞けるとか、ドラゴンボールのポイポイカプセルみたいに投げつけると、コンポが現れて聞けるとか。要は、アイコンの次が定義したいんです。
まずは、PC・スマホ・ゲーム機など、全部の平面デバイスをVR OSで結合させるところからはじめたいです。重力の概念がないわけだから、ディスプレイをどのくらいたくさん配置しても大丈夫でしょう?
Mikulus自体ではマネタイズせず、「自分が作りたいもの」を作る!
──では、マネタイズやビジネスの予定はどういう感じで考えているんですか?
GOROman 今から別にマイクロソフトになろう、とは思ってないんですよ。
それに、マネタイズもMikulusでそのまま、とは思っていません。テスターの人は、いま700人以上いると思うんですが、その人たちにアイデアを出してもらったものでそのまま商売をするのは、ちょっと違うと思うんですよね。
どうするか、は秘密です。
ただ、3年間自分はVRをやってきて、機器も世の中に出てきましたからね。その間、自分が作りたいものを作れていたわけでもないし、Oculusでも、VR OSを作るような部署だったわけではないですからね。そろそろ新しいものがやりたい。
すごいスピードで作っている、と言われるんですが、自分の感覚では、「チョロQをぐっと後ろに引っ張って、いま手を離した」みたいな感じですね(笑)
(TEXT by Munechika Nishida)
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