プロ向け360度カメラ「NOKIA OZO」緊急インプレ その魅力は3D・全方位音響・3つのソフト
ノキア・テクノロジーズ(以下、ノキア)のハイエンド360度VRカメラ「OZO」が、いよいよ年内に日本で正式に発売が開始される(ニュース記事)。OZOは北米と欧州の主要国、中国などでは先行して発売されていた。発売に先駆けて、筆者は六本木ヒルズ森タワーのノキア東京本社で試用する機会を得たので、そのインプレッションをお伝えしよう。
3つのソフトで撮影・編集をサポート
OZOはプロフェショナル向けのハイエンド360度VRカメラ。ハリウッドなどで制作される本格的なシネマティックVRをはじめ、プロ向けの市場を意識した仕様となっている。8個のレンズとセンサー、8個のマイクを搭載し、それらは完全に同期され平面視(2D)と立体視(3D)の360度の全天周映像、そして360×360のサラウンド音響を実現するVRカメラシステムである。リアルタイムステッチをおこない、個々の映像は勿論、ステッチされた映像も即座にモニターで確認することが可能だ。ライブストリーミング配信にも対応する。
ハンドボール台の大きさのOZOは前方にレンズが集中的に配置された全天周カメラとしてはユニークな形状が特徴だ。後方にはバッテリーとメディア(SSD)のカートリッジがある。レンズが前方に集まっていても後方側の画質には影響はないということだが、カメラから離れるにしたがって3D効果は減衰していく。エンジニアによれば、1フィートほど離れての撮影が推奨されるという。やはり前方の映像の比重が高い映画向け、ライブストリーミング向けのVR制作を意識した形状と考えられる。
OZOのネーミングの由来を尋ねると特段の意味はないが短くて覚えやすいこと、逆さにしてもOZOであるのがキャッチーであることなどから名付けられたようだ。
続けて、OZOのソフトウェアに関する解説を聞いた。OZOにはOZOリモート、OZOクリエイター、OZOプレビューという3つのソフトが用意されている。当初はmacOSのみに対応していたが、現在ではWindowsにも対応している(OS X 10.10 Yosemite、OS X 10.11 El Capitan、Windows 10)。
OZOリモートからはカメラの露出、ホワイトバランスなどの設定、スタート、ストップをWi-Fiでワイヤレスにコントロールすることが可能だ。ヘッドマウントディスプレイを使って、リアルタイムにインタラクティブなVRモニタリング(モノ/3D)もおこなうこともできるのだ。
OZOクリエイターはポストプロセッシング・ソフトウェアであり、撮影したフッテージを確認し、オリジナルのOZOファイルから汎用性のある動画形式に書き出すことができる。使用する範囲をイン点アウト点で指定してレンダリングする。また8つのレンズで撮影した映像からエクイレクタングラーに合成された画面内のステッチラインを、任意に移動させたり増減させることによって、パララックス(視差)のよるステッチ・エラーを回避する仕組みになっている。
その他、露出のトビ過ぎ、ツブれ過ぎを表示。右目、左目の表示切り替え。画面内の音の位置を指定(4〜8点のスピーカーレイアウト)。書き出しサイズの設定。そして、MP4やDPXなどのファイルとしてエキスポートすることができる。より精細なステッチを行う場合は、Autopano Video Proなど360度動画専用のソフトウェアの使用を考えたい。
OZOプレビューは、軽いファイルを遠方のディレクターやクライアントが閲覧するのに利用できる。
またライブストリーミング配信用のOZO LIVEや、ソフトウェア開発キットOZO PLAYER SDKも用意されている。
8月には中国にてローンチ
筆者はこれまでにも幾度かOZOに触れる機会があった。国内でもKaleidoscope Virtual Reality Showcase – Tokyoや、InterBEE2016ほか、展示会に数回出展されていた。
4月にラスベガスで行われた世界最大の放送機器展NAB Show 2016でも、VR/ARパビリオン内に大規模なブースを設置。
OZOの実機の展示や、HMDによるサンプル作品の視聴が出来た。
会場の外にもライブストリーミング配信用の特設ステージが設けられ、ミュージシャンや前衛ダンサーによるクオリティーの高いパフォーマンスが繰り広げられていた。
また、8月18日、中国でも正式にローンチされている。筆者はこの時、上海で開催されたお披露目イベントThe First Chinese Exhibition of OZOに招かれ中国へ向かった。
イベントがおこなわれた会場は上海市虹口区の1933老場坊・4階のSky Theater。イギリス人建築家の設計による食肉屠殺場だった鉄筋コンクリートの建物を10年ほど前にリノベーションし、今ではレストランや、カフェ、ギャラリー、ドローンで有名なDJIのショップなどが入ったお洒落なアートスペースとなっている。
会場では、サムスンのGear VRやHTC ViveなどVRゴーグルによるOZOで撮影されたVRコンテンツの視聴展示ブースと、ソフトウェアのデモ展示ブースなどが展開されていた。
正面のステージでは、ライブストリーミング用に中国のアイドルユニットの歌唱とダンス、雑技団の要素を取り入れた新体操の女性陣による実演を実施。当初はステージ上だけで繰り広げられていた演技も途中から一部のメンバーがステージから降り、OZOを取り囲むように360度を意識したパフォーマンスをしていた。その模様が会場内でもライブストリーミングとして視聴できた。
この時、会場に展示されていたOZOは3台。価格は当初の6万ドルから、中国市場への展開を考慮してか、1.5万ドル値下げされ4.5万ドルとなっていた。また北京でも8月24日にBIRTV2016という映画テレビ機器展において、大規模なライブストリーミング配信デモ・イベントがなおこわれた。
この11月にはノキアとソニーピクチャーズが3D360度VRのコンテンツ作りでの協力を発表したばかり。OZOが日本と世界のVRコンテンツ制作に与える影響に注目していきたい。
●OZO 仕様
センサータイプ:プログレッシブ・スキャン
グローバルシャッター
センサーの配置:8つの同期した2K×2Kセンサー
映像の範囲:全天周 360×180度
最短撮影距離:0.5m
レンズの画角:195度
レンズ口径:f2.4
ビデオダイナミックレンジ:60db/10ストップ
色温度:5000ケルビン
ISO:400
音響範囲:全天周 360×360°
ダイナミックレンジ:64db S/N,120DB Max SPL
保存フォーマット:MOVのOZO VRで、8チャンネルのRAWビデオと8チャンネルのPCMオーディオ
ビデオ圧縮:ウェーブレット圧縮 raw
メディア:SSD 500GB
録画時間:45分
外部出力:3G/HD SDIとDINコネクタ
フレームレート:30fps
冷却システム:パッシブ・ファンレスデザイン
バッテリーパック:充電式リチウムイオン
カメラコントロール:802.11 Wifi
モニター出力:HDMI、ステレオVR
DPX出力:DPX、8K×4K、10-bit、sRGB(色空間)
合成用出力:DPX、ステレオ、片目3840×2160ドット
重さ:4.2Kg
材質:アルミ合金
(TEXT by 染瀬直人)
染瀬直人 写真家、映像作家、360°VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。2014年ソニーイメージングギャラリー銀座にて、作品展「TOKYO VIRTUAL REALITY」を開催。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾主宰。360°動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート、Autopano Video Pro公認トレーナー。You Tube Space Tokyoインストラクター。17年1月9日にはYahoo!JAPAN LODGEにて、「360°VR VIDEO New Year’s Meet UP!(新春大交流会)」を予定。自身のサイトはこちら。